麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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・絶望的な強さを見せるけど希望をくれる貴方が好きです。
・歯をくいしばって見守るルフィはもっと好きです。


第12話 ミホーク

 

 スパッ、スパッと、次々と船が斬られると海に浮かんでいく。

 

 まるで芸術のようだ。剣技で的確に海面に整列させられ、このレストランの船までまるで道ができていく。

 

 そして、切断面を足場にして、レストランの前までミホークさんは降り立った。私たちは急いで玄関に向かうけど、サンジやコックたちも慌てて様子を見にきて様変わりした景色へ目を見開いた。

 

 隠しきれない気迫で空気がピシャリと固まっていたけど、私と眼が合ったときに急に柔らかくなる。

 

「フッ、麦わら帽子が似合う女になったものだ」

「ひ、久しぶり、デス……」

 

 やれやれといった雰囲気でミホークさんは帽子の鍔を深く被って鷹のような眼を隠し、口元に優しい笑みを浮かべ続ける。

 

「赤髪が()えてな。まさか海に出ているとは。」

「えーと、いろいろありまして、ですね!」

 

 子どもの時にシャンクスに抱き上げられて紹介されたとき、眼が怖くて泣いちゃったはずだけど、まだ怒ってないよね?

 

 おい、とミホークさんへ呼びかけるゾロの声がした。

 

「鷹の目だな」

「そう呼ぶ者たちも居る。」

 

 ゾロに呼びかけられ、再び鷹の眼を見せた。

 その気迫も合わさってやっぱり怖い。

 

「この海へ何をしに来たんだ?」

「暇潰しだ。その()に会いに来る道中でな。」

 

 ゾロの眉がぴくりと動くけど、今は関係ないかと、獰猛な笑みを浮かべながら腕に結んだ手拭いを頭に身につけた。

 

 ていうかミホークさん、私に会うためだけにたった1人で東の海まで来たんだ。確か七武海じゃなかったっけ。仕事は?

 

「暇なんだろ? 勝負しようぜ」

「ほう。何を目指す。」

 

 ゾロは1人で船の切断面(ステージ)に降り立った。

 気迫の重圧はより一層受けているはず。

 

「一端の剣士であれば剣を交えずとも、俺と貴様の力の差を見抜けよう。」

「俺がお前に勝てねぇことくらい、ここに居る誰よりもわかってる」

 

 ゾロは『最強』と伝えながら、3本の刀を抜く。

 ミホークさんは剣を抜くことはない。

 

「分からんな。今この場で挑まねばならぬのか。」

「俺の野望(ゆめ)のため。そして幼馴染(ライバル)との約束のためだ」

 

 ゾロにもいるんだ、幼馴染が。

 でもたぶん今はもう。

 

「ウタちゃん、あいつはなんなんだよ!?」

「ルフィ、ウタ、止めねぇと!」

「ゾロが決めたことだ」

「あの人も一応海賊だけど優しい人だよ」

 

 サンジやウソップは焦って止めようとしているけど、ルフィは結果が分かっていても止めない。世界最強レベルの剣のぶつかり合いをずっとずっと遠くから見た私も分かりきっている。でもミホークさんはとどめを刺す気はないだろうし、これはゾロが成長するきっかけになると思う。

 

 先に動いたのはゾロからだ。

 

「お、押してるぞ!」

「なかなかやるじゃねぇか! マリモ!」

 

「ううん。遊ばれてるだけみたい」

「あいつ、1歩も動いてねぇ……」

 

 3本の刀に対して、1本の小さなナイフ。

 まるで先を読むかのようにあしらわれている。

 

「まさしく獣だな」

「鬼斬りィ!」

 

 3本同時の攻撃も、1本のナイフの突きで止められた。

 

 ゾロの剣はどれも破壊力を感じる技が多い。毎日欠かさず筋トレを続けているからその賜物だと感じる。そんなゾロ好みの真っ向勝負に合わせてもらったのに全く通じていない。

 

「くそっ!」

「柔なき剣に強さなどない」

 

 攻勢を始めたミホークさんに、3本の刀でも防げず次々とナイフで傷を負っていく。急所を狙われていないのはまだ遊ばれている証拠で、ゾロは焦りで動きがわるくなっていく。

 

「おいおい、あいつやられるんじゃねぇか!」

「た、助けねぇと!」

手ぇ出すな!!!

