麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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プロローグ その4

 

 ビヨーンビヨーンってなっている。

 

 シャンクスが昔作ってくれたものに、水風船というものがあったけど。

 

「爺ちゃん! 俺は海賊王になるんだ!」

「なぁにが海賊王じゃあ!」

 

 なんなの、このお爺ちゃん。

 年齢とか関係なく人外でしょ。

 

「ルフィ! お前は最強の海兵になるんじゃ!」

「イテテ なんでゴムなのにイテェんだ!」

 

 わー、やっぱり人外、能力者の私たち以上だよね。

 

「おっと、すまんな。無意識に使ってしまっておった。儂も年じゃな。あと儂は普通のおじいちゃんじゃ」

「えっ、どこが?」

 

 たぶん私の心の声とか読まれている気がするし、少しでも(ウタ)おうとしたらまたあの岩のように大きな拳でゲンコツされちゃう。

 

 軽い荷物みたいに腕に担がれた私や、大きな指でつままれているルフィは、海兵なお爺ちゃんに危険なコルボ山へ連行されていた。

 

 『悪いようにはせん』とは言っていたけど、海賊の私たちはこれからどうなるんだろう。シャンクスの娘だって自信満々に自己紹介したり、海賊王になる夢を言ったり、それだけなのにゲンコツされちゃったの。

 

 目的地に着いたようで、古い小屋の扉を壊れるくらいにドンドンとノックした。

 

「うるさいよ! 一体誰だい!?」

「儂じゃよ。」

 

「ってガープさ~~ん!?」

「「ギャー―」」

 

 かなり太っているおばさんとか、たぶん山賊たちが、次々と家から出てきて整列した。あいつらのせいで山賊にはあまり良いイメージはないけど、ガープさんの被害者なら意気投合して仲良くなれそう。

 

「そろそろ勘弁しておくれよ!」

「エースはもう10歳で手に負えねぇ!」

 

 私よりも1歳年上なんだ。

 まあそんなに私と変わらないでしょ。

 

「まさか!? その子たちもぉ~!?」

「儂の孫と、知り合いの娘じゃ」

「知り合いの娘くらいもう少し大事に扱えー!」

 

 あっ、やっぱりこのおばさんたち、意外と良い人たちだ。

 

「え~ 今日からここに住むってこと?」

「なぁウタ、探検しようぜ!」

 

 降ろされたら瞬間に、犬みたいなルフィに引っ張られて走らされる。背中に見える小屋はあまり綺麗じゃないし、着替えだってちょっとしか持ってこれなかったし、マキノに会えないし、たとえちょっとの期間でもあまり気が進まない。

 

 私たち2人でフーシャ村に戻ろうにも、たぶん危ないんだよね。

 

「うわっ、なんだこれベトベトする!」

「初対面でツバかけるなんて!」

 

 木の上にいる男子の仕業のようだ。鉄パイプを持ってて、全身泥まみれだし、清潔感の欠片もない。ガープさんが言っていたエースなんだと思うけど、今のイメージとしては最悪レベル。

 

「なんだガキ2人か」

 

 木から降りてきたエースは、大きな牛を軽々と引きずっていて、ほぼ同年代として強さで負けた気分になっちゃうし。

 

「おい! あやまれ!」

「ルフィにごめんなさいして!」

 

 うがーって両腕を挙げて文句を言うけど、聞く耳を持たずに通り過ぎていく。こいつもガープさんにゲンコツされればいいのに、山賊たちと話している間にこっそり家へ入って行っちゃった。

 

「ルフィ、それと赤髪の娘、この山で根性を叩き直すんじゃ!」

「「は~い……」」

 

 ガープさんは鼻歌を歌いそうなくらい『良いことをした』って感じで去っていくけど、幸先が不安って言うんだっけ、こういうとき。

 

 ていうか、私まで海兵にするつもりなのかな。

 

 小屋の中は掃除はしているようだけど、かなり古くてこの人数で暮らすにはかなり狭い。しかも女子が山賊のリーダーのダダンしかいなくて、この人も男勝りでガサツだし、早くマキノに会いたいよ。

 

 荷物を置いた私たちはお昼ご飯を食べたけど、お茶碗1杯のご飯とちょっとのお肉しかくれなかったし。ルフィはもちろん、人の何倍も食べるし、私もそれなりに食べるほうだから、ぐ~とお腹が音を立てる。

 

 まあダダンにはいろいろ脅されたけど、放任主義ってことかな。エースは満腹になったおなかをさすりながら、鉄パイプを持ってすぐに出かけるみたい。

 

「よっしゃウタ! 食い物探しにいこうぜ!」

「ししし 言うと思っていたわ」

 

 もし私だけならイヤになっていたかもしれないけど、ルフィといればなんとかなるでしょ。だってこいつは私のボディーガードだし、サバイバル経験もある。

 

「3人そろってたくましすぎるぜ! しかもガープの孫なんて絶対トラブルメーカーだろ~!?」

 

 ダダンがガープさんに文句を言っているのを無視して、私たちは森へ出かける。

 

