麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第32話 Dr.くれは

 

 キノコ王は倒せたけど、私に対する慢心だとか、実戦経験の少なさとか、能力の相性だとか、どれも欠けてたら倒せなかったと思う。

 

「ウタちゃんは!?」

「大丈夫だ。息は安定してきてるぞ」

 

「ウタ! 寝るなよ! ここで寝たらまた風邪引くぞ!」

 

 ギア2の余韻でまだ熱を持っているルフィの身体へ精一杯ギューってしがみついて、生きるために必死に体温を分けてもらっていた。思い描いた私のギア2、もうちょっと考え直さないと、ルフィをいっぱい心配させちゃうな。

 

「お前たち! 油断すんじゃないよ!?」

 

 くれはお姉さんの焦る声が聴こえたけど、そういえばまだ動けるブリキの王様がいたんだった。

 

「最初からこうすればよかったのだ!」

 

「あいつ、兄貴を食べやがったァ!?」

「クソ野郎、そこまでやるのか!」

 

 バクバクと、ブリキの王様は兄を食べてる。

 そしてその外見は変化していく。

 

たった2人の兄弟だろうが!!

 

 ルフィが本気で怒ってそう叫んだ。

 

「だからこそよ! 俺様が悪い海賊から(あん)ちゃんを守るのさ!」

 

 乱心っていうのかな。

 ブリキの王様の様子がだいぶおかしい。

 

「王妃も国民も惜しいが、貴様らは全員処刑だ。もはや手段は選ばねぇぞ! 俺様の力で一度この国を浄化してやる!」

 

 さっきよりずっとスリムに変形した身体は、変わらずブリキを纏っていて、キノコがあちこちから生えてきている。まさかあいつ2つの悪魔の能力を同時に宿しているというの。『あり得ない』

 

「邪魔口、お前何する気だ!?」

 

「まっはっは~、10年に1度の大技、胞子爆弾(フェイタルボム)を打ち上げてやるのさ! 俺と(あん)ちゃんの力を合わせればこの島を覆うことだってできる!」

 

 聴くからにヤバそうで、さっきの毒キノコの胞子を島中にバラ撒くなんて、とんでもないことをしようとしてる。

 

「やめろよ! 一度逃げたとはいえ、お前はこの国の王様だったんだろ!」

 

「知るかバケモノ! どうせ俺様に従わず、あの海賊共から俺様を守らなかった奴らさ! しかも厳しいクソカバ親父のせいもあるとはいえ、(あん)ちゃんがこの島から追放されたことを喜んでいたカバな奴らさ!」

 

 だったら、と続けて叫ぶ。

 

「俺様たちで国を守るしかなかろうよ! 俺様は(あん)ちゃんを呼び戻すために、国を不在にしただけだ! だから逃げてなどおらん!」

 

 ブリキの王様は空高く両腕を大きく広げて、声高々に叫んだ。

 

王様なくして、国は成り立たん!

 

 それが貴方の王道なんだね。

 自分たち兄弟こそ絶対的な王族なのだと。

 

 

「なぁ人間、いやルフィ」

「なんだ?」

 

 チョッパーはルフィへ語りかけた。

 

「俺、今まで守られてばっかりだった。

 ドクターに、ドクトリーヌに、お前らに」

 

「そうか? 2度もお前に助けられたけど」

 

 だんだん顔色が良くなっているルフィの言葉に、チョッパーはピンクの帽子をクシクシと撫でて、嬉しそうな顔を見せた。

 

「ドクターはさ、全ての病気にドクロを掲げたんだ。治せない病気なんてないって言って」

 

 パタパタと海賊旗が、お城で靡いている。

 そこへ語りかけるように呟いた。

 

「ドクターの夢は俺が継ぐ。どんな病気でも治せる万能薬になる。世界一の医者に俺なるよ」

 

 だから、と叫んだ。

 

「俺、まずはこの国を救おうとしたドクターの思いを実現したい!」

 

 小さな手の中で挟んだ飴玉を口に含んだ。

 

「カバか! そこの麦わらたちは満身創痍じゃないか! お前みたいなちんちくりんに何ができる!」

 

