街の復興がかなり進んでいる。
この国の王族が慕われている証拠ね。
歴史があって綺麗に使われているお城の中をうろうろしていると、瓦礫の大岩を両腕に乗せたゾロを見つけたから、面白いことを思いついた。
「もうトレーニング?」
「グッ……おい何をしやがる」
気配を消してフッと耳に息を吹きかけてみるけど、それで揺らぐ程度の集中力じゃ、あの鷹の目にはずっと勝てないかもしれないわよ。
「てめぇ、やっぱり魔女のほうだな?」
「正解、気づいているのはナミと貴方くらいだけれど」
クルクルと白い髪をいじりながら、ゾロを褒めてあげる。まあ、あんなに限界を超えて戦ったのだし、いくら快復力が人より優れているとはいえ、ルフィですら3日間は目覚めていないものね。
「お前はなんなんだ。悪霊か?」
「的を得ているわね。でも悪といっても、世間的には海賊自体が悪でしょう」
はぐらかす私に対して、仲間思いな剣士の瞳を鋭く向けてくるけれど、それは、心配しているからでしょうね。
「安心しなさい。むしろまだ制御しきれない魔王を抑えこんであげているのよ。感謝してほしいわ」
「……は?」
腕がプルプルしてるのが面白いわね。
「ほら集中。そうね、いくらまだ未熟な能力で創ったとはいえ、現実と仮想を捻じ曲げる存在だもの。あの時は周りに倒せる人がいなかったし、それに、現実で強くなるためにはちょうどいい道具だったから、取り込んだってわけ」
言葉を切って、私は人差し指を口元に当てた。
「以上、内緒の話でした」
長々と話したけれど、別に誰彼構わず言いふらすことでもないし、世界政府の上層部に追いかけ回されるにはまだ力が足りないから、ゾロにも秘密にしておいてほしいわね。
「交換材料に、貴方が目指している力の1つ、覇気についてあげるわ」
ピクリとも動かない大岩を指でツンツンしながら、冷静さを保っているゾロの顔へ近づく。
「俺はあの時、確かに鉄を斬った。あの感覚を知っているのか?」
「それは覇気の1つ、武装色の覇気」
お手本を見せるために、私は落ちている瓦礫の岩をドガンッと拳で破壊してみせる。屈強な男たちと比べれば非力な身でも、覇気を纏えばこれくらいのことができるようになる。
「なっ!? お前も扱えるのか!?」
「ええ、それなりには扱えるわ」
拳を強く握っていて、焦っているようだけれど、その悔しさがまた先へ進ませると思うわ。
「他にも、悪魔の実の能力者に対して、弱点をつく事を除いては武装色の覇気が通用する。あの砂人間のように、自然系の流動する身体すら、実体としてとらえる事ができる」
いつかゾロなら到達すると思っていたけど、もうその片鱗を見せてくれるなんて、海賊王の左腕として期待できる。
「貴方が目標にしている鷹の目は当たり前のように使えるし、ルフィもほんの少し覇気を纏えたわ。今は彼も貴方も火事場の馬鹿力とはいえ、闘争の中で覇気はどんどん磨かれるから、ルフィも貴方もこれからよ」
ルフィもあの覇気を生まれながらに持っているし、時々その王の素質を見せてくれるから、いつか彼と同じような力を身に付けることも踏まえて、世界で最も海賊王に相応しい。
「へぇ、てめぇもルフィが好きなのか」
「ええ。魂から愛しているわ」
いじるネタができたと思ったのでしょうけれど、好きなんて言葉だけで、表現しきれないもの。だから私たちはウタい続ける。
「私と彼のためにもっと強くなりなさい」
「お前に言われるまでもねぇ」
そう言って、ゾロは空へ放り投げた大岩を2本の刀で斬った。
「じゃあ、私は用事があるから」
「ん? おう」
さて、そろそろ起きる気がするわ。
私は足早にルフィが眠る部屋へ行く。
頬へキス、そして布団へ潜り込む。
身体を寄せて密着させるとポカポカする。
30分くらいは熱と音色を楽しめるわね。
「よく寝たァ~~!」
「おは……よう……」
部屋着っぽいけど、いつ着替えたっけ。
ルフィと一緒に眠ってたってこと?
