ウソップを探すためにルフィは町を走り回っていた。
屋根の上だってお構いなし、相変わらず人外みたいな身体能力だ。
何度か同じところを通っちゃってるし、私が呼び止めようにも声が届かないし。
たぶんメリー号のこととか、ウソップを守れなかったこととか、いろいろ考えすぎちゃって、冷静じゃないんだと思う。
考えるより先に行動を起こすのは、あんたらしいけどさ。
そういう焦ってる姿は見ていて
「やべぇ!?」
そう叫びながらルフィは足を滑らせたことで、街の水路に向かって真っ逆さまに落ちていってしまった。
私も能力で勢いをなくしながら地面に降りる。
「ほら」
私は腕を伸ばして、しっかり握って、ルフィを引き上げた。
「ゲホッ ゲホッ…すまねぇ……」
「いいよ。仲間でしょ?」
ポタポタと頬から水が落ちていく。
大切な麦わら帽子までずぶ濡れじゃんか。
なんだかその帽子が今は重そうに思えて、こんな風にシャンクスも船長としての決断を悩んだことがあるのかな。
「ルフィとウタ!? なんで降ってきたんだ!?」
「水には気をつけろよ、能力コンビ」
偶然にもチョッパーとゾロがいるところの近くだったんだ。
こういうのはルフィの運がいいからかもね。
「……ごめん、2億ベリーを持っていたウソップが、目を離している間に賞金稼ぎに襲われたみたいなの」
水に
「あいつらの目的はお金だと思うから、この辺りにウソップが倒れているはずなんだけど……」
私がそう言うと、ルフィも唇を噛んだ。
「人質にされたって可能性はあるがな」
「俺たちもナミから話を聞いてさ、ウソップの匂いを辿ってきたんだ。それと、あっちにはサンジもいるから、ナミもメリー号も大丈夫だぞ」
ナミが先にメリー号に戻ってるってことは、もうだいぶ時間が経過しちゃってる。ウソップも怪我をしてそうだから、ゾロの言う通りに誘拐されちゃったのかもしれないけど。
でも、ウソップの性格をよく考えてみたら、やるときはやる男だもん。
「さっきそこで、血の跡を見つけたんだ」
「あいつも海賊だ。自分でケジメを付けにいったんだろ」
やっぱりウソップは自力で立ち上がって、取り返しにいったんだと思う。
『どうするキャプテン?』って聞くけど、ゾロはすでにどこかを向いていた。
「当たり前だろ! ケンカを売られたし、助けに行くぞ!」
そう言ってルフィは力強く立ち上がった。
目的がハッキリしたら何倍も力を出せるよね。
「ああ。うちの
「ウソップは出血もひどいと思う。急ごう!」
4足歩行でトナカイ形態のチョッパーに先導されて、私たちは走り出した。
***
ウソップの血の跡を追っていれば、すぐに賞金稼ぎたちのアジトが分かった。『フランキーハウス』って小屋はハデで、アジトっぽく隠す気もないようだから。
カクさんの言った通り、私たちがメリー号を停泊させた岬に近い。
私やルフィはともかく、ゾロやチョッパーとは入れ違いになった。
いくつもそういう不運が重なって、大怪我のウソップはたった1人でお金を取り返しに行ってしまった。命までは取られることがなかったみたいで、でもアジトの前に放り投げられてて、大怪我で気を失っている。
すでにチョッパーが急いで応急手当を始めてくれてて、『大丈夫、助けられる』って教えてくれたのは安心した。
「チョッパー、ウタ、ここは任せていいか?」
「悪いな、お前らを待っていられる余裕がない」
ルフィは拳を強く握りしめて、ゾロも手拭いを頭に巻いた。
「ううん、俺の分も頼むよ」
「その代わり、思いっきりボコボコにしてきて」
「「言われなくとも」」
そう言って、ルフィとゾロがゆっくりと歩いていく。
ここからでもアジトの中にはたくさんの人がいることはすぐ分かる。奪ったお金で楽しんでいるみたいで笑い声が聞こえてくるから。
