・サッカー小説や漫画とか、11人の2倍、22人+αのキャラを動かせるのがすごいですよね。
第20話 クロッカス
カームべルトに入ってしまってナミが絶望したり、巨大なお魚にウソップが食べられかけたり、ルフィと私は滑り台みたいな山に大笑いしたり、ゾロが飛んできた岩を斬ろうとして濡れた甲板で足を滑らせたり、焦ったサンジが舵を蹴りで破壊したり。
「あっはっはっ!」
「すごーい! たのしー!」
グランドラインへの入り口は、滑り台だったんだね、シャンクス。
「づ、づがれだ……」
いっぱいがんばったナミが項垂れるけど、もしナミがいなかったら普通に海の藻屑ってやつだったよね。紳士的なサンジがリラックスティーを淹れて手渡しているけど、もう少し一途だったらいろんな女の人からモテるんじゃないかな。
ナミと私はレインコートを脱いで、手際よくサンジから手渡されたタオルで髪の水分を拭き取る。私たちの胸を見て、ダラ~ンと鼻が伸びているけど、まあ私たちはそこまで気にしないからほっとこう。
「おっ! でっけぇ山があるぞ!」
「ほんとだ! フシギ山だ!」
「はぁ!? 今度は何!?」
滑り台を下りた先に、大きな紺色の山。
でもよく見ると。
「山じゃねぇ! クジラだ!」
「絵本で見た通り! これがクジラ!」
「取舵いっぱーい!?」
「舵折れてんぞ。どうするんだ?」
「サンジ君! なんとかしなさい!」
「はぁ~い ナミさぁ~ん♡」
半分くらいで折れてしまっている舵に、サンジは脚を当ててグググっと押し込んだ。
といっても、この滑り台の激流の仲ではそこまでメリー号の向きは変わらないみたい。近づいてくるほど本当に山のような大きさのクジラさんで、たぶんメリー号なんて石ころみたい大きさだ。
「ぶ、ぶつかるぅ~!」
「ぎゃ~~!」
んー、痛くて申し訳ないだろうけど、ルフィに全力で攻撃してもらって、その反発力でいけそうかな。
「そうだ、いいこと考えた!」
「えっ、なになに!」
私はギア2の技ならギリギリ行けるかなって予測だったけど、ルフィが思いついたように倉庫へ走っていったので私もうきうきと付いていく。そして、私たちはメリー号の主砲のところまでやってきた。
確かに1度撃ってみたかったよね。
「準備ヨシ!」
「方向ヨシ!」
そして導火線へ。
「せーのっ!」
「発射ァ!」
ドガーン、という爆音が鳴り響いた。
「大……砲……?」
「はぁー!?」
「あいつら何やってんだ!?」
「喧嘩売る気かァ!?」
クジラさんの体長に比べて小さな砲弾はその硬い皮膚を傷つけることもないみたいだ。隣で目をパチクリさせているルフィはたぶん大砲でぶっ飛ばせるって思っていたんだろうけど、主砲の反動でほんの少しだけ船は減速してくれたみたい。
ゴキっ、という鈍い音で羊さんの船首が折れるだけで済んだね。あとで直してあげないと。
「「た、たすかったぁ~」」
クジラさんは、寂しそうにボーっと空を眺めているままだ。今のうちにどうにかここを離れないといけないね。
「あっ……俺の……」
「あれ、どうしたの、ルフィ?」
「このやろっ!!」
クジラさんの大きな身体へ、ゴムゴムの
「あんた、バカァ!?」
「バカルフィ~!?」
「だってあいつ、俺の特等席を壊したんだ!」
プンプンとナミや私に叱られて、ルフィは子どもっぽく言い訳のように主張する。そういうとこがかわいいんだけども、あんた昔からトラブルメーカーなんだから!
