麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第94話 カク

 

 メリー号を見てきてくれたから、私やルフィやナミは顔を見合って頷いた。これでようやく直してもらえるねって。

 

 カクさんは大きな木材にゆっくりと腰かけた。パウリーさんやルッチさんは腕を組んで、職人って感じの雰囲気を見せる。

 

 パウリーさんが『それで?』って低い声で尋ねるから、私たちはごくりと息をのんだ。

 

「鼻の長いのはどうしたんじゃ?」

 

「ウソップはどこ行ったんだ?」

「この1番ドックにはいると思うけど、わかる?」

 

 ルフィはキョロキョロと、ナミに尋ねられて、私は耳を澄ませてみる。さっきまで大砲を見てたはずだよね。

 

「ん~?」

 

 あちこちでたくさんの人が話しているし、覇気で探ってみるにしても強い人たちでいっぱいだし、どうしようかな。

 私が首を振ると、ナミもキョロキョロと周りを探してみる。さすがに1番ドックからは離れてないはずだけど。

 

 そうすると、アイスバーグさんや秘書のカリファさんと目が合った。

 

「んまー、戻ってきたか、カク」

「査定について聞かせていただきましょうか」

 

 こちらに歩いてきた2人も話を聞いてくれるみたい。

 世界最高レベルの船大工さんたちなら、メリー号も大丈夫だよね。

 

「なんじゃ、麦わらたちはアイスバーグさんに会えておったか」

 

 『そういうところも幸運じゃな』って同情するような表情で伝えられる。

 やっぱり、そんなに深刻だったんだ。船底から水漏れだったり、マストがまた折れてトタン板でつけ直したり、なんとかって感じだから。

 

「よくもまあ、このウォーターセブンまで来れたものじゃ。少なくとも前の島から、数日は航海していたじゃろうに」

 

 つまり、私たちにとっても、メリー号にとっても、危険な状況だったってことなのかな。

 

「だったら、完璧に直してくれよ!」

「そうね、お金なら...3億まで出せるから!」

 

 ナミは持っていたカバンを見せる。

 全額払ってでもって、本気なんだろうね。

 

 私たちはカクさんをじっと見つめていると。

 

 

無理じゃ、あれはワシらの腕でも直せん

 

 

 世界が静かになった気がした。

 私たちはぎゅって拳を握り込む。

 

 

「船の寿命が来たと言うべきじゃろう、どんな奇跡を起こそうとも無理じゃ」

 

「お前!? メリーが死ぬなんて冗談でも!!」

「ルフィ!?」

 

 思わずルフィが掴みかかろうとしてしまうけど、立ち上がったルッチさんが腕を掴んで止めてくれた。

 

「直せばメリーはまだ動ける。ウソップやみんなでそうやってきたんだ!」

「それは見れば分かったわい。じゃが、それも限界と言うとる」

 

 ルフィが無理やり腕を動かそうとするけど、それでもルッチさんはビクともしない。一体どんな怪力なんだろう。

 

「気持ちは分かるが落ち着け。こいつは仕事にウソをつかないやつだ」

 

 座ったままのパウリーさんが勢いよく葉巻の煙を吐いた。

 そして『竜骨でもやられたか』って、重々しく言葉を聞かせてくる。

 

「ああ、酷く損傷しておる」

「お前たち、竜骨は知っているか?」

 

 腕を離してもらったルフィや私たちに、真剣な瞳でルッチさんがハトさんを通して伝えてくるけど。

 

「確か船底にある部品だったわよね?」

 

 ナミがそう答えてくれた。

 それさえ交換すれば、まだなんとかなるのかな。

 

「半分正解だ」

「竜骨は、船で最も重要な木材とされておる。骨組みはそれに基づいて造るんじゃ」

 

「たとえるなら、身体を支える脊椎(せきつい)であり、船の命だ」

 

 3人それぞれに説明されて。

 素人の私でも、直せない理由が分かってきた。

 

「ならよ! それを新しく変えてくれ! それか、メリー号をつくり直してくれよ!」

 

「それは新しく船を造るということじゃ、麦わら」

「俺たちは構わないぞ。似た竜骨を探すところのは、少し手間だがな」

 

 ハトの翼と、ルッチさんの指が、ルフィの鼻に突きつけられた。

 

「ただし、この世に全く同じ竜骨は存在しない。たとえ同じ型の海軍船を造ろうとも、それぞれに細かな違いがある」

 

「造り手のワシらですら違いが分かる。あの船に乗っていたお前さんらが、最も違和感を感じることじゃろう」

 

 世界に同じ人がいないように、もし新しく作っても、それは今のメリー号とは必ず違うということ。

 

 このままだと、どうやってもここでメリー号とお別れになるってことなんだ。

 プロの船大工さんたちなら直してくれるだろうって思い込んでて、そんなことは覚悟できてなかった。

 

「別にお前らのことを批判しているわけじゃない。船を仲間の1人のように大事にしてくれるやつらだって、よく分伝わってくる」

 

 『だからこそ今の船は休ませてやれ』って伝えられて、3人とも同情するような瞳を向けてくるけど。

 

 すぐには割りきれないよ。

 

「「ルフィ...」」

 

 思わず私やナミは、ルフィを頼ってしまう。

 

 でも、彼のすごい思いつきを求めているのか、きっぱりとした決断を求めているのか、自分の中でハッキリしていない。

 

「...お前たちはメリーの底力を知らねぇから、そんなことが言えるんだ!」

 

 ルフィが拳を噛みつくように激昂する。

 泣きそうな声だった。

 

「滝みてぇな山を登った! 空島にだって飛んでいった! 海軍のすげぇ要塞からだって抜け出した!」

 

 私だって、あの船は『おうち』で、何度も救ってくれた『仲間』として思っている。でも、もう直せないほどにボロボロなんだ。

 

 それはルフィも分かってるんだろうけど、私たちのように、現実を受け入れられてないんだと思う。

 

「俺たちはメリーでワンピースを手に入れるんだ! 海賊王になって新時代を!」

 

「なら、いつまで甘ったれたことを言ってやがる。海賊王のドンとデカい肩書きを軽く見るんじゃねぇぞ!