 村長やマキノは危険だから行っちゃダメって言っていたけど、これくらいのサバイバルで生き残れないと、海賊としても強くなれないもんね。

 

「おーい! エース!」

 

 先に出かけた木の上にいるエースへ、ルフィが呼びかけた。

 

 別に放っておいていいと思うけど。

 

「俺ルフィ! こっちはウタ! さっきのこと怒ってないから! 友達になろうぜ!」

 

 麦わら帽子を被って、大きく手を振っているルフィの背中、シャンクスと重なって見えた気がした。

 

「お前らは家で大人しくおままごとでもしてろ。女、子どもにはあぶねぇ」

 

「ぐぬぬ……」

「ちょっとあんたね!」

 

 言い返せなくて悔しい。

 

 ルフィも悔しそうな顔を、ブカブカの麦わら帽子を引っ張って隠そうとした。

 

 確かにシャンクスたちがいない時、私はこんな危ない森に出かけたことなんてない。むしろ2歳も年下のルフィがガープさんに連れられてサバイバル生活を経験したことがあるくらいだし、私、今まで甘えてばかりだったんだ。

 

「……もしかして心配してくれてるのか?」

「は? そんなわけねぇだろ」

 

 ルフィのふとした呟きに、エースはまた軽々と木から降りてきて、鉄パイプをクルクルと回した。

 

「お前らの親が見てみたいもんだ。とんだ甘ちゃんのようだな」

 

「へぇ? やるっての?」

「喧嘩ごっこだな!」

 

 さっきから挑発してくるエースには、ちょっと私たちの修行に付き合ってもらおうかしら。私の父親のシャンクスに会ったら、デコピンだけでエースなんて吹き飛ぶんだからね。

 

 まずはルフィの番のようで、グルグルと腕を回す。

 エースは挑発するように手のひらをクイクイッとした。

 

「うおおお ぴすとる~!」

「腕が伸びただと!?」

 

 ゴム人間になってから何度も練習してきているルフィのパンチは、確かに腕が伸びたけど、コントロールがまだまだのようで、地面にバウンドしてから自分の顔に当たっちゃった。

 

「くっ、やるなエース」

「まだ何もしてねぇよ!? 」

 

 さっきまでクールぶってたのに、エースってば大口開けちゃってさ。

 

「今度は私ね。せーのっ! ぴすとる♪」

 

 ルフィとは違って、私は憶えてない頃から能力者だったんだからね。そりゃあ最近は現実で能力を発揮する方法を考えているけど、私の指先から出るウタの音符は、音の速さなんだから。

 

「はやいッ!? ぐわー!?」

 

 バキューンって音符がエースへ当たった。

 

「どうよ!」

「ウタすっげー!」

「撃たれたのに、撃たれてねぇ!?」

 

 そういえば、撃つことに集中しすぎてたかな。

 

「てめぇはこけおどしかよ!?」

「音符が爆発するなんて危ないじゃない!?」

 

 こっちは最近ようやく音符が現実で見えるくらいになってきたんだから、だいぶ進歩したんだからね。ウタワールドで思い描いたことを形にするのって結構むずかしいんだよ。

 

「ジジイが言ってたな。さてはお前ら、悪魔の実の能力者だな?」

 

「おう! ゴムゴムの実を食べた!」

「私はウタウタの実ね」

 

「……なんかドンマイ」

 

 私とルフィは首を傾げてコツンってする。

 ゴムになったからかなり柔らかいや。

 

「だってどう見ても、戦い向きの能力じゃねぇだろ」

「なんだと! ピストル以外にもすげぇの考えてんだ!」

「私だってウタの力でみんなを幸せにするんだからね!」

 

 やっぱり生意気な男子ね。こうなったら、強くなったら、一回エースを泣かせてやるもん。

 

「付き合ってらんねぇ。大人しくダダンの世話になっとけ」

 

 エースは背中を向けて地面を蹴った。

 

 この日からエースと対決が始まった。

 

 私たちは来る日も来る日もエースと追いかけっこをした。私もルフィもそれなりにトレーニングしていたから崖を登ることくらいは簡単だけど、エースは何倍もの速さで素早く森を駆け抜けていく。

 

 あちこちから獣の声が鳴り響き、カコクってことはすぐに実感させられた。

 

 ワニがうようよいる川を渡ったり。

 ヘビが草の中に隠れていたり。

 巨大な翼を広げてタカが空から襲ってきたり。

 トラに追いかけられて全速力で逃げたり。

 

 かわいい服と靴はボロボロだし、髪をセットする元気なんてないし、お腹がすいてカエルも食べたし、そのうち治るといっても傷だらけでお風呂でしみるし、ダダンのいびきはうるさいし。エースだけお腹いっぱい食べるし。

 

 シャンクスやマキノには甘えられないし、たぶん昔の私だったら、そしてもしもルフィがいなかったら、こんな苦しい生活からすぐに逃げ出していたと思う。帰れないまま夜になって、狭い洞窟の中で小さく2人で野宿することもあったくらい。

 

 

 でもこの3ヶ月は無駄じゃなかった。

 私たちは一歩ずつ強くなることができたんだ。

 

 

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