敵はたくさん。
能力者の幹部もたくさん。
王国軍と反乱軍、そしてバロックワークスが入り混じって凄く混戦になると思う。チョッパーが加入したとはいえ、ビビも合わせてたった8人と1匹だけど、私たちは誰もアラバスタを救うことを諦めてなかった。
この前、私がサンジと料理をしている間にいろいろあったみたいだ。Mr.2っていう、番号からしてもバロックワークスの中でも強そうな幹部が、マネマネの実の能力にルフィたちをコピーしちゃったみたいだ。これでますます私たちは標的として狙われることになるし、声までマネされると私でも騙される可能性が出てくる。
その対策だ。
キュッとルフィの腕に包帯を結ぶ。
「服装までは変わらないけど用心に越したことはないわ」
「しっかり結んでおけよ」
「これを確認すれば本物か見分けられるわね」
「そんなに似るの? マネマネの人って」
「そりゃもうウソみたいに同じだったぞ。お前らも見るべきだったぜ」
「まっ、そいつがナミさんやビビちゃんに化けたとしても、俺は騙されない自信があるぜ」
「あいつ
「でもあいつ、敵なんだろ?」
「クエ」
話しているうちに、陸が見えてくる。
とても緊張してきた。
これから凄く大変な戦いが待っていると思うと、ルフィや皆が傷つくことが怖く感じてくる。国1つを賭けた三つ巴の戦いを起こしたのは七武海の1人で、ルフィが海賊王になるためにはいつか乗り越えなきゃいけない壁だけど。
「よし! これからとにかく何が起こっても、左腕のこれが」
円を囲んで、私たちは左腕を突き出した。
「仲間の印だ!」
アラバスタ王国へ私たちは上陸した。
これから始まるんだ。
ビビの故郷を守る戦いが。
えーと。
たぶん3日後とかに。
「よっしゃメシ屋いこうぜ!」
「うん、いくいく!」
港町のここは穏やかそうで、私とルフィはいい香りのする方向へ走っていた。
日光がギラギラと照らしてて、薄手の白いパーカーを羽織っていることもあって、汗をかいてきちゃってるけど、この暑さと乾燥には慣れるしかないよね。チョッパーは特にトナカイだから苦しそうだったな。
なんだか混んでて騒がしいけど、お店へ飛び込むように私とルフィはカウンター席に座る。
「おっさん、何かくれ!」
「お肉とお水、あと甘いドリンク!」
「あっ、ああ……
お嬢ちゃんにはこれを」
ゴクゴクと私は喉を潤すけど、甘いヨーグルトっぽくて、独特の風味もあって、これ美味しいな。
待ちきれないルフィはナイフとフォークをカンカンと音を鳴らせて、料理を待ってるけど、それお行儀がわるいからやめなさいってマキノに言われたでしょ。
「わるいな。俺が頼みすぎてるかもしれん。とりあえずこれでも食べるか?」
「おお、サンキュー!」
親切な人にルフィは骨付き肉を貰って、久しぶりのお肉を笑顔で味わってる。
口いっぱいに食べてて、まるでリスみたいになってるや。私はそれを見ながらヒョイッとパリパリしたやつを指でつまんで食べるけど、塩加減がいいね。
「てめぇら、食うのをやめろ!!」
「「「ン~?」」」
あ、モクモクしてるおじさんじゃん。
食事処でそんなにモクモクしないでほしい。
あれ、そういえば親切な人の横顔と声。
「ゴクリ ルフィ!? ウタ!?」
「ゴクリ エース!?」
「ゴクリ エースお兄ちゃん!?」
そばかす、黒髪、何よりもこの声。
本物のエースだ。
「何? 魔女に兄妹だと?」
「そうとも。こいつは俺の妹さ」
エースも食べたものをいっぱい口につけてるから、ちゃんとナプキンで拭いてあげるけどさ。マキノや私が付いていなくて、エースがいろんな人に迷惑をかけていないか心配なんだけど。
「なるほど。
「ほう。俺の妹を狙っているのか」
そういえば、なぜか私、モクモクのおじさんに追いかけられてるんだった。魔女って魔法使いみたいで可愛い呼び方だと思うけど、私のファンなのかな。
「ポートガス・D・エース、そしてポートガス・D・ウタ、ここで麦わらのルフィを含めて捕まえておかねばならんな」
えっ、それだと私がエースと結婚してるみたいじゃん。確かに私ってシャンクスの名字を知らないから、普段はウタとしか名乗ってないけど、3人で『何言ってるんだケムリン』って視線を向ける。
「まっ、ちょうどいい。俺の能力をルフィとウタに見せてやる」
