麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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・筆者はたまにハイライトが消えたりチョロかったりするかぐや様も好きです。


第7話 ナミ

 

 航海士さんと仲良さそうにルフィがおもしろ大砲に目を輝かせている背中をじーっと見つめながら、私は白い髪を指でいじりながら、もう片方の手ではナイフをくるくると弄んでいた。そこへ、怯えた様子も見せず楽しげな私たちへ、赤い鼻のおじさんは癇癪を起こし始めたようだ。

 

 まあ、おじいちゃんのお宝をこれ以上壊されるのは困るかな。

 

「お前ら! 着火だ!」

「「「へいっ! キャプテン!」」」

 

「えいっ♪」

「ししし!」

「ちょっ、ええっ!?」

 

 ウタってナイフにちょっとした火を纏わせて、砲口へ投げ入れた。私は航海士さんの身体を抱えて、ルフィと全速力で酒場を離れる。さすが幼馴染、私のいたずらに付いてこられるくらい阿吽の呼吸だ。

 

「てめぇ! ハデになんてこッ!」

 

 ドガーン!

 いい音が後ろから鳴り響いた。

 

「ギャーー!」「ヤッホー!」

 

 すごい爆風に私たちの背中は押されるけど、ルフィのおなかにボヨンと包み込まれる。『ゴムゴムの風船』、大きく息を吸ってルウのおなかの大きさくらいに膨らむ防御技だよ。

 

「いやぁ~ 思ったよりすげぇー爆発だなぁ~」

「ありがと、ルフィ♪」

「しぬかとおもったわ!!」

 

 ドゴンと、ぺしっと、それぞれ航海士さんは私たちへ拳骨していった。

 

「ほんとうにやりおった……」

「開戦の花火か?」

「おっ、ゾロも間に合ったか」

「おじいちゃんもさっきぶり~」

 

 片腕で担いでいたおじいちゃんをゆっくりと地面へ下ろしながら、ゾロはニヤリと笑う。航海士さんは『まさか海賊狩りの……』と呟いた。

 

「まあ海賊ならあの程度でしなないでしょ」

「あの赤っ鼻は俺が倒すからな!」

「剣士がいればそいつは貰う」

 

「たった3人で……なんなのこいつら……?」

 

 ナミが信じられない目で見てくるけれど、私たち3人は海賊の喧嘩をするだけだよ。

 

 すぐに起き上がれるのは、やっぱり船長と幹部クラスだけみたい。赤い鼻のおじさんと、一輪車とサーベルを持った剣士、そしてライオンと鞭使いってとこかな。

 

「貴様ら、この俺をハデに怒らせたこと後悔させてやる!」

友達(シュシュ)と、帽子のことがあるからな。1発ぶん殴ってやる」

 

 ルフィは麦わら帽子を深く被り直して、赤い鼻のおじさんに向かって行った。ゴムゴムの(ピストル)で遠くへぶっ飛ばしているけど、なんだか手ごたえがおかしそうだ。他にも、すでにゾロもおもしろ剣士の相手を始めたみたいだし。

 

「私たちもみんなに負けないくらい目立とうか」

「へっ、相手は弱そうな女か」

 

 なんだか個性的で、かわいいフワフワな白い毛皮を首や肩に纏っているのに、腹筋は思いっきり見せてきている。

 

「一瞬でカタがつきそうだ! いけっリッチー!」

「ガウッ!」

 

 パシッと地面に叩きつけた鞭の音を合図に、ライオンが爪を輝かせて飛び込こんでくる。猛獣だけど手懐けられているだけじゃない、いいリズムを感じるコンビだと思う。

 

「ウタウタの(カーテン)

「ガウッ!?」

「なっ! この女、キャプテンと同じく能力者かっ!」

 

 まずは五線譜でその爪を受け止めつつカーテンコール、そしてライオンの指揮者を狙ってピストルの形に人差し指を向ける。驚くのはまだ早いよ。

 

「と、(ピストル)♪」

(あち)ぃ!」

 

