麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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プロローグ その5

 

 近づくにつれて、臭いはひどくなってきたけど。

 

「なんだここ!?」

「これ全部ゴミなの!?」

 

 コルボ山を抜けたこんな場所までエースは来ていたんだ。積み上げられたゴミは山のようになっていて、その隙間を人たちがトボトボと歩いている。

 

「あそこ燃えてるぞ!」

「こんなところに人が住んでるなんて」

 

 ゴミ山からはモクモクと煙が出ていて、鼻が壊れそうなくらい臭い。でもあちこちから住んでいる人のため息や悲鳴がたくさん聴こえてくる。

 

 なにこれ、こんなの、幸せなんてどこにもないじゃない。なんとかしないと。でもどうやって?

 

「いったん離れようぜ」

「うん……」

 

 あまりここにはいたくないことは本音だし、今の私やルフィにできることは何もなさそうだった。もしウタワールドの自由な世界に招待したとしても、私の限界が来たらまたここへ戻ってきてしまう。そうなったとき、私は命が尽きるまでここで歌わないといけなくなる気がした。

 

 今は、見て見ぬフリしかできない。

 シャンクスならどうするのかな。

 

あっ

「エースの声だ。誰かといるみたい」

「ホントだ! あの木のとこだ!」

 

 再びコルボ山のほうへ引き返すと、ようやくエースの秘密基地へ来れた。お宝とかお金とかがかなり集まっているみたい。

 

 シルクハットで金髪の男子とエースが仲良く話しているけど、海賊貯金だとか、海賊船を買うとか、エースも海賊になるために毎日がんばっていたんだ。

 

「お前ら海賊になるのか!? 俺も海賊になるんだ!」

 

 ルフィが大声で喜ぶように駆け寄ると、エースたちは驚くように、縄を持って近づいてきた。ルフィは捕まったけど楽しそうだから、別にいいや。

 

 私は木の幹に座って少し休みたいし。

 

「こいつらか。エースが言っていたルフィとウタってのは」

「とうとうここまで来やがったか。あんな難しいルートを通ったってのに」

 

「お前はエースの友達か? 俺たちと友達になろう!」

 

 縄でグルグル巻きだってのに、それすら遊びに思っているルフィは相変わらず呑気ね。

 

「俺はサボ、グレイターミナルに住んでいる」

「俺ルフィ! こっちはウタ! エースの友達だ」

「友達じゃねぇよ。サボも黙っとけ」

 

「あそこ、住めるの?」

「まあ、他に行く宛てもねぇしな」

 

 ふーん、サボは特に気にしていないみたいだし、住んでいるみんなとしては、もう当たり前の光景なのかな。そうだといいんだけど。

 

 たくさんの足音だ。

 

「誰か大人がこっちに来ているけど、親?」

「へ? いや、そんなはずは」

「いや、あいつらブルージャムの手下だ!」

 

 私はサボに引っ張られて、草むらに隠れさせられたけど、まだ縛られたルフィが残っている。エースが慌てて解いて2人で私たちのところへやって来た。

 

「ふぅ~ 危なかったぜ」

「ほら、ルフィも隠れてなさい」

「あいつらも友達なのか?」

「いや、海賊のやつらだ」

 

 大きな剣、見上げる身長だ。こっちも4人だけど、大人が4人もいるから勝てる気がしない。ほら、エースとサボが焦っているし、ルフィなんてゆっくり近づいて、いる?

 

「なぁ! お前たちも海賊なのか!」

「なんだこのガキ?」

 

 ルフィのバカ!

 

 海賊はみんな友達みたいに、ってルフィは悪い海賊に会ったことないんだ。ともかくルフィは見るからに悪そうな海賊の目の前に行っちゃった。

 

「あれ、エースは海賊って言ってたぞ?」

「なにっ! エースを知っているのか!」

 

 助けに行こうとした私は、サボに口を塞がれちゃったし、エースにはしゃがまされるし、こいつらも馬鹿力だからビクともしない。

 

「エースはな、俺たちの金を奪って逃げたのさ。どこにいるか知っているんだな?」

「し、しらねぇも~ん」

 

 ヤバい、珍しくウソをついたルフィが、連れていかれちゃった。あいつは勘が鋭いから、エースやサボのお宝を守ろうとしているんだ。

 

