麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第42話 ビビ

 

 羊の船と白鳥の船が並ぶように川から海へ出て、待ち構えていた海軍の軍艦8隻と交戦を始めたんだけど、やっぱり私たちって海の上では遠距離攻撃手段に乏しいから、一方的にメリーが傷つけられている。

 

「くそー 砲弾なら風船で跳ね返せるのに!」

 

 ルフィもこの真っ向から喧嘩できないことだけじゃなくて、メリーの船体にすでに6本くらい鉄槍が突き刺さってしまっていることに、やり場のない怒りを抱いているみたい。

 

(カーテン)♪ ハァハァ」

 

 私も見聞色の覇気で、次に来る鉄槍を察知して、局所的なウタの五線譜で防いでいるけど、頭がズキズキしてきた。

 

「このままじゃウタちゃんが限界だぞ!?」

 

 操舵手をしてくれているサンジが気にかけてくれるけど、迎撃に動けないのってのもたぶん歯がゆいと思う。

 

「JET(ピストル)! そんなこと分かってる!」

 

 メリーの船首に立っているルフィは、私とゾロの負担を減らすように、ゴムの腕をいっぱい伸ばして、鉄槍を次々と撃ち落としてくれていた。休み休みだけどギア2を使っているから、少しずつ息が荒くなってきている。

 

「鬼斬りィ! くそっ、刀の届く範囲でしか防げねェ!」

 

 ゾロが守っている側がかなりきつそう。ていうか、私やルフィだって能力なしじゃ海面ギリギリに向かってくる鉄槍なんて防ぐことはできないし。

 

「ギャ~ 俺だけじゃもう穴が塞ぎきれねぇよ~」

 

 チョッパーは大きな姿になって、木の板で水漏れを防ぐという力仕事をしてくれているけど、かなり負担がかかっちゃってる。

 

「揺れるから砲弾を運ぶのも一苦労だぜ!?」

 

 主砲がある男子部屋がすでに水浸しだから、甲板に置いた大砲へ弾を運んでいるけど、船が揺れてウソップも大変そうだ。

 

「マズいわね。4方向に2隻ずつ、どう進んでも陣形が崩れないわ。波の状況からして南には一点突破で抜けれるとしても、東の港まで逃げきれるかどうか……」

 

 ナミが海面の様子を見ながら、サンジへ指示を出してメリーを進ませているけど、8隻の軍艦はぴったり張り付いてくる。

 

 それに、メリーは私とルフィとゾロで3方面をある程度防げていて、白鳥がかわいい船が後ろを守っていてくれるけど、それこそあっちの船にはある程度防げる人がボンちゃん1人しかいないから、どんどん鉄槍が刺さっちゃってる。

 

 こうなったら、なぜか船室にいて、様子を見ているロビンさんに手伝ってほしいくらいだ。なんかこう、お花みたいに腕を咲かせて、船をひっくり返すとかさ。

 

「あんたたち、南よ! そこならいけるんでしょ~!?」

 

 ボンちゃんがナミの声に反応して、泣きつくように叫んだ。

 

「ごめん! 仲間と約束してるんだ!」

 

 そうだ、ルフィの言う通り約束の時間に間に合わなくなる。

 

 だったら。

 私が(ウタ)の力で切り拓く。

 

「ウタウタ指揮者(コンダクター) ギア2!」

 

「ウタちゃん!? それって確か!?」

「それやっぱり危ないドーピングだろ!?」

 

 サクラ王国の時も、サンジやチョッパーに心配されたんだっけ。

 

「大丈夫、一発だけだから」

 

 私は、熱くなっていく赤い大剣(ウタ)を握り込んだ。

 

 あっつい。

 

 あの時は手の感覚が鈍くなってたけど、今思うと、この技って手のひらが火傷しちゃうくらい熱い。でも集中して、シャンクスの剣技の1つと、エースの炎、そのイメージをこの(ウタ)に込めないといけないよね。

 

せーのっ!

ウタウタの海賊剣 一閃!!

