1日遅れて出航した私たちだし、本職ではないサンジに航海士を任せるしかないし、風と波の向きは変わるし、航海は難航していた。
でも運が味方したのか。
「はっはっはっ もっとだもっと!」
「はやいはやーい!」
牛みたいな魚に、全速力で船を引かせていた。サンジの作ってくれたご飯を狙って襲ってきたから皆でボコボコにしたあと、『羊の船を知ってるか』ってルフィが尋ねたら、涙を浮かべながら『見た』って答えてくれた。
意思疎通できるなんて、かわいくて賢い魚だよね。牛みたいな見た目だし、美味しそうでもある。
「あれか! よし! 突っ込め!」
「安全確認! ヨシ♪」
「!?」
もうヤケクソみたいに、砂浜へ牛魚くんは突っ込んでくれた。
「ありがとね♪ またいつか!」
「また会おうな!」
「それまでメシになるなよ」
ナイフで結んでいた紐を切ってあげると、砂浜を器用に戻っていく牛魚くんが泣きながら海へ去っていく。なんとなくだけど、また会える気がする。
「あ? 海に出ちまったぞ」
「あ、ゾロだ」
「あ、ゾロじゃん」
「なんだ、ナミさんじゃなくてマリモかよ」
怒り心頭といった林から歩いてきたゾロは刀を抜き、サンジは靴の裏で、鍔迫り合いになっている。お互い手加減してて元気で仲良しだと思うけど、ゾロの上半身にグルグル巻きになっている包帯が痛々しい。
「ほかのやつは?」
「愛しのナミさんは!?」
「ああ、そうだ。泥棒女はともかくウソップのやつがあぶねぇんだった」
ルフィと私は首を傾げて、こつんってやる。
「あ、兄貴たち! 来てくれたんですね!!」
なんか見ない間にジョニーとヨサク、ずいぶん疲れた顔してる。もしかして、この島って結構ヤバいやつがいるのかもしれないね。
「ウソップの兄貴はもう殺されました!! ナミの姉貴、いや魔女に!!」
ジョニーがそう叫んだ。
ヨサクも涙を流しながら大きく頷いた。
「ナミがそんなことするはずねぇ! 仲間だぞ!」
「そうだよ! あの優しいナミが」
「誰が仲間だって?」
ナミの声にヨサクとジョニーは慌てて飛び退き、ほんとは抱きつきたいだろうサンジも冷静にタバコに火をつけて見守る。私としても、その変な入れ墨はどうだとか、無事でよかったとか、何か力になれないかとか、ルフィとの出会いについて教えてほしいとか、いろいろ言いたいこともある。
「なぁナミ、迎えに来たぞ?」
「私の居場所はこの島、そもそも仲間になった覚えはないわ」
「こ、この女はですね!―――」
ジョニーが、ナミのことについて話し始めた。
隠し財産があって、お金のためにアーロンっていう魚人の海賊に取り入っていて、しかもウソップを刺して海に捨てたって。そして、彼女と敵対することは、アーロンを敵に回すことになるって。
だから私たちを、魔女みたいに騙していたんだって。『その程度で魔女だなんてね。』
「ウソップの弔い合戦といくか?」
「まさかナミさんにも手を上げるつもりか?」
「ルフィ、どうする?」
ゾロとサンジが本気で喧嘩を始めそうだから、ルフィに委ねよう。ルフィは腕を組んで、う~んと唸っている。
「なぁナミ、俺に何かできることあるか?」
「ないわ。船は返してあげるから、さっさとこの島から出ていきなさい」
そっか、とルフィは呟いた。
いまだ気難しそうな表情を浮かべて動かない。
「どうあがいても、アーロンには勝てないわ。諦めて出ていきなさい……でてけっ!」
ルフィはぐでーんと、砂浜へ横になった。
私は流木に座って鼻歌を歌い始める。
「ねる。」
「♪」
ルフィは麦わら帽子を顔に置いて、アイマスク代わりにした。いろいろ考えて、夜も眠れてなかったみたいだし、本格的に寝るみたいだね。
「……勝手にしろ!!!死んでしまえ!!!」
「な、ナミさん!?」
引き留めようとサンジが手を伸ばすけど、それを無視してナミは背を向けて走っていった。
いつもよりドタバタと足音を立てて、砂浜に足を取られそうになって、林の中からバレないように一度私たちの様子を見て。
ねぇナミ、優しすぎるよ?