「お前と兄を救うことだ! 飛力強化(ジャンピングポイント)

 

 向けられた砲弾を、ピョーンって躱した。

 今のチョッパーは細身で特に脚が太い。

 

「……ウタ、ちょっと待っててくれ」

「うん、ルフィ」

 

 ルフィが私を運んでくれて、くれはお姉さんと一緒にお城の壁にもたれかかる。

 

 くれはお姉さんに至っては腕組みして元気そうに笑ってるし、この人も解毒剤を飲んだとはいえ快復力が凄いな。

 

「ねぇ、あれは?」

「ランブルボールは悪魔の実の変形の波長を狂わせる薬さ」

 

 えーと、つまり、チョッパーの変形の種類が多くなるってことかな。

 

「仮にも動物系だからね。あいつなりに編み出した戦い方さ。負担は大きいが、まああんたら2人ほどじゃないよ」

 

「いや~ それほどでも」

「褒めてないよ、バカかい」

 

 毛皮が厚くなってさらにモフモフになったり、力強い人型になったり、小さな基本形態になったり、身体の大きさが変わることも使って、ブリキの王様を翻弄してテクニックで戦ってる。

 

 心構えも含めてちゃんと強いじゃん。

 指で作った四角に映る姿を私は目に焼き付ける。

 

「ちょこまかと面倒な!」

 

 その隙に、サンジとルフィも攻撃の体勢が整った。

 

「サンジ、思いっきり頼む」

「ああ。撃ってやるよ。空軍(アルメ・ド・レール)!」

 

 サンジの脚技の威力で、ルフィのロケットはさらに加速する。

 

「「ゴムシュート!!」」

「カバァーー!?」

 

 ルフィ自らが弾丸となって、巨大なブリキの王様を地面へ横に倒した。

 

 なんだか、たとえ合体しても2人をそれぞれ相手にしていた時より怖くは感じない。だってキノコの能力も、黒く硬くなるやつも使いこなせてないし、むしろブリキの王様自身も慣れない力に四苦八苦して動きが悪くなってる。

 

「ゴムゴムの、槍ィ!

 もういっちょ槍ィ!」

 

「ぐ、ぐぞぉ……この国はおれさまの物なのに……」

 

 バクバクと食べた胃を刺激するように、ルフィは何度も両足を叩きつけている。たぶんルフィが今戦ってる理由には、あのブリキの王様がお兄さんを食べたことに怒っていることもあるんだ。

 

「兄貴を食ってまで、国が大事なのかよ!」

「ぞ、ぞんなわげじゃ……」

 

 貴方にも大切な人がいるんだよね。喧嘩で負けたお兄さんを守るために、さらに力を求めて私たちを倒そうとしてきたんだもん。

 

 2人のお父さんが厳しい人だったのは感じてくるけど、そのせいで兄弟仲が凄く良いんだと思う。ブリキの王様は抑制された反動もあって、欲しい物を欲しがるばかりで、王様として大切なことがちゃんと見えなくなっているんだ。

 

頭脳強化(ブレーンポイント)診断(スコープ)

 

 名医のチョッパーが(ひづめ)で相手をよく観察して。

 

「よし、まだ間に合う。握力強化(アームポイント)

 

 両腕が凄く大きくなって、筋肉が隆起した。

 

「刻蹄 (ロゼオ)!!」

「ゴムゴムの槍ィ!」

 

 ルフィが両足を叩きつけると同時に。

 チョッパーも的確に内臓を蹄で強く押した。

 

「バ……ク……助けて(あん)ちゃん……お(にい)たま、俺が悪かったから……」

 

 そう呟きながら、大きな口からキノコ頭のやつが吐き出された。

 

「弟よ……俺たちの負けだ……」

 

 そして、ブリキの王様は、お兄さんへ向かって覆い被さって、静かに気絶した。

 

「よかったぁ~」

「ししし チョッパーのおかげだな」

 

 チョッパーは元のかわいい姿に戻って、雪の上へビターンって転がった。ルフィは膝を曲げて(かが)んで、チョッパーに笑いかけてる。

 

 静寂が流れて。

 パタパタと海賊旗が靡く音が聴こえる。

 

「こいつら、どうする?」

 

