麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第38話 クロコダイル③

 

 耳が痛いくらいに、大規模な革命が起きている。

 

 戦火があちこちで起こり、深紅の血が流れる。

 

 海賊の悪意によって引き起こされたものだから、革命に向けて奮起しているというよりは、人々は戸惑い、混乱して冷静さを失っているわね。

 

 目指しているのはこの王宮なのでしょうけど、国王を吊り上げることよりは、真実を確かめたいから、といったことかしら。

 

「ほう、目覚めたか」

 

「ゲホッ……最悪の気分よ……」

 

 ドクドクと血が流れているのは、両腕を砂の釘で壁へ(はりつけ)にされているからね。私はこういう役回りは好きじゃないのだけれど。

 

 まだ目覚めることはできないようだし、代わりに脱出くらいはしておいてあげましょうか。個人的にも、囚われて助けてもらうだけのお姫様は願い下げだもの。

 

「ウタさん! よかった!」

「ビビも無事でよかったわ」

 

 声がガラガラ、これでは気晴らしに(ウタ)うことだってできない。といっても、見聞色の覇気を少なからず扱えるらしいこの男の前で下手な動きはしない方がいいわね。

 

「どういう状況かしら?」

 

「み、みんなが囮になってくれて、ここまでたどり着いたけど、私の声じゃ反乱は止まらなくて、しかも巨大な爆弾がセットされてて、私どうしたらいいか!!」

 

 ここから見える盤上はごちゃごちゃしているから、ゾロたちの居場所ははっきりとは聴こえない。

 

 ゾロたちもそう簡単に負けることはないけれど、Mr.3の実力を踏まえて予想すると、希望的観測を含めて、幹部相手には各自が辛勝すればいいところね。

 

ルフィさんが死んだ! ってこいつがッ!!」

 

「それでショックを受けているのね」

 

「はっはっはっ! そうさ。今は砂漠の藻屑さ」

 

 私も動揺させようと、サディストな男が高らかに叫んでいるけれど、まさしく小物っぽいわ。

 

 すでに彼の居場所と心臓の音を優先的に感じ取っていて、常に冷静な私は特に心配もしていないわよ。これがビビや他の女にはない大人の余裕というわけ。

 

 さて、そろそろ行動を起こしましょうか。

 利用させてもらうわね。

 

「ビビ、ヒントをあげる。話を聴く気のない民衆には、大きな音でも立てて、まず意識を向けさせるといいわよ。ちょうどいいものがあるようだし」

 

「えっと、大きな音って……爆弾のこと!?」

 

「ちっ、少し口が過ぎるんじゃないか?」

 

 砂で私の口を塞ぎつつ、砂の腕で首を掴まれる、そういうのが好きそうだけれど、貴方みたいなクズはモテないわよ。

 

……」

「ハッ、歌えないようだな」

 

 ようやく隙を見せたわね。用意周到で計画に少しでも綻びが見えると、こいつの思考は計画の再考にシフトする。なぜなら、こいつは信頼している部下が1人もいないから、自分自身で追加の指示を出さなければ気が済まないから。

 

「なっ! まさか鼻ウタか!?」

 

 フッ、と鼻でウタって砂を散らす。

 ついでに砂の釘も。

 

「てめぇ、さっきと雰囲気が違うな。何者だ?」

「通りすがりの魔女、今は海賊よ」

 

 私は着ている厚手の上着の前を開けて、それをマントにして靡かせる。煌びやかな踊り子の衣装なんて着ているせいで、珍しくだいぶ薄着だけれど、個人的にはこういう服装は動きやすくて助かる。

 

「まあいい。小娘1人手懐ける時間くらいある」

「小物っぽい台詞ね」

 

 私は(ウタ)いながら黒い五線譜を指でいじって、黒い(ウタ)を顕現して構える。柄を握り込んで傷口を止血する意味もあるけれど。

 

「子どもたちでも知っていることを教えてあげる。太陽は沈んでもまた昇るのよ」

 

クロコダイルーー!!

 

ちぃ、麦わらァーー!!

 

 鳥人間、動物系。

 彼に乗せてきてもらったようね。

 

「ウタの声も、ビビの声も、聴こえてきた!! 俺は生きてるぞーー!!」

 

 両腕を天へ突き上げて叫ぶと、喧騒に紛れて、皆の返事がちゃんと返ってきた。これでゾロもサンジもナミもウソップもチョッパーも、お互いに生存が把握できた。

 

 まあ、私とルフィは元凶に注目していればいい。

 

「ルフィ君、気を付けろよ!」

「ああ! 鳥のおっさんもありがとっ!」

「えっ、ちょっと、ルフィさんたちが!」

 

 あの人も戦士だけど、懸けたわけね。

 私たち海賊に。

 

「ルフィ、元気かしら?」

「ああ。肉いっぱい食って治した!」

 

 破れた赤いシャツから見える肌は、お腹を中心に包帯が巻かれていて、その傷ではギア2の多用は無理そうね。

 

「ところでお前、声枯れてるぞ?」

「ええ。だからあまりウタわせないで」

 

 ほら、と手渡してくるその袋はたとえ砂に飲み込まれそうになっても守り通してたのに。

 

「カラカラのおっさんの水、飲んどけよ」

「相変わらず人使いが荒いわね」

 

 喉を少し潤した私は、さらに受け取った麦わら帽子を深く被って、クルクルと(ウタ)を構え直した。

 

ウタは無事か?

