麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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空島編
第45話 ロビン


 ゾロに居合で斬ってもらったとはいえ、鉄槍の根本は刺さったままのメリーは、海風を帆に受けてログポースが示す次の島へ向かっていた。

 

 私たちはまだ、ビビとカルーのこと、ボンちゃんのこと、その両方が気にかかって、しんみりとした雰囲気のままだ。ビビやカルーがいない船はやっぱり寂しいし、それに、ボンちゃんがちゃんと逃げきれたか心配だし。

 

「ご苦労様。無事に逃げ切れたみたいね」

「少しくらい手伝ってくれてもよかったのに、ロビンさん」

 

 メリーは小さな船とはいえ、ビビとカルーが抜けて7人で航海を続けるのって大変だし、例えばそろそろ本職の船大工の人が欲しくなってくるよね。ウソップが応急処置であちこち鉄板を付けているとはいえ、あちこち傷ついたままだし。

 

「フフッ、ごめんなさいね。でもただでさえ慌ただしいのに、私が顔を見せたらこうなるんじゃない?」

 

「ああ! ワニと一緒にいたやつ!」

「まさか仇討ちに来やがったか!?」

「イガラムさんをやったやつでしょ!?」

「だがあのおっさん生きてて、あれぇ!?」

「ギャー―! 誰ぇー!?」

「綺麗なお姉様だ~♡」

 

 ゾロは鞘に入れたままの刀を、ナミは水色の手品棒を、ウソップはパチンコを、それぞれ構えたけど、花のように腕が咲いて甲板に落とされた。そういえばあの手品棒はウソップがおもしろギミックを取り入れて作っていたけど、早くナミに宴会芸を見せてほしいな。

 

「そういう物騒なもの、私に向けないで」

 

 そして手すりに腰かけて足を組んだけど、凄くスタイルがいいし、身長も185cmくらいあるんじゃないかな。まあそれくらいあるとルフィより背が高くなっちゃうし、5cmくらいの身長差がちょうどいいって誰かが言ってたし、私はこのくらいの身長でいいかも。

 

「い、いつからこの船にいたの!?」

「朝にはいたよね」

「へぇ、そうだったのか」

「ええ。シャワーも浴びたし、服も借りたわ」

「シャワーだとぉ!?」

「ギャー 出血したァ!?」

「クソコックはほっとけ」

「てかウタは知ってたのかよ!?」

 

 ウソップがツッコミを入れてくるから、ヘッドホンを指でちょんちょんと叩いて私はドヤ顔で返す。見聞色の覇気のコツも少しずつ分かったし、これでどこから敵が来ようとも見つけられるよね。

 

 ところでサンジはそういうところを直さないと、誰も振り向いてくれなさそうだよね。あとロビンさん、私のブラウスを着るのは別にいいけど、きついからってボタンを開けてその胸元を見せつけてくれるのはやめてほしい。サンジには大打撃を与えているし。

 

「てめぇ、何の用だ?」

「まだお礼をしてもらってないと思って」

 

 ゾロが鋭い瞳を向けたけど、ロビンさんは余裕の表情を崩さない。敵意は全く感じられないし、警戒する必要はないと思う。

 

「えーと、砂の中から助けてもらったし、ワニの毒をくらったときも薬を貰ったし、あと登るときに手伝ってくれたな」

 

 ルフィが指を一つ一つ折りながら数える仕草って可愛い。

 

 あっ、思い返すと、クロコダイルは会うまで、私のことを能力含めて知らなかったよね。他にもサンジには何度も騙されたし、こっそりルフィを助けてくれたようだし、ロビンさんって全くクロコダイルに手を貸してないどころか、むしろ計画の邪魔をしてくれたんだ。

 

「あっ、でも俺の食べる肉はやらんぞ!?」

「そういうものなのね。私は遠慮しておくわ」

 

 こっちを見てニコッとしたけど、もしかしてロビンさんって、私の恋路を応援してくれるってこと!?

 

「私は船長さんと副船長さんに、不思議と命運を懸けてしまった。たとえ、あの王下七武海クロコダイルを裏切ることになったとしてもね」

 

 私とルフィは首を傾げてコツンってする。

 必死だったし意識はしてなかったよね。

 

「私にはもう行く当てもないし、それに帰る場所だってない。だから、お礼をしてほしいし、お礼をしようと思ったわ」

 

 ロビンさんが『帰る場所』のことを思い浮かべたのか、凄く寂しそうで、なんだか張り詰めた気配が今は小さく感じた。

 

私を仲間に入れて?

