ブロギーさんたちがぶつかっている。
ドリーさんが少し押されている。
2人を止められる可能性のあるルフィは、決闘の邪魔をされないように巨大な海王類の骨の下に埋めていかれちゃったし。合流したウソップに事情を説明しながら私たちは今回も引き分けに終わることを願うしかない。
こんな形で決闘の決着がつくなんて、そんなの彼らは望んでいないだろう。
足元に白い何か、まだ邪魔する気なの!?
勝負はそれが原因で決着がついてしまった。巨大な斧で斬り裂かれてドリーさんから凄い量の血が溢れて、ブロギーさんは茫然自失となってる。
こんな結末ひどい。私やビビは口を抑えて、目に涙を浮かべる。ウソップもやるせない表情で下を向いてる。
「邪魔したやつは誰だァァ!!」
ルフィが怒り叫んだ。
その気迫だけで空気が震える。
決闘が終わったことで、私たちを餌として見て近づいてきた恐竜たちはドサッドサッと倒れていった。
「ちっ、なんださっきのは」
「キャハ でもあいつ動けないみたい!」
ウィスキーピークで会った気がする人たち、ここまで追いかけてきたんだ。確かゾロにフラれた女の人と、通りすがりのおじさん。
「カルー!?」
「こいつも必要ねぇな」
ビビが黒焦げのカルーへ駆け寄るけど、まだ息はあるみたいだ。そういえば姿を見かけなかったけど、ドリーさんが争ってる音の裏で、何かされてたってこと。
私はイライラして、黒い何かが込み上げてきてる。
「お前らか! お前らが酒に爆弾を!」
「なんだあの長い鼻は」
「まあ仲間でしょ。消しておきましょう」
冷静さを失ったウソップはパチンコを構えて、怒り狂うビビも武器を取り出して地面を蹴った。
「必殺 火薬星!」
「孔雀ッ!」
私も
「
「まずっ!? ゲホッ」
ドガン、と爆風の音。
砂が喉に入っちゃった。
しかも、思わず目を閉じちゃったけど、上からヤバい音がする。ルフィやウソップが避けろって叫んでるし。
「Mr.3の言う通りの弱点だな」
「キャハハ!」
重い何かが、落下する音が!
「ウターーァ!!!」
「1万キロプレス!」
やばっ、意識が
あれ、ここは?
「モゴモゴ……?」
「気がついた?」
えーと。
ナミがいて、ゾロがいて、そしてビビがいる。
動けないししゃべれないや。
足も口もカチカチの蝋が付いてるみたい。
「私たちあいつらに……ケホッ」
「……」
「ナミさんしゃべらないほうがいいわ」
私の赤髪が少しずつ白くなってる。
溶けた蝋が上から降ってきてるんだ。
ブロギーさんなんて囚われるだけじゃなくて、蝋の剣が手のひらに刺さってるせいでドクドクと血が流れてて、見てて痛々しい。
「ふむ。なぜ絶望しないガネ?」
3の髪の人が残念がってるけど。
そりゃあここには4人しかいないもん。
「他の奴らも当分は起きんだろう」
「キャハッ ボロボロにしてきたものね」
ルフィたちがそれくらいでは諦めないし、いわゆる王子様を待ってるだけの、囚われのお姫様にはなりたくないよね。そんなの私らしくないかな。
「おっさん、まだ動けるだろ?」
ゾロは2本の刀を抜いた。
うわ、やる気なんだ。
「おっさんはその手、俺は足斬り落とせば動けるだろ。合わせてちょうどいいじゃねぇか」
「それは名案だな!」
「あんたらバカァ!?」
「ブンブン♪」
「私もお願い! ミスターブシドー!」
ゾロらしいよね。
てか、ビビもやるんだ。
「ビビも、え、まさかウタまで!?」
じゃあ私も絶唱するよ、たとえ喉が潰れようと。だって、どんな声でも貴方は私のウタを聴いてくれるでしょ?
