駆けつけてくれたチョッパーも毛皮が焦げてて少なくない怪我をしてるのに、それより真剣にルフィの傷へお医者さんとしての目を向けてくれた。
私の本音はすぐにでもここからルフィを安全なセカイへ逃がしたいけど、ルフィの力強い腕がそうさせてくれない。
「ハァハァ……ゲホッ ゴホッ」
「ギリギリ内臓にまでは届いてないと思うけど、なんで口から……そ、そうか! さっきの赤くなるやつって! 血流を加速させてるのか!?」
ルフィがいっぱい血を吐いてる。
私が
「ハッ バカなことを思いついたもんだね」
「そんなの心臓が破裂するぞ!?」
「やっぱりクソ無茶なことしてたのかよッ」
「ゴム……だから!」
ガンッと拳を押し当てて、とうとうルフィは立ち上がってしまう。私のコートをお腹周りへギュッときつく締めて、まだ立ち向かおうとしてるんだ。そこまでして、死ぬ気で私たちを守ろうとするのは知っているけど。
「誰も喪わねぇように、俺はッ!」
「ルフィ、今はダメ!」
再びギア2を発動しようとしたから、傷ついたお腹から血がさらに流れ始めちゃう。
「いい加減しぶといな。もう飽きた」
「
キノコ王の両手にすごくイヤな紫色のキノコが出てきて、ブリキの王様たちがそれを見て慌てている。といっても、退避できる場所は城くらいで、少しでも後ろに逃げようとしたら、真っ逆さまに山から落ちてしまう。
「あいつ! まさかここで始める気か!?」
焦った声を出したくれはお姉さんが踏み込んで、素早い脚技で、上方向へ片手を弾き飛ばしたけど。
「邪魔だ!
まだ片手のキノコが残っているんだ。
「ドクトリーヌ!?」
「……アレじゃないとはいえ、ここまでの毒に育ったのかい」
紫色の雪みたいな粉、たぶんキノコの胞子だけど、それを目の前で受けてしまっちゃった。
「あんたらの父親が浮かばれないね」
「知るか、あんな面倒なやつ」
「ああ! 死んだ時は清々したぜ」
ドサッと雪が優しく受け止めるけど。
くれはお姉さんも倒れてしまった。
チョッパーから小さな声が漏れる。
「俺は思いっきりこの能力を使いたいのに、どいつもこいつも面倒なんだ。あの国はとにかく暑かった。身体もどんどん
そして、くれはお姉さんをこっちにまで蹴り上げてきた。
「弟が王になれば、俺は再び王子に戻れる。だから俺は海賊から国を取り戻さねばならん」
チョッパーが顔を近づけて容態を見ているけど、素人の私でも顔色が悪いって分かる。サンジが私たちを守るように立ってくれるけど、ルフィが勝てなかった相手だから、迂闊に攻めるのはマズいって分かってると思う。
チョッパーも怒ってる。
獣のように叫んでる。
「ウガー! よくもおお!」
「チョッパー、お前じゃ、勝てねぇ……」
「近づかんほうがいいぞ?」
いまだ手持ち無沙汰だった手のキノコを私たちへ向けたけど、ルフィの声を受けてチョッパーは立ち止まった。だって、医者のチョッパーが倒れたら、それこそ誰も治療ができないから。
ブリキの王様は慌てて家の窓を閉めるようにマスクを作ったけど、あいつらの家臣たちは逃げることもできない。
「もう1発いくぞ、
毒胞子の攻撃を防ぐべく、私はルフィの腕を取って、そっと地面に置いた。
「旋風よ!!」
風の
「おい
「お
私がこれを防げれば、ルフィはまた復活して、倒してくれるって信じてる。能力や戦い方の相性が悪くてどんな不利な相手だって、ルフィは勝機を掴み取ってくれると思うから。
でも。
やっぱりここは空気が薄い。
結構きつくて、息が、もう限界
「おいルフィ、何してやがる!?」
「お前危ないぞ!?」
「ちょっと、ルフィ!?」
ルフィが紫の煙へ向かって走り出しちゃったから、私はウタの途中で叫んでしまって、風が止まってしまう。
「スゥゥゥゥー」
空気をいっぱい吸う音。
ルフィの身体はみるみる大きくなっていく。
「バカな若者だね……」
「ブゥーーー!!」
膨らんだ風船から、紫色の煙を思いっきり吐き出したけど、ルフィはますます顔色が悪くて、紫色に変色した身体はフラフラとしてて、それでもまだ地面にドシンと足を叩きつけて、立とうとしてる。
「オレが……ウタもみんなも……守る……」
見てることしかできなくて辛い。苦しい。
私のウタでは癒すことができない。
「ま~っはっはっは!