「魔女だけでも厄介なんだが、この前半の海でお前とも戦わねばならんとはな」
エースは親指でクイッと、首を傾げてコツンってしている私たちを店の外へ誘導した。
私とルフィは近くで見たいけど、エースにもっと離れたほうがいいって言われたから、ブーブー言いながら遠ざかる。エースは羽織っていた黒いコートを放り投げて、その背中に昔はなかった大きな入れ墨を見せた。
エースが船長の海賊団にしては、デザインが真っ白な気がする。
「来な、海軍の煙野郎」
「挑発してるつもりか?」
硬くなった砂の地面で、ヒューッと風が吹く。絵本で読んだことのある西部劇っぽくて、ますますエースが頼もしく見えてくる。早く見たくて、私とルフィはうずうずと2人が動くのを待つ。
「ホワイトブロー!」
モクモクとした煙を伸ばしてパンチで、一気にリーチを詰められた。エースは立ったままで、それを受けるつもりなのかな。
って、笑みを浮かべる表情は変わらないまま、そのパンチで身体に大穴が空いたんだけど。
「「エース!?」」
「安心しな。効かねぇんだ、火だから」
「ちっ、やはりな」
メラメラとした火が穴を塞ぎ、無傷のエースはまだ一歩も動いてない。
「エースも食べたのか!?」
「しかも
「メラメラの実を食べた。マズかった」
能力を見せてくれるって言ってたけど、火そのものなんてどうやって戦えばいいか分からない。手のひらでメラメラとしてる火は凄く熱そうで、水や土なんかじゃ消えなさそうだ。
だから
「自然系の相手は面倒だな」
「お前が言うのか、煙野郎」
モクモクのおじさんは、巨大な十手を背中から引き抜いた。あれで確かルフィを動けなくしたんだ。
「いいもの持ってるじゃないか。
「教える義理はねぇな」
対するエースは折り畳み式らしい鉄の棒を腰から取りはずして、ジャキーンってかっこよく展開した。ルフィは結局使わなくなっちゃったけど、エースは鉄パイプの戦い方を続けてるんだ。
モクモクとした煙を、メラメラとした火を、それぞれ噴射しながら勢いよく2人の武器がぶつかって、ガキーンって音で空気が震える。体格差をものともせず、押し勝ったのはエースのほうだった。
「すっげー!」
「すっごーい!」
ガツーンってモクモクのおじさんを吹き飛ばした棒だけど、あれなら自然系でも攻撃を当てられるのかな。それとも、エースが凄いからかな。
「てめぇ! まさか覇気を!?」
「ご名答! 火拳!!」
さっきのホワイトブローなんて比じゃない威力で、熱気は遠くで見ている私たちのところまで来ているし、今の私のどんな
「ハァハァ……」
「やっぱあんま乗らねぇな」
エースは技の結果に満足してないようだけど、モクモクのおじさんは少し焦げたくらいで、あの炎を耐えきってるのも凄い。これが自然系同士の喧嘩は初めて見るけど、能力の規模が大きい。
「ちっ、発展途上とは末恐ろしいルーキーだ」
「新世界でイヤほど身に染みたからな」
モクモクのおじさんは猟犬のように食らいついてくるけど、エースは余裕な表情でするりするりと躱してる。足を火にして加速したり、金属の棒に火を纏わせたり、能力と体術と『覇気』って力を織り交ぜた戦いには魅せられる。
私とルフィは興奮が冷めなくて、
炎の
「ハァハァ、動きが読まれてやがる。まさか貴様、見聞色まで!?」
「自然系の俺たちでは身に着けづらいな。だが馬鹿力のヤマトのおかげで、能力に思い上がっていた俺は弱さを自覚し、親父の元で鍛え直したんだ」
男の人の名前っぽいけどヤマトって誰だろう。ていうか、エースのお父さんが誰なのかも気にしたことなかったや。話したがらないのもあったし、サボはサボで、エースはエースだもん。
「俺は親父のために次のステージへ行く。2番隊隊長として恥じない強さになる。それに、弟と妹がピンチなら兄が守ってやらねぇとな。武装硬化」
エースの腕が黒く輝いた。
腰溜めの拳の炎がメラメラと燃えたぎる。
なんとなくだけど、さっきよりも温度が上がってるように思える。
「この戦いで成長するのか!? これだからルーキーは!?」
「
突き出した黒い拳から、炎が溢れた。
やっぱり熱気と風が凄く強くなってた。
「すげぇ……」
「これが今のエース……」
ようやく炎が収まったら、モクモクのおじさんが黒焦げてて、あんなに煙の身体にダメージを与えられるんだ。
