チョッパーのおかげもあって、ナミも完全に快復した。メリー号は遅れを取り戻すように追い風に乗ってアラバスタへ向かっていたけど、新たなトラブルが生じていた。
「お、俺は何も知らねぇから」
ルフィは冷や汗をかいて誤魔化す。
「てめぇしかいねぇだろ」
飽きれたサンジはタバコの煙をフーってする。
「私だって食べたかったのにずるい!」
私もルフィへ抗議する。
サンジによれば、ドラム王国改めサクラ王国で補給したはずの大量の食糧が一晩でほとんど消えていたみたい。冬島のお魚とかお芋とかチーズとか、そういうのを使ったサンジの料理を楽しみにしてたのに。
「わるかった。今度はウタも呼ぶからさ」
「夜食食べて太ったらどうしてくれるの!?」
私たち女子はサンジに頼めばいくらでも夜食作ってくれるけど、我慢してるんだからね。
もう怒った。こうなったら『俺がつまみ食いしました』ってプラカードを作ってやるもん。
「ったく、世話の焼ける船長だ。ほら、メシ抜きになりたくなかったら、釣りしてでもお前のメシを確保してこい」
「メシ抜きは勘弁してくれよ! 俺まだ昼前メシも昼メシもおやつも食ってねぇじゃん! チョッパー、ウソップ、カルー、俺たちやべぇぞ!?」
「「「フグッ!?」」」
「どうやら。共犯が3人も見つかったようね」
ゴツンゴツンゴツンって、急に真面目に釣りをしていた2人と1匹が、騒ぎを聞きつけてやってきたナミにゲンコツされてるや。
「ナミさん、鍵付き冷蔵庫買ってくれよ~」
「そうね。必要経費だわ」
サンジとナミが話してるのを横目に、私は完成させたプラカードを、渋々釣り道具を準備してきたルフィの首から吊り下げる。
うん、かわいい。
「カルー! 一体何が……」
ビビもやってきて、たんこぶができているカルーを心配したけど、プラカードを身につけたルフィを見て、察して、慌ててサンジへ頭を下げた。
「うちのカルーがごめんなさい!」
お母さんかな。
「ビビちゃんは気にしなくていいさ。てめぇらもさっさと起きて仕事しろ」
「「「は~い」」」
「クェ~」
カルーも翼で器用に釣竿持っているけど、賢い鳥さんだよね。
それにしてもチョッパーはルフィたちとずいぶん仲良くなってるし、この前なんて船首から海に落ちたルフィを私と一緒に助けにいってくれたもんね。サンジとウソップが助けてくれなかったら私たちそのまま溺れてたと思う。
「そうだ。ビビ、見てもらいたい海図があるの」
「ええ。わかったわ」
ナミって定期的に海図を書いているけど、こういう見える海の景色から、よくあんな芸術的なものができるよね。アーロンパークで見たけど、指から血が出るくらい凄い努力だけじゃなくて、夢のために頑張っているのが伝わってくる。
今は起きてるゾロも、凄く重そうなダンベルで筋トレしてるし。
「サンジ君、あとで何か持ってきて」
「は~い、喜んで~♡」
目がハートマークになってメロメロなサンジが、ナミやビビへ何かを作るべくキッチンへ行ったけど、食材がどれくらい残ってるのか気になって、私も付いていってみることにした。
ルフィたち3人と1匹は釣りを再開してるし、ルフィに至っては釣り餌をおやつ感覚で食べてるし、よっぽどお腹をすかせているんだね。
「ナミさん、どうかした?」
「……いえ、行きましょ」
倉庫の食糧と違って、キッチンにある冷蔵庫に手を付けられたら、コックとしては大問題だと思うけどな。
「おっと、ウタちゃんどうした?」
キッチンへ行ってみると、ちょっと目を離した隙に、いろんな粉類が机に並べられていた。
しかも私に話しかけながら、手や足を動かすことが止まらない。海上レストランでもそうだったけどやっぱりコックとして凄い人が仲間になってくれたんだと思うと嬉しくなる。
「私もお料理しようかなって。邪魔にならない?」
「俺は問題ないさ。だが食材が足りるといいんだが」
ガチャって冷蔵庫を開けてみると、チーズは残してくれているけど、ルフィが大好きなお肉は完全に無くなっているね。どこかの島へ行くまではお魚生活になりそうだ。
「まあ、いろいろあっても私は凝ったもの作れないよ。サンジは何作ってるの?」
「まっ、パンの一種だな」
コネコネしてる手は、ホントに傷1つ無く清潔に保たれてて、足だけで戦う信念も一流コックって感じだ。まんまるな生地を次々と作って並べてるけど、確か寝かせる時間が必要なんだっけ。
「それにしては多いよね。」
「ああ。こっちはピザ生地だ。つまみ食い野郎共とついでにマリモにな」
冷蔵庫にあるチーズとケチャップをたくさん乗せて、オーブンでこんがり焼くって思うと、私はジュルリと涎が垂れてきちゃう。それにしても。
「じゃあ、ご飯抜きってウソなんだね」
「まっ、腹すかせてる顔見せられたしな」
それだと私まで作る必要ないんだけど、まあルフィがいくらでも食べてくれるよね。結局釣りも飽きたみたいで、外で大はしゃぎしてる。『オカマが釣れたー!?』だなんてグランドラインはやっぱり不思議な海だね。
私は水色の可愛いエプロンを身に付ける。
この粉と、これと、砂糖と卵とミルク。
私的にはメープルシロップ。
「作り方は簡単 混ぜて焼くだけ
あとは膨らむのを待ちましょう♪」