「……俺たち、一度この島を離れようと思い、ます」
「アーロンだけじゃねぇんです。魚人がたくさんいるんです」
シャンクスから聞いたことがある。
海の中にある島の話を。
『魚人? 人魚?』
『海の中で暮らしてるやつが多い。泳ぎが上手でな』
『うらやましいな~ ねぇどんな人たちなの?』
『あー、いろんなやつがいるのが
『ん~? えっと魚人ってその人たちの名前なの?』
『難しかったか! まっ、俺もよく分からんしな!!』
魚人、人魚、そう呼ばれる種族の人たちにいつか会ってみたいと思っていたけど、ナミを苦しめている人たちとは喧嘩しないといけないかな。
ヨサクとジョニーも、ルフィが起きるのを待っている私たちの様子を何度も振り返って見ながら、この場から立ち去っていった。
「ああ~ ナミさんは悲劇のヒロインだ~ 救ってあげたい~」
「ただの小物だろ」
『あん?』って顔をぶつけ合ってるけど、サンジとゾロはもう仲がいいんだね。幼い頃に、私とルフィがよく喧嘩していたのとそっくりだ。
私は鼻歌を続けながら、ゴムの二の腕でビヨーンって遊ぶ。
「ん、誰だろ?」
「魚人か?」
「なんだありゃ?」
びちゃびちゃと、水をしたたせる音。
「お~い! おまえ"ら"~!」
「「……なんだ、ただのゾンビか。」」
海藻を頭から被り、その長い鼻にも海藻が引っかかっている。ゾロやサンジに向かって『しんでねぇし!』って鋭いツッコミはまさしくウソップだ。
私がタオルを渡すとお礼を言いながら、まず長い鼻を磨き始める。えっと、まずそこから拭くんだね。
「いや~、ナミのおかげで助かったぜ」
「よく寝たし、まずはメシ食うか」
ウソップの呟きにルフィはニヤリと笑い、勢いよく起き上がってから麦わら帽子を被り直した。
****
ナミの声はこっちから聴こえた。
まあずいぶんと分かりやすい場所なんだけども。
「おぉ! ようやく来てくれたか! 」
「兄さん、ジンベエさんに黙ってこんなことを」
「なんだ、シャーリーのやつは来てないのか。それよりすげぇだろ。ここを拠点にアーロン帝国を築くつもりなんだ」
「帝国? そんなのオトヒメ様も望んでないはず」
「おいおい、お前まだオトヒメなんざ憶えてるのか。あいつの理想なんて虚しいものだったろ。シャーハッハッ! 文字通り散ったじゃねか!」
「それは……」
「アーロン! 話はまだ終わってないわ!!」
「シャーッハッハッハッハ!」
ナミの声は、うるさい高笑いにかき消されちゃう。
アーロンパークが、私たちの目の前に見えてきた。どんなおもしろい場所かと思ったけど、プールが併設された城は精巧に作らされすぎててむしろ気持ちが悪い。サボが生まれたあの場所を思い出してしまうのもある。
えーと、ギザギザ鼻がアーロンってやつで、魚人の人がたくさんいて、そのうち1人は人魚の人かな。プカプカとシャボン玉に乗って浮いてる。
「なんだっけな。海軍に取られたって言い訳だったか。まあ何にせよ、俺の目の前に1億ベリー用意できなきゃ、村を返すわけにゃいかねぇってことだ」
それでナミはお金が欲しかったんだ。やっぱり『村を買う』ってのは、今のナミにとっては
「たかが1億べリーだ。また貯めりゃあいいじゃねぇか! おっ、逃げ出すのか?」
ナミはかっこよくて強いのに。でもあんなやつに希望を砕かれてしまって、ナミは泣いてるんだ。たぶんいっぱいいっぱい虐められたんだと思う。あいつが私たちの大切な仲間を傷つけやがったんだ。
「っ!……あんたら!!」
ドンッと、前を見ていなかったナミはルフィへぶつかり、受け止められた。
「バカっ! なんでこんなところにいるのよ!」
あいつらから逃げるように、ルフィをここから押し出すように、ゴムの身体をいっぱい叩きながら必死に死ぬ気でもがくけど、ルフィはビクともしない。だってルフィは怒っているから。
「ナミを泣かせたのはあいつらか?」
「おいおい、今いいとこだったのにッ!?」
ゴムゴムの
他の魚人の人たちが騒ぐけど、フードを被った人魚の人が、自業自得だと小さく呟いたのが私には聴こえた。
「なぁナミ、俺に何かできることあるか?」
「でていって!!!
……ねぇ、逃げてよ」
ルフィも、私も、ゾロも、ウソップも、サンジも逃げない。それがナミの優しさだとしても、私たちはナミの故郷であるこの島を絶対に守ってみせるから。
「私はあんたたちまで
「ん。」
ルフィは麦わら帽子を仲間に託した。
もー、今まで私にしか貸したことないのにな。
「仲間を置いていけるかよ。俺はもう誰も
ルフィの頼もしい背中を見て、ナミは肩に刻まれた刺青を、ギューって握り込んだ。そのサメのような呪いを、船の女子部屋でも隠そうとしてたんだね。
ルフィが歩いていく道に、アーロンの部下たちは近づけない。アーロンがぶっ飛んだ場所へ向かうルフィを止められない。
「行くよ、みんな」
「鈍った勘を取り戻すには丁度いい」
「お、俺だって、やってやる」
「信じて待っていてくれ、ナミさん」
私たちも、ルフィに続いて歩き始める。
「あ、あいつらは強いの!
普通じゃ勝てない怪物よ!
だから……だから…… 」
――― 助けて...
「当たり前だぁー!」
叫びながらルフィは飛び込む。
両手を伸ばして強力な一撃の体勢へ。
「てめぇ! 下等種族の分際で!」
「知るかぁー! お前をぶっつぶす!!」
瓦礫を吹き飛ばしたアーロンの腹に、ルフィはバズーカを打ち込んだ。
開戦の合図だね。