麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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・番外編
・今回は3つの島からお送りいたします。


第16話 成長していく娘たち

 グランドライン後半の海、とある島。

 

 時折り雨は降るけれども日中は太陽が照らし続け、蒸し暑い気候で植物が生い茂っている。狂暴な動物も棲み、新世界ならではの過酷な環境のために本来は無人島だが、そこを気に入って縄張りの1つにしているのは屈強な海の男たちだ。

 

 たった1人の敵海賊の剣士が島に立ち入ることを、その気迫によって船員は誰も止めることができない。研ぎ澄まされた覇気によって居場所が分かるため、剣士は悠々と歩いていく。

 

「よう、鷹の眼。こりゃ珍客だ。俺は今気分が悪いんだが……」

 

 『勝負でもしに来たか』と告げれば、ドンッと気迫は増し、鷹の眼と鋭い瞳が交差する。幹部たちは意にも介していないが、一般船員はゴクリと息を呑み、さっさとこの場を離れたくなる。

 

 その黒刀と、船長の剣がぶつかると、この島が更地になってしまうから。

 

「……貴様と今更決着をつけようなどとは思わん。」

「なに、未来へ託しただけさ。」

 

 黒いマントに隠された左腕は、噂通り失っており、ミホークは少し落胆した。

 

 お互い剣を打ち合うだけではなく、左の拳には強力な覇気を纏い、何度も殴り飛ばされた経験があるからだ。といっても、片腕だからといって、四皇クラス未満にはハンデにもならないだろうし、お互いに以前会った時よりも強くなっている。

 

「それに、今日はこれだ。」

「お~、お前が酒を持ってくるとはな!?」

 

 ミホークが片手に持つ上質なワインの瓶を見せれば、急にシャンクスの顔が明るくなった。二日酔いで気分が悪いだろうに、嬉しそうな表情はまだまだ若さを感じさせる。麦わら帽子のあの若者(ルーキー)に負けないほどの笑顔だ。

 

「酒の肴に良い話を持ってきてな。」

「ほう、一体どんな……っ!?」

 

 パサッと1枚の新聞と手配書の束を放り投げると、シャンクスは急いで手に取って、喜びと驚愕が混じったような表情となった。そして、『はーはっはっはっはっ』と大笑いを始める。涙を流して幸せな表情を浮かべながら、大笑いを続けて、でもちょっと悔しそうなところもある。

 

「そうか……そうかそうか……」

 

 そして、グスン、グスンと、鼻をすすった。

 

 やはりあの温かいフーシャ村でルフィたちと育ってもらう選択肢(ルート)なら、大人になるまではウタが平和な時間を過ごせたらしい。エースやルフィもそのルーツを鑑みれば本来は平和でいられなかっただろうが、あの村の人たちやガープのおかげで、3人はスクスクと育って大人になった。これから3人とも過酷な運命に立ち向かうことになるだろうが、夢のために歩み続けることができるだろう。

 

「……運命は変えられたか

 

 優しい瞳でそう呟いた。

 今は、とても優しい親の表情だった。

 

「さては貴様、何か()たな。」

「なに、もう済んだことだ! いや~めでたい!!」

 

 『お前らも見ろ見ろ!』とシャンクスは手配書の束を回し始めた。そして自分はいそいそと木のコップを持ってきて、ミホークのグラスとワインを注ぎ合う。

 

「へぇ」

「こいつは!?」

「おっ、昔より髪伸ばしてるんだな!」

「おいおい、しかもこの後ろ姿は!?」

 

 古参は全員、手配書に載った『麦わら』を知っている。

 船長の赤髪の色とよく似ていた赤白髪(あかしろがみ)も。

 

 ついでに誰かの背中も知っているらしい。

 

「ベックさん、一体どういうことで?」

「ああ。東の海の大佐が、とある海賊にボコられたようだ。その腹いせか知らんが、3000万とはな。フッ、それにしても麦わら帽子が似合う男になったものだ」

 

 新入りたちに、副船長が新聞の内容を教えた。

 クールな副船長もすごく嬉しそうな声色だ。

 

「なあ!? どんな風に成長してた!?」

「麦わら帽子をかぶっていたな。それより三刀流の剣士の話を。」

 

 『うっせー! ウタのことを教えろ!』ともう顔を赤くした船長は、鷹の眼に絡み酒をして、まるで友人のように意気投合しているし。

 

「これ絶対、俺の息子だからな!?」

「あんた、よく分かるな……」

 

 ヤソップさんは少しだけ映っている男の背中を息子だと自慢してる。

 

 だが、新世界にいる船員は。

 今更、東の海の話題にそこまでかと首を傾げた。

 

「ルフィは俺たちの大切な友人さ。あの時はまだ、俺たちが拠点にしていた村のガキだったがな」

 

 ベックマンも珍しく酒をグビグビと飲んだ。

 普段は、味わって飲んでいることが多いのに。

 

「それに、この()は俺たちの船の音楽家でもあったし、船長の(むすめ)だ」

 

 手配書の麦わら帽子の青年の隣にいたらしく、青年の肩の近くにしっかりと映る綺麗な赤髪を指差した。残念ながらまだ顔は映っていないが、あの父親に似て破天荒な()なら、手配書が出ることも時間の問題だろう。