 

 いろいろな感情がごちゃ混ぜになった声。

 ルフィを通して誰かにそう伝えたみたいで。

 

「ししし いいぞ。」

「そ。ありがと」

 

 ルフィがニカッと笑って承諾すると、ロビンさんも微笑んだ。

 

「心配すんな。わるいヤツじゃねぇし」

「これからよろしくね♪」

「ちょっと! ウタまで!?」

「そんな簡単に信用していいのか?」

「俺は歓迎するぜロビンちゃん♡」

「クソコックは放っておくとして」

「えっと、良いやつなんだよな?」

 

 チョッパーは今回が初対面だし、まだナミやウソップやゾロは警戒しているし、ここはロビンさんの歓迎会をしないとね。

 

 私とルフィは頷いて、机と椅子とお肉と飲み物とお菓子、いろいろ運んでくる。目がハートマークになっているサンジもいっぱい料理を作ってくれるはずだし。

 

「お前ら宴だぁー!」

「ほら、ロビンさんはここ座って!」

「ええ。そうさせてもらうわ」

 

「ぐぬぅ、ここは俺が出るぜ!」

 

 4つ目の椅子にドガッとウソップが座って、ロビンさんと震えながら対面した。

 

「こ、これから取り調べを始める!」

「よっ! 待ってました!」

「質問タイムってことだね!」

 

 ウソップは役になりきって演技をしているし、チョッパーは甲板に咲いている手のひらと遊んでいるし、ゾロとナミも楽しめばいいのに。

 

「まずは職業からだ!」

「8歳で考古学者、そして賞金首に」

「うっひょ~ そりゃすげぇな」

「8歳から有名人ってことだよね」

 

 8歳ってフーシャ村に私が住み始めたくらいだ。最初は目の下の傷もなかったし、めっちゃ音痴だったし、ゴムでもなくて、とにかく子どもだったよね。

 

「ガブッゴクリ 考古学者って?」

「ゴクッ 歴史の研究じゃない?」

「ええ。そんなところよ」

「おいおい。それでなんで賞金首なんだ?」

 

 ウソップの疑問もそうだけど、別にわるいことじゃないよね。『だったら。』

 

「世界政府にとって都合の悪い歴史かしら?」

「っ!? ……そうね。貴女の言う通り」

「へぇー そういうのもあるんだな」

「こいつの懸賞金、聞きたくないんだが!?」

 

 すでに終わったことは基本的に興味がないから特に調べていなかったけれど、どうやら色々と揉み消したようね。何人がまだ生き続けているかどうか分からないけれど、やはり一筋縄ではいかないやつらだわ。

 

「貴女は、空白の100年について、何か?」

「さあ? あまり国から出なかったもの」

 

 割れ物を扱うような声で、希望へ(すが)るようだけれど、まだどういう過程で覚醒するか定まっていないルフィやウタへ過去を伝えるわけにもいかないのよ。私が憶えている外の世界は(すべ)て貰ったものだから、(ウタ)は必ず貴方のことを伝えてしまうし、過去を繰り返してしまえばまた破滅へ向かう。

 

「な、なんだなんだ? 国って何の話だ?」

「ええ。私も気になるわ」

 

 ウソップがキョロキョロとしたり。

 凍てつくような空気が漂っていたり。

 

「え、えーと……」

 

 急に私の意識を戻されても困るんだけど。

 ルフィが骨付き肉を噛みきる音が鳴った。

 

「ロビンはなんでワニのとこにいたんだ? 空白のことか?」

「えーと、そうだよね。ロビンさんってアラバスタにも用があったはずだよね」

 

「世界中に点在する歴史の本文(ポーネグリフ)の中には、空白の100年を語る石がある。それが真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)

 

 隣にいる私へ何かを期待するようにそう告げるけど、ポーネグリフなんて私は初めて聴いた。空白の100年のことは私も気になるのに、気まぐれな天使ちゃんはもう引っ込んで反応がないし、シャンクスやベックさんなら何か知っているのかな。

