麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第30話 ワポル

 さっきから目立っているのはブリキの王様だけど、他にも家臣の幹部クラスが二人、そしてキノコ頭の王様がいる。

 

 ルフィはキノコ王へ目を向ける。

 まるで警戒するように。

 

 こいつが凄くヤバいって私にも分かる。

 

「弟よ」

「なんだい、(あん)ちゃん」

 

「お兄たまと呼べっつってんだろーが」

「ごめんよ(あん)ちゃん」

 

「分かればいい。あの旗が気に食わん話だ」

「ああ、俺様達の城を取り戻そうか」

 

 城の頂点で風に靡くドクロの海賊旗へ喧嘩を売るような視線を、私たちに向けた。チョッパーは一瞬怯えたけど、それを遮るようにルフィがドンッと、雪の地面に拳を押し付けた。

 

「あっちのキノコは俺が倒す。ギア2!」

「援護はいる?」

 

 ポンプで血流は加速し、寒空の中では身体からいつも以上に蒸気を放ち始める。ルフィの真剣な背中を初めて見たチョッパーは、戦いの緊張を感じてゴクリと息を呑んでる。

 

「いや、チョッパーとばあさんの援護を頼む。ウタは病み上がりだしな」

「うん、任せて。だから負けないで」

 

「誰がばあさんだって?」

 

 いくら少しずつギア2に耐えられる身体になってきていると言っても、負担は大きいと思う。本音はウタで負担を小さくしたいけど、敵の数が多いからルフィ1人でキノコ王とはタイマンしてもらうしかない。

 

「ぬ、来るか」

 

 ルフィたちの姿が消えて、次の瞬間には、その拳がぶつかり合っていた。

 

 凄い衝撃の音だし、空気が震えてる。

 

「なっ! (あん)ちゃんと互角だってのか!?」

「は、速ぇーー!?」

 

 ルフィが痛みで顔を(しか)めているけど、パンチのぶつかり合いでダメージを受けるなんて、ゴムの性質が十分に発揮できていないってことかな。しかもまだあのキノコ王にはまだ隠し玉がありそうだし。

 

「ゴムゴムのJET(ピストル)!」

「スピードでは負けているか」

 

 バキューンってルフィの一撃は当たったはずだけど、身体から生えているキノコの一部が抉れたくらいだった。たぶん蝋人間の3のやつと同じく、キノコは生やせても本体は別にキノコじゃないタイプだ。

 

 だったら、意識外からの攻撃なら通用するってルフィも閃いてると思う。

 

「どうした。もう息が荒いな」

「お前みたいなカバの、ヘボなパンチなんて(あん)ちゃんには効かねぇよ!」

 

「ハァハァ、ここ空気が薄いな

 それになんだか身体が……」

 

 確かに、この城に住んでいたならともかく、私たちはこの標高の高さは結構不利かもしれない。それに、吹雪が来る前に決着をつけないと寒さでますますきつくなっちゃう。私がチョッパーを見つめて頷くと、とても賢いから通じたようだ。

 

 ルフィの強さを見て、チョッパーも勇気づけられたみたいだし、身体がみるみる変形して、クマさんのような大きさになる。

 

「ドクターの信念は、俺も守ってみせる!」

 

「あのバケモノは!?」

「ヒルルクの最期で現れたヤツか!」

 

「お前ら! あの目障りな旗ごとどうにかしろ!」

 

 恐らく幹部クラス、1人は矢を、もう1人はアフロを、それぞれ構えていて、ルフィたちの喧嘩を邪魔しそうかな。駆けつけてくれる足音で、私はまだ動かないけどね。

 

胸肉(ポワトリーヌ)シュート!」

「ぐぁ!?」

「チェス!?」

 

 フゥーと、両足を雪につけたサンジがタバコの煙を吐いた。

 

「チェスだかなんだか知らねぇが、お前ら程度にキングやクイーンたちへ指1本触れさせねぇよ」

 

「おや、医者の前で怪我を悪化させる気かい?」

 

 ナミが眠る城を守るように、城の入り口へナイトがそびえ立った。

 

 煙草を挟んでいる指はグルグルと包帯に包まれていて、くれはお姉さんの言う通りまだ本調子じゃないと思うけど、ここでじっとしていられるような人じゃないよね。

 