 込めた弾丸(ウタ)は火の音符だ。即興のウタにあまり威力はないけれども、モフモフな毛皮はよく燃えるよね。火を消すべく地面を転がり回る毛皮のおじさんは今は指揮ができないだろう。

 

 これでリズムは崩れた。

 ライオンもその(たてがみ)はよく燃えるでしょ。

 

「リピート! ウタウタの(ピストル)♪」

「グッ……ガウッ!」

 

 燃える炎を耐えながらこちらへ飛び掛かってくる。

 咄嗟に地面を蹴って、その場を離れた。

 

「……えっ?」

 

 けれど、足に何かが……

 身体が宙に浮く。

 

「あぐっ!」

 

 咄嗟に受け身を取ったけど結構痛い。

 白黒になりそうな意識で、ウタで状況確認。

 

「あちゃ~ やらかしたな」

 

「火の輪くぐりってな」

「ガウッ」

 

 確かに2発目も直撃していたけれど、火に怯えない獣というのは初めてだ。毛皮おじさんはライオンに(たてがみ)についた火の粉を払いながら不敵に笑った。そして、空いている右手はさっき私を掴んで投げた鞭をパシンパシンとしならせている。

 

 地面を滑らされたおかげで、右腕がヒリヒリする。

 剣を使う指揮者(コンダクター)は無理そう。

 

「女だからって甘く見ねぇほうがいいな いけっリッチー!」

 

 パシッと地面を叩く音がするはずだ。

 それを合図に(カーテン)で、って!!

 

「いったっ!?……なかなか策士だね

 

 その鞭が地面を叩くかと思いきや、直接私へ向かってきた。咄嗟にクロスした両腕で防げたけれども、痛いものは痛い。

 

 そこを間髪を容れず。

 

「ガウアーッ!」

「合図なんていらないんじゃない!」

 

 1発でも受ければタダでは済まない。

 なんとか地面を蹴って避けたけどリズムが狂う。

 

「様式美も大切だろ?」

「……つぅ、まあそうだよね」

 

 どこかに隠していた吹き矢を見せびらかしているので、太ももに刺さっている小さな矢をさっさと抜く。一瞬だけど意識がチカってなるくらい痛かった。

 

 毛皮おじさんの身体はライオンの巨体に隠れていて、元々静かな音も咆哮で聴きとりづらいから反応できなかった。ウタの有効打を与える隙がなくて、どんどん追い込まれている気がする。

 

「いや~、実は相性わるいみたい感じ?」

 

 ルフィが戦っている赤い鼻は能力でバラバラしてて上手く攻撃を当てづらそうだし、ゾロは純粋な剣技の土俵に上がらないリズムに調子を崩されているし、私は臨機応変に補助し合う2頭(ふたり)にリズムを掴みづらいし。特に赤い鼻のおじさんは、ルフィもあまり喧嘩した経験のないテクニックタイプを極めているようだ。

 

「アハハ……まずいかも」

「ふっ、効いてきたようだな」

 

 一度距離を取ったけど、私は片膝をついてしまう。

 もう右脚の感覚がきつくなってきた。

 

「卑怯とは言うまいな」

「いいよ。海賊らしいじゃん」

 

 別に聖者を相手にしているわけじゃないし、これはルールのある模擬戦でもないからね。私の答えに毛皮のおじさんはさらに生き生きとした海賊の表情となった。

 

「畳み掛けるぞ! クロスコンビネーション!」

 

 ライオンくんへ合わせるように、毛皮のおじさんはまるで獣のように体勢を低くして、今度は同時攻撃のようだ。今の私は避けられる気はしないし、あの(ウタ)かな。

 

「ウタウタの輪舞曲(ロンド)!!!」

 

「なにぃ!?」

「ガウッ!?」

 

 (ウタ)の全方位衝撃波、音の速さで遠距離攻撃できて、まあ便利なんだけども

 

「ゲホッ……ゴホッ……」

 

