船の査定を待つ間、私たちは1番ドックの見学をさせてもらっていた。
木材を肩にのせて素早く運んだり、まるで剣士のようにノコギリを扱ったり、トトトってハンマーで釘を次々と打ち付けたり、大きな紙の設計図を見ながら指示していたり。
あちこちに職人さんたちがいて、協力し合って船を造っていた。あっちなんて、骨組みができているところに、どんどん隙間を埋めるように板を貼っている。
「すっげぇ~」
「すご~い!」
こんな風に船って造られてるんだって思う。
私は幼い頃から船で暮らしていたし、ルフィとエースとサボとカタログを見ていた頃も懐かしいし。
「おおっ、大砲まで造ってやがるのか!」
四角い鼻のカクさんが戻るのを誰よりも待っているのか、そわそわしていたウソップも、気になるものを見つけて走っていったみたい。
2つもカバン持たせちゃってるけど、足取りが軽かったね。
「ナミ、私たちもあの船を見てきていい?」
「ええ。2人揃って迷子にならないようにね」
「ウタ! あそこに登ってみよう!」
お腹にくるくると腕を巻かれるから、私は背中に手を回してギュッとする。そして、ルフィがビヨーンってもう片方の腕を伸ばす。
周りの職人さんたちがまるで目が飛び出るくらい驚いて、さすがの彼らでもゴム人間にはビックリなんだね。
木でできた展望台? 、まあ高いところに降り立ってくれた。
「あれも海賊船になるのかなぁ~」
「なんにせよ、海を自由に航海できるといいよね」
なんとなくだけど、造りかけの船からワクワクする感情が伝わってくるように思える。私たちの目に映っているのは、まだ帆も掲げていない骨組みなのにね。
特等席に何がつくんだろーとか、メリー号は羊さんだよねーとか、あれこれと話していると。
「ぬおっ!? ハレンチな!?」
そういう驚く声が地面のほうから聞こえてきた。木材に座っているナミがナンパでもされているのかな。
「足を出しすぎだ! ひざ丈のスカートにしろ!」
「はぁ~ なんなのこの人...」
私たちは慌てて、金髪のおじさんのところへ向かう。
「「あぶない!」」
「うぉ!? ハレンチ女が増えた!?」
ハレンチって言われても。
眼鏡だし、長袖ジャケットだし、ネクタイだし、ミニスカートだし、今日の私はクールビューティーなんだけど。
「そんなことより! 声をかける女子は選ばないと!」
「お前あぶないぞ! ナミを怒らせると殴られる!」
「そうねー」
コツン、ガツン ってナミにゲンコツされちゃった。
「うー、なんで私たちが」
「ごべんなざい」
「おっかねぇな、ハレンチ女」
ガシガシと頭をかきながら、チラチラと私たちの太ももを見てくる。視線に敏感じゃなくても分かりやすいけど。
「それで? あんたも職人?」
「まあな。麦わらと、ハレンチなてめぇらは海賊か?」
「お前、海賊に興味あるのか!」
『は?』ってルフィを軽く睨み付けてから、おじさんは葉巻に火をつける。
「俺はガレーラの船大工だぞ」
「俺たちは船大工で仲間になってくれるやつを探してるんだ!」
ルフィったら、押しが強いんだから。
そこもあんたらしいけどね。
「海賊は歌って踊って楽しいぞ!」
ルフィがそう言うと、『こいつマジか』って表情で、残念だけど、海賊でもピースメインって少なそうだよね。
「どちらにせよ、それはてめぇらの事情だろうが。アイスバーグさんの作ったガレーラを俺は気に入っている」
汗水を垂らしながら、みんな楽しそうに船を造っているよね。
「他の職人たちの多くもそうだろう。俺たちにはここでやりてぇ夢もある」
「夢って?」
私がそう尋ねると、頬が緩んだ。
「さらにガレーラをデカくするのは当然のこと」
その視線の先にはアイスバーグさんがいて、さっきからずっと彼は職人さんたちに囲まれていた。さっきはあんなにダラけてたのに、今は真剣にあれこれと教えているっぽいよね。
「俺たちで海列車の2号機を造り上げ、3号機や4号機、どんどん造っていく」
夢を語っている彼の笑顔は、キラキラ輝いていた。
「そうすりゃ、このウォーターセブンは世界の中心になるだろう」
私とルフィとナミもワクワクしてくる。
1本の線路が島々を繋いで、あの海列車でみんなを運べるだけでもすごいのに、この島を経由して、世界中が航路で結ばれるかもしれないもん。
「なんだお前、すげぇ面白いやつだな!」
「バシバシ叩くな、麦わらァ!」
私としてもこの人のことが気に入ったけど、仲間として誘うのは無理そうだね。笑っているルフィから肩を叩かれて、照れたように顔が赤くなってるや。
「騒がしいな、ふるっふー」
うわずった声の人が近づいてきた。
肩には可愛いハトが乗ってるね。