「あいつらなんて、脚だけで十分だ」

「ほう、言うじゃないか」

 

 サンジは大丈夫そうだね。

 問題は王様たち2人の相手なんだけど。

 

「俺とルフィが他のヤツを片付けておくから、ウタちゃんたちはあのクソカバを相手しててくれ。病み上がりだから程々にな」

 

 サンジが雪の地面を蹴って、2人の家臣たちへ向かっていった。チョッパーは自分がメインに戦う必要があると自覚したみたいで、私を守るように立った。

 

「お、お前の相手は俺だ!」

「一応、私もいるよ!」

 

「ほう、ならば姫に俺の力を見せてやろう! バクバクの実の力、ワポルハウス!」

 

 ガチャンガチャンと、身体のブリキの面積が増えて、まるで動物系のように変形していくけど、たぶん超人系の能力だね。食べた物の特性を得るような能力だと思う。

 

「どうだ!?」

「えっ、可愛くない」

 

 身体は家、両手は大砲。

 変形は好きだけどデザインがイマイチ。

 

 でも、こいつ口だけじゃない強さだ。

 

「ぐぬぬ…… ええい! まずは不甲斐ない家臣の代わりに、俺様直々にあの旗を折ってやる!」

 

「や、やめろぉー!」

 

 ドーンと放たれた砲弾へ、チョッパーは手を伸ばすけど、届かない。

 

 でも間に合うよ。ウタなら。

 

「ウタウタの(カーテン)♪」

「すごい! 受け止めてる!」

「なにィー!?」

 

 空中に作った赤い五線譜で、砲弾を受け止める。いつも通り威力を減衰して、その伝搬する波を上手く反射させて、どうにかこれを反撃にしたいかな。

 

 イメージはゴムゴムの風船で。

 

いくよっ

「フェルマータ 反発(バウンド)!」

「カバなぁー!?」

 

 ドガンって砲弾がかなりの爆発だけど、残念ながらブリキの家が少し削れたくらいだ。

 

 あの防御力を貫くには、それこそパワータイプのルフィをメインに戦いたいけど、チラリと見たら結構きつそうだし、早く援護にいきたいな。

 

「ありがとう! 大事な旗なんだ!」

「うん、どういたしまして」

 

 チョッパーが笑顔で喜んでいる。

 だったら、あの旗も守らないとね。

 

「やれやれ、姫も悪魔の実の能力者だったとは。高貴なる髪型といい、優れた容姿といい、俺様とお似合いということだな!」

 

「あんたのために女磨きしてるわけじゃないもん」

 

 女の子はかわいく見られたいものだけどさ、こんなヘンなやつに告白されても嬉しくない。それに、私的にはブリキの王様の容姿、お世辞にもカッコよくはないし。

 

「しかし、先ほどの歌はまるで人魚のように俺様を魅了して……」

「あ、そういうのいいんで」

 

 真顔で手のひらを向けちゃった。

 

 私の好きな男性のタイプという項目に、(うわ)ついた言葉で口説いてこない人というのが追加された。

 

「なにィ!? この俺様に口説かれて全く惚れないだと!?」

 

 どこに惚れる要素があったんだろう。

 

「くそぉ、思い通りにならねぇ女だ! こうなったら、(あん)ちゃん! その麦わらの男は生かしておいてくれ!」

 

「お兄たまと呼べ! キーック!」

 

「ぐぁー! 痛ってぇ!?」

「ルフィ、大丈夫!?」

 

 ルフィが蹴り上げられて、雪を転がってきたんだ。

 

 やっぱりゴムの特性が発揮できてない。モクモクしたおじさんの時に抑えつけられた時とはまた違った様子だ。どちらかというと、ガープおじいちゃんにゲンコツされた時と似てる。

 

「ムッシュールのやつ覇気を身につけてやがる」

「おい、お前大丈夫か!?」

 

「ゴボッ……なんだ、やっぱり身体が痺れて……上手く身体が動かねぇ……」

 

 ギア2のルフィが、勝てない相手なんて。

 しかもルフィはもう負担で血を吐いてる。

 

「そうか! 聡明な俺様は分かったぞ! カバだな! 毒の胞子をカバほど吸ってやがる!」

 

