麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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このSSのウタの懸賞金8600万ベリーの理由:
『ONE PIECE FILM RED』公開日

ハロウィンを彷彿とさせる数字でもあり、まさかハピハロウタはそこまで見越していたのでしょうか。なんにせよ可愛い。


第43話 七武海

 

 七武海の一角が崩れた。

 

 政府に認可されているとはいえ、力無き人々から略奪を行うようなモーガニアに属する海賊の1人だったのだ。アラバスタを襲う海賊たちを追い払ったことで、彼も『正義』の英雄の1人だと語る者もいたが、やはり多くの海賊が裏の顔を持つ者たちなのだろう。

 

 海賊はやっぱり海賊だった。

 

 ともかく、新聞を通して、『悪が退治された』と朗報が世界を駆け巡る。

 

 グランドライン前半の海を縄張りとしていたクロコダイルが、アラバスタという王国を乗っ取ろうとした事件、それが海軍によって阻止されたということなのだから、『海軍』の名声はますます上がることだろう。

 

 表向きの話はここまで。

 

 裏社会では、様々な憶測と思惑が交差する。

 

 『秘密犯罪会社バロックワークス』が事実上の廃業であり、『武器商人』は前半の海から後半の海へ別の市場を探し始めた。

 

 『オハラの悪魔』がクロコダイルの右腕として所属していた情報を取得したことで、『世界政府』がその行方を追い始めた。

 

 かのゴール・D・ロジャーもそうだったが、『D』の名を持つ海賊が2人も新たに頭角を現したため、見覚えのある麦わら帽子のことも含めて、『七武海』は下克上をしたルーキーたちに大なり小なり注目をする。

 

 例えば、世界最強を競う剣士。

 

「フッ、クロコダイルを落としたか」

 

 鷹の目と呼ばれ、単騎で七武海として扱われるミホークは、七武海最強候補ともされている。ていうかミホーククラスが7人いるなんて考えたくもない。

 

 やつは七武海最弱かもしれないが、しかし計略家として知られ、悪魔の実最強種の自然系の能力者だ。そんなクロコダイルは覇気を一度使えなくなったとはいえ、前半の海としては破格の強さだったはずだ。

 

 ワインを嗜みながら新聞を机に置いた。

 そして、3枚の手配書を並べる。

 

 まず1枚目、船長の麦わらのルフィは、持ち前のニカッとした笑顔で映る写真は変わらないが、3000万ベリーから1億ベリーまで跳ね上がっていた。彼らに会ったのは東の海だったが、時期と懸賞金の増額を鑑みれば、麦わらの一味がクロコダイルを倒したに違いないと確信できる。

 

 そして2枚目を手に取ったところで。

 

「クッ……はっはっはっ!」

 

 抑えきれず、静寂を保つ廃城で珍しく、大笑いが響く。

 

 麦わら帽子を被った赤白髪の女性の肖像画だが、その姿の特徴を伝え、かの海賊女帝の手配書でも横に並べて描いたのだろう。確かに美人に成長していたが、いまだ幼さを残していたはずだし、あの騒がしい父親の影響で大口を開くような『笑顔』が足りない。

 

「やれやれ。赤髪のやつが、海軍や政府、それに白ひげの船に殴り込みをかけてもおかしくないな」

 

 まさしく赤髪の娘の手配書だが、その名すら『ポートガス・D・ウタ』となっているのだから、とんだ誤解が世界に広まってしまったものだ。これでは赤髪の娘ではなく、火拳のエースの血縁者だと伝えている。

 

 やがて、瞳がさらに鋭くなり、真剣な表情に戻る。

 

「何かあるな」

 

 ルフィが1億、ウタが8600万、他にも何かしら世界政府には思惑があるに違いない。ピースメインだった赤髪が急に政府の船を襲ってまで手に入れた悪魔の実、そして、東の海に出現した新しい魔王に関する悪魔の実、それぞれを宿しているからだろう。

 

 2人揃って、曰く付きの悪魔の実とは、これも運命なのかもしれない。

 

 ならば、かの剣士も確実にその嵐に巻き込まれる。

 