「なんだこいつら」
「イカれてやがる」
「は、ハッタリでしょ」
「ううん。本気、たぶん」
3の人たちは正気を疑ってるけど、別に生きてればなんとかなるでしょ。手がなくても前へ歩けるし、足がなくても刀を持てるし、鼻さえあれば
せーのっ、ってしようとしたとこに、元気な声が聴こえてきた。
「「うおおおおお!!」」
「クエエエエ!!」
ルフィ、ウソップ、カルー、まだ頼れる仲間だっていることだし、別に絶望することでもないよね。
「ウタたち返せェー!」
「おっさんたちの誇りは俺が守ってやる!」
「クエッ!!」
まあルフィたちが助けてくれるなら、その意志を無駄にしないためにも待とうかな。
ゾロやブロギーさんは血がドロドロと流れてるし、私は鼻で息を吸いすぎたせいで鼻の周りが蝋で固まってきたけど。
「あんたら何やってんの?」
「固まるならこのポーズがいいな」
「ブ~ン」
待つことにしたので手持ち無沙汰なゾロと私は、それぞれポーズを決めることにした。白い刀を天に掲げたり、両手を頭の上で重ねてみたり。
ナミやビビは呆れた様子だけど、ルフィたちに任せてるからリラックスしてるだけだもん。
「よしっ、あのグルグルカボチャを壊せばいいんだな。ゴムゴムのぉ~」
「させんガネ!」
ルフィが両手を勢いよく伸ばしたけど、あの3のやつ、自分の腕から出る流動性の蝋を操って迎え撃とうとしてる。
「キャンドル
「バズーカァ!」
硬くなった蝋の壁に阻まれて、威力が減衰しちゃってる。あの超人系の能力はなかなか手強いな。
「お前、邪魔だろ!」
「お前こそ邪魔だガネ
芸術のな! キャンドルロック!」
グルグルと蝋がルフィの腕を縛って、拳が塞がれちゃったけど、ルフィはニヤリと笑った。再び腕を伸ばして強力な一撃の用意をする。
「ゴムゴムのトンカチ!」
「しまったガネ!?」
蝋同士がぶつかってキャンドルの壁を砕いて、そのまま3のやつを力業で吹き飛ばした。かなり効いたみたいで、スカッとしたけど。
「やったルフィ! 今のうちに!」
「どうしたの! ルフィさん!?」
あの女の子の仕業か。
目を細めて殺気を向けたくなる。
「助ける気がでねぇんだ
はやく助けてぇのに!!」
ドガッとルフィは自分の頬を殴る。
その足元には黒い絵の具が描かれていた。
「ハァ……ハァ……助けるから!」
「なんてやつだガネ。まさか手を抜いてるんじゃあるまいな?」
「こいつがしぶといだけ。黒い絵の具に触れたらどんな相手でも裏切りたくなるのに」
画家の女の子が、ペタペタとルフィの身体へ黒の絵の具をさらに塗ってる。まるで自分色に染めてて、あいつ絶対許せなくなってきそう。
この間にも、私たちへ蝋は降り続けてる。
「たすけ……る!!」
ルフィは自分の足をガンガンと強く握る拳で叩きながらも、私たちのところへ歩いてくる。手足に塗られた黒いインクを足元に垂らしながら。
「なに、なんなのこいつ……?」
ルフィは色んな色を塗られた。
笑いの黄色も
悲しみの青色も
闘牛の赤色も
なごみの緑色も
「効かん!!」
拳を強く握って、爪を突き立ててる。
気合いと、自分の血の真紅で塗り替えてるんだ。まるでその瞳に誰かしか映ってないように、無防備な姿だけど、一歩ずつ歩み続けてる。
拳から滴る血が、道を作っていた。
「ちくしょう これじゃ間に合わねぇ!」
蝋で固まってきて、白く霞んできたけど、私は彼の姿を瞳に映し続けたかった。こっちへ向かってきてくれるから。
「なかなか芸術的な光景だガネ!
