麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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・カナヅチがどう見ても危ないのにメリーの船首が特等席なの好き。


第11話 サンジ

 羊の顔を模した船首にはルフィが今日も座っている。

 その付近の甲板へ机と椅子を置いて楽譜を作る。

 

 カヤから譲ってもらった『ゴーイング・メリー号』は、シャンクスたちの船よりずっと小さいものだけど、私たち5人にとってはとても広く感じていた。航海の途中で出会ったゾロを慕うヨサクとジョニーが乗り込んでもまだ余裕があった。

 

 私とルフィが思い描いたものを、ウソップに綺麗に描いてもらったけど、麦わら帽子を被ったドクロマークの帆が大きく風を受けて、メリー号は海を進んでいく。

 

「お~ あそこがレストランか」

「かわいい船だね!」

 

 かわいい魚を模した船が、穏やかな海上に安定して浮いていた。3階建ての綺麗な建物もかわいいし、とにかくかわいい!

 

 旅行船も商船も海軍の船も停泊しているし、かなり人気のようだ。

 

「あんにゃろ! メリーに当たったらどうすんだ!」

 

 バシャ―ンって、メリー号の横を逸れて、大砲の弾が着弾して水しぶきをあげた。ゆったりとしたタイミングで何度か撃ってくるけど、少しずつ海軍の船は離れていくし、赤旗を振っているし、たぶん威嚇射撃ってやつかな。お互いレストランに来ただけだから、戦うのは無粋だよね。

 

「なんだあいつら下手だなぁ」

「たぶん当てる気はなさそうだけど、勝負なら負けないよ!」

 

 目を輝かせながら私とルフィは、1つの大砲をヨイショヨイショと運んできた。

 

「おいおい。本格的におっぱじめるのか?」

「威嚇程度にしときなさいよー」

「グガ~ zzz」

 

 ウソップは恐る恐る様子を見に来て、ナミは新聞を畳みながら腰に手を当てて、ゾロはいびきをかいて寝ている。ヨサクとジョニーはモップで甲板の掃除をしてくれている。

 

 大砲を触るのはシャンクスたちの船で遊ばせてもらって以来だ。ワクワクする。

 

「久しぶりに撃つな~」

「ここに火をつけるんだよね♪」

 

 ルフィがガチャガチャと大砲の角度を調整して、私は(ウタ)いながらナイフに火を纏わせて、導火線に火をつける。

 

 ドンッ!

 ドガーンッ!

 

「「あっーー!?」」

 

 レストランの3階部分の屋根を抉り取っちゃった。

 

「「えーと……」」

 

 メリー号と海軍の船がすれ違うと、海軍の人たちが赤旗でレストランを指しているのが視界に入る。

 

「……ウソップ」

 

 ウソップは錨を下ろしにいった。

 

「……ナミ?」

 

 ナミは新聞を再び読み始めた。

 

「……ヨサク」

「……ジョニー」

 

 2人は黙って大砲を片付け始めた。

 ゾロは寝たままだし。

 

 

 私とルフィはレストランの3階へ行くように指示されると、綺麗な青空が見えた。

 

 

「「大砲で遊んでごめんなさい」」

 

 負傷してしまった怖そうな料理長へ頭を下げた。

 

 

***

 

 私たちの航海は一時中断していた。

 

 ホカホカの料理が乗ったお皿を両手に持って、私は今日もするりするりと賑やかなテーブルの隙間を歩く。普段はもっとラフにショートパンツとかだから、フリフリのミニスカートというのは久しぶりだ。

 

「お待たせっ! えーと、お肉料理!」

「あ、ありがとな!」

 

「ウタちゃ~ん、こっちこっち!」

「は~い! 順番に行くよ♪」

 

 声を聴き取ってオーダーへ向かう。

 この男の人たち、また追加注文なんだ。

 

「サンジ、これよろしくね」

「は~い! ウタちゅわ~ん♡」

 

 注文を言われるがままに書き込んだオーダー票を、グルグル眉毛がかわいい副料理長のサンジへ手渡す。

 

「今日もかわいい赤白髪(あかしろがみ)だ~♡」

「アハハ ありがとね♪」

 

 お客さんや、他のコックのおじさんたちにも私は人気を得ていた。まあ、世界の歌姫として、ファンが増えるのは嬉しいけど。色恋沙汰っていうのかな、そういうのはまだ考えられないかな。

 