あいつカバだ、本物のカバだ!」
「ムッシッシ~ これが俺のキノコよ」
「何笑ってんだよ!!」
黒い何かが私の中から込み上げてきそうだったけど、その前にチョッパーが叫んで、拳の体勢で走り始めた。
「お前らなんて! 俺が倒してやる!!」
「雑魚がうぜぇ」
ドンッと、硬く黒くなったキノコで足蹴りにされた威力で、大きなチョッパーは吹き飛んでしまって、その身体で城の壁を破壊した。その足のキノコはまた胞子を撒き散らしてたし、少なからず傷口に入ってしまっているかもしれない。
「このクソキノコが! 料理してやろうか!」
「なら お前も俺のキノコを味わってみろ」
足と拳が打ち合い始めた。
「クソ面倒な野郎だ。うちの船長が負けるのも頷ける」
サンジの脚技も、技のキレはともかく、威力で弾かれてしまってる。たとえ攻撃がヒットしてもキノコに当たって大したダメージにならなくて、毒胞子をまき散らして、まだ本調子じゃないサンジの身体を蝕む。
「ぎ、ギア……くそっ!」
「医者の前で死ぬ気かい! そんな身体でそれを使うとホントに死んじまうよ」
ルフィは震える膝を、無理やりポンプにしようとしてるけど、上手くいかないみたい。だってあんな傷の上に、毒まで受けてるんだもん。
サンジも胞子が付着した脚で、動きが鈍くなってきてる。やっぱり、ここまで登った疲れが取れてないんだ。
守られてばかりで。
今無事なのは私だけなんだ。
「いいことを思いついた。俺様は天才だ!」
ブリキの王様が両手を挙げて高らかに叫んだ。
「さあ、姫よ! お前が俺様の物になれば、こいつらを治療して生かしてやろう! 俺様は寛大な王様だからな!」
さもなくば、ってわけね。
「やめろ、ウタ……」
「分かってるよ、ルフィ」
でもこいつの物になっても、どうせルフィは自由じゃなくなるよね。だったら、今唯一動ける私がどうにかするしかないじゃん。
私も命をかける覚悟は決まったよ。
病み上がりだとか、そんな甘えは許してくれない。
私も次のステージへそろそろ行かなきゃ。
「ウタ、あいつ、俺がぶっとばす、から」
「休んでて……ウタウタ
私は
力を貸して、シャンクス。
「すぅー ギア
両手で
よかった、まだ反応できてない。
せーのっ!
「スタッカート♪」
「グォ!?」
「ゲボッ……ゴボッ……~♪」
なんとかキノコが硬くなる前に、油断していたことが大きいと思うけど、斬撃を浴びせられた。でも与えられたダメージより、私はそれ以上に血を吐くくらいきつい。
うるさい心臓は悲鳴を上げてて、でも
「姫もカバなのか! 死んでしまうぞ!?」
「やめろ、ウタ、それ……」
私の思い描いたギア2の完成型だけど、足りない身体能力を補うために、結局はルフィのやつを参考にしちゃてるもんね。
その上で、足りない技術を補うために、世界最強の剣士を少しトレースしてるから、身体を無理やり動かしちゃってる。
「弟よ。お兄たまは手加減は苦手だ」
「そこをなんとか~!」
やっぱり立ち上がってきた。
でもまだ油断していてくれる。
私の力はまだまだ足りないからね。でもウタは最強だから、最強を思い描いて、ギアを上げて、自分を最強にするしかないじゃん。
「炎よ、燃やし尽くせ♪」
「俺は火などもう恐れん!」
思ったよりウタのイメージが足りなかったんだ。
炎の弾丸を硬い黒キノコドリルで弾かれちゃう。
「さっきから忌々しい歌だ!
「暴風よ、拒絶せよ♪」
息継ぎで空気を吸わなきゃいけない以上、キノコの胞子はキツいから、一気に暴風の竜巻で押し返した。この状態なら私の
「カバな! こっちまで来るぞ!?」
「なにっ! 無事か弟よ!?」
私は追い風で加速しながら一気に近づく。
「テンペスト・スタッカート!!」
「
黒キノコドリルとぶつかって、凄い衝撃波が来るけど、もし
でもこのまま押し切らないと、もう身体が持ちそうにない。
だから、力を貸して。
「カバな!? なぜあいつが動ける!?」
「どうした弟よ!? ぬお!?」
「ゴムゴムのJET
バキューンってドリルの腕を少し逸らしてくれた。むしろ黒く硬くなってるところが衝撃が伝わりやすいんだ。戦いの時のルフィの閃きはいつも驚かされる。
「しまった!?」
隙ができた音。
私は暴風の
ドーーン、と雪の地面へ叩きつけた。
「ぐそぉ! どこからこんな力がッ!?」
これでもまだ倒しきれないなんて。
「くっ、なぜあの麦わらの男が立てる!? あのカバは、カバなことをやって毒で死にかけのはず!?」
ブリキの王様が負け惜しみを叫んだ。
だって私には仲間がいるもん。
俺が!ってチョッパーの勇ましい声が聴こえた。チョッパーにしては急に冷静さを欠いた突撃だったんだけど、飛ばされた向こうで特効薬を作ってくれたんだと思う。
空中から落ちたルフィはギア2が解除されて、すでに雪の上に伏せたけど、ルフィの快復力と火事場の力に賭けたんだ。
「お前の毒を解析して、解毒剤を作った!
毒キノコのことはいっぱい調べたんだ!」
「カバなことを言うな! いくらなんでも治るのが早すぎるだろ!?」
「ヒッヒッヒ バカみたいな若さと、愛ってやつかね?」
「ウタちゃん、やれー!」
「ウタ、決めろぉー!」
せーのっ!
「フィナーレ♪!!」
暴風は勢いを増して、キノコの身体を斬り刻んでいく。たとえ新たにキノコを生やしたとしても、暴風が何もかも破壊して、いつの間にか黒くて硬くなるやつも解除されてる。
「
「お
キノコ王って打撃に対して強い能力だったけど、斬撃が弱点だったのかな。それとも、凄く熱い炎か、能力の発動が間に合わないくらい全身に攻撃を当て続けるか、だったのかな。
ともかく。
「やっ……た……」
キノコ王が白目を向いて気絶している姿が歪む視界に入って、ほっと息をつくけど、死にそうなくらい苦しい。
冬島の気温のせいだけじゃない、身体が凄く冷たくなって、震えるくらい寒い。死にそうなくらい寒い。
「ウタ!?」
「ルフィ……治ってよかった」
温かい。ポカポカする。
これ、おんぶしてくれたときの暖かさだ。
「私も貴方を守るから。これからも助けてね」
ルフィへ、ギューって強くしがみついた。