指揮棒を振るう。
この
「……なるほどな」
って、次々と銃を構えさせたんだけど。
おじさんの判断力とか、指揮もなかなからしい。
「今が隙だらけだ! 撃てェ!」
「もうっ!!」
そうだよね、ルフィ。
「貴様、なんだそれはァ!!」
「効かないねぇ、ゴムだから」
撃たれた身体はビヨーンって伸びて、銃弾をあちこちへ弾きとばした。おじさんも、撃った海兵の人たちも、そしてゾロも、目が飛び出るくらい驚いている。そういうみんなの顔を見るのは楽しくなってくるじゃない。
「ありがとう、ルフィ」
「どういたしまして」
ルフィは照れくさそうに、麦わら帽子を被り直した。
「こっちの麦わらも能力者かっ!」
こっちへロケットのように飛んでいた音は聞こえていたけど、降り立った赤いシャツの背中はまるでお父さんのように頼もしい。私はやっぱり赤色が好きなんだよね。
「ゾロ! 刀見つけたぞォ~!」
その数は3本、今は鞘にその輝かしい刃は収められている。
嬉しそうに寄ってくるルフィに対して、ゾロも嬉しそうだ。
「で、どれがゾロのやつなんだ?」
「全部だ。俺は三刀流だからな」
ルフィがまとめて差し出したうちの1本を口で引き抜いて己の縄を斬り、自由になった手で抜いた2本目でさらに縄を斬る。残りも受け取って、全ての鞘を腰にぶら下げた。
「素敵だね、ゾロ」
私は指で四角を作って、1つの写真みたいにしっかりとその『
ゾロはこちらを見て、ニヤリと笑う。
「おい紅白女、いや、ウタって言ったか」
「うん、ウタだよ!」
名前を呼ばれたのは嬉しいな。
ゾロは黒い手拭いをしっかりと結び直した。
「なかなかいい剣技を見せてもらった礼だ。教えてやる」
うんうん。
ゾロの唄を聞かせてほしいな!
「俺には
それは、私の自慢のお父さんにも挑むってことかな。
熱くていい夢だと思うよ。
「海賊だろうがなんだろうが、俺の名を世界中に轟かせてやるだけだ」
「そっか! なんだかエースと似てるね!」
そして、海軍へその鋭い眼を向けて、威圧する。
すでに麦わら海賊団の戦闘隊長って感じかな。
「俺より弱かったら
「いいねぇ、世界一の大剣豪。海賊王の
麦わらを深く被り直して口元に笑みを浮かべる。
3本の刀をそれぞれのポジションへセットした。
私も2人の隣に立って麦わらを両手で被り直す。
「ルフィさん! ウタさん! ゾロさん!」
「「んー?」」
コビーは私たちの隣には立たないけれど、しっかりと名を呼んできた。
「今の僕には何もできませんけど、この海軍がおかしいってことだけはわかります。だからお願いします。
……こんな海軍、潰しちゃえ!」
コビーの正義もほんと良いよね。
いつか自分の力で意志を貫けるようになると思う。
「おう、まかせろ」
「うん! アンコールいくよっ!」
ここからは私たちのステージだ。
ゾロもまあ、戦えるだろうね。だったら一緒に暴れよう。
「ウタウタ
ホントに盛り上がってきた。
さあみんな、全力で
「誰が1番目立つか競争、スタート!」
「おう。今回は負けねぇからな!」
「ぬかせ。剣で負ける気はしねぇよ」
私たちは好戦的な笑みを浮かべ続ける。
作戦は、ガンガンいこうぜ!
「全員纏めて処刑だ! おれの命令に従えねぇ奴はしね!」
逆らえず、怯えながらも海兵たちが動き出す。
ルフィは先陣をきって、大きく右脚を振りかぶる。
「ゴムゴムのォ~ 鞭ィ!」
ゴムのように伸びた脚で、一気に広範囲の攻撃になる。まるで鞭のようにしなって、銃を構えていた海兵たちを吹き飛ばした。
「身体が鈍ってるんだ。付き合えよ」
「か、海賊狩り……」
3本の刀で、サーベルを持った海兵たちの武器を次々と弾き飛ばしていく。恐怖で従わされているし、その異名を知っていることもあって、やっぱりかなり身体が固くなっている。
「~~♪」
「なぜだ! なぜ貴様ら海賊は従わん! 俺から奪おうとする!」
ボスを守る観客を飛び越えて、私はステージへ飛び込んだ。再び斧で防がれるが、さっきより勢いを防ぎきれなかったようだ。
「くそっ、この女、一体どこからそんな力を! いや、歌かッ!」
やっと聴いてくれそうかな。
「愛で変われ弱さを脱ぎ捨てた
私たちの真実が見えたら♪ 」
恐怖でみんなを従わせても、それは幸せじゃないんだよ。
だってそれは自由じゃないんだから。
「なにィ!」
巨大な斧を受け止めると、目を見開いた。
まさか女って思って甘く見てた?
「歌を、歌をやめろぉ!」
私も無理やり聞かせるんじゃなくて、心から聴いてもらえるように、みんなが幸せになれますようにって、だから私は何度だって
「愛で変われ 闇など越えて征け♪」
次々と動きを止めて聴き入ってくれる海兵たちに届きますように。あなたたちも
「脆い脆い脆い 人の意志♪」
「くそっ、くそっ!」
闇雲に次々と迷い風を切り裂くような破裂音だ。部下の前で負けたくなくて焦った声、守れなかった物を後悔している
「でも強い強い 人の希望♪」
せーのっ!
