ようやく、町の人たちの声が耳に入ってきた。
抱きしめられてるの見られてたみたいで、幼馴染同志とはいえ、なんだか恥ずかしいな。火照った頬に雨の冷たさがちょうどよくて、空は嵐なのに心地よさを感じる。
えーと、バギーは黒焦げだけど、雷に撃たれたはずなのによく生きてるな。あの赤い鼻を見るとイライラしてきて、ルフィをあんな目に遭わせたことを1発ぶん殴っておきたいけど、今はそんな場合じゃないか。
「き、奇跡だべさ~!?」
「あんたら何者なんだい!?」
私たちの近くで涙をいっぱい流しているのは、緑の髪のハデな男の人だけど、海賊の船員ではなさそうだ。赤色の髪の女の人も目を見開いて驚いている。なぜか怯えた様子だった他の人たちも、その2人のおかげで『すごいものを見れた』って表情へ変わった。
「雷といい、みぞれといい、この嵐といい、たぶん天があんたらを生かそうとしてるんだっぺ!?」
「ああ。アタイもそう思っちまったよ」
あの雷はバギーが振り上げたサーベルに向かって落ちたんだろうけど、嵐が来るタイミングとか、ルフィは雷に直撃しないで無傷だとか、ホントに奇跡かもしれないね。
「ぜ、ぜひとも! あんたらのお名前をお聞きしたいだっぺ!」
「麦わらのルフィ、海賊王になる幼馴染だよ♪」
「こいつはウタ、世界の歌姫になるやつだ!」
「へぇ、幼馴染なんだべさ?」
その返事に『赤髪かわいいね~』って赤い髪の女の人へ言い残して、一度私とルフィは、ゾロやサンジのところへ向かう。
「悪運の強いやつらだ」
「海軍も動き出してる。とっととずらかるぞ」
サンジの言う通り、なぜかバギーたちよりこっち優先で向かってきてるし、早く出航したほうがいいかもね。ナミとウソップが先に行ったのなら、到着する頃には準備万端だろうし、ナミがいればこんな嵐なんて関係ない。
「待ちなルフィ!アタシから逃げるつもりかい!」
「きれいなお姉様~」
「サンジ、あいつ敵だから!!」
あいつもはやルフィだけを追いかけてきてるみたいだし、ルフィってモテすぎじゃないカナ。嵐のせいで
「ロロノア・ゾロっ!」
「うわ、出やがった」
眼鏡をかけたかわいい女の子が立ち塞がった。まさかゾロ、町でナンパでもしたのかな。まあ別にいいけど、ちゃんと責任は取ってあげてよね。ゾロが誘うなら船に乗ってもいいと思うよ。
「海賊だったとは。私を騙していたんですね!?」
「サイテー! 女の敵!」
「クソマリモが!」
「えっと、三刀流!」
「てめぇらで試し切りしてやろうかァ!?」
そういえば刀3本に戻っている。
白い刀に劣らない刀を見つけられたのかな。
「名刀『和道一文字』、回収します」
「こいつは特別なんだ。他もやるつもりもねぇがな」
ゾロに騙された女の子も剣士らしく、1本の長刀を両手で構えた。
「暇じゃねぇんだ、行くぞっ!」
「はやいっ!?」
新しい刀をそれぞれの手に持って、ゾロは素早い踏み込みと早業で、1本の刀を防いで、さらに弾き飛ばした。怪我してるときには筋トレをある程度控えていたはずだけど、ミホークさんと戦った時よりかなり強くなってる。
ゾロは満足そうに2本の刀を納めて、彼女に背を向けた。
「なぜ斬らない!!」
「……は?」
「私が、女だからですか!?」
叫んだ彼女はよろよろと立つけど、サンジはともかく、ルフィもゾロも本気の喧嘩するなら性別は関係ないと思う。まあ、たぶん、彼女は成長の壁にぶつかっているんじゃないかな。
「女が男より腕力がないからって、真剣勝負で手を抜かれるのは心外です!」
「自分で性別を言い訳にしてるようじゃ、ずっと弱いままだろ」
「お、男だからそういうことを言えるんです!!」
