麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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・たくさんの高評価と感想ありがとうございました。
・ハーメルンにウタ作品が増えていってますよね!



第3話 ゾロ

 コビーによれば、ここはシェルズタウンと言って、なんというか、どんよりとした音が聞こえてくる町だ。あちこちから溜め息が聞こえるし、どこからも歌が聞こえない。幸せそうじゃない。

 

 海賊に襲われたとかじゃなくて、真新しい海軍基地がそびえ立っているのが見えるけど、いやな感じがする。サボが生まれてしまった『あの街』に似ているのだと、私の勘が囁いている。

 

『モーガン大佐は変わった人物らしく、町民からかなり怖がられているようです』『それに、海賊狩りも町にいるかもしれません。戦った相手は絶対に逃がさない魔獣のような剣士です。巷では“海賊狩り”って呼ばれております』

 

 って、コビーがいろいろ話してた気がする。物知りだなーって思うし、同時に心配性なんだろうし友達思いなんだろうね。まあ、ルフィは飯屋のことで頭いっぱいだし、私は思いついた歌のイメージを早く紙に書き起こしたいから、停泊してすぐ走り出したけど。

 

 町が静かだから、元気な声はよく聴こえる。

 

「おっ、いたいた。騒がしいから見つかりやすかったよ」

「あっ、ウタさん」

「ンー ウタモクウカー?」

 

 ルフィは食べかけの炒飯がドッサリ乗ったお皿を差し出してくれた。昔はダダンたちが用意してくれた料理を取り合ってたなぁってなつかしくなっちゃう。スプーンもいっしょに受け取り、かきこむように食べていく。

 

 ん、おいしー

 久しぶりにがっつり食べれる。

 

「ウタさん、えーと、その服は?」

「ンー カワイイデショー?」

 

 白地のシャツに、ニュースクーっていう鳥が描かれているのがチャームポイントだ。それに、ブカブカなとこがゆったりとしていて過ごしやすいし、洗いやすそうでもある。

 

「子どもの落書きっぽくてダs……いえ、かわいいです」

 

 コビーは少し視線を逸らしてるけど、いやー、私はどんな服も着こなすからね。こんなかわいい絵を描いた人にはぜひ会いたいものだ。

 

「ゴクリ いろいろお買い物してきたんだ~」

 

 同じくニュースクーがデザインされたリュックサックを見せる。これもちょっと翼が飾りとして付いているのがかわいいよね。お菓子とか日焼け止めとか、女子に必要なものが調達できてよかった。体質なのかどうか知らないけど、日焼けしたことないけど。

 

「あ~ 美味かった~」

「アハハ ルウのおなかみたいだね!」

 

 ルフィがおなかをポンポンと満足そうに叩いた。

 ツンツンすると、ゴムだなーって感じで楽しい。

 

 ルウってば料理しながらもずっと食べてるから、ぽっちゃりしてたなぁ。あのプニプニのおなかの上でお昼寝だってしたことある。なんかシャンクスが悔しそうにしてたけど、シャンクスってガチガチで硬すぎるもん。

 

 ルフィの大食らいなとこ、どうやらみんな驚いてるようだ。私は自分の口元をナプキンで拭いて、裏返したナプキンで、今度はルフィの口元を拭いてあげる。

 

「ごちそうさまー!」

「ごちそうさま~、これお代でーす」

「ま、まいど……」

 

 海に沈んだ小舟からなんとか持ち出せたものに、シャンクスがお小遣いでくれた宝石がいくらかある。換金用に訪れた質屋では見たこともないって驚いてたけど、そりゃあなんたって私のお父さんは大海賊なんですからねー。そういや毎晩のようにお世話になっていたマキノにもあげてたなぁ

 

「じゃ、あそこいこっか!」

「おもしろそうだな!」

「あそこ海軍基地ですよ!?」

 

 指差した方向へ付いてきてくれるルフィはおもしろがってくれるけど、コビーは心配性なんだから。

 

「なんとね! 会いたがってたゾロって人がいるらしいの!」

「ん? ゾロってやつは海軍なのか?」

「いつも人手不足とも聞きますし、スカウトされた可能性はありますが……それだとますます危険じゃないですか!」

 

 コビーはなんだか忙しいね。

 

 私はともかく、乗り気になったルフィが止まるはずはない。近づくほどに基地の塀は町と隔絶された世界を感じさせるし、1人の怒鳴り声が聞こえてきて、やっぱり幸せそうじゃない。

 

「ほ、本当に入るんですか? いい人である証拠は何もないんですよ。そんな危険なこと……」

「いやならいいよ、おれらで行くから」

「逃げ足は得意だからね!」

 

 4人でいたずらとかいっぱいやったし、ガープさんからは、私たちを海賊にさせないために追いかけられたし。

 

「それにほらっ! あの子も入ってるし!」

「やっぱりあれっておもしろ基地なんだな!」

「ちょ、ちょっとぉ!」

 

 塀を梯子で上がっていく小さな女の子がいたよ。

 