 

 燃え盛る大剣(ウタ)を全身で振りかぶると、メラメラとした炎の鳥を形創り、東側の軍艦の1つの帆へぶつかる。

 

 燃え上がっている軍艦に混乱しているみたいで、鉄槍の砲撃が少し止まるかな。それこそシャンクスやミホークさんなら、飛ぶ斬撃でスパーンって遠くの軍艦を斬れるんだろうけど。

 

「ウタのやつすっげぇー!?」

「なんて威力の飛ぶ斬撃!? いや歌か!?」

「だがウタちゃんへの負担が大きいぞ!」

「でも! おかげで突破口は見えたわ!」

 

 今の私じゃ、やっぱり1発が限界だね。

 ギア2を解除して私はそっと深呼吸する。

 

「ウソップ! 撃てるか!?」

「ああ! 必ず当ててみせる!!」

 

 ルフィの指示で、ドーンッと撃ったウソップの大砲の砲弾がたった1発だけど、東のもう1隻の船体に当たった。それはほんの少し揺れだけど、隣り合っていた2隻が大きくぶつかった。

 

 これで陣形が乱れたけど、相手はもう東側を立て直そうと1隻が東へ向かっている。よっぽど冷静な指揮官がいるみたいだね。

 

 でも、こっちだって。

 

「サンジ君! 今のうちに東へ舵を!」

「了解だ、ナミさん!!」

「ボンちゃん! お前らも速く!」

 

「あんたたち待ちなさい!!」

 

 その声に、サンジの動きが一瞬止まる。

 

「どうせあちしたちの船は限界だったわ。たとえ東だろうが、南だろうがね。あぁ、この先の海にまで行ける海賊にはなれないのでしょうね、あちしたち」

 

「だったら! 全員メリーに乗り移れ!!」

 

 ボンちゃんは、首を振った。

 

「そんな時間はないわよ。それに、傷ついたメリーちゃんに乗れる人数も限られているわ。だからあちしたちは旗艦を落として、アラバスタ本土まで逃げのびるわ」

 

「じゃあ、俺たちも戦うから! 諦めるな!」

 

 ボンちゃんは、手で制した。

 

「諦めてないっての!! だからここからはあちしたちの戦いよ! ついでに3分くらいは引き付けておいてあげるから、それまで姿を見せないようにしなさい!」

 

 そして、彼らは陸がある方向へ舵をきる。

 

 そっちには旗艦が待ち構えていて、1番逃げきれるチャンスは薄いのに、それでもあの傷ついた白鳥の船が、最後に進める道なのかもしれない。

 

「ボンちゃん! 行くな!!」

 

「今生の別れでもあるまいし! いつかどこかの海で会いましょ~う! あと麦ちゃん! 麦ガール! お幸せにね~ん!!」

 

 今のマネしてニコニコしている横顔、ルフィと少し似ていたかも。

 

 私の隣にいるルフィは歯を食いしばっていて、私もできることなら助けにいきたいけど、船長としては選択をしなきゃいけないんだ。

 

「どうする、ルフィ?」

 

「ボンちゃんの言う通りにする。お前ら一旦下にいくぞ。  ゾロとウソップはそのままチョッパーを手伝ってくれ」

 

「ああ。あいつらを追っても共倒れになるだけだな」

 

 刺さっている鉄槍を睨みながら、ゾロも3本の刀を鞘に戻した。

 

「よ、よしっ、早く隠れようぜ!」

「サンジくんも行くわよ」

「オーケーだ、ナミさん。あのオカマに借りを作っちまうとはな

 

 私が覇気で外の様子を視る。

 

 マネした顔に海軍の人たちは騙されたみたいで、動きを見せないメリー号を置いて、軍艦の包囲網がそっちへ集中している。それくらい今の海軍の人たちってルフィのことを1番に警戒しているのかもしれない。

 

人として船員(ダチ)は誰一人だって置いていかない!!

 それがオカマ(ウェイ)!!

 

 耳を澄まさなくとも、その漢前の声が響いた。

 

「チッ、ヒナ屈辱! 貴方たちだけでも拘束するわ」

 

麦ちゃんチームっていう友達(ダチ)のためにも散れる!!

 

 追加で砲弾を大量に受けながらも、煙を上げる白鳥の船はその最期に旗艦にぶつかった。

 

本望ォーー!!

