麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第37話 クロコダイル②

 

 黄金のライターを取り出して、クロコダイルが葉巻に火をつけた。

 

 私たちはその間に、これから戦う砂のステージを確かめるために、ぴょんぴょんと跳ねて準備運動をする。

 

「3分くれてやる」

 

 口からモクモクさせているクロコダイルはライターをしまいながら、代わりに見せた砂時計を放り投げてきたんだけど。

 

 まだ慢心してるってことでいいのかな。

 

「なんだ、いいのか?」

「いいけどさ、負け惜しみしないでよ」

 

 ドンッとルフィは砂へ拳を叩きつけた。

 

 ルフィの足がポンプみたいに膨らんで、血液の流れを速めて、身体は熱を持って、蒸気を放ち始める。ギラギラと輝く太陽のおかげでいつもより消費が激しそうだけど、早めに倒さないといけないかな。

 

「エースやケムリンで知れて良かった」

「うん。砂人間って分かったし」

 

 私だけでも、ルフィだけでも、今は自然系の相手がキツいって分かったから。

 

「ギア2(セカンド) ゴムゴムのぉ~」

 

「ほう。狙い撃ちする気か」

 

 ルフィの強化された技を一発受けるつもりみたい。

 

「いいぞ 撃ってみろ」

 

「水の護りを♪」

「JET!」

 

せーのっ!

「「水銃(アクアピストル)!!」」

 

「ガハッ!?」

 

 クロコダイルの顔面へ、バキューンって水を纏ったパンチが突き刺さった。

 

「砂は水で固まるけど予想以上に効くみたい」

「なんだお前、雨の日とか大丈夫か?」

 

 もしかして自分に有利だからこの国を選んだのかな。私たちに釣られたみたいで、オールサンデーも忍び笑いしている。

 

「さっきの水が、歌人間の能力だと……?」

 

 クロコダイルは歯ぎしりしながら再び立ち上がった。ミホークさんたちがいるような海で生きてきただろうし、やっぱり一発で倒せる相手じゃないよね。

 

「力を貸しましょうか?……用意周到ね

 

「クソッ、別の意味でウタ人間が厄介だな」

 

 オールサンデーは手を出さずにどこかへ去っていくし。

 

 このリズムのまま攻めていくよ。

 

(たけ)き水、凍てつき、穿て♪」

 

 冬島で経験した極寒を(ウタ)に籠めて。

 

「氷だと!?」

 

 地面に手を当てて砂の壁を作って防御するようだけど、次は私がメインパートだよ。

 

「JETスタンプ!!」

「ちっ、麦わらァ!」

 

 ルフィが砂の壁をドガンと破壊してくれて、クロコダイルの悔しそうな表情が見えた。尖った氷の弾丸が砂の身体へ突き刺さり、飛び散った赤い血を見せる。

 

 一瞬で溶けていく氷がその身体を湿らせて、上手くスナスナできないみたい。

 

「くっ、砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)!」

「斬撃!? ウタウタの(カーテン)♪」

 

 砂の斬撃を赤い五線譜で防ごうとしたけど、何本か切断されるのは初めてだ。

 

 しかもこれで距離を空けられて、クロコダイルに大技の準備の時間を与えてしまった。

 

「2人共、吹き飛ばしてやる! 砂嵐(サーブルス)!」

 

「なんかヤバそうだな! ウタ!」

「旋風よ! 巻き上げて♪」

 

 私が起こした風で、クロコダイルの掌で巻き上がっていた小さな砂嵐を霧散できた。

 

「次は風か!? 歌は自由自在だとでも!?」

 

「優しき雨風よ! 心を癒せ♪」

 

 重ねて(ウタ)を紡いで、その道をルフィが走る。

 

「捕まえた!」

 

 雨に濡れながらルフィは伸ばした腕で、ガシッとクロコダイルの肩を掴んで、追い風を受けながらグルグルと縦に回転する。

 

「ゴムゴムのJET丸鋸(まるのこ)!」

「グァーッ!?」

 

 バーンッてクロコダイルを凄く吹き飛ばしたし、さすがにクリティカルヒットってやつでしょ。

 

 チラッと見えたけど、砂時計の砂がサラサラと落ちきった。

 

「ルフィ、一旦解除する?」

「ハァハァ……いや、このままいく」

 

 クロコダイルは手で口元を拭いながらもう立ち上がってるけど、そのダメージ以上にルフィへかなり負担がかかってる。

 

 JETピストルだけならまだしも、いろんな技を出してるし、砂漠の暑さがますます体温を上げている。こうなったら、ルフィは止めるだろうけど、私もギア2を使うしかないかも。

 

「……久しぶりだ。ここまでやられたのは」

「自然系だから慢心してたんでしょ」

「引きこもってスナスナしてるからだ!」

 

 おかしいな。

 さっきから声が聞こえてないみたい。

 

「おかげで勘が少し戻ってきた」

 

 どういうことだろう。

 いや、これで早めに決めようか。

 

 ルフィは、ギュイーンって後ろに腕を大きく伸ばした。

 

「水の護りを♪」

「JET!」

 

せーのっ!