「こいつだってホントに女かってくらい破天荒だ」
私に向かって親指でグイってする。はて。
マキノみたいなお
「なっ……バカにしてるんですかっ!」
「知るかよ。俺だって世界最強の剣士に手も足も出なかったんだ。それこそ
「世界一の大剣豪に、俺はなるからな」
そう言い残して走り始めたゾロを追いかけるように、私たちも走り始める。彼女が胸に手のひらを当てていたような気がするけど、ねぇゾロ、責任取ってあげてよね。
「ったく、似た顔で同じことを……」
「ちっ、なんでこんなやつが……」
「もう串焼き屋やってねぇのかな……」
3人ともいろいろ呟いてるけど、なんだか追ってきているはずの海賊たちの様子がおかしいんだよね。たぶん後ろから次々と倒されていってる。
「なにかくるよっ!?」
「なんだあの煙!?」
「あれってまさか人か!?」
「どうやら海兵の親玉が来やがったな!」
私たちは背中越しに様子を見るけど、最前列を走っていたアルビダを含めて、海賊たちはモクモクとした煙に叩き伏せられた。そして、モクモクした煙は向かい風になんだかイライラしながら、私たちのところへ向かってきている。
そして。
もうすぐ後ろまで来てる。
ルフィは一度振り返りながら、ニヤリと笑った。
「ようやく追いついたぞ、麦わらども」
「いいね、強そうだ。ゴムゴムのぉ~」
知識としてはあるんだけど、たぶんこの相手は。
「ガトリング!!」
「無駄だ。」
ルフィの無数の拳は全て煙を通り抜ける。
そして、ガシッとその大きな手のひらに掴まれた。
「なっ! 効いてねぇのか!?」
「これが
斬撃や蹴りをしたゾロやサンジもその手応えの無さに驚いてるけど、私の準備はあと少しだから。
せーのっ!
「ウタウタの、バズーカーー♪」
「助かった!」
「くっ、やはりその女が厄介だな!?」
「ゴホッ……旋風よ♪ 巻き起これ♪」
「ぐっ! 今度は竜巻だと!?」
「ナイス、ウタちゃん!」
「今のうちに逃げるぞっ!」
「どうした、ルフィにしては珍しいな」
ルフィは、咳き込む私を両手で抱えてくれて、勢いよく走り出した。
「ちっ、貴様らだけは逃がすものか!」
追撃の風の
それに、なんだかいつもより疲労感がすごいけど、今日そんなに激しく
「ホワイトブロー!」
「ルフィ! 右っ!」
「あぶねっ!」
煙の拳を、まるで
だけど、追いついてきた煙は上へ向かい、私たちに覆い被さろうとする。
「チェックメイトだ」
「ぁぐ!」
「ル……」
ルフィは背中を十手で叩きつけられたし、私の口は煙で塞がれる。『まずいわね。』
「ルフィ! そのくらい効かないだろ!」
「てめぇ! ウタちゃんから離れろ!」
うつ伏せになっているルフィが地面に手をつこうとしても、なぜかダラーンと倒れる。なぜかギアを上げることもできないらしいし、息ができない私はかなり苦しくなってきた。
「ち、力が入らねぇ‥…」
「能力者なんざ、海には山ほどいるからな。どいつもこいつも弱点があるものだ」
この煙のおじさん、たぶんいろんな能力者を相手してきたんだ。でも自然系ってだけでルフィをここまで無力化できるはずがないし、あの十手に何かあるはずだし、十手自体には攻撃が通るはずだ。
でもそれをゾロやサンジに伝えようとするけど、口を塞がれちゃったからそれもできないし、もう息が
「くそぉ、ウタを放せぇ~……」
「それはできねぇな、麦わら。この女を自由にさせておくには危険すぎる」
「どういう、ことだ……?」
「思想といい、能力といい、あれはまさしく魔女だった。むしろお前はよく手懐けてるもんだ」
まさかこのおじさん、私を狙ってるの?