 やっぱり喉に負担がかかる。

 痺れ薬もあるし、ますます(ウタ)いづらくなってきた。

 

「もう終わりか? もうしてこねぇか?」

 

 近づいてくる音がする。はやく立たないと。

 

「ちっ、ビビらせやがってぇ!」

「がッ……!」

 

 両膝をついてるところを蹴り上げるように、瓦礫に向かって吹き飛ばされた。痛みの感覚が薄くなるくらい全身が痛むけど、背中から落ちたみたいだ。

 

 つぅー、久しぶりにこんなボロボロにされたなぁ。

 

「一応とどめを……あ?」

「あんたら、次はあたしが相手よ!」

 

 そういう航海士さんの声がした。毛皮おじさんたちに木片を投げて、私から狙いを逸らそうとしているらしい。一時はルフィをたぶらかす女かと思ったけど、とても優しいしルフィが仲間に欲して気にいるのもわかってきた。まあ、航海士さんがどれくらいの強さかまだ知らないけど。

 

「うれしいけど、まだ私の(ウタ)は続いてるよ」

 

 別にまだ『参った』なんて言ってないからね。

 酒の栓を開けて右脚の傷口に振りかける。

 

「あんた! もうボロボロじゃない!」

「ンー?」

 

 航海士さんの心配する声に微笑みを返しながら、もう1本の瓶に詰まった甘いミカンのジュースを一気に飲んで、血の味がする口の中を洗い流す。

 

「ぷはぁー!」

 

 2本の瓶が瓦礫の上に落ちて、コトンコトンと音を立てた。

 私は再び瓦礫のない場所(ステージ)へ降り立つ。

 

「へっ、まだ教えたりなかったか?」

「鞭の味ってやつを?」

 

 リズムに従って、見慣れた鞭の軌道に合わせて、掴む。

 

「このっ! いってェ!」

 

 慌てて引っ張ろうとしてるので、パッって手を離した。

 バチーンって良い音が鳴る。

 

「私の幼なじみもたまに鞭を使うんだよね」

 

 トントントントンと、靴のつま先で石畳をリズムよく叩く。

 

「危ないッ!」

「ガウッ!」

「ん、やっぱり君は主人思いだよね」

 

 ふわりと、その爪をステップで避ける。

 そして丈夫な巨体を足場にして、一気に跳んだ。

 

「なんだこいつ、急に動きが!」

「世界の歌姫になる私も(ダンス)が得意って、こと!」

 

 ルフィのゴムゴムの鞭を思い浮かべて(ウタ)いながら、大きく振りかぶった蹴り技を毛皮おじさんの身体に浴びせた。

 

「ぐわぁ!」

 

 すかさず。

 瓦礫へ飛んでいく主人を守るために攻撃してくる。

 

「ウタウタの(カーテン)

 

 ライオンくんの爪を防いでカーテンコール、そしてピストルの形に人差し指を向ける。

 

「同じ(ウタ)でもウタは何度聴いてもいいものだよ。(ピストル)♪」

「ガウッ!?」

 

 今回込めた弾丸(ウタ)は電気の音符で、びっくりさせる程度の威力なんだけど。

 

 初めて味わう調教(ウタ)に、ライオンくんが困ったように主人を見るけど、今は指揮ができないみたいだよ。私のリズムに乗って、これでようやく阿吽の呼吸のコンビに隙ができた。

 

「すぅーー!」

 

 大きく息を吸う。

 まるで風船くらい、大きくでっかく。

 

ウタウタのぉ~

せーのっ!

