このままじゃルフィが殺されちゃう。
ウタワールドに入れればルフィは助かるけど、ルフィの身体は助からない。そんなのルフィは望まないし、海賊になって冒険ができなくなる。
今の私にできることはなくて。
だから助けてよ。
「助けてお父さん!!」
「すまん。遅くなった。」
黒いコートがパタパタと風に靡いている。
ホントにすぐ駆けつけてくれるんだ。
「「うえ~ん! シャンクスぅ~!!」」
「2人共無事でよかった。よくウタを守ってくれたぞ、ルフィ」
振り向いてしゃがんだシャンクスに、ガシガシと頭を撫でられるけど、私たちはその顔が見えないくらいに涙を流していた。だって怖かったんだもん。
「さっきの海賊か!?」
「お前たちこそ、俺を怒らせたな。」
山賊の1人がシャンクスへ銃を向けたけど、構えた腕が震えている。仮に撃ったとしてもシャンクスには効かないと思うから。
しかも。
「
「...え?」
そして。
バーンッとルウがそいつを撃った。
こんな簡単に人は死ぬんだ。
「おい、なんて事を!?」
「卑怯だぞ、海賊!!?」
「俺たちはまだ撃ってないだろ!」
「てめぇ、よくも俺の子分を」
山賊たちがそれぞれの武器を引き抜いた。
この喧嘩、もう止まらないかもしれない。
「俺たちの仲間に手を出しておいて、今更甘いことを言うな。まさか聖者でも相手にしているつもりか?」
ベックさんも大きい銃を肩に担いで私たちの前に立つ。威圧する言葉に山賊たちはとにかくビビっているけど、私たちはむしろ安心する。
立ったシャンクスが一歩ずつ歩き始める。
「いいか山賊。俺は酒を頭からぶっかけられようと、どれだけバカにされようと、大抵のことは笑って見過ごしてやる。だがな!!」
空気が震えた。
山賊たちが腰を抜かしたのに。
私やルフィはどんどん勇気が湧いてきて、しっかりと立ち上がれた。私は今この瞬間、シャンクスが王様のように思えてくる。
「どんな理由があろうと! 俺の友達、ましてや俺の娘を傷つけるヤツは許さない!!」
シャンクス、凄くカッコいい。
腰の剣を引き抜いた。
「来い、山賊共。」
「このまま逃げてたまるか! 敵討ちだ!」
山賊たちが奮い立って向かってきたけど、シャンクスたちには全く歯が立たない。いつもはお酒に酔って愉快な人たちだけど、私の仲間はこんなにも心強いんだよね。
それに比べて、私って守られてばかりだ。
すべての山賊たちは地面に叩きつけられていて、気絶もさせてくれない。
「さて。今後一切フーシャ村には来るなよ。もし来ればその時は、俺たちが相手をしてやる!!」
「「「ひ、ひぃ~」」」
ボロボロになった山賊たちが煙玉を投げ始めて、足をもつれさせながら逃げ始めている。私は煙で咳き込むけど、みんなはそうじゃないのが凄い。
まあ、これで一件落着だよね。
「あれ、ルフィはどこ?」
「……ほう。どこまでも俺を怒らせてくれる。」
えっ、ルフィを担いで、あの山賊のリーダーが海へ泳いで逃げている。その先には私たち赤髪海賊団の船があって、もしかしてルフィを人質に。
「船を狙っているの!?」
振り返ると、シャンクスはまたいつの間にか静かな砂煙を残して消えていた。でもルフィたちを追いかけていったはずだ。
私も行かなきゃ。
「
「ベックさん、放して!?」
でも私を抱えてくるベックさんの言う通り、海へどれだけ手を伸ばしても私は泳げなくて、たとえあの場所に行けたとしても、今の私はこの現実の世界ではまともに戦えないんだ。こういう無力感、ずっと前に感じたことがある気がする。
しかもルフィたちがいる場所を隠すように、巨大な海獣が現れた。
「ねぇ! あれって近海の主だよね!?
なんとかしてよ!? ねぇ! 誰か!!」
「船長命令だ。ここで待て、とな」
シャンクスの代わりに、副船長のベックさんが私へそうやって指示してくる。赤髪海賊団の
でも2人が危ないんだから。
たとえ命令違反でも!