「デカクジラ、口を開けたぞ! オラァ!」
「くそっ! 取舵
サンジとゾロが反対方向から舵に蹴りを入れたため、残骸となった舵が宙を舞った。
「クソコック何やってんだァー!?」
「さっきから俺がやってただろうが!?」
ナミとウソップの顔が真っ青になった。
「あんたらなんてことしてくれるの!?」
「た、食べられる~~!?」
ルフィはまだ喧嘩しようとしてるから、私は赤いシャツの裾を引っ張って止めていた。
「わわっ、落ちるぅ~」
「ルフィ!」
揺れるメリー号で振り落とされそうなルフィの手を掴んだけど、
「「あっ」」
つるん、とクジラの口に入っていくメリー号から落ちてしまう。そして落ちる先は海なわけでして。
「ぎゃ~~~!」
やばい。
風の
口に出たのはウタは。
「たすけてシャンクス~ルフィ~~!」
「おっと、やべぇな!」
片腕は私を、空いている手でギュイーンとクジラさんの歯を掴んで、私たちは一度宙を浮いたみたい。
「ハァ……ハァ……」
「ゼェ……ゼェ……」
ここ、クジラさんの上かな。
ルフィの胸倉を掴んで叱りたいところだけど。
それよりも皆がメリー号ごと食べられちゃった。
「吐け! みんなを返せ!」
「消化しないで! ペッしなさい!」
ドガッ ドガッと私たちが立っているクジラさんの身体を叩く。
「やばい! 海に潜るかも!」
「一緒に冒険する仲間なんだ! 皆を返せ!」
クジラさんが体勢を変えるべく、少しずつ動いてしまっている。海に逃げられたら能力者の私たちじゃどうしようもないのに。
「だめだ、声が届いてないみたい!」
「クソッ、こうなったら穴でも開けて……」
ねぇ。
あれって。
「「ドアあるじゃん」」
***
これで私たちはクジラさんの身体の中に入れたはずだけど、通路は明らかに人の手が入っていた。まるで秘密基地みたいで、ここが体内なのか疑ってしまうほどだ。
「なんじゃこりゃ」
「何かの能力なのかな」
鉄板が敷き詰められていて、ところどころツギハギなのは、わざとそこを開けてもう一度塞いだからかな。
ゴゴゴと揺れ始めた。
クジラさんが動くと私たち危ないかも。
「なんだなんだ?」
「ごめんルフィ!」
ルフィの胸に手を当てて、ゴムの身体にギューっていっぱい抱きつく。
温かい。
顔が熱い。
トクトクトク、心臓の歌
「目が回る~~!」
ドゴォンドオンと音がして、ボヨンボヨンとたぶん廊下をバウンドしてる。何かが起こっていて、ルフィがクッションになってくれているけど、そんなことよりも今は、この歌を静かに楽しんでいたい。
ずっとここにいたいくらい落ち着く。
どうか早くあの歌を奏でますように
「わ!おっとっと! 今度は傾いたぞ!」
「な、なにあれ?」
「観光客のカップルか?」
知らない人の声がする。
えっと、あれ、なにしてたんだっけ。
「「と、止まれ~!」」
「止まらねぇ~~!」
ドーンと、ドアが開く音がしてまた空にいる。
バシャンと海に落ちたみたい。
「ゴボゴボ!?」
「ごぼぼぼぼ!?」
最悪の眠気覚ましなんだけど!?
「「お、おぼれりゅ~」」
「世話の焼ける能力者たちだ」
「こいつらは誰だ?」
サンジやゾロに私たちは助け出されて、計4人がメリー号の甲板へ並べられたみたい。
完全に溺れていた私とルフィは口の中に入った水をピューって出すけど、すっぱくてマジで喉によくなさそうなんだけど。ここってもしかしてクジラさんの胃の中かも。
「大人しくなったわね」
「あのおっさんが何かやったのか?」
ナミやウソップが何か話してる横で、私たちはサンジから水やタオルを手渡されたけど、ほんと気が利くよね。
「で、お前らは?」
「美しいお姫様もどうぞタオルを」
「えっ、俺のは……?」
茶色の髪の男の人と、水色の綺麗な髪の女の人、私たちがぶつかっちゃった人たちかな。サンジにお姫様って言われて、なんだか目が泳いでいるけど、2人はお忍びなのかな。
「Mr.9 こいつら海賊よ」
「わ、わかってるよ、ミス・ウェンズデー」
どこかの王子様と、お姫様みたいな服装だ。
ボソボソと話しているのが聴こえるけど。
「このクジラは大切なスイートハニーよ」
「ああ。まずはあのジジイを始末しないとな」
「ラブーンには指一本触れさせんぞ!!」
私たちが来た入り口から、まるでお花のような髪型のおじいちゃんが出てきた。ていうか、あそこから聴こえるのってどれだけ地獄耳なんだろう。
「侵入できたからにはこっちのものだ!」
「ええ、始めるわよ。捕鯨を!」
「「ホゲー?」」
私とルフィは首を傾げてコツンってする。
「まずは胃に風穴を開けるぞ!」
「わるいけど町のためなのよ!」
王子様とお姫様がバズーカを構えてその引き金を引いた。
ドーンという音が重なってその砲弾は空へ向かっていく。そういえばあの綺麗な空は絵みたいだし、つまりクジラさんの胃の壁に砲撃が向かっているってことで、なんてことしてくれるの。
音の速さとはいえ、どんな
「ゴロツキどもッ!」
「あのおじいちゃんの動き、はやいっ!?」
「
姿が消えて、砲弾の前へ姿を現した。
おじいちゃんはクロスした腕で受けるみたい。
「直撃したわ!?」
「おいおい! あのおっさん大丈夫か!?」
煙が晴れた頃には、少し煤で黒くなっているけど、無傷な様子が見える。
「……見えたか」
「……いや」
悔しい表情を浮かべるルフィやゾロでも、さっきの移動スピードを捉えられてないって、どれだけ強いんだろう。
「ま、まぐれだ!」
「む、ムダな抵抗はやめて!」
「えい」
ドゴン、こつんって、ルフィが2人へ拳骨を浴びせ。
2人は白目を向いて甲板へ倒れる。
「感謝する」
「なんとなく殴っといた」
ふんす、と鼻から息を吐いたルフィはおじいちゃんにそう伝えた。
お礼を言ったおじいちゃんの瞳は、じっと麦わら帽子を見つめている気がする。