麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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・この小説には『独自設定』があります。




第10話 カヤ

 私は独唱(ソロ)(ウタ)い続ける。

 まるで魔女を見る視線ね。

 

 相手の指揮者は動揺しているし、その(つたな)い催眠術では追加の命令(オーダー)を出す能力はない。洗脳された人たちは争い続けるけれど、彼らに意志はなく、指揮者(わたし)の思い通りになるだけ。

 

「お、おい、そのケガで大丈夫なのか?」

「あんたは一体なんなの?」

 

 ナミは(ウタ)の変化を(いぶかし)んでいるし、さすがに頭の回転が速いわね。そういうところも仲間として気に入っているけど、でも海賊王の(いちばん)は1人だけだから。

 

「あまり余裕がないとは言っておくわ。ナミはゾロの援護、ウソップはあの催眠術師を倒しなさい」

「わ、わかったわ」

「俺があいつをぉ?!」

 

 ナミは上手くゾロの刀を取り返してくれるだろうし、あの催眠術師は直接的な戦闘力はそこまで高くはない。

 

「私が勝てると判断して、指揮したからには勝ちなさい」

「は、はい! 勝ちます!」

 

 さて。

 伸ばされた白髪をかきあげて盤上を確認する。

 

 よほど心配症なのか、こちらを警戒しながらルフィと戦うクロがいる。あいつ、シャンクスたちほどじゃないけど、地面を勢いよく蹴って異常なスピードを出している。それでいて音も静かだし、さっきまでルフィが一方的に押されていたけれど。

 

 それでも諦めないのが貴方(あなた)よね。

 

「そいつは自分で倒すわよね?」

「ああ。だんだんこいつの速さに目が追いついてきた」

 

 ルフィは膝を曲げて、ドンッと地面に拳を当てた。

 

「今のままじゃ追いつけねぇから、ギアを上げる。」

 

 ゴムの片足が何度かポンプのように膨らみ、そして身体は蒸気が出るくらい熱を持つ。付けられた斬り傷からは血が少し吹き出し、いまだ地面を向いたままのルフィは口から大きく息を吐いた。

 

「なんだ! 麦わら、貴様は一体何をしている!?」

「はぁ……はぁ……お前をぶっ飛ばすことだ!!」

 

 今のルフィのスピードはこの場にいる誰もが目で追えなかったけど、クロの頬に向かって直線的なパンチを繰り出したみたい。さっきほど怒りに身を任せてはいないけれど、あれとゴムの技を組み合わせるには、まだ難しそうね。

 

「そこかっ!?」

「おらぁ!!」

 

 振り向くけれど、高速移動を得意とするクロですら、完全にルフィのスピードに対応できていない。やっぱりあの能力(ゴム)は、ウタと並んで最強ね。

 

「ぐっ……なんだ急に動きが!?」

「ガハッ……やっぱまだきついな……」

 

 口から血を吐くルフィの身体にも負担がかかっているけど、私もそろそろ独唱(ソロ)の負担が、えっ、背中が痛い? いったぁ! 背中いったい!

 

 

「こうなったら予定より早いが皆殺しにする! 杓死(しゃくし)!!」

「な、なんだっ!?」

 

 無駄な力をなくして予備動作がほぼない動きを、ルフィは慌てて避けるけど、砂浜に足をとられて転びそうになった。

 

「なっ! 味方じゃねぇのか!?」「乱心したのか!!」

 

 クロは自分の味方のはずの海賊団の船員すら襲い始めた。それどころか、倒れている人にも、その爪で斬りつけ始めている。

 

「ちっ、あの野郎、こんなとこで始めやがったな!」

「お前、まだ起き上がれるのかよ!」

 

 ウタうことと、ルフィの雄姿に気を取られていた気がするけど、ウソップによってあちこち黒焦げにされた相手の船長が慌てて船へ向かって逃げ始めた。燃え盛っていた炎の壁も、時間経過で消えたみたいだ。

 

「あっ、てめぇ! 逃げるのか!」

「当たり前だ! あまりにも速く走り過ぎて本人でさえ周りが見えてねぇんだ! ただ触れた物を切り裂くのみ! 敵も味方も関係ねぇんだよ!! ぐわーー!!」

 

 大声を発しながらハデに動いたせいで、逃げる背中を斬り裂かれたらしい。

 

 うーん、なんというか、残念なところが多い人だった。ていうか、私も背中がマジで痛い。

 

「ウソップさん! クラハドール!」

「カヤ!お前ら! なんでここに!?」

 

「煙が見えてさ!」

「海賊が来るってのはホントだったんだ!」

「やっぱりキャプテンたちは戦ってたんだ!」

 

 村の子どもたちと、カヤっていう幼馴染の人かな。

 どうやら様子を見に来たらしい。

 

「ウソップさん、クラハドールは一体?」

「あ、あいつは……海賊なんだ。昨日言った通り、カヤを狙っているのはウソじゃねぇ。それどころか、この場にいるやつら全員皆殺しにするって……」

 

 ルフィを斬りつけるべく、無差別に斬り裂く。

 赤いシャツ、いや血、少しでも赤いものへ向かっている。

 

 麦わら帽子を被っていて、風に(なび)く赤髪にもいつかは。

 

「ねぇルフィ、信じてるよ。」

 

「うおおおおおお!!」

「ガァッ!!」

 

 1つに重ねた拳で、クロを砂浜へ向かって叩き落とす。偶然長い爪は岩へぶつかり、無茶をさせていたせいもあって粉々に割れた。身体から発した蒸気が道を作るように残っていて、ルフィが急いで駆けつけてくれたことがわかる。

 

「お、俺の計画がこんな小僧に!」

「知るかァーー!」

 

杓死(しゃくし)!!」

なにしてんだーー!