頬と頭がシューって熱くなっていく。
「ウタ、元気そうだな!」
「うん。ルフィも元気そうでよかった」
布団の中でゴソゴソと確認するけど、特に大丈夫そう。ていうか、たぶん私が眠っている時に天使ちゃんがご褒美をくれたんだと思う。フーシャ村を出てから添い寝する機会が減っていて、男子部屋で寝ようとしたらナミに女子部屋まで腕を引っ張られるし。
「あら、船長さんも起きたのかい!」
「おっさん!? 生きてたのか!?」
ビビと一緒にいたイガラムさん、ウィスキーピークで代わりに船で出た気がするけど、戻ってきたんだ。
「おは"ま~~ま~~ま~~ おはようございます」
「しかも2人!?」
いや、よく見たらクルクルロールケーキのような髪の数が違うかも。
「こいつの妻よ。給士長をやっているの」
「アラバスタを救っていたダ……あ"りがとうございました!」
ダミ声だけど言い切った。
私たちは顔を見合わせて微笑んだ。
「「どういたしまして!」」
クロコダイルをぶっ飛ばしてから、どうなったかよく分からないまま気を失っちゃったけど、ちゃんとビビたちの国は支配から解放されたんだ。
ギュルル~って隣から凄い音が鳴った。
まあたぶんかなり寝込んでたもんね。
「ハラ、減った……」
「えーと、何か食べ物をくれれば」
「ええ! もちろん!」
「腕をふるって用意してくるよ!」
私とルフィがイガラムさんに案内されると、すでにゾロたちは座っていて、机いっぱいに広がった料理があった。ごちそうを前にルフィが止まるはずもなく、飛びついていって、騒然とする気がしたんだけど。
えっと、確かに気づいたらもう料理をガツガツと食べているし、皆の驚く声が聴こえてきたけど、頭が痛くなるし、この見聞色の覇気の感覚に慣れるまでに時間がかかりそうだ。
「ていうか、私の分がなくなるでしょ!」
「ワルイ ムリ!」
コックの人が持ってきた骨付き肉を両手に持って、リスみたいな口で返事をしてくるけど、今のルフィに遠慮なんてないようだ。こうなったら、昔みたいに大食い対決といこうか。
「おいルフィ! 俺の皿から取ったな!?」
「ヤバい! 全部食われるぞ!?」
「取られるもんか!」
「チョッパーはマネしないで!?」
「ウタちゃんもそんな焦らなくても!?」
口いっぱいにモグモグと私も骨付き肉を食べているけど、独特な香りのする面白い味付けで美味しいし、どんどん食べちゃうのも分かる。
「ほら、ルフィ、ジュースあるよ」
「サンキュー」
あら、限界状態のルフィって、ジュースなんかじゃ止まらないみたい。たった数日食べずに寝込んでいるだけで、ここまで食欲旺盛になるんだ。
「おい、酒貰えるか!」
「私もー!」
「むぐっ!?」
「チョッパー!」
「おい! 水くれるか!」
「フフッ」
ビビは口を抑えて大笑いしているし、そのお父さんもお酒をガブガブ飲んでるし、いつの間にかお祭りムードの宴になっちゃってるね。たぶんお城のお食事ってもっと厳粛なんだろうけど、私たち海賊と一緒に騒いでくれるなんて、とてもいい国だ。
そして私たちは寝る前に、大きなお風呂に入れさせてもらうことになったけど、至れり尽くせりじゃん。なんたって雨が降らない国だし、それこそ王族や重鎮専用らしい。
まあ、ルフィやウソップやチョッパーが走り回ったり、お湯でバシャバシャしたり、もうはしゃいでるや。頭が痛くなりそうだから、これ以上ルフィたちの様子を確認するのはやめるけども。
ルフィって相変わらず子どもなんだよね。
「これって蛇? トナカイ?」
「えーと、龍だったかしら」
「はいはい、危ないから降りてきなさい。ところでそれは純金?」