 

「石ってことは、あの固そうなやつか」

「遺跡が崩れたときに埋まっちゃったよね」

「……いいえ、あれはもういいの」

 

 私から視線を外して、ロビンさんは疲れたように首を振った。

 

「と、ともかく、その石を探していることが海軍に追われる理由なんだな」

 

 重い空気に肩を小さくしながら、ウソップがそうまとめてくれた。

 

「じゃあ見つかるだろ、そのうち」

「それは、どういうこと?」

 

 ルフィが綺麗に食べ終えたお肉の骨を、お皿の上に置いた。

 

「ししし だって、俺たちワンピースを手に入れるんだ。この世の全てだってあるんだし、そういう石だって山のようにあるはずだろ?」

 

 ニカッと歯を見せて笑顔になった。

 私も釣られて笑顔になっちゃう。

 

 シャンクスから伝えられた海賊王の(ウタ)、伝えられてよかった。

 

「つまりグランドライン後半の海、新世界にも行くということね。フフッ、期待していいのかしら?」

 

「おう! ロビンが探す石ってお宝なんだろ!」

「ロビンさんが読んでくれれば(ウタ)の参考になるかも!」

 

 私たちに釣られるように、ロビンさんもいつも通りの大人の笑顔を浮かべた。それに、考古学者なんて、シャンクスの船にだっていないじゃん。だからいつか、天使ちゃんの正体の答え合わせができるかもしれない。

 

「よっしゃ、俺も仲間として歓迎するぜ! なあ得意なことって何だ? ちなみに俺はアリの眉間だって撃ち抜ける狙撃の腕だ!」

 

 ウソップは完全に警戒が解けたみたいで、いつも通りウソの自慢を早口で言い始めた。

 

「そうね、暗殺かしら♡」

「やっぱこいつ危険すぎる女だ~!?」

「でもおもしろいヒトだぞ!」

 

 キラキラと輝いた目で叫ぶチョッパーは、咲いた手でこちょこちょされて大はしゃぎを始めた。私もルフィもウソップも席を立つと、甲板にお花畑みたいに腕を咲かせてくれた。1つ1つの遠隔操作でも大変そうなのに、能力をここまで使いこなしているなんて。

 

「おい見ろよ、ツノぉ~!」

「ぶふっ! ホントだ~」

「イカしたツノだなぁ~ おい!」

「てかルフィ、何その顔ぉ~」

 

 ルフィの麦わら帽子から咲いた2本の腕はまるでチョッパーの角みたいだし、ルフィは目もチョッパーみたいにまんまるにしようとしているし。

 

「どうぞロビンちゃん、おやつです♡」

「まあありがとう、コックさん」

 

「……私は騙されないからね。なんたってこいつはバロックワークスの副社長で、クロコダイルのパートナーなのよ」

 

 サンジの作ったスイーツも気合が入っているみたいで、ナミはそういうのが面白くないのかな。でもそういうことよりは警戒心のほうが高そうか。あとあんなクロコダイルのパートナーって、もう呼ばないであげて。

 

「カジノから宝石を持ってきちゃった」

「大好きよ! お姉様♡」

 

 でもナミとロビンは宝石を机に広げてお茶会を始めちゃったし、もう仲良くなったみたいだね。

 

「賑やかね、いつも?」

「ああ。こんなもんだ」

 

「おらマリモ、酒だろ?」

 

 そう呼びかけられたゾロも、サンジから投げられた酒瓶を受け取って、腕組みを解いてから甲板に座り込んだ。

 

「なぁロビン! 何の悪魔の実なんだ?」

「ハナハナの実よ」

「確かに花みたいに咲くよね」

「肉をいっぱい持てるとかな!」

 

 悪魔の実の味はやっぱり不味かったってチョッパーやロビンさんやルフィで笑い合っているけど、そういえば私っていつ食べたか憶えてないや。まあ、ロビンさんが仲間になって能力者は4人になったし、麦わらの一味としてはこれで8人だね。

 

 次はどんな冒険が待っているか、楽しみ。

 

「あれ、急に暗くなった?」

「船が降ってきてるぞ?」

 

 私とルフィに釣られて、皆で空を見上げるけど、ポカーンと口を開けた。

 

 

 

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