 

 ズカズカと足を進ませて、アイスバーグさんはルフィの胸ぐらを掴みながら、強く言葉を浴びせた。

 出会った時はダラけきった雰囲気だったのに、本気の表情を見せている。

 

「それとも何か、てめぇは船員(クルー)もろとも、船が沈むまで乗れば満足なのか?」

 

「そんなわけねぇ! 俺は仲間を誰も死なせねぇって誓ったんだ!!」

 

 そんな宣言をするルフィに、アイスバーグさんは『いい(こころざし)だ』って、拳で胸をトンと叩く。

 

「麦わら、頭を冷やせ。(つら)いのはそこの女たちもなんだ。それなのに船長のお前が感情的になってどうする」

 

「ッ! ...ああ、そうだな」

 

 ルフィは被っている麦わら帽子を、ギュッて握りこんだ。

 唇を噛んで(つら)いのを我慢してて、ホントはルフィも(つら)いのに。

 

「3億ベリー、いや2億でも貰えれば、俺たちが後半の海にも通用する船を用意してやる。お前たちの船の意志を、受け継ぐに相応しい船をな」

 

 私たちは(うつむ)くしかなくて、もうその選択しか残ってないんだろう。

 

「カリファ、渡しておけ」

「はい。それでは、こちらが船のカタログとなります」

 

 カリファさんから、ナミが受け取ってくれて、その紙にはいろいろな船の簡単なイラストや説明があるけど。

 

 ルフィやエースやサボと一緒に眺めていた時より、ワクワクはなかった。

 

「私といたしましても、心中お察しします」

 

「あー、なんだ、造るとなれば、俺もお前らの船を優先してやるよ」

「ワシももちろん手伝おう」

「俺も暇だったならな、ふるっふー!」

 

「んまー、他の船員(クルー)と話し合って、今度答えを聞かせてくれ」

 

 ここの人たちは温かいね。

 例えば、新しい船で出航するときに、メリー号を預かってくれるかもしれない。

 寂しいけど、直らない傷を抱えたまま、最期まで無理はさせたくないから。

 

「ねぇルフィ、一度メリー号に戻ろっか」

「そうね。帰りが遅くなると心配するだろうから」

 

「...ああ、そうしよう」

 

 ウソップたちも悲しむだろうな。

 でも、ちゃんと話し合って覚悟を決めなきゃなんだ。それぞれの夢のために、ここで立ち止まるわけにはいかないから。

 

「お~い、アイスバーグさん!」

 

 そんなとき、職人の1人が声を上げながら向かってくる。何かトラブルでもあったのかな。

 

「カクさんに似て鼻の長いやつが、ボロボロで走っていったんだが!」

 

「「「ウソップが!?」」」

 

 遠くを指差しながら言われて、私たちは慌ててそっちを見るけど、遠くの中心街にその姿は見当たらない。

 

「さては貴方達、換金所から出てくるのを見られたのでは?」

 

 カリファさんがそう予想を伝えてくる。

 確かに浮かれていたし、治安がよくて確認もしてなかったけど。

 

「ウソップが2億ベリー持ってたけど...でも1番ドックの中にはいたはずよ!」

 

 ナミの言う通り、これだけ治安の良い街で、しかもこの1番ドックで襲われるなんて。

 

「んまー、海賊相手の賞金稼ぎだろう。おそらく、フランキーの一家かもしれん」

 

「あいつらは解体屋でもあって、たまに材料を届けるために出入りしてますからね」

 

 アイスバーグさんやパウリーさんは、どこのやつらがウソップを襲ったのか予想がつくんだ。

 

「おい! そいつらはどこにいるんだ!」

 

「お前さんたちの船がある岬から近い場所じゃが」

「ウォーターセブンの裏の顔とされるフランキー、やつらは賞金稼ぎでもある。最近では多くの海賊が海軍送りにされているぞ、ふるっふー!」

 

 そんなルッチさんの話を聞き終えるよりも先に、ルフィは勢いよく走っていってしまう。メリー号のこともあって、いつも以上に焦っちゃってる。

 

「ウタはあいつを追いかけて! 私は一度船に戻ってみて、サンジ君やゾロに伝えてくるわ!」

 

 『万が一のために、メリー号と残りの1億は守り通さないと』ってナミまで慌てて走っていっちゃって、なんだか麦わらの一味がばらばらになってしまいそうなのが不安だった。

 

「んまー、気を付けろよ」

 

 その激励だけでも嬉しいや。

 

 この人たちが優しいといっても、私たちは賞金首で海賊だもんね。あくまで仕事だから、お互いの立場を黙認しているだけだから。

 

「...ありがと、それじゃあ、また船の話はよろしくね」

 

 私はどんどん遠ざかっていくルフィを追いかける。相変わらずすごいスピードだし、中心街から飛び降りても無事だろうし。

 

 ほんと遠いなぁ...

 なんだかズキズキと胸が苦しかった。

 

 

 

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