「よく働くわねぇ」

「たまにバーのお手伝いしてたからね」

 

 私はくるくるとペンを回しながら、優雅にお酒を(たしな)んでいるナミへ返事する。その高そうなワインとステーキ、確かサンジの奢りなんだっけ。

 

「ウタさん、今日の夜も歌うんっすよね!」

「今から俺たち楽しみすぎて!」

「もちろん! 毎日大盛況だからね♪」

 

 ヨサクとジョニーに笑顔を返した。まあ、これだけ多くの人がいるんだから、歌を聴いてもらわないと勿体ないからね。レストランということで初日は選曲に気をつけたけど、海賊も旅行客も海軍の人も入り混じって楽しむ活気があるから、今は自由に歌わせてもらっている。

 

「まああとちょっとで解放してくれるだろ」

「おいおい。うちの船長だぞ?」

 

 すでに大工仕事を終えたからもう手持ち無沙汰となったウソップやゾロもまかない料理を食べながら話しているけど、厨房から『また割りやがったな!』とルフィが叱られる声がしっかり聴こえるし、もう少し期間が伸びそうだ。

 

「まっ、ただでさえ財政難なのに弁償しなくてよかったわ」

 

 ナミがグラスを横にずらすと、すかさずサンジがボトルを持って注ぎに来る。その手際や所作に一流の技っていうのかな、凄さを感じる。

 

『てめぇ! また割りやがった!』

『わりぃ 手が滑った』

 

「少し落ち着いたみたいだし、ルフィの様子見てくるね♪」

「お、おう。いってらっしゃい、ウタちゃん」

 

 ルフィがまたミスしたんだろうけど、やっぱり幼馴染の私がいないとダメなんだよねっ!

 

なぁあいつら、ただの幼馴染なんだよな?

いつものことだ

仲良いよなぁ

ほっときなさい

 

 私はまだまだ忙しそうな厨房の様子を伺う。

 

 着るときは手伝うのにコック服をすでに着崩してしまっているルフィがシュンとした表情で箒で掃除をしていたので、私もしゃがんで手伝う。初日に至っては、素手でお皿の破片を拾って怪我しちゃったし、いろいろと不器用だけどお手伝いをしようとがんばってくれている証拠だろう。そういうとこは昔と変わってない。

 

「ウタ、すまねぇ」

「ううん。ほら、だんだん減ってるじゃん」

 

 少しずつだけど、1日に割る枚数は減ってきている。そもそもリンゴだって破裂させる握力で、慎重にお皿洗いしてるんだもんね。それに、ここのコックさんたちは『またお皿を割るから』ってお皿洗いをやめさせないのが、とても温かいよね。

 

「ほれルフィ、それ片付けたら休憩取っておけ」

 

 サンジが厨房の空いているスペースへ、賄い料理の巨大なお皿を置く。お肉の唐揚げがドッサリ乗った炒飯は、仕事の合間に作っておいてくれたんだと思う。

 

「サンジの飯だ! やっぱ仲間になってほしい!」

「ほんとほんと! めっちゃおいしー!」

「まだ言ってやがる」

 

 なんだか少し不機嫌なサンジは、まだ決心してくれないらしい。まああと数日のうちに来てくれることを祈ろう。

 

「ウタちゃん、ホントに一緒でいいのか?」

「ゴクリ サンジも忙しいでしょ?」

 

 そう返すと悔しそうに、いそいそとサンジは仕事へ戻っていった。私たちは1つのお皿を囲み、スプーンでどんどん口に入れていく。こういうのはダダンの家でよくやっていたけど、あの頃はエースもいたから喧嘩しながらの取り合いだったなぁ。

 

「美味かったぁ~ なんか騒がしいな」

「海賊が来たみたいだけど」

 

 ナプキンで口元を拭いてあげているけど、ルフィはさっきから目の前にいるし食事中だったし、あんまり意識して聴いていなかったな。

 

「……今日は完全にモーガニアかもね」

 

 ヘッドホンをはずさなくとも、ドゴンというテーブルがひっくりかえった音、たくさんのお皿が割れる音と、『サンジ!?!?』と叫ぶ声、お客さんたちの悲鳴、どうやら穏やかじゃなさそうだね。

 

 

「ちっ、まどろこっしい。確かに腹は減ってるがすべて奪えばいい」

 

 重厚な金色の鎧の男が不敵に笑っていた。すごいもみ上げだな。

 