 うんうん、目が輝くよね。ワクワクする。いわゆる秘密基地なんだろうし、どんなおもしろいものが置いてあるか気になるし、世界の歌姫となる私の顔を広めることにも繋がるだろうし。

 

「ルフィ、よろしくね」

「おう」

 

 私たちは麦わら帽子を少し深く被り直した。

 ルフィは私を片手で抱えてくれた。

 

 腕を伸ばした塀の縁を掴む。元に戻ろうとするから、ギュイーンって一気に上昇して、フワーって一気に落ちる。『やっほー』って声が自然と私の口から出ていたようだ。

 

 衝撃をゴムの身体で吸収しつつ、地面へ着地したようだ。

 

 えーと。

 周囲確認なんだけど。

 

「ひどい……生きてるよね……」

「……。」

 

 広い空き地で、黒い手ぬぐいを巻いた緑髪の青年が磔にされていた。目を閉じてうなだれていて、表情からは生きてるって感じが少ししか感じられないし、一体何日あのままでいるのだろう。

 

 さっきの女の子がトコトコと、彼のもとへ向かっていた。私とルフィは今姿を見せるのは、なんだか無粋だと感じたし、倉庫の影から様子を見ることにした。ヘッドホンをはずして、声をしっかりと聞き取る。

 

「お兄ちゃん、ごはん持ってきたよ。おなかすいてるでしょ?」

 

 突き刺すような威圧感に怯えることはなく、明るく弾むような少女の声に反応して、鋭い両目が開かれる。まるでベックさん*1みたいな目つきだし、その雰囲気もどこか似ている気がする。

 

「また来たのか、ガキ。メシはいらねぇっつっただろ。帰れ」

「おにぎり作ってきたの。わたしがにぎったんだよ。ちょっと形はヘンだけど、味はおいしいとおもうんだ。おかあさんにもてつだってもらって――」

 

 ずっと手から離さないようにしていた包みは、おにぎりだったらしい。しかも、彼のためにがんばって慣れない梯子をのぼって、こんなところまで来たらしい。こういうの見ると、胸が温かくなるよね。

 

「蹴りころされてぇのか。とっとと失せろ。おれは機嫌が悪ぃんだ」

 

 そして、あの青年は少し高い建物の様子をうかがいながら、追い返そうとしている。でもなんとなく、たぶんあの人が海賊狩りのゾロなんだって気がするけど、もしかすると海賊狩りっていうのもみんなを守るためなのかもしれない。わるい海賊をこらしめるヒーローってね!

 

「はい、どうぞ 食べないとしんじゃうよ」

 

 女の子はあきらめず、精一杯腕を伸ばして、食べさせようとした。その小さな腕では縄を解くことはできず、あの女の子が今できることを、がんばって、がんばって考えたんだろう。私もああいう頃があったなぁ。

 

「ロロノア・ゾロォ! 子供相手にそんな冷たい態度はいかんねぇ」

「チッ、バカ息子が来やがったか」

 

 そして、なんか高そうな服で、えらそうな服の邪魔者が来た。なんかいろいろ挑発してるけど、動けないゾロ相手に調子に乗ってるし、えらそうだし、私ああいう男ってキライだ。傲慢っていうかさ。

 

「まぁそう心配するな。約束の件は忘れちゃいない。ここに一か月突っ立ってたら釈放してやろう」

 

「……本当だろうな」

 

 一か月という途方もない時間なんて、耐えられるわけがない。女の子も泣きそうだし、今日で一体何日目なんだろう。たぶん1週間は朝も昼も夜もここで囚われたままだと思う。

 

 あいつ、かんっぜんに遊んでる。

 にやにやしてるし、ほんとキライ。

 

「だめだろぉお嬢ちゃん、勝手に基地内へ忍び込んで、しかも罪人とお話なんてしちゃ」

 

「あっ、えっ……」

 

 ムダにずるかしこそうだし、あの女の子がゾロに食べさせるためにここまで来たことに気づいているのだろう。おにぎりの包みを奪いとって、その1つを見せつけるように食べる。

 

「なんだこりゃぁ! さては塩と砂糖まちがえたなァ!」

 

「私、甘いもの好きだし、おしおの代わりに……」

 

 女の子は悲鳴を上げる。

 

 あいつ、包みごとおむすびを投げ捨てて、やつあたりするように何度も踏みつけたんだよ! 女子ががんばって作ってくれた料理をあんな風にするなんて、ほんとサイテー。

 

 お父さんもルフィも、私がお塩とお砂糖をまちがえてもちゃんと食べてくれたもん! 忙しいマキノの隣で見よう見真似で作った初めての料理だった。

 

「こんなもん、こんなもんっ!」

「やめてよ、やめてっ!」

 

 ルフィはまだ様子見するみたいだし、ぶん殴りにいかないけどさ。女子の純情を弄んだあいつ、いつか覚えておいてよね。

 

「けっ、こいつをつまみだしておけ!」

「……はっ!」

 

 不機嫌そうに歩いていく金髪へ、2人の海兵は敬礼をした。でも、2人からは、ほんの小さい音だけど、歯を強く食いしばる音がする。なんだ、ちゃんと子ども思いな海兵もいるじゃん。

