麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第9話 クラハドール

 

 ウソップは幼なじみはともかく、過保護な屋敷の人たちも、平和に暮らす村の人たちも説得する方法が思いつかず、トボトボとした足取りで私たちに合流した。

 

 クラハドールという執事は誠実なことで知られているようだし、逆にウソップはよくウソをついては静かな村を楽しませようとしてきたから、またウソだと思われている。村に住んでいた期間はともかく、いつの間にか開いた信頼の差が原因になっているみたいだ。それだけ、執事として上手く溶け込んでいるのかもしれないね。

 

『俺だけじゃ一瞬でやられちまう。村にも戦えるやつなんてほとんどいない。だから、俺と一緒に戦ってくれねぇか!?』

『ああ。仲間だからな』

 

 精神誠意そう頼んできたウソップだけど、私もルフィもゾロも、むしろ海賊団たちと喧嘩するのはワクワクしてくる。しかも海賊からウソップの故郷を守る戦いということもあって、ナミもなんだかんだ言いながら手伝ってくれるようだ。

 

「よぉく聞けっ、おれ様の名はキャプテ~ン・ウソップ!」

 

 ようやく始まるみたい。

 

 早朝、海賊船が近づいてくるのが高台から見えたし、こっちの海岸でちゃんと合っていた。村への1本坂に立ち塞がって、50人を超える海賊たちへ向かってウソップが名乗りを上げた。

 

「今すぐ尻尾撒いて逃げ帰るって言うなら見逃してやろう! 俺には8000人の部下がいるからな! さあ、今のうちにこの島を立ち去れぇ!」

 

「な、なぁにぃ!?」

「「「……いやいやウソでしょ」」」

 

 ウソップ考案の作戦その1が失敗した。昨日密談していた声の、サングラスのおじさんはともかく、その部下たちには全く通じていないようだ。たぶん船長の変な顎のサングラスおじさんは、ウソップへ怒りの表情を向ける。

 

「お前ら、まずはあのガキをやってしまえ!」

「「「へい!」」」

 

 でもこんなときのために、ナミ考案の作戦その2があるからね。

 

「ふっ、聞いて驚け。今の俺には百人力のやつが付いているのさ。ヘルプ! ルフィ~!」

 

「おう! ゴムゴムのォ~」

 

 高台から急降下しながらルフィは、伸縮する両腕を高速で前後に動かす。1つ1つの拳はどんどん速くどんどん増えて、やがて無数の弾丸(ガトリング)へと変わる。

 

「ガトリングッ!」

「「「ぐわぁーー!」」」

 

 普通の海賊にとって、たった1つでも驚異のパンチだけど、固まっていた海賊たちは次々と吹き飛んでいく。これで隙はできた。ゾロが坂の上から樽を転がすと、するりと海賊たちの横を通り抜けて、岩へぶつかって割れて、大きな音がした。

 

 あちこちから音と声が聴こえて、ちょっときつい。

 もし来るならたぶんかなり小さな足音だと思うけど。

 

「よっしゃ! 計画(どぉ)り!」

 

 ウソップがカバンからパチンコと弾を取り出した。

 

「っ! てめぇら、ここから離れろォ!」

「必札 火炎星!」

 

 燃える弾丸が着弾すると、酒は大きく燃える。

 海賊船へ向かう退路は炎の壁と音に包まれた。

 

 ゾロがルフィへ合流し、混乱する海賊たちを1人1人叩きのめしていく。仮に1度撤退させたとしても、懲りずに村を襲いにくるかもしれないから、徹底的に心を折るためのナミの作戦だけど、まあ海賊ならこの程度でしにはしないでしょ。

 

「くそっ! ニャーバンブラザーズ、あの剣士を狙え!」

「「おうよっ!」」

 

「へぇ、お前らが幹部2人ってわけか」

 

 猫耳や猫のコスプレでかわいい男たちが、2本の刀を抜いているゾロへ向かっていく。でもそれだとルフィは、あのサングラスで見るからに細身な人が相手をするのかな。

 

「麦わらの男、こっちを見ろ!」

「ん?」

 

 確かチャクラムっていう金属の割っかを、糸でゆらゆらさせ始めた。

 

「ワン・ツ~……ジャンゴ!」

「すぴー zzz」

 

「ルフィ!!」

「ちょっと!!」

 

 ナミが呼び止めてくるけど、ルフィが危ないんだ。

 

 たぶん催眠術なんだけど、昨日聞いた計画にはそれが組み込まれていた。確かに作戦段階で要注意人物として挙げられていたけど、それが誰かはわかっていなかった。でもまさか船長自身が催眠術師だったなんて。

  『ルフィを催眠して一体どんなことをするつもり!?』

 

「ウタウタの~♪ 

 なんちゃってピストル!」

 

「なんだ? アウチッ!!」

 

 ウタいながら拳でサングラスおじさんをぶっ飛ばして、スヤスヤ眠るルフィを抱える。

 うん、寝顔がかわいい。

 