「バズーカ♪!!」

 

 音の衝撃波が、ライオンくんの巨体を吹き飛ばす。

 その巨体は主人のところへ向かっていく。

 

「ぶべらぁ!?」

 

「はぁ……はぁ……ウタいきった~」

 

 地面に倒れて息を整えていると。

 空にぶっ飛んでいく赤い鼻のおじさんが見えた。

 

「ルフィも勝ったんだ。んー、そもそも何海賊団だったっけ」

 

 町を通り越して、海のほうまでいったけど、そういえばおじさんの名前は聴いてなかったなぁ。

 

「航海士さ~ん、ルフィのとこまで肩貸して~」

「……元気そうね」

 

 心配そうに近くまで来てくれた航海士さんの肩を借りて、ルフィたちのところへ向かう。

 

「それとナミよ」

「いい名前だね。私はウタ」

 

 『そ。』と素っ気なくてこれ以上仲良くしてくれるつもりはないらしいので、『ぶ~』って声を出してやる。同じ海賊団の女子同士仲良くなれると思うのに。

 

「ウタぁ~! 無事かぁ!?」

「ルフィのほうこそ!?」

 

 ルフィに抱え上げられていろんなところをペタペタされるので、私もルフィの身体をペタペタする。

 

「……なんなのこいつら

「……ほっとくのが1番だ

 

 ゴムの身体には痛々しい斬り傷がいっぱいだ。打撃にはめっぽう強いけど、斬撃には弱いところがあるからね。ゾロも少し斬り傷があってフラフラしてるし、早く船に戻って治療しないといけない。傷口にバイ菌が入ったらダメだし。

 

「ナミもありがとな。俺の仲間になる気になったか?」

「……手を組む、って言ってくれる? 私は海賊になんて絶対ならないしあんたたちとずっと航海するわけじゃない。時が来れば船を離れるわ」

 

 これはゾロと似た波動、つまりツンデレってやつだ。

 

「お前は誰だ? 突然出てきて偉そうにぺらぺらと」

「私は海賊専門の泥棒、ナミ。好きな物はお金とみかん。嫌いな物は海賊。……これで自己紹介は十分?」

 

 ゾロの質問にいろいろ教えてくれて、ナミはまるで私たちの船が分かっているかのように、港へ向かっていく。もしかしていつでも逃げる準備をしておいてくれて、私たちを呼びに来てくれたのかもしれない。ほんと優しい人だ。

 

『ありがとぉなぁ~!』『ワン! ワン!』

 

 おじいちゃんや犬が私たちへ向かってお礼を言っている声がするので、私とルフィはほんの少しの間、大きく手を振った。でもこのままでは海賊なのに正義の味方みたいにチヤホヤされそうで宴どころじゃないし、それはそれでむずがゆいものがあるので、避難していた人たちが来る前に立ち去ることになった。

 

「「つかれたぁ~」」

 

 戦ってクタクタに疲れた私たちは甲板に一度ペタリと座り込んで、ナミは樽の上に腰かけている。あっ、そうだ。言わないといけないことがあった。

 

「この船に女の子は私だけだから、ナミが乗ってくれるのうれしいな! 私とルフィは幼なじみなんだけど! 出航する前からずっといっしょなの! あ、夢とかある? 私は世界の歌姫を目指しててルフィは海賊王で」

 

 今のうちに教えておくね。

 『ルフィの幼馴染(いちばん)は私だけなんだって。』

 

「近いわ!!」

「え~ 仲良くしようよ」

 

 ポコンと優しく拳骨されたけど、ナミは寂しそうに船の倉庫へ目を向ける。

 

「どうかしたか?」

「おい、あれって」

「まさか……」

「私は何がなんでも1億ベリーかき集めて、ある村を買うの。それが夢。だからあいつらから奪ったお宝は」

 

 言い淀んだナミへ、私たちは。

 船の倉庫にいろいろと積んでくれているのを見て。

 

「肉あるか!」

「良い酒はあるか?」

「甘いジュースとかないかな!」

 

 傷の手当てより、まずは腹ごしらえだよね。

 ナミのおかげで食糧が潤ったみたいだし。

 

「はぁ~ 今回は結構いい一味に取り入れたみたい

 

 なんだか張り詰めていたけど、柔らかい声になった。我先に倉庫へ入っていく私たちの隣をするりと抜けて、黄金のお宝じゃなくて1本の酒の瓶を手にした。

 

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