エースと別れてメリー号で移動してから、あとはずっとアラバスタ国内を歩き続けることになっていた。途中、川なのにしょっぱい海でクンフージュゴンたちと仲良くなったけど。
そこからは凄く長く感じる時間が続いている。砂がいっぱいの砂漠の冒険は想像以上にキツくて、ギラギラと照らす太陽で飲み水も不足するし、滝のような汗をかいてもお風呂なんて入れるわけもないし、食糧の現地調達も厳しかった。
今は厚手の上着を着ているとはいえ、中はほぼ下着同然でヒラヒラがいっぱいの踊り子の服だから、少し快適だけどスースーしちゃってあまり好きじゃない。だからアラバスタへの潜入目的とはいえ、これを選んできたサンジをちょっと恨んでる。
えーと、私たちはまず反乱軍の人たちを止めるために、ユバというオアシスに向かっていたんだっけ。カルーは先に王様のところへ報告に向かわせたようだけど、私やルフィはなんだか回りくどいなとは思っちゃって、ますます砂漠を歩くだけの時間が暇で苦痛に感じている。
昼は暑いし、夜は寒いから、意識が朦朧とするくらい疲れた。
「やっとオアシスだ~」
「水ぅ~ 肉ぅ~」
私とルフィはベターンって町の入り口に倒れこむ。あのルフィが肉より水を求めるなんて前代未聞のことだよね。
「どこにもねぇな」
「こりゃひでぇ」
「あ、あの家なんて砂に埋まってるぞ」
「砂嵐ってやつのせいなのか?」
町にしては閑散としていて。
覆いかぶさるような砂で溢れている。
「ビビ、どういうこと?」
「ユバがこんなことに……」
反乱軍の人がいるはずだったんだけど、ここにはいないというわけだよね。
「旅の人かね?」
サクッ、サクッ、とかつて湖があったところをお爺さんが掘ってる。
「この町に反乱軍の拠点があったはず、ですが」
「隣のオアシスに移したよ。今は水もないしな」
スコップを握る手はとても細くて、ヨボヨボで、今にも倒れそうだ。
「まさか、若者たちよ、反乱軍に入るんじゃなかろうな?」
ギロっとしたけど、チョッパーやウソップが全力で首を振ったのを見て、再び疲れた表情で掘り始める。
「ビビ、次どうすりゃいいんだ?」
「そ、それは……」
おなかがすいてることもあって、ルフィの鬱憤が溜まってる。
ゾロやナミやサンジも勘づいているみたいだけど、アラバスタに来てから急にビビの判断が鈍くなってる。バロックワークスに忍び込んだ勇気も、リトルガーデンで見せた度胸も、今のビビからは感じられないんだ。
「お~ ビビちゃんだったか!?」
「い、いえ、私は……」
まさか2人は知り合いなのかな。
それにしてはビビは気づかないけど。
「分からんか。少し痩せたかな」
「まさかトトおじさん!?」
「コーザは!? ここにいるはずじゃ!?」
「あのバカがリーダーさ。何度も止めたがな」
「すごい町を作ってこの国を潤すって……」
「皆の生きる活力にしたのさ、革命を」
「次で決着をつけると言っていた。
もうげん、かい……なのさ……」
「おっさん!?」
私たちは、ビビたちのやり取りを見守っていたけど、お爺さんが倒れてしまった。
診てくれたチョッパーによると、栄養失調に近い状態で、疲労も溜まっているから、食べやすいものを食べさせて安静にしてさえいれば大丈夫だって。
夜も遅いから私たちは泊まることにした。
砂嵐の被害も屋内までは届いてないみたい。
明日何をするか決まっていないけど、今は戦いに備えるために、体力を温存することに専念する。フカフカのお布団で、比較的体力のない私たちはグッスリと眠った。
翌朝。
お爺さんからほんの少しの水を手渡されたけど、夜に起きて涼しいうちにまた掘っていたらしい。
今は宿で力尽きたように眠るお爺さんのためにも、早めに決着をつけないといけないよね。私たちはビビの案内で、革命軍の次の拠点のオアシスへ向かうことになったけど。
イタチごっこみたいに感じてくる。
