・この時点では、まさかラブーンの待ってる海賊団の音楽家が登場して、さらに一味入りするとは思わなかったなぁ。
「さて最初から話そうか―――」
おじいちゃんのリゾートに案内してもらって、話を聴いた。
世界一大きいクジラの種、このクジラさんはラブーンって言うらしいけど、王子様とお姫様は食糧として狙っていたみたい。そして、この身体の中にいるときの地鳴りは、東の海とグランドラインの境界とかにそびえ立つ山にラブーンが頭突きでぶつかってるからだって。境界を壊せば会えるかもしれないからって。
ある海賊さんたちの仲間だったラブーンは、仲間の帰りをひたすら待っているんだ。
「50年も前の話だがな」
50年、待ち続けているんだ。
私はたぶん10年だって耐えられないよ。
いつも側にルフィがいるおかげで、私はなんとか耐えられたけどね。だって、シャンクスはよく無茶をするし、ベックさんはすぐモテるし、ルウは食べすぎだし、ヤソップは胸を張って歩いて転ぶし、他のみんなもお酒飲みすぎで心配だし、酔ってお腹出して寝てるし、だから、早くみんなに会いたいんだ。
立派になって、あんまり言葉にして伝えられなかった『ありがとう』を届けたいって思ってる。
メリー号は出口へ向かって、ラブーンの中にある水路を進んでいた。
「やっぱすっげー 爺さんが作ったのか!?」
「おじいちゃんは船大工なの?」
私たちはクロッカスさんのリゾートの船をメリー号で引っ張りつつ、一度ラブーンの中から出ることにした。鉄板で張り巡らされたこの巨大な通路はメリー号だって通れるほどだし。
「なに、医者の遊び心だ」
「お医者さんだったんだ!」
「じゃ、うちの船医になってくれよ!」
新聞を読んでいるクロッカスさんは、フッと笑みをこぼした。だって、こんなすごいものを作れるお医者さんで、50年もラブーンを守っているくらい優しいし、なんかすごく強そうだし、ぜひ船に乗ってほしい。
「遠慮しておく。無茶をするのはもうこりごりだ」
「「ぶ~」」
私たちが不満を漏らすけどもそれには応じてくれず、リゾートの島から身軽に降りてガチャガチャと操作してくれて、出口の門が開いていった。
ぼーっとしているラブーンの身体の扉から船は本物の海へ出た。
「「出れたー!」」
「あっ、こいつらどうする?」
「捨てておけ」
クロッカスさんに言われるがままに、ルフィは気絶していた王子様とお姫様をポイッと海へ落とした。またラブーンを狙うかもしれないけど、クロッカスさんがいるなら絶対に無理だろうし。
衝撃で起きたみたいだけど、あれこれ言い残してどこかへ泳いでいった。まあ、町のためには他の手段を考えてもらうしかないね。
「でっけぇ~」
「ホントに山みたい」
クロッカスさんの岬の家で、ナミたちはグランドラインの詳細を聴いてくれているから、手持ち無沙汰となっている私たちはラブーンを見上げる。
頭の先は傷だらけで、何度も何度もそびえ立つ山にぶつかったんだ。まだ諦めていないし、仲間の生還を信じている証拠なんだ。だって生きて会えないなんて、つらすぎるもんね。
「あと何年で帰ってくるか楽しみだな」
「だって友達と約束したんだもんね」
「……恐らく死んださ」
まだ聴いてくれないだろうけど、私たちが空を見てボーっとしているラブーンへ話しかけていると、何かの紙を持ってきたクロッカスさんがそう呟いた。
「グランドラインはそう甘いものじゃない。季節、天候、海流、風向き、一切の常識が通用しない海だ」
私もとても怖かったのは憶えている。
急に曇って氷塊が落ちてきたり、ずっと雷がゴロピカドンしてたり、砂を運ぶ強い風が続いたり、目の前で火山が噴火したり、たとえ安全な船の中にいてもとっても寒かったり暑かったんだ。そんな時シャンクスはずっと抱きしめてくれた。
「この海の果てにワンピースはあるんだろ?」
「シャンクスたちだっているもんね!」
たぶんシャンクスもいろいろ忙しいのに、幼い私を守ってくれたんだ。安全な私だけのウタの世界だってあるのに、あまりそこに閉じこもらないでほしいって、少しでも海が穏やかなときは『新世界』へ連れ出してくれた。
だから行くんだ、最高のステージへ。
「お前たちは海賊王を目指すというわけか。その道は険しいぞ」
まるで体験したかのように、クロッカスさんはそう呟いた。
「すごい冒険が待ってるってことなんだな!」
「みんながいるから乗り越えられると思う!」
「そうか。ならば何も言うまい」
たぶん、いっぱいつらいことがあるんだろうけど、それ以上に、冒険がうずうずするし、夢を叶えるためにワクワクするよね。
なんにせよ、と呟いてクロッカスさんはラブーンへ目を向けた。
「あいつらが旅立ってあれから50年だ。その海賊団の名を聞くこともないからな。つまり奴らは死んだか、仮に生きていてもこの海には来れまい」
私とルフィは首を傾げて、コツンってした。
「海賊たちの故郷もこいつの故郷も西の海だ。今は穏やかだが、前半の海のここですら激しく荒れるときがある。そして何より、人知を超える程の強さを持った海賊たちもうようよいる海だ」
それこそ、ミホークさんの領域はまだまだ遠く感じちゃう。
「グランドラインの海にトラウマを持って、故郷へ逃げ帰ったヤツは多いというわけだ」
そういえば魚人島も確かグランドラインにあるし、もしかするとアーロンたちも逃げてきたのかな。この魔の海から。
「これはあいつの形見だ……どうした?」
「ブフッ これすごいメロディーじゃん!」
古びた楽譜を見せてくれたけど。
これは歌詞もひどい! 最高だね!