面白い生き物を模した金色の像がお湯を吐いてるから気になっただけだもん。そういえば楽しそうな声が壁の向こうから普通に聴こえてくるけど、よじ登ったら、男湯と女湯が行き来できそうな構造なのが設計ミスだと思う。
「でも凄く重そうだよ。ていうか、龍って、恐竜のこと?」
「残念、お風呂ごと船に欲しいくらいだわ」
「ドラゴンともいうらしいけど、幻獣もどこかにいるんじゃないかしら。だって、巨人もいたし、雪国に桜だって咲いたし、空にフェニックスだって飛んだんだもの」
あの炎ってそんな風に見えてたんだ。まあ、ウタが偶像として見られるのはいいことだよね。
「よっと! 向こうは騒がしいね」
降りてくるとき、下着つけてないとぷるんってしちゃったけど、なんか最近また大きくなった気がする。
「それにしても、大きいわね」
「あれだけ食べているからでしょうか」
「私はお風呂で溺れない2人が羨ましいけどね」
年齢的にはナミやビビだって、これからどんどん大きくなると思う。どうせルフィが気にしないし、私はこれ以上はもういいかな。
「なんかよじ登ってきてない!?」
「えっ!? ホント!?」
「あいつら……」
ビビは急いで湯船に飛び込んだし、ナミもため息をついてゆっくり湯船に入ってる。でも能力者の私はそれができなくて、私はタオルでどうにか身体を隠そうとする。
「ゾロ、支えてやってくれ」
「別にいいが、嫌な予感しかしないぞ」
「おお、すまんの」
「国王コノヤロー!」
「おーいルフィ、次は俺だ!」
「俺も俺も!」
「この向こうに楽園が~♡」
じ~~~って男たちが見てくるけど、ルフィも見てる。
たぶんサンジが提案した雰囲気に乗せられたとか、みんなが登るから登っただとか、女子風呂の構造が気になっただとか、そういうのだと思う。
でも、ルフィと私の目が合っちゃって、お湯の中に逃げたいくらい顔が一気に熱くなる。でもお風呂に完全に浸かると溺れちゃうんだ。
「はぁ 1人10万ベリーよ」
「ナミ!?」
「ナミさん!?」
湯船の中から立ち上がったナミの、纏っていたタオルがはらりと落ちる。
「!?!?!?」
「「!?」」
サンジが勢いよく鼻血を吹き出していたのが1番目立っていたけど、国王様やウソップを中心にハチャメチャで落ちていった。
って、もう1枚タオルあるんだ。
まるで手品みたいだね。
でもルフィだけは何か思案顔でまだ壁から見つめてきている。
「そういや最近ウタと風呂入ってねぇな」
「バカ!? それ子どもの頃の話でしょ!?」
「はぁ!? ルフィ! てめぇー!!」
「カヤとそんなことしたことねぇぞ!?」
「なんと羨ましいことを!」
「国王コノヤロー!」
えっ、もしかしてルフィ、降りてきそうじゃん。
「国王様の鼻血が止まらん!」
「医者ァー!」
「お前が医者だろ!」
「騒がしいな。気になるならそっち下りればいいだろ」
「てめぇクソマリモ! 冗談抜かすな!?」
「それもそうか。あの金ぴかも気になるし」
ほんと女の子との距離感がバグっているけど、一体誰のせいなんだよもう。
仕方ないか。
「ほらルフィ、戻りなさいって」
ここにはナミやビビもいることだし、とりあえず、壁の下まで行って注意しにいくけどさ。
「タオル、落としてますよ……?」
「へぇ、あのルフィが」
私、プルプルと唇が震えてる。
口をキューって縮めて、目をパチクリしてるルフィに、私の身体がしっかり見られてる。
「きゅぅ~」
「ウタ! 大丈夫か!?」
「「くるなァー!?」」
フワフワしてきて、あ、これたぶん私、床に頭をぶつけちゃったんだ。ていうか、慌てて降りてきてくれたルフィの身体、カッコいいし、それに、その、
えっと、嬉しいハプニングがあって、幸せ