「……お前ら、進路変更だ」
ドサッとルフィは砂の上へ座った。
ビビは唇を強く噛んで冷静さを保つけど。
「ルフィさん、急がないと皆が危ないの」
「俺はクロコダイルをぶっ飛ばしてぇんだ」
ビビが苛立ちを抑えている声でそう伝えた。でもバロックワークスの話を聴いた時から、ルフィもゾロもそう言ってたよね。
「なぁビビ、お前の幼馴染たちを止めたらよ、クロコダイルは止まるのか。それに、たとえ次の町へ行っても、海賊の俺たちはやることがねぇ」
ルフィが核心を突くと、ビビは愛想笑いを作った。
「そんなことない、私1人じゃここまで来ることも」
「来れるでしょ、ここはビビの故郷なんだから」
私がそれを否定する。
ルフィやゾロでさえこの暑さはキツそうで、サンジやナミもかなり顔に疲れが出ていて、ウソップや私なんて体力の無さを実感してるし、冬島出身のチョッパーなんて今にも倒れそうだ。
この気候に慣れているビビが1番元気そうなんだ。それでも私たちが付いてきてるのは、ビビの本当の願いのためだ。
「目に見えるやつら全員の命を助けようとしてたら、大切なもの、何もかも取りこぼすぞ?」
ルフィは鋭い瞳で、ビビにそう語りかけた。
「わ、私は父のように皆を守りたいの! 誰も死ななければいいと思うことの何が悪いの!?」
「人は死ぬぞ!?」
いつもニコニコしているルフィが怖いくらいに怒ってる。仲間を傷つけられた時に見せる表情と似ているけど、何かを背負って、当たり散らすようで、私でさえ怖く感じる。
「お前だけで何人守れると思ってんだ!? お前の幼馴染たち止めてたら、その間にお前の父ちゃんが死ぬんじゃねぇのか!?」
「や、やめてよ! そんなこと言わないで! 私にどっちかを選べっていうの!?」
ビビもルフィも激昂して顔を近づける。
パシンと乾いた音が鳴った。
「誰も悪くないじゃない! なんで誰かが死ななきゃいけないの!?」
「お前もそれを言うのか! そんなの俺が知りてぇよ!!」
ドンッとルフィのパンチがビビの頬へ簡単に届く。
さすがに、ナミやチョッパーやウソップは止めようとするけど、ゾロやサンジが黙って見守るように腕を伸ばした。
「じゃあどうすればいいのよ!?」
「強くなるしかなかったんだ!!」
もう喧嘩だ。
お互いにいっぱい殴り合ってる。
「だって! あいつに勝てないもの!!」
「俺がクロコダイルに負けるってのか!?」
ビビは動きを急に止めて、自分の赤くなっている頬を抑えた。
「あいつは強いわ。幹部だっている」
「俺にもすげぇ
ビビ相手にはかなり手加減してくれてるとはいえ、ルフィのパンチはいろんなやつをぶっ飛ばしてきたもんね。それに、私たちもいるんだもん。
「ぅ……あいつを倒してくれますか……?」
「ああ。お前が1番悔しいんだもんな」
砂の地面にゆっくりと崩れ落ちて、綺麗な白い手で口を抑えながらポロポロと涙を流す。
そんなビビの肩へ、ルフィは優しく触れる。
「教えろよ、クロコダイルの居場所」
「……はいっ!」
ゴシゴシと袖で涙を拭って笑顔を見せたビビに、ルフィはニカッと笑った。
「全部終わったらメシいっぱい食わせろよ」
「うん! 約束するから!」
ルフィの差し出した手を取って、ビビは立ち上がる。
まあ、ビビがルフィの手のひらを離す時に名残惜しそうだったり、私をチラチラと見て羨ましそうな表情を浮かべたり、ちょっと私的に気になることもあるけど、今は急がなきゃね。
これで、国のあれこれを考えることはやめて、海賊の喧嘩に勝つことへ、私たちの方針が定まったんだ。
「よっしゃー! 街まで競争だー!」
急に元気よく走り始めたルフィは方角も場所も知らないだろうし、私たちも疲れを忘れてその太陽のような笑顔を追いかけた。
・踊り子の服を着たウタを妄想している日々です。
・叱ってくれて、優しくされて、敵を倒してくれる、3連コンボで惚れないわけがない。