そのうち起きるわ

 

 まあ、こんな水を飲まされたら、私も引くに引けなくなったじゃない。

 

「奇跡的に生きていたようだな。だが、前回よりお前ら2人とも弱くなってるわけだ。逆に俺はだんだん鈍っていたものを取り戻しているぞ」

 

「ごちゃごちゃうるせぇ! ゴムゴムの(ピストル)!」

 

 ガシッとルフィの伸びた腕が掴まれた。完全に読まれて避けられていて、通常状態だから止まって見えているかもしれないわね。見聞色の覇気を扱える自然系の悪魔の実の能力者ってだけで厄介なのに、この宮殿の周囲には水場なんてないし、あっても最初から枯らしているでしょうね。

 

「一つ覚えか。このまま水分を全て抜き取ってやる」

 

「へっ、お前知らねぇのか?」

 

(アクア)・スマッシャー」

 

 私は水を纏ったウタの刃を放った。

 

 その金色の鉤爪で受けようとしているけれど、知らないウタは対策できないようね。水の刃が途中で破裂して、砂の全身へ浴びせたことで水浸しになる。これでスナスナの実の能力は制限されたわ。

 

「ピストルは2丁あるんだ! (ピストル)!」

「なにっ! ぐァ!?」

 

 ルフィのもう片方の腕が撃ち込まれた。

 

 今日で何発目になるかしらね。

 自然系で何年ぶりかのダメージだろうけど。

 

「それと、こいつはうちの副船長なんだ!」

「貴方に合わせる苦労を考えたことはある?」

 

 相変わらず貴方は破天荒なんだから。

 

「船長と副船長……チッ、虫唾が走る!」

 

 あの技の構え、一度見たものね。

 だったら戦術はこうね。

 

砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)!」

 

(カーテン)

「ゴムゴムのぉ~」

 

 砂の斬撃を黒い五線譜で防いだけど、さっきの仕返しとばかりにもう片方の腕を構えているクロコダイルは笑みを浮かべる。

 

砂漠の宝双刀(デザート・ツイン・スパーダ)!」

 

 2本の砂の刃に対して、(ピストル)を撃つ要領で腕を伸ばしたルフィは残っている五線譜をガシッと掴み取った。

 

「ロケットォー!」

 

 そしてゴムの伸縮を活かして飛び込む。

 また予想外な閃きに反応できていないわね。

 

「バカな!? 突っ込む気か!?」

「ぐァァー だがこれで! 銃弾(ブレッド)!!」

 

 刃を受けて血が滴る拳で、クロコダイルの顔面を地面に叩きつけた。

 

「こいつら、なんだ、戦いの中で成長してやがる!?」

 

 水が弱点なら、赤い血でもいいって発想、それこそルフィらしいわね。そして、間髪を容れずルフィは足を天高く伸ばした。

 

 太陽にまでは全然届かないけれど、今はそれで十分。

 

ゴムゴムの斧ォ!

「ぐああああ!」

 

 拳から滴る血で赤く染まった背中を勢いよく踏み込むと、地面を割り、クロコダイルは下の階へドンドン落ちていく。

 

 どうにか空中でも体勢を立て直そうとしている辺り、自然系は厄介ね。

 

「とどめを刺しにいくわ」

「おう! ゴムゴムの風船!」

 

 ルフィの膨らんだ身体を足場にして、私は飛び込むように追いかける。

 

 (ウタ)の刃へさらに、斬撃属性のウタを重ね掛けすれば、輝く三日月の巨大な(ウタ)となる。

 

「俺を舐めるなぁ!」

 

 せめてもの抵抗で、巻き起こされた砂の風で、私の身体が少し押し上げられる。

 

いくわよっ

雪月(せつげつ)!!」

 

 リーチを縮めるように、私は(ウタ)を振り下ろした。

 

「グァッ!? なんだ、今の俺以上の覇気とでも? いや、こんな前半の海の小娘がそんなはずはない!!」

 

 ちっ、それでも浅いわね。

 

 鉤爪である程度受け止められて、肩を少し斬る程度。

 

 だったら。

 

「ギア(セカンド)!」

 

「旋風よ、斬り刻め!」

 

 腕を思いっきり伸ばしながら落ちてくるルフィの腕に風の刃で斬撃を与えて、手のひらを中心として血が噴き出し、ルフィは追い風を受けて加速する。

 

「あの風の歌!? 麦わらを!?」

 

 ドンッと、ルフィはクロコダイルと同時に地面に降り立った。

 

「さっきまで仲良しこよしだったはず! なんなんだてめぇらは!?」

 

「仲間だ!!」

 

 これが信頼というものよね。

 

ゴムゴムのJETバズーカァーー!!

 

 血が滴る掌のバズーカによって、クロコダイルの身体は吹き飛び、建物の壁を次々と貫通していく。

 

「よしっ! これで1勝1敗!」

「仕留めきれなかったのがマズいわね」

 

 ふんす と鼻息を出して喜んでいるルフィは可愛いけれど、こちらは消耗が激しいのに、本気を出してくるかもしれない。

 

「私はここまでね。あとは任せたわよ」

「おう。俺らでなんとかしとく!」

 

 体力も限界が近いし、抑え込んでいないと、今にもアレがドロドロと溢れ出しそうだわ。

 

 (ウタ)を終わらせると、手のひらからまだ真っ赤な血が流れている。凄く痛くて、ルフィと天使ちゃんに任せたら、クロコダイルなんて倒せるんだろうけど、でもこのまま休んでなんかいたら、いつか置いて行かれてこの現実の世界でルフィの隣に立っていられなくなるじゃん

 

「ルフィ、生きててくれてありがとね!」

「おう! 無事でよかった!」

 

 踊り子の衣装はやっぱり恥ずかしいけど、私は上着を完全に脱いで、それを包帯代わりに破いて、手のひらの応急処置を始める。

 

 負けたままは悔しいし、次は勝つから。

 

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