ぜひありのまま美を残したい!!」
ルフィがゆっくり手を伸ばすから、私もゆっくり手を伸ばすけど、全く届きそうにない。あれ、私、このポーズで固まっちゃうのかな。
まるで私、ルフィに助けてもらいたいお姫様じゃん。
「蝋は火で溶ける! 必殺火炎…ガハッ!?」
「まだ立ちやがるか」
ドガンって音、全身黒焦げにされてるけどウソップはまだ立ち上がろうとしてる。でもサングラスのおじさんに邪魔されて、手に持つパチンコを地面に落としちゃったみたい。
重くなる女に踏まれながらも、ウソップはカルーにロープを託した。あれが打開策になってくれるといいけど。
でもダメだ、ルフィたちが頑張るところを見ていたいのに、声を聴いていたいのに、もう全身が蝋で固まってきちゃった。
呼吸も限界だ。
視界が暗く。
太陽が届かないなんて。
そんなのヤダ。
涙がいっぱい目から出て。
あー、でもこれって。
溶けた蝋じゃん。
「って、あっつぅい!!」
私は燃えてる探検服の上着を脱ぎ捨てて、炎から出る。
「う~、さいあく~」
髪は溶けた蝋でベトベトするし、全身もべちょべちょで、乾いたらまた固まっちゃいそうだ。
上着を脱いだのが早かったから、中に着てたシャツもかなり燃えちゃって、赤いリボンのついた白い下着がかなり見えちゃってるし、ナミのほうが黒で大人っぽいし。
「ぅ~」
「えっと~」
ルフィが目をパチクリさせて、こっちを見てくるのが恥ずかしいんだけど。
「ともかくウタ、無事でよかった!」
「待って。今ちょっとヤバい格好だから!」
嬉しそうに飛び込んできそうなルフィを、私は手のひらで押し留める。もう片方の腕で、最近また大きくなってる胸を隠しながら。
えーと、サングラスのおじさんはゾロが、キャハハな女のほうはナミとビビが、それぞれ倒したみたいだし。
あとは、3のやつと、絵描きの女の子かな。
「一旦退散するガネ!」
「あっ! てめぇ!!」
「さっきルフィに落書きしたやつも!」
ルフィに落書きなんて幼馴染の私でもしたことないのに、逃がさないんだからね。ほら、私色に染めるみたいな感じで、うらやまけしからんよ。
私たちは3のやつらが逃げていくので追いかけるけど、その先の森にはたくさんの3のやつがいた。全部蝋と絵の具でできてるみたいだし、なかなか手強いコンビだね。
「ふっふっふ、我らは最高の頭脳派コンビ、本能で動くパワーバカの君には私を捕まえることなどできんよ」
いろんなところから聴こえるけど、私の耳は、機械的な音声じゃ欺けないから。てか、まずしゃべらなくていいのに。
「ルフィあれ!」
「よっしゃ! ゴムゴムのスタンプ!!」
私が指差した方向へルフィの蹴りがまっすぐ向かった。
「なぜ……ここだと……」
「そりゃあ私が頭脳派だもん♪」
「ししし あとはそいつだな!」
「キャー!?」
ひょこっと顔を見せた女の子の頭を、ルフィの代わりに私がポコンとゲンコツした。まだ子どもみたいだから、今回はこれくらいと煎餅没収でいいかな。
「ところでさ、ウタ。これでも着とくか」
「ぅ……ありがと」
脱いで手渡された赤いシャツを上から羽織るけど、ゆったりとしたサイズだ。ルフィのくせに生意気で、珍しく紳士的で、上半身裸でムキムキで、なんだかますます顔が熱くなるじゃん。
虫もいっぱい飛んでるから助かったとルフィへ感謝しつつ、私たちは森の中から皆のところへ戻っていく。
そして、嬉しいことがあったんだ♪
奇跡的にブロギーさんの武器が古びていて急所まで届かなかったドリーさんは無事だったんだ。私たちからすれば滝のような涙を流しながら、幸せそうに抱き合ってた。
あと、何かと薄着になってる私たちに興奮しながらも、解説してくれたサンジはいろいろしてくれたみたいで、ともかく本来は1年ここに滞在しなきゃだったけど、すぐにアラバスタへ向かうことができるみたい。
偉大で巨大なドリーさんとブロギーさんの温かい笑顔に包まれながら、私たちは出航した。
海を割るほどの巨大な一撃の強さに、憧れを抱いて。