 

 ドンッと、ルフィは甲板を叩いてサンジやウソップを止めた。叩きつけられた拳はギュッーと握られていて、つらいことだけど、ルフィも私もいっぱい感じてしまうんだ。まだまだシャンクスたちの領域(つよさ)に足を踏み入れることすらできていないのだと。

 

「あっ、届くよ!」

「お、まじか! やったか!」

 

 ゾロの刀が、手の甲に直撃した。

 ガチーンって金属がぶつかったような音。

 

「なっ!?!?」

「とある国にこういう言葉がある。井の中の(かわず)大海を知らず。」

 

 まさか傷1つつけられないなんて思わなかった。なんだか一瞬、ミホークさんの手が黒くなってた気がするけど、ここからじゃよく見えないな。

 

「こんなに……世界最強……遠いのか……」

 

 私も一応剣士の端くれだけど、もちろん私なんかよりずっとゾロの剣技は綺麗だ。3本の刀を扱う剣士なんて、シャンクスの船にだっていなかったんだから。

 

「はぁ……はぁ……」

「小僧、名乗ってみよ。」

 

 ゾロは再び構えを取って、2本の刀を回し始めた。

 たぶんあれが今できる最高の奥義。

 

「ロロノア・ゾロ。」

「久しく見ぬ強者よ、覚えておこう。」

 

 ミホークさんは、刀身が黒い剣を引き抜く。

 あの刀で足元の船を斬ったんだ。

 

 あの剣を身に受けてしまうのは、『死ぬほど怖い』って、ここから見ていても分かる。

 

「剣士たる礼儀をもって、世界最強の黒刀(よる)で沈めてやる」

「……三刀流奥義!!」

 

 ゾロは一直線に飛び込んだ。

 

「三・千・世・界!!」

 

 ミホークさんは、いつの間にか剣を振り下ろした体勢になっていた。

 

 そして浅い傷から血が噴き出したのはゾロのほうだ。今のゾロの奥義をもってしても、ずっとずっと手加減されたままだ。ミホークさんの(なさ)けで生きられていることは、ゾロにとってとても(つら)いと思う。

 

「……完敗だ」

 

 ゾロが両手に握る刀の刀身が粉々に砕け散る。

 残った白い刀を鞘に納めて、こちらへ投げてきた。

 

「ほう。仲間だったか。」

 

 鞘をしっかりとキャッチして、私は大切に抱えた。きっとルフィにとっての麦わら帽子くらい、大切な刀なんだろう。

 

「ああ。いつか世界の歌姫になるやつだ」

 

 これでゾロに武器はなく、無防備な姿を見せた。

 まるで十字架のように腕を広げる。

 

「何を。」

「背中の傷は、剣士の恥だ。」

 

 挑んだことへ後悔はなく、むしろ嬉しそうな声だった。

 

「見事。」

 

 躊躇うことなく剣を振り落ろすと、ゾロから鮮血が飛び散る。

 

 ゆっくりと、身体が傾いて、海へ落ちてしまう。

 

「「兄貴ぃぃぃ!」」

 

 ヨサクとジョニーがメリー号から飛び降りて、ゾロの救出に向かってくれた。もう少しで私とルフィが先に飛び込むところだった。

 

「おいおい! 無事なのかあいつ!?」

「る、ルフィ~!? ウタまで!?」

 

 私たちはミホークさんが立っているところへ近づいていく。

 

 ルフィはあんなにゾロを傷つけたことには1発殴りたそうだけど、ゾロが望んで満足もしたから拳を我慢したみたい。でも何度も加勢しようと飛び出そうとして歯を食いしばっていたのは見ていた。

 

「よくぞ見届けた。若き者たちよ。」

 

 間近で見ると、すごく、すごく大きい。

 これがお父さんたちが立ってるステージなんだ。

 

「その麦わらは赤髪のものか。」

「ああ。シャンクスから預かってるものだ」

 

 私を一瞥して、フッと笑みをこぼした。

 何か察したみたいな顔で、大人の余裕を感じる。

 

「そうか。何を目指す。」

「海賊王」

 

 私はルフィの背中に隠れているけど、眼がやっぱり怖い。ううん、でも。

 

「娘よ。剣士としてお前も俺に挑むか。」

「ううん。私が目指すのは世界の歌姫だから♪」

 

 帽子の鍔で目を隠しながら告げるミホークさんを見上げながら、その鷹のような眼へ向かってしっかりと宣言した。

 

「そうか。己の道を進むか。」

「だって音楽家だもん」

 

「ゲホッ……ゲホッ……」

 

 そして、ヨサクとジョニーに助け出されて、海水でびしょ濡れのゾロへ眼を向けた。

 

「我が名はジュラキュール・ミホーク。

 俺は先、幾何月でも最強の座にておまえを待つ」

 

 ねぇミホークさん、世界最強はお父さんなんだけど。

 

「この俺を超えてみよ! ロロノア!!」

 

 そしてコートを翻して、小舟に飛び乗る。

 えっ、まさかあれでここまで航海してきたの。

 

「次は先の海で会おう。」

「うんっ! シャンクスたちによろしくねーー!」

 

 波は小舟を自然と進ませて、どんどん遠ざかっていく。

 

 ホントに私に会いに来ただけなんだ。

 ルフィやゾロに会えたことで、もっともっと嬉しそうだったけどね。

 

「ルフィ、ウタ、いるか……?」

「おう」

「いるよ」

 

 身体から血を流しながら、血を吐きながら、それでも謳おうとしている。

 

「俺はもうっ! 二度と敗けねぇからっ!!

 あいつに勝って大剣豪になる日まで!

 文句あるか、海賊王ども!!」

 

「ししし ない。」

「ない♪」

 

 ゾロから溢れる涙は決してかっこわるくなんかなかった。

 





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