「ピストルゥーー!」
「うぅ…なんで上手くいかないの……」
私、現実だとこんなにも弱いんだ。
どうか、2人共無事でいて。
そう祈ることしかできない。
「ちぃ! バカ野郎! あいつ腕を喰われたぞ! ホンゴウ、準備しておけ! 俺たちは救援に向かうぞ!」
「え……」
ベックさんの号令でみんながテキパキと動き始めたけど。
私は片腕が無くなっておびただしい血を流すシャンクスを見て頭が真っ白になる。ルフィが泣いているのを見て、私の目からもどんどん涙が溢れてきた。
私は弱いって。
この日、凄く思い知らされた。
どれくらいだっけ。
たぶん2ヶ月は経ったと思う。
「さて、今日でお別れだな。5年、いや10年よりもっとかかる船旅になると思うが」
私が育った船に、みんながたくさんの荷物を詰め込んでいる。たくさんのお金を使ってあちこちの島でお買い物してきたから今まで以上に積荷が多いよね。
フーシャ村を拠点にしていた赤髪海賊団はこれから再びグランドライン、その果てへ向かうんだってさ。ワンピースはお父さんが手に入れちゃうかもね。
「お父さんさびしいなぁ~!?」
「泣かないで。皆の前で恥ずかしい」
抱き着いてきてジョリジョリとしてくるけど、無精ひげはやめてっていつも言っているよね。こんなだらしない父親が今から世界中に知られると思うと恥ずかしいじゃない。
「私、もう決めたの」
黒いコートに隠れた左腕の先はもうないけど、ホントに気にしてないんだね。自分の腕より凄い仲間がたくさんいるからって笑って言っていた。
「私はここに残る。今より強くなって追いかけるから」
「そうか。だがどこにいても、ウタは俺たちの仲間で音楽家、そして俺の愛する娘だ。憶えておけよ」
笑顔で頷く。
私、泣かないからね。
「ずー……今までありがとうお父さん」
「おいおい、これからもお父さんだぞ。あとそのセリフは10年は早いだろ」
あれこれ言ってるシャンクスに私は勢いよく抱きつく。
泣き顔は見せずに、笑顔でいってらっしゃいするって決めていたから。
「元気でね。お酒飲みすぎないで」
「ウタも元気でいろよ。愛している」
トントンと背中を優しく叩かれた。
「こいつはビブルカードと言ってな。命の紙とも呼ばれる。これが燃え尽きない限り、俺が生きている証だ」
手のひらに乗せてもらった紙切れをにじんだ視界で見ると、パタパタとシャンクスのほうへ動き始めている。これがあれば、シャンクスがいるところも分かるんだ。
「ルフィ、ウタのことを頼む。こいつは俺の1番の宝物なんだ。できる限り側にいてやってくれ」
「ああ! シャンクスくらい、もっともーっと強くなって、どんなヤツからもウタをまもれるようになるよ!」
違うもん。2歳もお姉さんの私が、ルフィに付いててあげるんだもん。
「ウタ、勇敢なボディーガードができたじゃないか」
シャンクスはプクーっと膨らませた私の頬を、優しく撫でてくれた。太い指で涙を拭いてくれるけど、しゃべれないくらい止まらないんだもん。
「シャンクス! 俺さ! 自分で海賊になるよ! シャンクスの一味に負けないくらいすげぇ仲間を集めてさ! 世界一の財宝を見つけて! 海賊王になって! 新時代をつくる!!!」
空気が震えた。
まるでシャンクスのようで。
ホントに海賊王になっちゃいそう。
「ほう! ロジャー船長すら越えるか!?」
「だからシャンクス! 海賊王対決だ!」
ニカッと笑うルフィが突き出した拳へ、笑顔でシャンクスがコツンと合わせた。
「それなら俺が先になっておいてやるよーだ!」
「その時は俺がシャンクスに勝つもんねー!」
大人げないんだから、もう。
でもまさか私に負け続けてきたルフィが、今度は世界最強の海賊のお父さんへ挑むなんてね。まあ、私もまだ負けたままでいるつもりもないけどね。
「俺は海賊王になる男だ!」
「ならルフィ、この帽子をお前に預ける」
シャンクスがルフィに被せた麦わら帽子、まだ子どもだからブカブカだね。でもいつかきっと、シャンクスみたいに似合う男になると思う。
「俺の大切な帽子だ。
いつかきっと返しに来い。
立派な海賊になってな。」
「……うん」
たぶんマキノを一度見たシャンクスは、風に靡く黒いコートを翻した。もう振り返ることはなく、大きな背中が進み始めている。
目をゴシゴシと袖で拭いて、私は大きく息を吸う。
「いっでら"っじゃい"!!」
「おう! ちょっとでかけでぐる!」
片腕だから涙を拭くだけで大変じゃん。
バカ、シャンクス、お父さん。
「うぅ……」
心配させないでよ。
そんなに私を心配したら倒れるよ。
だから。
「わたし…わたし……」
涙が止まらない。
まだまだ伝えたいことがあるのに。
「わたし! シャンクスの娘だって胸を張れるような女海賊になる! わたしのウタで新時代をつくる! あとわたし! みんな好き! お父さん大好き! 愛してるーー!!」
「…………野郎共ォ!出航ォ~!」
手のひらのビブルカードが、私の生まれた船を追いかけるように動くけど、ギュッと握りこむ。
「うわ~~~ん!!」
喉が枯れるくらい大海原へ泣いた。