麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第35話 ビビ

 

 エースと別れてメリー号で移動してから、あとはずっとアラバスタ国内を歩き続けることになっていた。途中、川なのにしょっぱい海でクンフージュゴンたちと仲良くなったけど。

 

 そこからは凄く長く感じる時間が続いている。砂がいっぱいの砂漠の冒険は想像以上にキツくて、ギラギラと照らす太陽で飲み水も不足するし、滝のような汗をかいてもお風呂なんて入れるわけもないし、食糧の現地調達も厳しかった。

 

 今は厚手の上着を着ているとはいえ、中はほぼ下着同然でヒラヒラがいっぱいの踊り子の服だから、少し快適だけどスースーしちゃってあまり好きじゃない。だからアラバスタへの潜入目的とはいえ、これを選んできたサンジをちょっと恨んでる。

 

 えーと、私たちはまず反乱軍の人たちを止めるために、ユバというオアシスに向かっていたんだっけ。カルーは先に王様のところへ報告に向かわせたようだけど、私やルフィはなんだか回りくどいなとは思っちゃって、ますます砂漠を歩くだけの時間が暇で苦痛に感じている。

 

 昼は暑いし、夜は寒いから、意識が朦朧とするくらい疲れた。

 

「やっとオアシスだ~」

「水ぅ~ 肉ぅ~」

 

 私とルフィはベターンって町の入り口に倒れこむ。あのルフィが肉より水を求めるなんて前代未聞のことだよね。

 

「どこにもねぇな」

「こりゃひでぇ」

「あ、あの家なんて砂に埋まってるぞ」

「砂嵐ってやつのせいなのか?」

 

 町にしては閑散としていて。

 覆いかぶさるような砂で溢れている。

 

「ビビ、どういうこと?」

「ユバがこんなことに……」

 

 反乱軍の人がいるはずだったんだけど、ここにはいないというわけだよね。

 

「旅の人かね?」

 

 サクッ、サクッ、とかつて湖があったところをお爺さんが掘ってる。

 

「この町に反乱軍の拠点があったはず、ですが」

「隣のオアシスに移したよ。今は水もないしな」

 

 スコップを握る手はとても細くて、ヨボヨボで、今にも倒れそうだ。

 

「まさか、若者たちよ、反乱軍に入るんじゃなかろうな?」

 

 ギロっとしたけど、チョッパーやウソップが全力で首を振ったのを見て、再び疲れた表情で掘り始める。

 

「ビビ、次どうすりゃいいんだ?」

「そ、それは……」

 

 おなかがすいてることもあって、ルフィの鬱憤が溜まってる。

 

 ゾロやナミやサンジも勘づいているみたいだけど、アラバスタに来てから急にビビの判断が鈍くなってる。バロックワークスに忍び込んだ勇気も、リトルガーデンで見せた度胸も、今のビビからは感じられないんだ。

 

「お~ ビビちゃんだったか!?」

「い、いえ、私は……」

 

 まさか2人は知り合いなのかな。

 それにしてはビビは気づかないけど。

 

「分からんか。少し痩せたかな」

「まさかトトおじさん!?」

 

「コーザは!? ここにいるはずじゃ!?」

「あのバカがリーダーさ。何度も止めたがな」

 

「すごい町を作ってこの国を潤すって……」

「皆の生きる活力にしたのさ、革命を」

 

「次で決着をつけると言っていた。

 もうげん、かい……なのさ……」

 

「おっさん!?」

 

 私たちは、ビビたちのやり取りを見守っていたけど、お爺さんが倒れてしまった。

 

 診てくれたチョッパーによると、栄養失調に近い状態で、疲労も溜まっているから、食べやすいものを食べさせて安静にしてさえいれば大丈夫だって。

 

 夜も遅いから私たちは泊まることにした。

 砂嵐の被害も屋内までは届いてないみたい。

 

 明日何をするか決まっていないけど、今は戦いに備えるために、体力を温存することに専念する。フカフカのお布団で、比較的体力のない私たちはグッスリと眠った。

 

 翌朝。

 

 お爺さんからほんの少しの水を手渡されたけど、夜に起きて涼しいうちにまた掘っていたらしい。

 

 今は宿で力尽きたように眠るお爺さんのためにも、早めに決着をつけないといけないよね。私たちはビビの案内で、革命軍の次の拠点のオアシスへ向かうことになったけど。

 

 イタチごっこみたいに感じてくる。

 

「……お前ら、進路変更だ」

 