程よく温めたフライパンに生地を引いて、焼けたらポンポンと黄金色のケーキをお皿へ積んでいく。おやつの時間にシャンクスたちもどんどん食べてくれるから、マキノに教えてもらってからはいっぱい練習した。
別のお皿に乗せたやつを早速フォークで切り取って、そしてメープルシロップをたっぷりかけて、できたてポカポカを味見がてら口に入れる。
「ん~ おいし」
サクラ王国のメープルシロップの風味豊かな甘さが、パンケーキの美味しさをますます引き立ててくれてて、とにかく美味しい。
「へぇ、一口いいかい?」
「うん、もちろん♪」
サンジもフォークで口に入れたけど、仲間とはいえ一流のコックに食べてもらうのは緊張する。最初は少し目を見開いてたけど、今はもうしっかりと味わうような表情をしてる。
「シンプルな味だが十分美味い。見た目も焼き加減も丁寧だし、ここまでできるコックはそんなにいなかったさ」
「ほんと!?」
よかった。サンジって料理に関してはお世辞を言わないし、私の料理の練習だって厳しいときは厳しいからね。
「あ、ああ。少し驚いたんだが、思ったより甘さ控えめなんだな。ルフィのためか?」
「へ?」
えーと。
あー。
手が止まっちゃってた。
私も再び料理に戻るけど。
「ルフィは、たまに独特な甘みと苦みのバランスが『なんとなく不味い』って言いだすくらいで、基本的になんでも美味しく食べるよ。甘いお菓子も好きだし」
「お、おう、あいつに嫌いな食べ物なんてあったのか」
甘さ控えめが誰かのためってことなら、シャンクスたちもそうだけど、それこそゾロが話題に出てもいいと思う。でもルフィに対する好意を察しているサンジの言う通り、味付けを変えないのは、ルフィのためだって今は少しは自覚できそうだ。
「昔からこの味で作ってきたから、かな」
「くぅ~ 羨ましい限りだぜ」
サンジはオーブンに次々とパンやピザを入れて焼いてるけど、子どもの頃からあのコックのおじさんたちに囲まれてただろうし、幼馴染とかいなさそうだもんね。
「好きなんだろ、ルフィのこと」
「……うん。」
あんなことやこんなことだってルフィで考えちゃうし、フーシャ村を出てから何度も助けてもらって、ますますルフィを意識しちゃってる。今だってルフィが甲板で楽しそうな笑い声を聴き取るだけで、私の気分が良くなって自然と鼻歌を
「まだ整理はついてないけど、『ずっと一緒にいたい』って凄く思ってる。いつかは幼馴染以上の関係になりたい」
「っ!……そんな顔されちゃ、応援するしかねぇな。」
サンジの好意は嬉しいけど、まあ、見境がなくて浮気性なとこはあるから、私はちょっとタイプじゃないかな。その立ち振る舞いとか、凄い料理とかで、世の中の女性に引く手あまただとは思う。
私のタイプって、ルフィになっちゃってるんだろう。女性にデリカシーなんてなくて、負け惜しみ言うし、食いしん坊だし、急にどっか行くし、いっぱい怪我してくるし、意外とたくさんの女性にモテる気がするし、でもそんなところもルフィらしくて私は『しょうがない』で済ませちゃうんだもん。
「サンジだって、ナミにとって最近ポイント高かったんじゃない?」
「ナミさんが? いや、手が届かない高嶺の花さ。これからもアプローチをするつもりだがな」
そうかな。
今だって優しい表情でこんがり焼けたパンをオシャレに飾り付けしてるし、そういうのを普段からしてくれる男子って、女子としては好印象だと思う。
それに、ルフィが雪山を登ってくれた話を想像するだけで、何度でも私の心はポカポカと温まるんだから、ガードの固いナミであっても少しは意識してるんじゃないかな。
「サンジ~! メシ~!」
「おっと、嗅ぎ付けやがったな」
ルフィを先頭にチョッパーとウソップとカルーも飛び込むようにやってきたけど、第一声でサンジを呼ぶのはちょっと嫉妬しちゃうな。
「お前らはあっちだ。それで
3人と1匹はそれぞれの席に着いて、いただきますをする。
「面白いオカマが釣れた!」
「「うんうん」」
「クエッ」
熱々のピザをハフハフと口に入れて、チーズをビヨーンってさせて、モグモグして、ごっくんしてから、よく分からないことを伝えてくるけど、それってまだ魚は何も釣れてないってことだよね。
「てめぇらは昼からも釣りだな。ウタちゃん、こいつらを頼んだ」
ナミさぁ~ん♡ ってサンジはお皿やトレイを両手に乗せて走っていったけど、純粋な好意を向けてくれるんだから、ナミが頷いたら浮気性が少しは減ると思うのに。
「おっ! いつものやつ作ったのか! お前ら! ウタのパンケーキはうめぇんだぞ!」
「ホントだ! これはうめぇや!」
「このシロップってサクラ王国のやつか!?」
「クェ~!」
ルフィたちは目を輝かせて、パンケーキもガツガツ食べ始めてくれた。
「はいはい。まだまだ作ってあげるから、ゆっくりね」
マキノもこういうこと言ってたな。ふと思ったけど、いつか夢を叶えて、1つの場所に落ち着くようになったら、フーシャ村で
「ウタ、ありがとな!」
「うん。どういたしまして」
フライパンを握る私の後ろ髪、パタパタしちゃってるの見られてるよね。それでも私の好意に気づかないルフィは
まあ、今のこういう関係もわるくないかな。