 

 再び無差別攻撃に入るけれど、もはや視えているように、クロを叩き落とした。もう片方の爪もこれで折れて、限界を迎えたらしいクロは脱力してゆっくりと倒れようとしているけど。

 

「このやろ、お前何度もウタを狙いやがって! 1発じゃ殴り足りねぇ!!」

 

 クロの胸倉を掴んで一方的に何度も殴り始めた。

 

 やだ、私の幼馴染がかっこよすぎる。

 『俺のウタ』だってさ~!

 

 何度も、何度も、えっ、ちょっとやりすぎでは。

 

「クラハドール! いつものあなたに戻って!」

 

 カヤの叫びにルフィは殴るのを一度やめて、ギアを下げて身体の熱を冷まし始めた。

 

「はっ、これがホントウの私なんですがね」

 

 クロは皮肉を言いながらまだ強がって見せた。眼鏡はどこかへ落ちたみたいだけど、掌でクイッとする仕草は沁みついているらしい。

 

「貴方はお買い物のとき、いつも荷物を持ってくれた」

「……取り入るためだ」

 

「貴方はお医者様のところまでよくおんぶしてくれた」

「……計画のためだ」

 

「貴方は一緒に船に乗ってくれた」

俺の平穏のためだッ!

 

 ようやく叫んだ。

 

 カヤに仕えていた期間、思っていた以上に(ほだ)されていたのかもしれないね。それに、平穏が欲しいというのは、もう海賊には向いていないんだろう。でも計画を続けなければいけないのだと、板挟みになってしまったのかな。

 

 これ以上戦意がないことがわかり、ルフィが拳を降ろすと、クラハドールは両膝をついた。

 

「……お嬢様、お暇をいただきますよ」

 

 涙を浮かべるカヤを見上げ、クラハドールは自嘲する表情を見せた。

 

「私、このままお別れなんてしたくない!!」

 

「じゃあいいんじゃねぇの、執事を続ければ」

「ウソップ、くん、なにを……?」

 

 痛い痛い。ルフィが自分の赤いシャツを脱いでから、それをグルグルと私の背中に巻き付けて頑張って結ぼうとしているけど、なかなか上手くいかなくようで結構きつい。ん、特に胸のあたりが窮屈なんだけど。

 

「俺はお前のことがやっぱり嫌いだけど。俺がこいつらと海に出ている間、カヤを守ってくれる強い執事がいたら安心するからな」

 

 トボトボとお互いの肩を支えながら船に戻っていくあの海賊団たちはもう来ないだろうけど、この島を襲う他の海賊がいないとも限らないよね。ホクホク顔のナミと、戦利品が入っていそうな袋を持たされたゾロもこちらへ歩いてきている。

 

「それに、昨日も俺は海賊が来るってウソはついたが、こんなの日常茶飯事だ。みんなが起きて朝ごはん食べる頃には忘れてるさ」

 

「そうだ。腹いっぱい朝メシが食いてぇ」

「うん。昨日は非常食しか食べてないからね」

 

 おなかをグ~って鳴らせる私たちだけど、早起きした子どもたちも朝ごはんを食べたいような視線を向ける。

 

「ふふっ。さっ、クラハドール、みんなを屋敷へ案内して」

「……かしこまりましたよ、お嬢様」

 

 刃の残るグローブを投げ捨てて、清潔に保たれた手のひらでカヤの手をとった。

 

 

 

***

 

 

 その日は村も巻き込み、カヤはパーティーを開いた。

 

 華やかなお茶会に女の子たちが大喜びし、男の子たちはウソップやルフィと遊んだり、ナミやゾロは酒を飲み比べしたり、休むことに飽きた私がライブをやったり、1日中、島が賑やかだった。クラハドールが今まで以上に迅速に給仕をしていたみたいだし、なんだかんだ天職なんじゃないかな。

 

「やっはろー♪」

「ウタさん、お気分はいかがですか?」

 

 屋敷のテラスから、夜になっても騒ぐウソップたちをじっと見つめているから、来ちゃった。

 

「へーきへーき! ルフィのおじいちゃんのゲンコツに比べればね」

 

 たぶんウソップ絡みの理由だけど、医学を学んでいるみたいだし、カヤに包帯を撒き直して貰いに来たのもある。本がいっぱいあるカヤの部屋の椅子に座って、服を脱ぎながら背中を向ける。

 

「傷、残りそうですね……」

「ん~ よくわからないけど治ると思う。なんかウタウタの実の影響か、日焼けしたことないし、やんちゃしてた頃の傷もないから」

 

 世の中の女性が羨ましいと思う発言に、カヤはクスクスと静かに笑った。ウソップにも良い幼馴染がいるじゃん。

 

「一緒に船に乗る?」

「いいえ。待つことにします」

 

 そっか、カヤはその選択肢(ルート)を選ぶんだね。

 『待つ』って結構つらいことなんだけど。

 

「でもいつか、ウソップさんが帰ってきたとき、ちょっとだけ船に乗せてもらいたいとは思ってます」

 

 希望を持って『待つ』ことができたのなら、幸せでいられるかもね。

 

 

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