「ち、ちげぇ 俺たちは幼馴染だ。
て、手懐けてなんか、ねぇ!!」
「フン、能力者の癖になかなか抵抗するようだがもう終わりだ。この魔女の厄介な歌も封じたしな。これで、お前らの悪運も尽きた」
「そうでもないさ」
ドンッ ドガンッ
私もルフィも自由になれたことしかまだ分からないけど、たぶん煙のおじさんが誰かに蹴りで吹き飛ばされた。自然系に物理攻撃を当てるの、それこそシャンクスたちならできそうかな。
ルフィに覆い被さちゃったので、私は息を整えながら助けてくれた人を見上げる。
「ハァーハァー だれ……?」
「な、なんだ? 見えねぇんだけど」
「ほう、ずいぶん可愛い
フードに隠れた優しい瞳と目が合った。ガープさんに似てるし、そして、カッコいい時のルフィにも似てる。えっと、もしかして。
「その
「おう。よく分からんが、分かった」
「ちょっ! ルフィ!?!?」
シュルシュルとゴムが絡んで。
どこ握ってるの!?
後ろ髪がペシペシとルフィの顔を叩いてるよ!
「さぁ行ってこい。男の船出だっ!!」
そして。
ビューッ、と道を駆けてくるかのような突風の音。
「クソッ! なんだこれは!?」
ドンッと煙おじさんは建物に押しつけられたけど、スイスイと私たちは港の方向へ吹き飛ばされていく。
あの突風は偶然だったのかな。
それともあのおじさんの力?
「はっはっはっ すげぇ風だったな!」
「てめぇルフィ!うらやまけしからんことをっ!」
「お前ら! さっさと乗り込むぞ!」
ふぅー。
私は熱を帯びた身体を雨で冷ましながら、乱れた服装を少しでも戻す。雨でビショビショだし、厚手のパーカーを着ていてよかった。いつものラフなシャツやブラウスとかだと、たぶん透けてただろうし、最後にギュッとスカートを下へ引っ張った。
「行くぞ、ウタ」
「うん、ありがとっ、ルフィ! 」
ルフィの手を借りて、私は立ち上がった。
一緒に帰ろうメリー号へ。
「おっ、ようやく来たな!!」
「あんたらはやく乗りなさい!!」
ナミたちはすでに嵐で揺れるメリー号で出航準備をして待っていてくれたみたい。
ルフィは再び私を抱えてゴムの伸縮で甲板へ着地して、ゾロやサンジも人外レベルのジャンプでメリー号の手すりを掴んでよじ登ってきたみたい。
「よしっ、全員無事だな!」
私たちは船長のルフィへ頷いた。
追手は、えーと、海軍の船とか大砲とかは、この嵐とかさっきの突風のせいで、なんだか慌ただしそうだ。
「このまま行くわよ、あの方角に導きの灯があるわ……サンジ君!」
すでに航海のルートをきっちり把握してくれているナミは、怪力のゾロやルフィへ指示を出そうとしたみたいだけど、一度考え直して、サンジへ操舵手を任せた。なんだかそういう仲間も欲しくなってきたね。
「あの光の先にグランドラインがあるのか!」
「ええ。その入り口がね」
ルフィの質問にナミが答える。
ちょっと距離近くないかな。
「サンジ君、そのまま真っ直ぐね!」
「は~い、ナミさぁ~ん」
「た、楽しみだな!」
「震えてるな、ウソップ」
「「あっ」」
私とルフィは思い出したように顔を見合わせて、ヨイショヨイショと樽を運んできた。シャンクスたちとは別れた時の船出の前にフーシャ村の港で
「あれやろうぜ! なっ!」
「私たち流の進水式だよ!」
最初は2人だけだったけど、今は仲間ができたし。
サンジも少しなら大丈夫そうだ。
私たちの説明通りに、6人で1つの樽を囲んだ。
トンッと、みんなが樽の上へ足を置く。
そして。
「俺はオールブルーを見つけるために」
「俺は海賊王~!」
「私は世界の歌姫に♪」
「俺は世界一の大剣豪に」
「私は世界地図を描くため」
「俺は勇敢なる海の戦士になるためだ!」
それぞれの夢を誓った6人が同時に足を振り上げて叩きつけた。
「行くぞっ!」
「「「「「「
私には夢がある。ルフィたちと一緒に世界を回って、たくさんの歌をつくって、いろんなステージでみんなを幸せにするんだ。
次のステージは、グランドライン前半。
私はここまで来たよ、シャンクス