 残る手配書を手に取れば、傷ついて土埃が残っている剣士の顔は少しマシになっていた。獣のような瞳の中に、研ぎ澄まされた落ち着きが見え始めている。

 

「ロロノア、ここまで登ってこい」

 

 現段階でどのような剣士に至っているのか、この写真と6000万という額だけではさすがのミホークも分からないが、あの時から急成長していることは確かだ。

 

 シャンクスが片腕になったこともあって、ミホークは本能的に新たなライバルとしてルーキーが追いかけてくることを望んでいるのかもしれない。

 

「行くとするか」

 

 ピースメインということもあり、空席に入るのはもしかすると麦わらの一味かもしれないと、ミホークは珍しく政府の招集に応じるべくコートを羽織った。

 

 

 他にも。

 

 愛と情熱とオモチャの国と呼ばれる、ドレスローザという王国がある。この島は新世界にある点と、七武海が王として君臨していることを踏まえれば、ある意味クロコダイルの上位互換とも言える。

 

 さらに、多くの能力者で構成されていて、なおかつ信頼できる部下がいる点も、現在のクロコダイルとは、海賊としての格が違った。

 

「ドフィ、全部お前の言う通りだったよ~」

 

「そうか。ご苦労だった」

 

 船長自身も頭脳が秀でているが、参謀も優秀だ。わざわざグランドライン前半の情報の裏付けを取ってもらったのは、クロコダイルがなぜアラバスタを狙ったかについてだ。

 

「フッフッフ、ワニ野郎、コソコソと歴史勉強してたら捕まっちまったらしいな」

 

 あの済ました顔が崩れたことを想像しながら、皮肉を言ってみたが、なかなかに愉快な話だ。

 

 場合によっては、その歴史の深さはともかく、アラバスタなんて弱小国を己が支配するのも一興だと思ったが、情報屋の調査によれば世界政府のやつらの出入りがそこまでない以上、あの国自体にはそこまでの価値はなさそうだと判断をした。

 

 強いて言うなら、かの四皇へ動物系の悪魔の実を売り渡せるかもしれないことか。

 

 特に、飛行できる能力というものは新世界でも希少だ。だが悪魔の実の復活のメカニズムはまだ不確かな説であり、わざわざ注目されている国を狙うより、現在の計画を密かに押し進めることが優先だ。

 

「クロコダイルはこいつらがやったんだって~」

 

「おいおい、Dが2人かよ。それを踏まえると、この懸賞金も過大評価ではないかもしれないな」

 

 といっても、現在の懸賞金では火拳のエースの格下であるし、彼でさえ英雄ガープの領域にはまだまだ至っていない。それに、新たなDの出現に焦っているのは、世界政府や奴らであるだろうし、むしろ忌々しい過去を経験したドフラミンゴとしては嗤える話題だ。

 

「まあいい。ワニ野郎がヘマしただけさ。時間の無駄だったな」

 

 イトで3枚の手配書を八つ裂きにした。

 もし己に楯突いたなら殺せばいいのだと。

 

 面白いことがありそうだと、ドフラミンゴは政府の招集に応じるべく、部屋から出ていく。

 

 

 他にも。

 穏やかな海に浮かぶ船の上。

 

 アーロンの手配書が潮風に揺れる。

 

「アーロンのやつらはどこに行ったんかのう」

 

「大人しくしていましたが、ここに来る前に船から飛び出すようにどこかへ...」

 

 最近何かとネコの姿でいることが多い彼が、しょんぼりと甲板に視線を落としている。

 

 東の海で穏やかに暮らしていると思っていたアーロンたちだが、海軍支部の1つと結託して、1つの島を支配し続け、そしてルーキーの海賊たちに敗れたらしい。

 

「しかしエースさんに妹がいたとは」

「えっと、エースさんとは?」

 

 3枚の手配書の中には知っている人の妹さんがいるようだ。ネコを知るために飼うことにした猫にすり寄られている彼に向けて、白ひげ海賊団2番隊隊長のエースについて話し始めた。

 

 おおらかで自由であり、かの白ひげのように義理堅く仲間思いであると。他にもメラメラの実の能力者であること、大食いであること。

 

 すると。

 

「なんだか、こっちの。彼の兄のように思えてきました。黒髪でもありますし」

 