 もしかして、ルフィがキノコに攻撃を当てる度に胞子が出ちゃってて、接近戦をメインにする以上、ルフィが不利なんだ。ギア2を使うことでいつも以上に酸素を取り込んでいることもあると思う。

 

「弟よ」

「なんだい、(あん)ちゃん」

 

「お兄たまと呼べっつってんだろーが」

「ごめんよ(あん)ちゃん」

 

「分かればいい。あの男を殺すなって話か?」

「瀕死でもいいぞ! 医者どもに治させるからな!」

 

 ルフィはフラフラと立ち上がって、地面を蹴って再びキノコ王へ飛び出していったけど。

 

 その一撃で決めるつもりなんだ。

 ルフィは両腕を伸ばしながら走っていく。

 

 でも。

 

「ゴムゴムのぉ~」

「ルフィ! ダメ! ギア2が解除されてる!」

 

「動きが鈍いな。もはや止まって見えるぞ」

 

 腕のキノコが黒くなって、そしてどういう原理なのか回転し始めた。

 

 腰を落として踏み込んで、まるで鋼鉄のドリルのような正拳突きが、ルフィに突き刺さってしまう。

 

「これが俺の必殺技、三相胞子(さんぞうほうし)!」

 

 ルフィの身体は地面を離れて、服が抉れて、止まらないドリルが身体を削っていて、おびただしい血が流れてる。逃げることもできないルフィは天を見上げて、攻撃を受け続けるしかない。

 

ガァァーー!?

 

 あの技、一撃の威力とかじゃないから、必殺技とは呼べなくて、むしろ『拷問』だ。傷口からどんどん直接毒が入ってて、ルフィの顔色がますます悪くなっていってる。

 

「ルフィー!? 」

 

 ダメだ、早く助けなきゃ。

 でも動揺しちゃって、どうすれば。

 

「そいつを離せー!」

「おっと、殺すところだった」

 

「ワポルキャノン 発射ァ!」

 

 ドガーン と非情な音が鳴った。

 

 チョッパーが動いてくれたけど、投げ飛ばされたルフィを抱きかかえているところへ、砲撃が浴びせかけられたんだ。しかもあのブリキの王様、むしろチョッパーを狙ったんだ。

 

「ァ……」

「チョッパー……すまねぇ……」

 

 チョッパーは咄嗟にルフィを守るように背中で受けてくれたようで、煙の中からあちこちが焦げた姿が現れた。

 

「この動物は狩っていいんだな」

「やらせるか!」

 

 いまだ回転し続けているドリルが、チョッパーとルフィを貫こうとしたけど、駆けつけてくれたサンジが腕部分を蹴って空中へ弾いた。

 

「こいつらを頼む!」

「指図するんじゃないよ」

 

 手刀で飛んでくる矢を撃ち落としたのも凄いけど、アフロを避けながら、くれはお姉さんがルフィたちを抱えて、私のいるところまで退避させてくれた。

 

 脱いだコートで傷口を必死に抑える。

 凍てつく寒さで身体が震える。

 

「ルフィ、死なないで……」

 

 傷口から溢れる血が止まらなくて、もしルフィが死んじゃったらどうしようって思うと、もっと震えてくる。

 

「ウタちゃん、ルフィは!?」

「息は、してる、けど……」

 

 サンジも一度こっちまで戻ってきた。

 一度仕切り直せるけど、被害が大きすぎる。

 

「さすがだな! これならあのムカつく海賊がまた来ても返り討ちにできそうだ!」

「ムッシッシ~ どうやら俺は強くなりすぎたようだな」

 

 ごちゃごちゃ言ってるけど、私から見てもキノコ王の戦い方はそこまで上手くない。力は強いけど力任せな戦い方で、たぶん実戦経験がそこまでないからだと思う。

 

 でもキノコの身体へ打撃が効きづらいこととか、攻撃の度に毒の胞子が出ちゃうこととか、あの硬く黒くなるやつとか、なぜかゴムの身体へ確実にダメージを与えられることとか。

 

 ルフィにとって相性が悪いんだ。

 立ち上がろうとする私は腕を掴まれた。

 

「俺が、守る……から……」

 

 まだ立とうとしてる。

 このままじゃルフィが死んじゃう。

 

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