「わかってた…始まりの
フワフワと浮いてから、一気に落ちる。
両手で握り込んだ
「俺の腕がっ!」
これでフィナーレかな。
斧は砕けた。
おじさんは腕を抑えながら膝をついた。たぶんそれは失った腕の幻痛も大きくて、海兵たちが次々と『モーガン様!』と呼び掛けて駆けつけていく。なんだかんだこの町は悪い海賊に襲われた形跡もなかったし、この人なりにこの町を守っていたんだろう。自分にとても厳しくて、部下の人たちにもいきすぎたやり方をしてしまったけれどね。
「はぁ……はぁ……」
ルフィは拳を解き、ゾロも納刀しながら手拭いをはずした。実はこれを
「ウタウタの
ちょっとした鎮痛効果しかないけれど、歌の青い音符があちこちへ降り注ぐ。海のように優しく、お伽話に出てくる
「ウタさん、きれいな声だ……」
「なんたって世界の歌姫になるやつだからな」
「おもしれぇ
ん、また誰か来たね。
私は
「て、てめぇら! 親父から離れやがれ!」
あの金髪のやつがへっぴり腰で、
「俺の親父は海軍大佐なんだ! まぐれで勝っちまっても本部からの応援が来る! もうおまえらに助かる方法なんてねぇんだよ!」
「すごいのはお前の親父だろ。お前に何ができるんだよ」
「来るなぁ! ほんとうに撃つぞ!」
ルフィは銃口へ向かって、ゆっくりと歩き始めた。
誰も口を挟むことなどできず、そのやり取りを止められない。
「
「へ?」
その歩みは決して止められない。
「そいつは脅しの道具じゃねぇって言ったんだ」
「く、来るなっ! くるなぁーー!!」
銃弾が効かないことは知っているのかどうか分からないけど銃を放り投げて、目を閉じながらパンチを繰り出した。相変わらずのへっぴり腰で、まるでつまずいたようだけど、全身の体重が偶然乗ったパンチがルフィの頬へぶつかる。
それでも力量差は歴然でほんの少しも動じていないけれども。
「いいパンチできるじゃねぇか」
「えっ……へぶぅ!!」
気絶しない程度の
「へっ、バカ息子が……見ねぇ間にでかくなりやがって……」
おじさんは涙を流しているけど、少しでも危険から遠ざけるために、甘やかしてたのかもね。そんなことされると、
さて、ここにはもう用はないし。
「腹減ったし、飯食いに行こうぜ~」
「ああ。久しぶりに腹いっぱいメシ食いてぇ」
「私は甘いもの飲みたいなぁ~」
2人を介抱する海兵たちを置いて、背を向けた。
もう攻撃もしてこないだろうし。
「コビーも来るでしょ?」
「あ、はい。リカちゃんにも報告したいですし」
「そうだ、せっかくならおっさんたちも呼ぼうぜ」
「……は?」
くるりと反転して、走っていったルフィは重い身体を軽々と持ちあげた。
「な、なにをっ! 貴様ら海賊なんだろうが!」
「いいじゃねぇか、町のみんなも呼んでパーッとやろう! 宴は人数多い方が楽しいもんな!」
「ほらほら。世界の歌姫になる予定の私のステージ用意するの、手伝ってよおじさん!」
『宴だァーーー!』
肩を抱き合ったルフィと私の大きな声が、静かなシェルズタウンへ響いていく。
****
今日はいっぱい歌った。
いっぱいの観客に聴いてもらえた。
本音を言えばかなり疲れているんだろうけど、笑いが絶えないからそんなこと気にならない。
「みなさーん!」
私はステージでライブ、ルフィは絡み酒、ゾロは酒豪たちとの飲み比べ、各々が時間を過ごしていたけど、3人が集まったタイミングでコビーが元気そうに走ってきた。
「やりましたよ! 海軍に入れて欲しいって。そしたら、雑用ですけど、入隊を許可されたんです。僕が海軍に入れたんですよ!」
「お、そうなのか。これで敵同士だな」
興奮しながら早口で告げるコビーに、今更っぽい返事をした。海兵も町の人も、私たち海賊も入り混じって宴を楽しんでいる。おじさんと金髪くんも精いっぱいの謝罪をして、心を入れ替えて町の守護を続けることを誓ったらしい。おかげで『古傷が癒えた』のだと若々しい顔で、私にお礼を言ったあのおじさんには、今の段階で『喧嘩』したら結構きついかもしれないね。
「はい、そうですね……確かにそうですけど、このご恩は一生忘れません。あなたたちに出会えたから僕は変われたんです」
コビーはたぶん答えが分かっているだろうけど、それでも聞きたい言葉があるようだ。
「……これからもずっと友達ですよね?」
「当たり前だろ。俺たちずっと友達だ」
「コビーが海軍将校になるか、私が世界の歌姫になるか、どっちが先か競争だね!」
コビーは嬉しそうに涙を流した。
そして、腕で目をごしごしとする。
「もう泣きませんよ。僕、たくさん努力して、勉強して、修行して、強くなってみせます。次に会った時、みなさんに胸を張れるように」
ルフィが右腕を伸ばして拳を向けて、コビーも精いっぱい腕を伸ばして拳を突き出した。2人の拳がこつんと良い音を立てる。
日の出とともに、私たち3人は出航する。
リカちゃんたちから元気よく手を振っている。
コビーと金髪くんと、おじさんたちは敬礼をする。
「またな~!」
「またね~!」
世界の歌姫になる私のファンに『また聴きたい』って思いを残すことができて。