「「ハトがしゃべった!?」」
ルフィやナミが驚いてるけど、黒髪のおじさんが話してたよ。口は全く動かしていないように見えたから、腹話術なのかな。
「こいつらは海賊らしいが、大切なお客様だ。丁重に扱えよ?」
「喧嘩っ早いお前にしては珍しいな」
『やっぱりハトがしゃべってる~!?』ってルフィやナミはすっかり騙されてて、またまた面白い職人さんが来たね。
「そういや言ってなかったな、俺はパウリー、こいつはルッチだ。ここガレーラの船大工だ」
「そして俺がハットリ、俺の相棒だ、ふるっふー」
「俺はルフィ、海賊王になる男だ」
「私はウタ、世界の歌姫になる女よ」
「私はナミ、よろしくね...って」
私やルフィだけじゃなくて、パウリーさんたちも、じ~っと見ていて。
「世界地図をかく女よ! これでいいんでしょ!?」
「「「「お~」」」」
照れているナミに、私たちは素直に拍手する。ハトも翼をパタパタしてて賢いね。
「それにしてもお前も強そうだなぁ~」
「やめろ... ふるっふー」
ルフィはルッチさんの腕をバシバシ叩いちゃってて、確かにすごい鍛えているよね。あれだけ高速で走っていったカクさんよりも強いと思う。
表情は変わらないのに、一瞬だけ寒気を感じた。
「なんだ? お前はしゃべれないのか?」
「こいつ恥ずかしがり屋なんだよイデデデ!?」
パウリーさんの肩に手を置かれて、力を込められたみたい。涙が出るくらい痛がっている。
「てめぇ! 相変わらずの馬鹿力だな!」
「バカはお前のほうだろう」
酒場に大量の借金があったり、女性に免疫がなかったり、こっそり太ももを見るのが好きだったり、そういうのをバラされてた。
「昨日も女にそそのかされて、ブルーノの酒場で奢らされたと聞いたぞ、ふるっふ~」
「ああん!? それはそうだがな!」
言い合いで喧嘩してるとこ、なんだがゾロやサンジを見ているようで、仲良しでほほえましいね。
「そこの女たちにも何度視線を向けていたことか、だから騙されるんじゃないか?」
「ハレンチ女たちがミニスカートを履いて見せているのが悪い! 視界に入っただけで俺は悪くない!」
「「さいてー」」
別に見せるためじゃなくて、可愛いからに決まってるじゃん。まあルフィになら、照れるけど見てほしい気持ちもある、ちょっとだけね。
「はっはっは! お前ら仲良しで面白いやつだな!」
「誰がこいつと!」
「あり得んな」
パウリーさんは大声で否定するけど、ホントは満更でもないんじゃないかな。ルッチさんは全く表情が変わらないとはいえ、声が柔らかかったね。
「ったく、それで? お前らは船を買いに来たのか?」
「ううん、修理だよ」
「今はカクって人が査定に行ってて、それを待っているの」
「スゴかったな~ すげー速くてよ」
「あいつは真面目だ。信頼していいぞ、ふるっふー!」
そういう雰囲気がにじみ出てたけど、ルッチさんが評価してるから、戻ってくるのが楽しみになってくるね。
「新世界も目指すんだろう? お前らの船はどういうタイプなんだ?」
「「羊?」」
「キャラベルね」
「ほほーその船でよく前半の海を乗り越えたな、ふるっふー」
ハトが翼を、ルッチさんが指を向けた先には、ほぼ完成間近の海軍の軍艦があって、見るからに丈夫そうに見えちゃった。
「あれが海軍本部の軍艦、その最新の型だな。新世界は勿論のこと、船底には海楼石が敷いてあるから、カームベルトの航海も可能だ、ふるっふ~!」
ルッチさんの解説、めっちゃ早口で用語いっぱいだから、全部は分からなかったけど。
「あの力が抜けるやつか!」
「なんて贅沢な使い方よ...」
「あんなに大きい大砲まであるね...」
メリー号って、こんな船を相手に海で戦ってくれているんだね。こうして陸で見ると、ますます軍艦の大きさを感じる。
「ははっ、海賊のお前らからすれば、イヤな話だったか! まっ、俺は海列車が最高の船と思っているがな!」
「いやいや、海賊船を追いたてる軍艦こそが」
「メリーだって凄いんだぞ! 空島にだって行ったんだ!」
あーもう、ルフィまで混じって、口で喧嘩始めちゃった。
そんなとき、スタタタって足音が聞こえてきた。どうやってるのか分からないけど、ホント静かに素早く走ってるよね。
「なんじゃ、お前ら2人が、客と親しくなってるのは珍しいのう」
「あっ、四角い鼻のやつ!」
「メリー号の羊さんが可愛かったでしょ!」
『それはそうじゃったな』って笑顔でカクさんが頷いてくれた。
そして、パウリーさんやルッチさんに向かって、挨拶するように軽く手を上げた。
こんなに良い職人さんたちがいるんだもん。
メリー号はちゃんと直る...よね?