「楽譜を読めるのか?」
「うん、私も音楽家なんだ!
世界の歌姫になるのが夢!」
たぶん弦楽器かな。
この音楽家の演奏を生で聴いてみたい。
普段はあまり歌わなさそうだけど、走り書きで書いた楽譜のメロディーへ充てた歌詞は面白くてセンスがある。
「う~ん、う~ん、よしっ!!」
唸っていたルフィも、何か閃いたようだ。
足がポンプのように膨らんで、ゴムは蒸気を放ち始める。
「ウタ、1発だけ使うぞ。ギア2」
「あやつ何をする気だ?」
「ルフィらしいことだよ♪」
ルフィは勢いよくジャンプして、ラブーンの頭の上に乗った。
「ゴムゴムのJET
バキューンって、強力な眠気覚ましの一撃が大きな音を立てた。
「ブオ~ン!?」
予想外の痛みに泣いてる。
ようやく聴こえてきたよ、君の
私も
「白いハンカチ♪
見つかるなヤツに にげろ♪」
「ブーン! ブーン!」
「よっしゃ! チャ~ンス!」
ラブーンがイヤだイヤだと頭を振るっているところへ、ギア2を解除したルフィの振り落ろした拳が当たる。
やっぱり眠気覚ましの
ラブーンも聴いたことがあるみたい。
「白いハンカチ♪
つかまるなタコに♪」
「うわっ! やるじゃねぇか!」
「ブンッ!」
どうだと言わんばかりに、山へ叩きつけたルフィへ向かってラブーンがしっかりと目を向けた。
笑顔でルフィは立ち上がって、再びラブーンをドガドガと殴り始めた。ラブーンも鍛え上げた頭突きでルフィを弾き飛ばす。
もうごちゃごちゃで楽しそうに喧嘩してるよ。
今ラブーンは私たちを見てくれている。
「白いハンカチ♪
スミだらけ 幸せの黒いハンカチ~♪」
黒い海賊旗のことかな。
そういうの海賊らしくて、きっと楽しい海賊団なんだろうな。賢いラブーンにいっぱいの音楽を聴かせてたんだと思う。瞳に輝きを取り戻したラブーンはリズムに乗って楽しそうに笑っているし、いつかまた弦楽器の演奏で歌えるといいね。
「引き分けだ!!」
「ブーン??」
ルフィが急に、ドンッと手のひらを向けた。
「俺とお前の勝負はついてねぇ。だから俺がライバルだ」
ししし、っと挑戦的にルフィは笑う。
じーっとラブーンはその瞳を見つめる。
「俺達がグランドラインを一周したらまた会いに来るから。そしたらまたケンカしよう!!」
「ブオオオオーーン!!」
望むところだ、だってさ。
そして。
ルフィと私はメリー号からペンキを持ってきて、ラブーンの頭にペタペタと塗っていく。
「できた!」
「次来るまでに消すなよ!」
麦わら海賊団のマークをでっかく描いてあげた。
ラブーンはメリー号の帆を見て、それと同じものが描いてるんだ~って思ってくれて、嬉しそうに頷いた。これでもう山に頭突きすることもしないと思う。だってルフィと喧嘩するためには、次に会う時も元気でいてくれないといけないからね。
「フッ、お前たち……」
「なんだ?」
「まずかった?」
古傷がいっぱい残る頭に重なるように、勝手に描いちゃったけど、クロッカスさんは笑顔だし、大丈夫そうかな。
「2人とも麦わら帽子がよく似合っておる」
「ししし だろ?」
「べ、別にこれ日焼け防止だからねっ!?」
お揃いなのは偶然なんですけどね。
クシクシと赤髪のほうを手で
クロッカスさんは、年老いた優しい表情で空を見上げた。まるで誰かへ語り掛けるような。
「そ、そうだ! ラブーンも一緒に歌おうよ!」
せーのっ!
「ビンクスの酒を届けに行くよ♪」
「「海風 気まかせ 波まかせ♪」」
「ブーン♪」
ラブーンもすごく大きな声で、穏やかな波の中でゆらゆらと歌ってくれる。
ルフィは相変わらず、こぶしがきいた歌い方。
ゴムみたいに伸びてて、私は大好きなんだ。
「「ヨホホホ ヨホホホ~♪」」
なんだか不思議。
キュイキュイ、と幼い声も聴こえるんだ。
また会おうねラブーン。
・歌詞コード
(ビンクスの酒~ルンバー海賊団VER.~)