 今はシャンクスたちがいないんだから私が助けなきゃ。

 

「あっ、お前!」

「待て、危ないぞ!」

「ルフィを助けにいくの!」

 

 2人の腕を振り払ってから追いかけ始めて、再びゴミ山に付いたとき、なぜか足が震えてきた。

 

 怖い。

 あの山賊のやつらみたいな視線が一斉に向けられる。

 

「よう! 嬢ちゃん!」

「こりゃあ別嬪さんになるぜ!」

「さっきのガキの友達かい?」

 

 呼ばれている。

 

 耳を塞ぎたい。

 でもルフィの声が聴こえなくなる。

 

「おい! あいつを捕まえろ!」

「たぶん貴族の娘だ! 高く売れるぜ!」

「君、はやく逃げるんだ!」

 

 集中しよう。

 今はルフィの声だけに。

 

「ルフィ、どこなの...?」

 

 大人の歩幅のせいでどんどんルフィの声は遠ざかっていくし、しかも大人の歩幅で誰かが近づいて来ている気がするから、私は必死に走る。

 

 大きなゴミで何度か転んだし、ボロボロの靴でガチャガチャとゴミの上を歩く。ようやく、『痛い』とか『言わねぇ』とか、ルフィの声が聴こえてきたから、ますますスピードを上げる。

 

 私がもう少し強かったら、すぐにでも駆けつけてあげられたのに。私が弱いから、ルフィが死んでしまうかもしれない。

 

 だから。

 こんな壁なんて。

 壊れちゃえ。

 

「ルフィ、無事!?」

「ウタ~~!」

 

 ルフィのゴムの身体から血が流れて、ポタポタと垂れている。

 

 打撃は効かないといっても、あいつが身に付けているトゲトゲのグローブで傷つけられたんだ。ルフィの顔は凄く腫れていて、いっぱい涙を浮かべている。エースたちのお宝のことを言えば助かるのに、ルフィはこんなにされても黙っていたんだ。

 

 えらいね、ルフィ。

 吊り下げられた身体を抱きかかえる。

 

「ごめん。ウタは俺がまもるのによ~」

「いたいのいたいのとんでけ♪」

 

 (ウタ)いながら普段持っているナイフで縄を切って、袖でごしごしと目元や顔を拭いて、泣きやむまでヨシヨシしてあげる。

 

「いいの。私がルフィをまもるから。 ね?」

「ウタ、あぶねぇ!?」

 

 ドガッと頭を殴られると、痛いけど。

 意外と我慢できるものなんだね。

 

「さてはてめぇも能力者だな。まさか壁をぶち抜いてくるとは」

 

 今度は頬を殴られて口の中が切れたし、首を掴まれて持ち上げられたから、上手くしゃべれないしウタえないや。

 

「お前もエースとサボの仲間だな? エースとサボはどこだ?」

 

 涙をこらえて私は精一杯、首を振る。

 ここで泣いたら弱くなっちゃう。

 

 だいたい、必死に走ってきたせいで、このゴミ山からさだきの場所どころか、フーシャ村やダダンの家へ帰れるかどうかすら不安だもん。

 

「この! ウタを放せぇ!」

「クソガキ共が一丁前に秘密を守ろうとすんじゃねぇ!」

 

 しがみついたルフィがグローブで殴られた。

 私は腕に噛みつくけど、力が入らない。

 

「くそっ、ブルージャム船長に俺たちは殺されちまう! こうなったらてめぇらを売って、今すぐ金を用意するしかないか!?」

 

 人を売るって何なの?

 どいつもこいつもイヤなことをする。

 

『なぁウタ、この世界に平和や平等なんてものは存在しない』

 ねぇシャンクス、こんな価値観、私たちの新時代にはいらないよね。こんなやつがいるから自由じゃない人がいるんだよね。

 

「俺はいいから、ウタだけは放してくれよ!」

「てめぇら2人でギリギリ足りるくらいの大金なんだ! 恨むならエースとサボを恨め!」

 

こいつはいらない。

ならウタえばいいわ。

 

「コロ...」

「「やめろぉーー!!」」

 

 ドガンッ、ってもう片方の壁をエースとサボが突き破ってきたんだ。

 

 鉄パイプを自由自在に扱っているエースが、次々と海賊たちをやっつけてくれている。

 私とルフィの身体を両腕に抱えたサボが、海賊たちから離れてくれた。

 