「「(アクア)バズーカ!!」」

 

 えっ、簡単に躱された。

 まるで分かっているかのように。

 

「もし当たれば覇気が(なま)った俺では不味かったかもしれないな。まあ当たればの話だが」

 

「あ、当たんねぇ!?」

「スピードでは負けてないはずなのに!?」

 

 技じゃないとはいえルフィのパンチもキックも、ちょっと身体を逸らされただけで、サラリサラリと躱されちゃってる。しかも砂の特性すら使ってないけど、これってエースが見せてくれた覇気の1つかも。

 

「七武海の俺が本気を出せば、お前たちルーキーとは格が違うんだ。 砂漠の向日葵(デザート・ジラソーレ)

 

「な、なんだなんだ!?」

「砂が地面に吸い込まれてる!?」

 

 地面に手を付けただけで発動する技で、この砂漠のステージを有利に使ってきた。足元の砂が流れているせいで上手く立っていられない。

 

「一旦離れるぞ!」

「ありがと! ルフィ!」

 

 私を抱えて全力で走って脱出してくれた。

 

 ふぅ、なんとか。

 

 ザグッて音。

 

 目の前のルフィが浮かび上がる。

 

 パサッと麦わら帽子が砂へ落ちた。

 

「なんで……?」

 

 まさか逃げる場所すら読まれてて、先回りされたってこと?

 

「てめぇらのようなルーキーなんざ、先の海にはいくらでもいる」

 

「ぁ……」

 

「ル……フィ……?」

 

 太陽を隠すかのように持ち上げられるルフィの身体は、鉤爪が貫通してて、おびただしい量の血が出てる。

 

「海賊のクセに仲良しこよし、虫唾が走る」

 

「あぐっ……」

 

 私も首を掴まれて持ち上げられる。

 

 足をバタバタさせるけど、麦わら帽子が落ちるくらいで、太い腕はビクともしない。それに、これじゃあ上手く(ウタ)えない。

 

「互いが互いの弱点となり、他人と馴れ合っちまったが為に死んでいく。そういう奴らを俺はごまんと見捨ててきたぜ、ルーキー?」

 

 喉が、焼けるように痛い。

 たぶん水分が少しずつ。

 

「わざわざ砂で耳を塞いでたが、どうにも聞いた話と違った戦い方をしやがる。むしろ脅威ではなかったから、宝の持ち腐れに変わりはないが」

 

 引き抜かれて、地に伏せたルフィが、クロコダイルの足を掴んでるけど。

 

「悪魔の実の能力は使い方と訓練次第でいくらでも強い戦闘手段になる。だが、ゴム人間は負担の大きいドーピング、歌人間は甘っちょろい歌、そういう方向性に進むとは嘆かわしいな」

 

「ウタを……放せェ……」

 

 ルフィが苦しそうだ。

 

 いっぱい血が出てる。

 

 砂に染み込んでいってる。

 

 こいつのせいだ。

 

「まさかまだ話せるとはな。安心しろ、この女の喉は枯らしはしない」

 

 あっ、そうだ、こいつを殺せば、皆が幸せになるんだっけ。

 

 ぱたんと後ろ髪が垂れ下がった気がする。

 

「……コロ……す」

「ぐっ……なんだこの寒気は」

 

 私の心臓が痛む。

 前にギア2を使った以上に痛い。

 

「はっはっはっ! なんて末恐ろしい能力だ。あの楽譜さえ手に入れば、プルトンに並ぶ程の兵器として……いや待て、そもそもウタ人間は革命軍にいるという話が世界政府で……」

 

 クロコダイルが何か言ってるけど。

 

「さっきの自由自在で多種多様な攻撃! そしてゴア王国に現れたという魔王! 話が繋がってきたぞ!」

 

 もう意識が。

 

「どういう経緯か知らんが、お前自身がすでに魔王を持っているということか。ハッ、まさか前半の海でこんな小娘がな」

 

 死ぬ前にルフィをウタワールドの中で生かせたいのに、それすらできないなんて。

 

「これからは俺が有効活用してやる。よくこんな危険な兵器を手懐けていたものだ、麦わらのルフィ」

 

「幼馴染だ! 兵器じゃねぇ! ウタを放せ!」

 

 ガンッという音と、ルフィの苦しそうな声がした。

 

 クロコダイルのやつ足蹴りにしたんだ。

 流砂の坂へルフィがゴロゴロと転がっていく。

 

「負け犬がよく吠える。せいぜい辺境の海で海賊ごっこでもやっていれば長生きできたものを」

 

 どす黒い何かで気持ち悪くなってきた。

 でもそれ以上に力が湧いてきて嬉しいな。

 

 ルフィがいない新時代なんて―――

 

助ける、から!!

 

 じゃあ。

 うん、信じてるね。

 

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