「ふむ。まあ何にせよ、いずれ会ったときには、アーロンがとんだ迷惑をかけたこと、わしも誠心誠意謝らねばな」

 

 彼もほぼ単騎の七武海ではあるが、7人の中でもかなり良心的で温厚、そして義に厚い人物だった。彼はエースさん同様、この3人の海賊団とは意気投合できればいいと、いつか出会う日を待つことにした。

 

 今はアーロンを探すべく、政府の招集に応じている暇はないと、荒れ始めた海へ彼は飛び込んだ。

 

 

 他にも。

 

 女ヶ島、そこにはアマゾンリリーという女性だけが住むことを許されている国がある。

 

 九蛇海賊団と呼ばれ畏怖されているが、海賊行為はほぼ行っておらず、皇帝本人と戦士たちの強さを警戒することを踏まえて、七武海として扱われていた。

 

「姉様、七武海のクロコダイル、国を奪おうとして捕まったそうよ」

 

「男ってバカね。七武海の座も名誉も全て失うなんて」

 

 彼女たちにとって、七武海とは自分たちの国を守る称号なのだ。忌々しい過去を経験したこともあり、研ぎ澄まされた覇気も、己の能力を極めることも、保守的な考え方からくるものだ。

 

「あの男に興味はない。覇気を纏えぬ弱者よ」

 

 美しすぎる彼女は、その言葉通り男に興味を持つことはない。七武海の中でも彼女と対等以上に戦えるのは、鷹の目と、気に障るサングラスと、魚人の武人だけだろう。

 

 覇気を感じ取れなくなって砂になるだけの男など、同じ称号で語られるだけ、プライドの高い彼女にとっては侮辱のようなものだ。

 

「だったら、こっちの娘はどう?」

「あら、それなりに美しい娘ね。といっても、姉様の手配書を真似て描いただけでしょう。実際は大した女じゃないでしょうね」

 

「フン、麦わら帽子か。どうやらそっちの麦わらの男に気があるようじゃが、そんなことに現を抜かす女など、わらわの足元にも及ばん」

 

 いまだ恋をしたことのない海賊女帝は、現段階では、色恋沙汰に興味がなかった。彼女たちは手配書を捨てるように放って、湯浴みに向かい始める。

 

 マリージョアに来いという政府の命令だが、あの地には決して行きたくはない。

 

 

 他にも。

 

 すぐに、その名前と黒髪から予想はついた。

 

「……あんたの息子か」

 

 笑っている写真は、彼の上司と似ても似つかない。

 

 もしあの男が心から笑ったとしても、子供が逃げ出すくらい顔が引き攣ったものになるだろう。まあ彼の息子ならばたとえまだルーキーであってもクロコダイルを倒してもおかしくない。

 

 手配書を片手に呟いた大男は無表情だ。謎の能力に一瞬で地に伏せられた海賊団はさらに不気味さを感じてしまう。

 

「旅行するならどこへ行きたい?」

「あ、安全な海に、帰りたい!」

 

 『七武海にして唯一政府の言いなりに動く男』とされる彼は、今日も無償で海賊を狩っている。今回はわざわざグランドライン前半へ来たが、面白い手配書を拾えたことに内心は喜んでいた。

 

 新たな『嵐』を巻き起こすルーキーなのだから。

 

「や、やめ」

 

 軽く手を振ると、1人の仲間の姿が消えた。

 

「こいつ、やっぱり暴君だ!?」

 

「おい! こいつを止めておけ!」

 

 1人ずつ消えていく光景に、海賊団の船長は背を向けて逃げ始めた。今なら部下を囮にすれば、自分だけは助かると思っているのだ。悪魔の実の能力者が追ってこられない場所へ、全速力で海に向かって走る。

 

「お前が船長だったか」

「ひぃ!?」

 

 いつの間にか先を越され、砂浜に巨体が立ち塞がっていた。

 

 わざわざクマが出向くにはあまりにも実力差があるが、アラバスタ関連で、グランドライン前半の海で人手不足になっているのだろう。言うなれば、クマの手でも借りたい状況ということか。

 

「や、やめ……」

 

 声とともに姿が消える。

 