 

 シャンクスがミホークに絡んで、成長した姿というのを聞き出しているが、どっちの影響なのか、どうやら新しい麦わら帽子をかぶっているらしい。ベックマン自身も、一体どんな美しく逞しい女性に成長しているのか、早く会いたいと思った。

 

「「「あの~?」」」

 

 船員は真偽を確かめるべく、船長へ視線を向けた。

 

「ん~? おう、俺の世界一大切な宝物(むすめ)さ!」

 

「「「えーー!?!?」」」

 

 船員は目が飛び出るくらい驚いた。

 シャンクスは意を決したようにドンッと構えた。

 

「祝え! お前ら今日はとにかく歌えーー!!」

 

 今日の島の宴では、男たちは互いに数少ないレパートリーを歌い合った。今はかつての船員であるウタはここにいないが、新世界に入っても誰一人欠けていない赤髪海賊団は今日も『幸せ』を分かち合う。

 

 たとえ四皇と呼ばれ世界から畏怖されようとも、宴ではそんなの知ったことではないのだ。

 

 

*****

 

 

 オレンジ色のテンガロンハットで、上半身裸。

 そんな男が酒場で新聞を取り上げるように読み始めた。

 

「ルフィ、それにウタ、ついに海に出たのか」

 

 義兄弟の関係にはなっていないとはいえ、自分が妹と思っていた赤髪も確かに映っている。相変わらず仲が良いことだと、ほくそ笑む。

 

「おいおい、いきなりなんだってんだ」

「おっと、すまねぇな。こいつ俺の弟なんだ」

 

 新聞に挟まれた手配書に笑顔で映る麦わら帽子の黒髪は、目の前の青年と似ているから、確かに弟なのかもしれない。店主はそう思った。

 

「お代はこいつらの首でいいよな」

「へ?」

 

 自分を狙ってきた酒場に乗り込んできた海賊たちを、瞬く間に(メラメラ)で返り討ちにしてから、彼は目的達成のために少し足早に酒場を去る。

 

「わるいが、海賊王になるのは親父だ、ルフィ」

 

 サボの件があってから必死に3人で修業をして、時折りガープに挑んではボコボコにされた苦い経験を思い出しつつ、あの頃から今の自分がどれだけ強くなったかを見つめ直す。そして、能力の扱い方でうんうんと頭を唸らせていた弟や妹と同じく、自分も悪魔の実の能力者にもなった。

 

 親父のために俺はまだまだ強くなると誓う。

 

「~♪」

 

 鼻歌を歌いながら、エースは船に乗った。

 特注の船がメラメラと炎を噴き出す。

 

「あいつはまだまだ10年以上かかるか」

 

 いつか、あの()が『妖艶なくの一』になったときの船出も楽しみにしながら。

 

 

****

 

 

 フードをかぶって急に席を立った。

 部下たちはいつものことかとため息をついた。

 

「少し出かけてくる。」

 

 だが、ずいぶんと嬉しそうな声色には誰もが首を傾げた。

 

「あれ、あの人は?」

「ちょうど出かけたわ」

 

 そうか、と金髪の青年が残念そうに呟いた。

 

 いつもの筋トレをこなしてきた様子で、あのチビッ子がずいぶんと背が高くなったと、古参の幹部たちは微笑んだ。それに、世界に怯えていたこの()もいつの間にか逞しい女性へ成長し、その聡明さでよくサポートしてくれる。

 

「どこに行ったとしても万が一はないと思うけど、手配書?」

 

 机に置かれたままの手配書や新聞で、女性は素早く情報を確認するけれど、東の海のことしか書かれていない。あの国があるとはいえ、世界中の国々の中では比較的安定している海だ。どこの国もキナ臭いから、革命軍は常に人手不足に陥っている。

 

「東の海で魚人が、か……いやそれよりも」

 

 コアラは優れた洞察力で見抜く。

 どこかでこの名前を見たけど、確か海軍の。

 

「えーと、確かモンキー・D・ガ」

「ルフィ。」

 

 隣にいる彼が、呼び慣れたように、ぽつりと呟いた。

 

「まさか憶えているの!?」

「ルフィ……ウタ……?」

 

 目の前の彼が記憶を失っているとは知っているけれど、ここまで何かを思い出そうとしているのは2度目だ。1度目は白ひげ海賊団にいるエースのことだったけど、いつか会いに行かせようとしても仕事の片手間に調べているだけでは、いまだその所在は掴めていないし。

 

「歌がどうかしたの!?」

「……昔よく歌ってた、気がしただけさ」

 

 特に記憶は戻らなかったようだけど、何かの鼻歌を歌いながら、鍛錬へ戻っていくようだ。

 

「~♪」

 

 さっきの鼻歌がきっかけになるかも、とコアラは少し嬉しそうな表情を浮かべつつ、でも彼がなんだか知らない女の子のことを考えていそうで、胸の奥がギューって締め付けられるのも感じた。

 

 後から聞いた話だけど、今日の彼の鍛錬はいつもよりハードだったらしい。まだまだ強くなるのかと驚く。その人外な強さはとても頼りにしているけれど。

 

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