 

「君、今のうちに」

「どっちだ?」

 

 泣きじゃくりながら梯子の場所を指差す女の子をやさしく抱え上げて、こちら側へ歩いてきた。塀の上へ、無事に送り届けた2人の海兵は足早にどこかへ去っていった。再び、あいつなんかに従う仮面をつけて。

 

 

「よ。」

「やっはろ~」

「誰だ、おまえら? すげぇ紅白だな

 

 私たちは、ゾロのもとへ向かう。

 間近で見れば見るほど強くて優しい人だな。

 

「俺はルフィ、海賊王になる男だ」

「ウタだよ! 世界の歌姫になる予定なの!」

「本当に海賊、か? 自分から捕まりにでも来たかよ?」

 

 口元を柔らかくして、ほんのちょっと笑みを浮かべた。まるで私たちが海賊っぽくないみたいじゃない。そりゃあまだ2人しかいないし、海賊船だって持っていないし、懸賞金かけられて有名にもなってないけどさ。これからなんだよ。

 

「私たち、ゾロに会いに来たの!」

「俺らの仲間になれよ。一緒に海賊やろう!」

 

「あぁ? 海賊狩りと呼ばれる俺をか?」

 

 呆けた表情を一瞬見せ、迫力のある睨みをきかせてくる。へっへーん、私そんなので、びび、ビビってなんかないんだからね。もし正面から戦ったのなら、一瞬で斬られる気がした。そりゃあ今は剣を持ってないけどさ、それでも剣を持ってるイメージが湧いてしまうの。

 

 私がいそいそとルフィの背中に隠れると、ゾロはその威圧感を引っ込めてくれたようだ。

 

「おう。お前いいやつだしな」

 

「ちっ、どこから見てたんだ

 ……お前らどっちか、それ取ってくれねぇか」

 

 顎で指し示した場所には、泥にまみれたおにぎりだ。

 ルフィ以外が食べると、おなかこわしそうだけど。

 

「おまえこれ食う気か? もう泥だぞ、これ」

「いいからよこせ。腹減ってんだ」

 

 両腕が塞がれているため、拾いあげていくルフィにされるがままに、おにぎりを口に入れられていく。じゃりじゃりとした音も聞こえるし、無理やり飲み込む音も聴こえる。必至に食らいつき、胃に収めていった。

 

「にしし」

「♪~」

 

 まぶしい光景をじっと見ていると、私は鼻歌を自然と(ウタ)っていたんだ。優しい青年へ向けて、少しでもこの数日間の疲れが安らぐようにって。

 

「ゲホッ……さっきのガキに、伝えちゃくれねぇか」

「なんだ?」

「なに?」

 

 私は水筒をリュックから出しつつ、その言葉を待つ。

 

「うまかった。ごちそうさまでした……ってよ」

 

 ほんといい人だ。

 私もルフィもますます仲間として欲しくなった。こういう人がシャンクスたちの海賊団にはいっぱいいたんだ。でもそういうのが他の海賊たちでは当たり前じゃないってベックさんには口すっぱく言われて、そこはちょっとざんねんだったな。

 

「はい、お水ね」

「……あ、ありがとうな」

 

 言い慣れてなさそうなとこが、かわいいね~

 

 水筒から傾けた水をゴクゴクと、すべて飲み干した。あとは、ゾロの口元をハンカチで拭いてあげて、ついでに顔の泥とか吹いて、あっ、そんな動いたら拭きづらいでしょ。ルフィもそうなんだけど男子ってこういうときゴソゴソ動くよね。

 

「ちゃんと届いてるよ。ゾロの(ウタ)は」

「あぁ? ……ちっ」

 

 視線を上げたゾロは、塀から顔を覗かせているさっきの女の子に気づいた。あんなことがあったのに、自分の作ってくれたおにぎりを全部食べてくれた彼の姿を、キラキラと見つめていることに。

 

「しししし」

「アハハ」

 

 気恥ずかしそうに黙り込んだゾロへ『また来るね』と伝えておいて、『二度と来るな』ってツンデレを聞き流して、私たちは一度ここを離れることにした。1か月耐えるっていうゾロの決意を邪魔したらわるいからね。

 

 

 さっきの女の子と合流しているらしい、コビーのところへ戻りつつ。

 

「いや~、俺あいつ絶対仲間にしたい!」

 

「未来だけ信じてる♪

 誰かが嘲ってもかまわない

 走ってる情熱があなたをキラめかせる」

 

 ん、歌いだしはこんな感じかな。

 ほんと、カッコいい男って良いよねっ!

 

 シャンクスたちは、傷ついた仲間とか友達とかを守ろうとするときが、とっても輝いていてとにかく強かったんだ。たぶんシャンクスたちを相手にする人はめっちゃ怖いだろうけど、その背中を見ている私たちからすればとても心強かった。そういうのに憧れて、私もルフィもそういう海賊団を作ろうって思っているんだけど、もうその1人に会えるなんて思わなかったなぁ

 

 

 

*1
赤髪海賊団副船長イケメン

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