見聞色の覇気で感じ取ってみてもそれほど強い人はいないけど。
でも相手が強いとか弱いとか、そんなの関係ないところまで、私たちを怒らせた。
ルフィとゾロが足を扉に当てて、一気に蹴り飛ばす。
ドンッと轟音が鳴り響いた。
「ど、どうした!?」
「誰かいるぞ! 2人だ!?」
砂煙が晴れると、星のマークがある鎧を着た男たちが慌てふためいていた。
彼らは斧とか剣とか銃とか、彼らは武器を取って警戒を始める。
「あれは麦わらのルフィ、それと海賊狩りのゾロか!?」
「ゴハハハ、金を取り返しに来やがったか!」
「賞金首が2人も来やがったぞ!」
「まっ、あの貧弱長っ鼻野郎の一味の船長だろ?」
「俺たちフランキー一家に喧嘩を売る気か、海賊?」
数十人の中でまず立ちふさがったのは、巨人ってほどじゃないけど大男で、1メートル以上の大きさの斧を持っている。
「ゴムゴムの……」
ルフィは腕を伸ばして、そしてグルグルとねじられていく。
「ほう、能力者!?」
「あれはまさかパンチか?」
「笑わせる! 戦艦の砲撃も通じない巨大鋼鉄アーマーだぞ!」
そんな笑い声がするけど、顔も腕も守られてない。
しかも、クリークだっけ、あの人と似たような勘違いをしてるみたい。
戦艦の砲撃が効かないからって無敵じゃないのに。
「
ズドンって拳がアーマーにぶつかったのは、ほんの一瞬の出来事だ。
「「「えええーー!?」」」
彼らは目が飛び出るくらいビックリしちゃってる。
それも仕方ないかもね。
大男の身体が勢いよくぶっ飛んで、その鋼鉄アーマーには拳サイズ以上の大穴が空いていたから。
「アーマーを貫いたぁ!?」
「ちょ、ちょっと待て、話を!?」
真正面から戦ったら、ひとたまりもないって感じたのかな。
前の方にいる人たちは降参するフリをしていて。
そのままルフィは動かず、ゾロが3本の刀を抜いた。
「よ、よし、まずは話を!」
「こっちも砲弾だ!」
「放て!」
「三刀流
ゾロはその技で、大砲から発射された砲弾を真っ二つに斬るだけじゃなくて、その弾道すら操作した。ルフィや自分に当たらないところで、ドガンって爆発が起きる。
さらにゾロは3本の刀を納刀してから。
「一刀流 居合」
ビックリして動きが止まった敵に向かって、居合の体勢でゾロが駆けだす。
「
「ぎゃー!? 大砲まで!?」
「こいつ、鉄を斬りやがったぞ!?」
武装色の覇気はほとんど込めていなかったはず。
ゾロもどんどん強くなってるし、ミホークさんの戦いから
敵に囲まれている彼は2本目の刀を抜いた。
さらに両手の刀を逆手に持って、前に突き出す。
「二刀流
好機とばかりに、剣を振り下ろした男たちだけど。
回転しながらの衝撃波で散り散りに吹き飛ばされていく。
「「「ふぎゃあー!?」」」
「やべぇ、こいつらまじでやべぇぞ!?」
「兄貴は出かけたばかりなのに!?」
「お前ら逃げるぞ!?」
「ゴムゴムのガトリング!」
「「「でもこっちも ふぎゃあー!?」」」
前にはルフィで、後ろにはゾロがいるもんね。
こういう最悪な状況を表すのに、何かいい言葉があるといいな。
「ま、まじで待ってくれ、金だろ!?」
「2億はもうここにはないんだ! フランキーの兄貴が持って買い物に行ったんだ!」
「金なら貯めてまた返すからさ、命だけは助けてくれよ!?」
言い訳なのか、時間稼ぎなのか、お金のことで許してもらおうとしているみたいだけど。
「……別に殺さねぇよ。ケンカだぞ」
ルフィは淡々と話す。
「へ、へへ、それじゃあ、ぶべら!?」
ゴムゴムの
「お前らが売ってきたケンカだろ」
「海賊の
ウソップは何度も足蹴りにされた跡があった。
あれだけボロボロにされて、ここの人たちは誰も救おうとしなかった。