 この数日のうちに2組くらいモーガニアの海賊は訪れたけど、そのときはコックたちだけで追い返していた。でも今回は途方もない人数の声がする。アルビダの海賊団も、赤い鼻の海賊団も、クロネコ海賊団も、比べものにならないくらい人数で、まさしく『艦隊』だ。

 

「俺は海賊艦隊提督、首領(ドン)クリーク様だ。赫足のゼフの航海日誌と、ここにあるすべての物資を頂きに来た」

 

 クリークは、レストランのホールを見渡した。

 ゾロは臨戦態勢だけどここにはお客さんも多い。

 

首領(ドン)! どうかコックたちの命は!」

「まあ、いいだろう。今から少し時間をやる。その間にしにたくねぇやつは逃げるんだな」

 

 まだ脅しの段階かな。

 

 状況が動くまでルフィと私は、もったいないので落ちた料理をモグモグと口に入れていた。私たちも手伝ったけど、常にピカピカで清潔な木の床だし、ここのコックさんたちのご飯はどれも美味しいし。

 

「半刻ほど待ってやる。

 ……行くぞてめぇら」

 

 そう告げて、背を向けた。

 

 数日前にサンジが救っていた船員の進言もあったようだけど、特にゾロをちらりと見て、クリークは一度船に戻ることを決めたようだ。頭に巻かれた包帯のこともあるし、できる限り戦いを避けようとしているのかもしれない。といっても、一度戻っていくクリークたちから、あの50隻を超える艦隊を見せられたのなら、降伏することが普通だろうね。

 

「ちっ、お客様を避難させろ。レディー優先な」

「サンジ! やり合うよな!?」

 

 ネクタイを結び直しながら、サンジは指示を出した。コックたちはそれに従いながら、サンジが艦隊を睨んで戦う気満々なことに、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ああ。飯食いにきたやつはどんなやつでももてなすが、この船を狙うクソ野郎共にはお帰りいただく」

 

 サンジは料理長のゼフさんをちらりと一瞥して、女性たちの避難指示へ動く。手持ち無沙汰となったコックさんたちは戦いの準備を始めた。

 

 私たちは一度、ウソップたちのテーブルへ向かう。

 

「あれ、ナミは?」

「あ、あいつらで先に出航準備してくるって!」

「どうする? 船長(キャプテン)

 

 ウソップは逃げ腰でガタガタと震えているけど、席から立ち上がったゾロは獰猛な笑みで指示を待っている。 私とルフィはそれぞれ、テーブル席に置いていた麦わら帽子を被り込む。

 

「この船はサンジの故郷みたいだ。守るぞ」

「うん。ファンもいっぱいできたもん」

 

 さて、海に浮かぶたくさんの艦隊を見るけど、能力者の私とルフィは海に落ちると溺れてしまう。ゾロだって泳ぎながら戦った経験は少ないだろうし、ウソップが扱える大砲も1つが限界だ。

 

 ウタやゴムの能力のレパートリーでも、大砲のような超遠距離攻撃は乏しく、もし集中砲火を受けたら一瞬で沈んでしまう。そうなると、小舟でどうにか乗り移って、1隻ずつ占領していくしかないかな。『本気でウタえばすぐだけれどね。』

 

 スパン

 

「……たぶん斬った音だ」

 

 スパン、スパンと、一太刀は空ごと斬る。

 船が海に沈んで大波が立つ。

 

「シャンクス、じゃないよね……?」

「お、おい。大海賊がどうしたって!?」

 

 この凄い音、いっぱい聴いたことがある。

 あのときは1つの無人島が更地になったはず。

 

「ギャー―! どんどん真っ二つになってるぅ!?」

 

「ウソップ、望遠鏡貸して」

「へ、へい!」

 

 悲鳴を上げるウソップから鞄から慌てて取り出した望遠鏡を借りた。

 

 真っ二つに切断されて海に浮くたくさんの船よりも、そのうちの1つの切断面に降り立った1人の剣士の姿を視野に入れる。鍔の大きい帽子と、黒いコートと、そして何よりも背中に背負った巨大な十字架の剣、間違いなくあの人だ。

 

 世界で2番目に強い剣士だ。

 

「世界最強の剣豪、鷹の目のミホーク」

 

 ゾロが小さく呟いたけど。

 ねぇゾロ、世界最強はシャンクス(おとうさん)なんだけど。

 

 

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