「麦わら女ぁ! てめぇもこれを見ろ!」

「やだよーだ ウタウタ指揮者(コンダクター) セット」

 

 たとえ見なくても、その声で大体の居場所は分かる。

 赤い五線譜を指でまとめてレイピアを握り込んだ。

 

「2拍子 (いちっ) (にっ)♪」

 

 1段目の斬撃でそのチャクラムを弾き飛ばし、2段目で身体を突いてのけぞらせた。さすがに経験豊富な海賊ということもあって、ウタウタの能力にあまり驚かないし、まだまだ倒れてくれなさそうだ。

 

「ぐっ、やるじゃねぇの」

 

 このまま畳み掛ける。

 ルフィは私が守るから。

 

「つづけていく、よ……」

 

 えっと、なんだろうこのイヤな感覚。

 

「……風?」

 

 私の身体が傾いている。

 

「な、なんだなんだ!?」

「ウタっ!?」

 

 ウソップとナミが叫んでいる。ゾロの剣撃が止まる。

 ルフィは声にならない声を発しようとしている。

 

「ァ……ァ……ウタぁーー!!」

 

 あれ、ルフィは起きたんだ。

 今度は私が抱えられているらしい。

 

「ちっ! 思ったより浅かったか。」

なにしてんだ! おまえ!!

 

 頬にだれかの血をつけたルフィが怒っている。

 

 大抵のことは笑って許すルフィだ。でもシャンクスもそうなんだけど、それこそ大切な仲間や友達が傷つけられたとき、とてつもない怒りを見せる。でもこんなに怒っているのは私でも初めて聴くかもしれない。サボのときは泣いてばかりだったからね。

 

「な、なんで! お前がここにいるんだよ!!」

「そうよ。あんたが来れば、ウタは気づくはず!」

 

 ウソップとナミの非難する声を相手にもせず、クラハドールは、いやクロが手のひらで眼鏡をクイッと上げた。

 

「まさかあんたからこっちに来るとはな、キャプテン・クロ」

「ああ。あのとき確かに誰1人、気配はなかったはずだからな」

 

 えっと、つまり?

 

「俺がいくら(なま)っていたとしても村のガキごときに嗅ぎつけられるほど錆びついてはいない。だから、よほど聴力に優れた者がいると予想してな」

「なるほどね。それがあの女ってわけか」

 

「お、俺のせいだってのか……?」

 

 ウソップのつぶやきをかき消すように、ルフィは地面を思いっきり蹴った。

 

「お前、なぜウタを!!」

「聞こえていた通りだが? 計画を成就するには障害を1つ1つ取り除くことが最優先だろう。あの病弱なお嬢様は屋敷でまだ眠っているだろうしな」

 

 飄々とした態度をするクロへ向かって、ルフィはゴムの性質すら忘れて殴りかかるけど、ほんの少しの音で避けている。確かにこれだと激しい戦闘の音やたくさんの声に紛れたのなら、風の音とでも思ってしまう。まあ、ウタというか、声を聴きとるほうが得意だからね。

 

 眼鏡をクイッてやる音がした。

 

「それに、貴様らこそ俺の計画を邪魔しやがって」

計画とかどうでもいいッ!!

 

 ルフィの、とても悲痛な叫びだ。

 

「ワン・ツー・ジャンゴ! 効かねぇだと!」

「だが冷静さを失っている。怒りに身を任せるとは愚かだな。」

 

 ルフィは5本の爪に何度か斬り裂かれながらも、その拳と歩みを止めることはない。まずい、完全にクロのリズムに乗せられてしまっている。ゾロも隙を見せたことでブラザーズに2本の刀を盗まれているようだし、私のせいでルフィたちが危ない。

 

「お前はあの麦わらの女にとどめを刺しておけ」

 

「おうよ。残ってるやつら、この輪をよく見ろ。そして俺の言葉を聞け。お前たちは普段以上に強くなり、後から後から力が沸いてきて、怖い物なんて何も無くなる。さあ、あいつらを襲え!」

「「「ウオォーー!」」」

 

「な、なんだあいつら、こっちへ向かってくるぞ!?」

「催眠術で部下の強化ってわけ!?」

 

 ウソップとナミも弱くはないけれど、戦力差は歴然。

 『世話が焼けるんだから。』

 

 

 背中から血を流しながら、私は起き上がって盤上へ立った。

 

 

「ウタウタの独唱(ソロ)♪」

 

 ウタを聴かせて夢を見せる。

 

 催眠強化された20人のうち、8人は制御できた。

 こちらの駒は増え、相対的に相手の駒は減る。

 

 どうせならもうちょっと良い駒が欲しかったけれどね。直線的なパンチを1人に受け止めさせて、2人で囲んで打ち倒させる。2人で組み合って力比べをしているところへ、もう1人を向かわせて背後から襲わせる。

 

「なっ、てめぇら! なにお互いに争ってやがる!?」

「ウタウタの歌人間(わたし)は最強ってこと」

 

 ウタいながら私は白い髪をかき上げて、格下の指揮者へ向かって不敵に笑ってあげた。

 

 

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