 

 次々と笑顔で海賊たちは乗り移り始めた。

 

 あの海賊団が再び咲くかどうかは、凄く不利な喧嘩に勝たないといけない。今なら私たちも助けにいけるかもしれないけど、次に包囲されたら、たとえ勝てたとしてもメリー号が沈む可能性が高くて、それはあの海賊たちの決意を無駄にしちゃう。

 

 私とルフィとナミとサンジは甲板に出たけど、役目を終えたように、ボロボロの白鳥の船がゆっくりと海に沈んでいってる。

 

「そんな、あそこまでやるの」

「ちっ、海軍のやつら、手加減するつもりはねぇな」

 

 ルフィも拳をギュッと握った。

 この選択は船長に任せるしかない。

 

サンジ、取り舵いっぱい!!

「了解、船長(キャプテン)

 

 再び位置について、サンジは大きく舵をきった。

 

 少しずつ、どんどん海賊たちの気配が小さくなっていて、私は一度見聞色の覇気をオフにする。私も彼らのことは忘れないし、また会えることを祈り続けるけど、でもやっぱりつらいよ。

 

「なぁウタ、これで良かったかな。」

「うん。最善の決断だったよ」

 

 ルフィは自分の麦わら帽子をギュッと握った指を、緩めた。

 

 無理を通して皆助けられるくらいに。

 私たち、もっと強くならなきゃね。

 

 

 メリー号は波と追い風に乗って、東の港へグングンと進む。どこかで停泊して、突き刺さった鉄槍を抜いて、船体をすぐにでも修理したいけど、追手はどんどん増えている気がする。

 

 約束した東の港が近づいてきて。

 

「……暗い暗い嵐の中で一隻の小さな船に会いました」

 

「ビビの声だ」

 

「ホントか!?」

「えっ、どこだ!?」

 

 何かの御伽噺(おとぎばなし)かな。

 海の先に向かって進む船が、光をくれたって。

 

 国中でスピーカー越しに拡声されているようだけど、ビビの気配がようやく見つかった。約束の東の港とは少し離れているけど、国中に演説している最中なのにあんなところにいるじゃん。

 

みんなぁ~!

クェェ~!

 

 ビビやカル―が、私たちに気づいたようで、今はスピーカーで拡声していないようだけど、手を振りながら大きな声で呼びかけてくれる。

 

「よしっ、みんな! 船を寄せるぞ!」

「ああ! 海軍も来てるし急ごう!」

「ルフィは腕を伸ばす準備しておいて!」

「ビビちゃんがまた船に乗ってくれる♡」

「おいサンジ、はやくしろって~」

「ナミ、結局お前も嬉しそうじゃねぇか」

「そういうゾロも頬が緩んでいるわよ」

 

 本当によかった。

 これでまた一緒に冒険を続けられる。

 

「私、一緒には行けません! 今まで本当にありがとう!!」

 

 えっ。

 

「冒険はまだしたいけど 私はやっぱりこの国を!」

 

愛してるから!!! だから行けません!!」

 

「私はここに残るけど! いつかまた会えたら!

 もう一度仲間と呼んでくれますか!?

 

 

 別れることは泣きたくなるくらいだけど、ビビの決断は優先したい。それでも、『仲間だ』って今すぐに伝えたいのに、海軍がすぐそこまで来ていて、ビビのことを海賊だと疑う声が出ていて、これからアラバスタで再び王女様として生きるビビが捕まっちゃうかもしれない。

 

 このまま何も言えず別れるなんて凄くイヤだけど。

 

 どんな言葉でも

 どんな歌でも。

 たとえ手を振ることさえ。

 

 私たち、仲間に返事をしたらダメなんだ。

 

 私たちは背を向けて、漏れそうになる涙声を抑えて、左腕を思いっきり掲げる。この行動の意味が分かるのは私たちだけなんだ。いつまでも、私たちはそこに書いた『仲間の印』を憶えている。

 

 すると。

 

「~♪」

 

 ビビの歌声が聴こえてきたんだ。

 歌、作ってくれたんだ。

 

「泣かないことを決めたはずなのに

 涙あふれて止まらなかったよ

 

 淋しいんじゃない

 悲しいんじゃない

 勇気をくれたからなんだ

 

 旅立ちを決めた朝

 止めることできなかったよ」

 

道のつづき違うけれど 信じてるよ

 

 

 いつかその歌の続き、聴かせてもらうからね。

 

だから今は。

この海の先へ進むんだ。

 

野郎共! 出航ォ~~!

「「「「「「お~!!!」」」」」」

 

 涙混じりに、広がる青空へ叫んだ。

 

 





エピソード アラバスタ主題歌『compass』
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