様子を見守るしかなかった海軍の人たちは慌てて介抱に向かってるし、倒れ伏したおじさんは威嚇した瞳でまだエースを見てるし、そのうち治って元気になると思う。ゾロがナンパした女子は震える刀を向けてくるけど、エースは意にも介さず、こっちにやって来る。
私とルフィは飛び込むように目を輝かせた。
「「エース!!」」
「どうだ、これが今の俺の実力だ」
私とルフィはうんうんと頷くけど、やっぱりエースは想像もつかないくらいまた人外になってたんだ。フーシャ村を出る前からエースは凄く強かったけど、ますます強くなってる。
「なあ! なんでケムリンにパンチが効くんだ!?」
「技を研ぎ澄ませろ。もっとガツーンってやるんだ」
ルフィは昔みたいにグルグルと腕を振り回して、えいっえいっ、ってパンチの素振りを始めた。
「できる気がしないぞ!?」
「まっ、いつかルフィならできるだろうよ。自分を信じろ」
キノコ王の戦いを経験して、ギア2の技以上に威力を出す方法を探していたみたいだし、覇気っていうのは私もルフィも気になる。特にデメリットもなさそうなのがとても気になる。
「私にもできる!?」
「ウタも鍛えればできるさ。もう片方は俺より極めそうだしな」
エースより、ってのはワクワクする。
「そうだな……例えばルフィの動きを目で追いかけられるようになれ。お前は聴力に頼りすぎるところがある」
ルフィがグルグルと振り回してる腕、目を細めて視るけど、やっぱり腕がいっぱいあると思っちゃうくらい速い。でもエースのアドバイスの言う通り、自分を信じて特訓しなきゃね。
何はともあれ、とエースは言葉を紡いだ。
「まだまだ強くなれるぞ、俺たちは」
「「うんっ!」」
エースでさえ、まだ今の強さに満足してないんだ。
そこから私たちはいっぱい冒険談を話したし、できた
エースのほうは元々海賊団で船長をやっていたらしいけど、今は白ひげっていう、シャンクスと同じ四皇のところで2番隊隊長をやってるということはビックリした。しかもその親父さんを海賊王にするって話だから、ワンピースを手に入れることは競争になっちゃうね。
まあ今は、とある海賊を追いかけてる最中で忙しいらしいけど。
買い物をしてくれていたナミたちに合流して、エースを紹介したけど、皆も四皇の幹部ってことで凄くビックリしてた。それ以上に、ルフィや私の兄ってことに声を合わせて『信じられない』とか言われたけど、急に礼儀正しくなるエースに私たちは大笑いしてたからなぜか分からなかったや。
「そろそろ行くが……おっと!」
「なんだ? その紙?」
エースはカバンから丁寧に折りたたまれている紙を広げたけど、いくらか欠けてた。爪でガリガリしてるけど、一体何をしているんだろう。
「あっ、もしかしてビブルカード?」
「ウタは知ってたか。ほらよ」
私とルフィはそれぞれ受け取って、小さな紙切れだから失くしそうだなと思ったから、麦わら帽子のリボンへしっかりと挟んでおく。あとで縫い付けておこうかな。
そうだ、シャンクスのやつもここに入れておこっと。
「ははっ! 相変わらず仲がいいやつらだ」
笑って、エースは背を向けた。
「まっ、お前らも訳ありのようだし、海に見えてる船はいくらか沈めておいてやる」
そういえばバロックワークスの構成員の船、アラバスタに向かってきてるみたいだ。私もルフィも、クロコダイルや幹部にしか眼中になかったし、エースに再会できた嬉しさで、特に気にしてなかった。
「またな、ルフィ、ウタ」
「またなエース!」
「サボに会ったらよろしくね♪」
テンガロンハットを深く被り込んで、エースは歩き始める。
「ああ! 今度はウタも一緒に4人で
「あー、俺の姉ちゃんになると、なんだっけ?」
「お、思い出さなくていいからね!?」
私の恋心、まだサンジやエースにしかバレてないんだからね。みんないるし恥ずかしいじゃん。
それにしても。
背中に刻んでる白ひげさんのマーク、よっぽど尊敬してる人なんだろうな。
初めてエースに会ったときは暗い顔だったけど、今は幸せそうで、とにかく元気で、そんな笑顔が本当に嬉しい。『自由に生きて大海賊として自分の名を世界に知らしめる』って夢に、『親父さんを海賊王にする』夢が重なったんだ。