 新しい煙草に火をつけながら、サンジがチョッパーへ尋ねた。よく耳を澄ませば、毒にやられた家臣の人たちの呻き声も聴こえるんだよね。それに、いっぱい喧嘩したとはいえ、王様たちだってこのままここに放置するのはかわいそうだから。

 

「治療するよ。ドクターはこの人たちも救いたがってたから」

 

 

 晴れ晴れとした笑顔で青空へ語り掛けた。

 そうでしょドクター、って。

 

 

 あっ、思い出した。

 

「そうだ! チョッパー! 仲間になれよ!」

「これからやるけど海賊は宴とか楽しいよ!」

 

 そういえば、勧誘中だったんだよね。私とルフィはこれから忙しくなるチョッパーへグイグイと迫る。

 

「あんたらはまずきつく治療だよ」

「いってェー!?」

「いったァー!?」

 

 バタンキューって、くれはお姉さんのゲンコツがとどめになって私たちは倒れちゃう。確かに身体はもうヘトヘトで立ち上がることすらできないくらい限界だったんだった。

 

「俺、トナカイだけど、いいんだよな?」

「チョッパーがいいんだよ♪」

「気にすんな! 行こう!!」

 

 ゴシゴシとチョッパーは涙を腕で拭いて、目をキラキラと輝かせた。

 

「俺も世界を見て回りたい! いろんな薬を知って、いろんな本を読んで、世界一の医者になるよ!」

 

 そして、ニコッと微笑んだ。

 

「ルフィもウタもまた無茶しそうで心配だしな!」

 

「ウタほどじゃねぇよ」

「いやいや、ルフィのほうでしょ」

 

 ズルズルとくれはお姉さんに引きずられながら、私たち幼馴染は自然と口喧嘩を始めちゃうけど、ルフィのほうが血だらけでボロボロだもん。

 

「ねっ! いいかな? ドクトリーヌ!」

「ハッ! どこに行こうが知ったこっちゃないね」

 

 そう突き放すけど、両手が私たちの首根っこで塞がってるから、私たちには横顔に流れる涙を隠せてなくて、とても綺麗な表情だった。

 

恩返しにワンピースでも拾ってきな!!

そんな簡単に拾えるかァー!?

 

 大空へ響くくらいにチョッパーのツッコミが炸裂した。

 

 そして彼はニッコリと笑顔になって、大きくなって倒れてる人たちを運び始めている。サンジも手伝っているけど、お腹をすかせた人には誰でもご飯を食べさせるくらい優しいし、2人は似通ってるかもね。

 

 私とルフィは引きずられたまま、顔を斜めに向ける。

 

「なぁ、いいのか?」

「心配じゃないの?」

 

そりゃあ心配さ。

 うちのバカ息子を死なせたら、殺すよ

 

 若々しい母親の笑顔で、そう伝えてきた。

 やっぱり若さの秘訣が聴きたくなってくるよね。

 

 

 この夜、冬島なのに満開の桜が咲いたんだ。

 

 

 チョッパーのお父さんが遺した『薬』は、確かに国の人たちの傷ついた心を癒したんだ。

 

 ルフィは巨大なウサギたちに混じってお肉を食べたり、ゾロはくれはお姉さんや兵士たちと花見酒をしたり、ウソップはウソのような冒険話を子どもたちに語ったり、サンジはナミが食べやすい料理を作って看病してたり、ビビは次期国王や村長たちと未来を語り合ってたりしてた。

 

 今までトナカイの姿しか見せてなかったらしいけど、かわいい姿のチョッパーが子どもたちに囲まれて遊ばれてたかな。

 

 あと結局、その日のうちに目覚めたブリキの王様たちは、みんなに歓迎されてないことを理解しちゃったから、自分たちの新しい居場所を作りにまた海へ出ちゃったんだっけ。かなり苦労すると思うけど、でも兄弟2人と付いていった家臣たちで力を合わせて、なんとかしそうなんだよね。

 

 そうそう、私もその宴で(ウタ)ったんだ、この新しい王国の幸せを象徴する桜がもっと皆の心に残りますようにって。

 

 サクラ王国、とても綺麗な名前だよね。

 

 

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