まあウソップの無事が分かっただけで、最大の目的は達成してるけどさ。
「とりあえず全員! ぶん殴ってやる!!」
「死なない程度に斬る」
ちゃんと私たちの分まで、うっぷんばらしをしておいてよね。
「ちくしょう! 相手はたかだか2人だ!」
「お前ら、全部武器を出せ!」
「総力戦だーー!!」
数十人がどれだけ武器をかき集めようと、ルフィやゾロによってボコボコにされていく。
武装色の覇気も使っていないから、あれで全く本気じゃないってのが、うちの一味で最強クラスだよね。
「ルフィもゾロもすごいな」
「ん、包帯でグルグル巻きじゃん、さすがはチョッパー」
この短時間で応急手当が終わったんだ。
どんどん包帯が血に染まっていくのが痛々しいや。
「あれじゃ私たちの分は残らないね」
「いや、あれに巻き込まれたくねぇよ!?」
砂煙でとても騒がしいアジトから、あちこちに人が飛んでいっても、その身体はゴムの腕で引き戻されている。
「それもそうだね。私も1発ずつ、ぶん殴ってやりたかったけど」
今はルフィもゾロも思いっきり暴れたいだろうし。
そして私はムジカちゃんの手を目の前に出しておく。
勝てないと分かったら、卑怯な手に出てきたみたい。
「…あいつらを人質に取るぞ!」
「…おい、なんだこれ?」
デコピンでぶっ飛ばして、アジト側に返しておいた。
「「ふぎゃあーー!?」」
八つ当たりをしても、そんなにスッキリしないね。
「それもウタウタの実の能力なんだよな?」
「うん、ムジカちゃんだよ。私の周りにいれば、いろいろな現象を起こせるから安心してね」
まあ何でもできるわけじゃないんだけどね。
だからまだまだ能力を使いこなせてない。
「例えば、そうだなー」
こんな風に、周りの岩を浮かせて撃ち込むとか。
見聞色の覇気とは相性バッチリだね。
ルフィやゾロもちょっとは驚いてくれたかな。
「なんか、どんどん周りが強くなってるぞ…」
「チョッパーも今は7段変形でしょ? それぞれを強くしてもいいし、8個目を生み出してもいいし」
お互い能力者として、いろいろと使い方を模索しないとね。
「そうだな。俺もがんばるよ!」
「その意気だよ!」
私とルフィで修行していた頃が懐かしいや。
サボやエースも一緒にしていた時期もあったなぁ。
私たちが話していると、がっしゃんってアジトが崩れ落ちる音がした。
最終的には全員をアジトから出して、粉々に壊したんだね。
でも戻ってくるルフィもゾロも、別にスッキリした表情じゃなかった。
「金はなかった。フランキーってボスが持っていったらしい」
「聞こえてたよ。まあなんとかなるでしょ」
大食らいがいるから、こういう金銭不足に悩むのはいつものことだから。
ナミやサンジ、それにロビンに相談して、どうにかもう少し稼げば、新しい船を買う選択肢が用意できるはず。なんなら1億ベリーだけでも、ほらルフィがやっていたように、将来的に宝払いを頼んでみるのもいいし。
「とりあえず船に戻ろう。タンカで運ぶから手伝ってくれ」
「ああ、ここで立ち止まっていても仕方ないか」
チョッパーは大きな身体に変形してから、白い布の上にウソップを寝かせている。ゾロが反対側に立って持とうとしてくれる。
『立ち止まっていても、か』ってルフィが呟いた。
「決めたよ。メリーとはここで別れよう。」
「うん、みんなにも伝えないとね」
「了解、キャプテン」
「メリー号のケガは…直らないんだよな……」
人間ならどんどん強くなって、治せる怪我なら治っていくけど。
「言っただろ。船は痛みを、ただ蓄積するだけだ」
ゾロがそう呟いて、それからは誰も話さなくなって、私たちは一度メリー号に戻っていく。
夕暮れが近づいてきたからかな。
海風が冷たく感じた。