 ドサッとルフィは砂の上へ座った。

 ビビは唇を強く噛んで冷静さを保つけど。

 

「ルフィさん、急がないと皆が危ないの」

「俺はクロコダイルをぶっ飛ばしてぇんだ」

 

 ビビが苛立ちを抑えている声でそう伝えた。でもバロックワークスの話を聴いた時から、ルフィもゾロもそう言ってたよね。

 

「なぁビビ、お前の幼馴染たちを止めたらよ、クロコダイルは止まるのか。それに、たとえ次の町へ行っても、海賊の俺たちはやることがねぇ」

 

 ルフィが核心を突くと、ビビは愛想笑いを作った。

 

「そんなことない、私1人じゃここまで来ることも」

 

「来れるでしょ、ここはビビの故郷なんだから」

 

 私がそれを否定する。

 

 ルフィやゾロでさえこの暑さはキツそうで、サンジやナミもかなり顔に疲れが出ていて、ウソップや私なんて体力の無さを実感してるし、冬島出身のチョッパーなんて今にも倒れそうだ。

 

 この気候に慣れているビビが1番元気そうなんだ。それでも私たちが付いてきてるのは、ビビの本当の願いのためだ。

 

「目に見えるやつら全員の命を助けようとしてたら、大切なもの、何もかも取りこぼすぞ?」

 

 ルフィは鋭い瞳で、ビビにそう語りかけた。

 

「わ、私は父のように皆を守りたいの! 誰も死ななければいいと思うことの何が悪いの!?

 

人は死ぬぞ!?

 

 いつもニコニコしているルフィが怖いくらいに怒ってる。仲間を傷つけられた時に見せる表情と似ているけど、何かを背負って、当たり散らすようで、私でさえ怖く感じる。

 

「お前だけで何人守れると思ってんだ!? お前の幼馴染たち止めてたら、その間にお前の父ちゃんが死ぬんじゃねぇのか!?」

 

「や、やめてよ! そんなこと言わないで! 私にどっちかを選べっていうの!?」

 

 ビビもルフィも激昂して顔を近づける。

 パシンと乾いた音が鳴った。

 

「誰も悪くないじゃない! なんで誰かが死ななきゃいけないの!?」

 

「お前もそれを言うのか! そんなの俺が知りてぇよ!!」

 

 ドンッとルフィのパンチがビビの頬へ簡単に届く。

 

 さすがに、ナミやチョッパーやウソップは止めようとするけど、ゾロやサンジが黙って見守るように腕を伸ばした。

 

「じゃあどうすればいいのよ!?」

「強くなるしかなかったんだ!!」

 

 もう喧嘩だ。

 お互いにいっぱい殴り合ってる。

 

「だって! あいつに勝てないもの!!」

「俺がクロコダイルに負けるってのか!?」

 

 ビビは動きを急に止めて、自分の赤くなっている頬を抑えた。

 

「あいつは強いわ。幹部だっている」

「俺にもすげぇ仲間(クルー)がいるぞ」

 

 ビビ相手にはかなり手加減してくれてるとはいえ、ルフィのパンチはいろんなやつをぶっ飛ばしてきたもんね。それに、私たちもいるんだもん。

 

ぅ……あいつを倒してくれますか……?

「ああ。お前が1番悔しいんだもんな」

 

 砂の地面にゆっくりと崩れ落ちて、綺麗な白い手で口を抑えながらポロポロと涙を流す。

 そんなビビの肩へ、ルフィは優しく触れる。

 

「教えろよ、クロコダイルの居場所」

「……はいっ!」

 

 ゴシゴシと袖で涙を拭って笑顔を見せたビビに、ルフィはニカッと笑った。

 

「全部終わったらメシいっぱい食わせろよ」

「うん! 約束するから!」

 

 ルフィの差し出した手を取って、ビビは立ち上がる。

 

 まあ、ビビがルフィの手のひらを離す時に名残惜しそうだったり、私をチラチラと見て羨ましそうな表情を浮かべたり、ちょっと私的に気になることもあるけど、今は急がなきゃね。

 

 これで、国のあれこれを考えることはやめて、海賊の喧嘩に勝つことへ、私たちの方針が定まったんだ。

 

「よっしゃー! 街まで競争だー!」

 

 急に元気よく走り始めたルフィは方角も場所も知らないだろうし、私たちも疲れを忘れてその太陽のような笑顔を追いかけた。

 

 





・踊り子の服を着たウタを妄想している日々です。
・叱ってくれて、優しくされて、敵を倒してくれる、3連コンボで惚れないわけがない。
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