 そして、靡く手配書を丁寧に本へ挟んでまた1人で歩き始める。いまだ彼には意思があるが、政府の招集には必ず従うしかなかった。

 

 

 他にも。

 

 スリラーバークという、島と見間違うほど巨大な船だ。魔の三角地帯にあることもあって、常に太陽が霧に覆い隠されているため、彼の縄張りとしては最適な場所だった。

 

「クロコダイルのやつ、どうせ海軍に捕まるなら、影をよこせっての」

 

 彼は苛立つように告げる。

 

 見た目の影響もあるのか、海軍にはなぜか評価が低い七武海の1人だった。彼の能力は太陽が弱点のため、インペルダウンという監獄のシステムが相性が良い。もし世界政府の忠実な戦力となっていたなら、相当厄介な海賊だっただろう。

 

「まあいい。しょうがないからこっちだ。こいつらの影や肉体には興味があるな」

 

 懸賞金からしか実力は分からないが、グランドライン前半のルーキーとしてはなかなかの強さだろう。しかも強靭で若い肉体ということを考えれば、改造を加えて、たとえ死体であっても上手く活用できそうだとニヤニヤと笑う。

 

 クロコダイルと麦わらのルフィの関連性に気づかないのは、現在の七武海の中では、知力もしくは情報が足りていないからだ。

 

「ここを通り抜けてくれたら嬉しいんだがなァ!」

 

 3枚の手配書のうち1人は容姿も優れている女性で、忠実な部下が生きたまま欲しがるかもしれないとも思っていた。現在の幹部が少ない分、彼は船員にかなり優しい人物ではあった。

 

 ちなみにマリージョアへの招集なんて、忘れていた。

 

 

 そして。

 ここはとある島。

 

 パイを豪快に食べていると、船員の1人が船長の前へ3枚の手配書を机にバンッて置いた。

 

「おい船長! 火拳の妹だってよ!」

 

 船員たちは新たな賞金首に湧いて、戦いに心を躍らせている。

 

 なんとも海賊らしくて、楽しそうで自由な雰囲気が最高だと、船長は大笑いする。さっきだってまた1つの弱小海賊団を完全壊滅させたが、物足りなかったようだ。

 

「ゼハハハハ! この麦わら、まさか赤髪のやつじゃねぇだろうな」

 

 どうやら名前を見て単純に受け取れば、自分を仇として追ってきているエースの妹らしい。

 

 だが、彼の勘がむしろ別の警鐘を鳴らしていた。

 

 麦わら帽子はかつて赤髪が所持していた物だったように思える。なぜなら急に彼は片腕を失い、麦わら帽子を脱いだからだ。そしてそれよりも、麦わらの男と、麦わらの女、それぞれに反応して自分の中の悪魔が嗤っていることから何か確信めいたものを感じとる。

 

 そうだ、悪魔の実だ。

 

 こいつらは、悪魔の実も考慮した額なのだ。

 世界政府のやつらが焦る程の悪魔に選ばれている。

 

「これで七武海が1つ空席か! いい風が吹いてきやがった! ゼハハハハ!」

 

 懐からくしゃくしゃに入れていた海図を手配書の上へ重ねて叩きつけた。ドラム王国を出港してからは機を窺うために、エースとまだぶつからないようにあちこち自由気ままに進んでいた。

 

「おお! ようやく表に出るのか!?」

 

「ああ待たせて悪かったな、ようやく時機が巡ってきやがった。おいラフィット、手筈通り頼めるか! 計画の第二段階だ!」

 

 シルクハットを被った色白の男は丁重に頷いて、闇の中へ姿を消した。

 

 そしてティーチ自身は海図に記されたアラバスタへ、チェリーを1つグリグリと擦り付ける。チェリーの実は潰れて赤い液体が地図の上へ染み込んでいくが、戦闘跡の残る酒場の壁から海風が入ってきた。

 

 赤い血のように滴り、やがて1つの島を示す。

 

「この島へ行ってみようとするか!」

「了解だぜ! お前ら出航準備だ!」

 

 悪魔の実は人を選んで廻る。

 ならば運命は存在する。

 

 己の中の悪魔が会いたがるならば、巡り合うはずだ。

 

 

 

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