「エース~!」

「サボ~!」

「そんなに泣きつくなよ!」

「お前らが無事で良かった」

 

 だってやっぱり怖かったんだもん。

 まだまだ弱いね、私たち。

 

「戻ってきやがったか。大人しく金を返してくれよ、ガキ共」

「俺たちの方が有効に使えるッ!」

「ルフィとウタを傷つけやがってッ!」

 

 たぶんどっちが悪かって決めようとしたら、エースとサボが盗んだこともあるんだけど、たぶんこの海賊のやつらも真っ当なやり方でお金を稼いだわけじゃなくて、結局どっちが正義がよく分からないや。

 

 でも真正面から立ち向かっていく2人の背中はまぶしくて、だからこれは。

 

「ガキに敗けたら、俺は海賊をやめてやるよ!」

「「なめてんじゃねーぞ!」」

 

 勝ったほうが正義だ。

 海賊同士の喧嘩なんだ。

 

 2本の鉄パイプと、1本の剣が甲高い音を立て始めた。

 

「すっげー! エースもサボもつえー!」

「たった1歳年上なのにここまで違うんだ」

 

 私とルフィはまた助けられた。

 頼れる2人のちょっと年上の男子に。

 

 私とルフィはそれぞれ、サボとエースにおんぶされて秘密基地まで戻ってきた。少し休んだらお宝を移動するの手伝えって、私たちを仲間として迎え入れてくれる声をかけてくれたし、ダダンからよく渡されて溜まっているらしい包帯とお薬もくれた。

 

 ていうかダダン、これも金欠の原因の一つなんじゃないかな。まあ、私もルフィも治るのは早いけど、血は早く止めないとね。

 

「たすけてくれてありがとう!」

「ありがとね。あんたらのせいもあるけど」

「まあそれはわるかったな」

「……なぁ、なんで口を割らなかった?」

 

 サボは素直に優しくて、エースはツンデレで優しいって感じかな。サボのほうがカッコいいし優しいし紳士的だし、ポイント高いと思う。

 

「しゃべったら友達になれねぇ気がした」

「死ぬよりいいだろ! なんで俺なんかと友達になりたいんだ! 毎日毎日、わざわざ危険な道を追いかけてきやがって」

 

 そうかな。もっと危ない道もある気がする。

 時々振り向いて様子を見てきていたよね。

 

「だって俺も友達が欲しいし、ウタに友達を作ってやりてぇ」

「……え、私?」

 

「シャンクスも遠くへ行っちゃったし、マキノにもとうぶん会えねぇ。こいつ放っておいたらすぐ1人になりたがるんだ。1人になるのは凄く辛いことなのによ。だから俺がいーっぱい友達作るんだ! ダダンたちともこれから仲良くなりてぇし!」

 

 別に私はルフィさえいれば。

 寂しくはないと思う、けど。

 

「……俺が必要なのか?」

「当たり前だ! エースは肉取るの上手だしな!」

「ははっ、こいつも昔は失敗だらけだぞ」

 

 みんな友達じゃなくても私はいいんだけど、こいつといると自然と友達が増えちゃうな。だから。

 

「まっ、サボのついでに、エースとも仲良くしてあげてもいいわよ」

「はっ! お前みたいなひょろひょろ女、こっちから願い下げだ」

「まあまあ2人共、ウタくらい動ける女子なんてそうはいないだろ」

「4人で仲良くしよう! 海賊はみんなで歌ったり宴したりするんだぞ!」

 

 この3人が人外レベルな男子というだけで、私だってシャンクスの娘に恥じない女海賊になるんだからね。やっぱりエースは生意気な男子ね。サボみたいに紳士的な男子になってくれたら、もっと仲良くしてあげるのに。

 

「日も暮れてきたし、俺もゴミ山に戻るわけにもいかないしさ。宝を運んだらお前らのとこに世話になってもいいか?」

「じゃあみんなでダダンのボロ小屋へ帰ろうぜ!」

「サボ~ 疲れたから帰りはおんぶして~」

「サボに甘えるな。自分で歩きやがれっての」

 

 今日はたくさん痛いこともあったけど、ちょっと年上の優しい男子たちと仲良くなれたから、私とルフィは笑顔で笑い合う。

 

 ねぇシャンクス、毎日が楽しいよ。

 

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