麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第46話 マシラ

 

 空から船が降ってきた。

 

 今は嵐でもなく晴れ晴れとした青空なのに、真っ逆さまに巨大な船が落ちてきたんだよ。メリーがその衝撃の大波に揺られて、宴を中断してなんとか全員無事に済んだけど、ボロボロの棺桶とか瓦礫とか吹き飛んできたみたいで、甲板がめちゃめちゃになってる。

 

 身体中に海水を浴びたことで、私たち能力者組は甲板に伏せていた。

 

「へにゃ~ だいじょうぶか~」

「う~ びしょびしょだ~」

「うぇ~ しょっぺぇぞ~」

 

「……航海士さん、ログポースはどっちを?」

 

 ロビンさんは立ち上がるくらいはできるみたいで、何か訓練とかしてきたのかな。

 

「えっと、壊れちゃった!? 上を向いたままだわ!?」

 

 ログポースってグランドラインの次の島へ向かうために重要アイテムだったよね。ねぇナミ、壊さないでよ。

 

「壊れたというより、恐らく空島を指しているわね」

 

「「空島ぁー!?」」

 

 私とルフィはそのキーワードに目をキラキラさせて立ち上がった。羽の生えた天使とかいそうだし、天使ちゃんのことも何か分かるかもしれない。でも羽生えてないや。

 

「はいはい。あんたはこれでも羽織っておきなさい」

 

 ボコボコに殴られたサンジが持ってきた厚手のコートを、ナミに渡されたけど、私やロビンの着ているブラウスが透けてたんだ。隣のルフィは空島に興味津々だから気づいてないようで良かった。

 

 それよりも。

 

「ナミ! 船を飛ばせてよ!」

「空に島があるんだよな!?」

「へぇ! 空島ってそうなのか!」

「よっしゃ! 上舵いっぱーい!」

 

「できるかァー!?」

 

 最高の航海士のナミへ、チョッパーとウソップも加わって4人で詰め寄ったけど、できないと言われちゃって、私たちしょんぼりしちゃう。

 

 あっ、そうだ。

 私とルフィは顔を見合わせて動き始める。

 

「だが一体どこから落ちてきたんだ?」

「ゾロの言う通り、どこにも空島なんて見えないわ。島や海が浮かぶなんてあり得ないでしょ」

「いいえ、航海士さん、空に行く方法を考えましょう。ログポースを疑ってはいけないことはこの海の鉄則よ」

「さすがロビンちゃんだぜ♡」

 

 ナミやゾロやロビンさんやサンジが空へ行く方法を考えてくれるだろうし、私たちはやれることをしよう。

 

「とりあえず棺桶でも開けてみましょう。船医さん手伝ってくれる?」

「お、おう、分かったぞ」

「おいおい、呪われたりしないか?」

「ホネから何か分かるってのか?」

「美女とホネってのもまたオツだぜ♡」

「はいはい、サンジくんは黙ってて」

 

 ルフィのゴムゴムのロケットのおかげで、バッキリ折れて少しずつ沈んでいっている船に乗り込めたけど、生きている気配は1つもしない。

 

 途方もない年月が経っていそうだし、船室にまで錆びた鎧や剣が散乱している。投げ槍が深々と頭蓋骨を貫通していたり、宝箱には何も入っていなかったり、敵に襲われたのか、それとも仲間同士で争ったのか。

 

「何か食べ物ねぇかな」

「あっても腐ってるでしょ」

 

 誰かの呻き声が聴こえてくるようで、寒気を感じてきた空間だけど、いつも通りのルフィの声で思考の海から引き戻された。

 

「干し肉とかあるかもしれねぇじゃねぇか!」

「10年以上前のやつとか絶対マズいでしょ」

 

 でもルフィって意外と核心を突くことがあるよね。もしかすると、当時は新品だった武具とか、高値で売れるお宝があったとしても、底をついた食糧を取り合ったのかもしれないね。

 

「おい見ろよ、宝の地図だ!」

「えっ、ほんと!?」

 

 まだ干し肉でも探そうとしてたのか、鍵の付いた引き出しをぶっ壊して見つけた地図を広げて、笑顔で見せてきた。ボロボロの紙で、ナミが作るやつと比べれば絵本みたいな地図だけど、雲がたくさんかかっていてスカイピアって書かれている。

 

「これ空島の地図じゃない!?」

「うひょー! これで空島に行けるんだな」

 

 行く方法まで書いてなさそうだけどね。でもルフィったら、空島へ行く気満々なんだ。確か他の島のログに書き換えて、別の航路を選ぶこともできるはずなのに、空島を通る航路しか頭にない。

 

「うん、これをナミに見せたら行けるかも!」

「うおー! 空島だー!」

 

 ところで、靴が海水で濡れてきたよね。

 沈んでいることを忘れていた。

 

「ルフィ、脱出するよ!」

「おう、ゴムゴムの火山!」

 

 私が指差した方向へ、ルフィが足を突き上げて屋根を蹴り破ると、海水がドバーってきちゃって。

 

 人の気配を感じとれる、見聞色の覇気に頼りすぎるのも良くないね。

 

「「おぼれりゅ~」」

 

「カナヅチコンビ何やってんの!?」

「世話の焼ける船長たちだなぁ、おい!?」

「医者として助けにいかなきゃ!」

「なぜ飛び込んだチョッパー!?」

「……どうしてこうなるの?」

「……この船ではよくあることだ」

 

 バシャバシャと海面で溺れていた私たちを、サンジやウソップたちが救出してくれたみたい。

 

 またビショビショだし、セットした髪は崩れるし、今日は散々な日だよ。

 

 でもルフィが守りきってくれた地図を見せたら、チョッパーやウソップは興奮して喜んでくれたし、ナミもようやく空島の存在を認めてくれたみたいだ。といっても、この地図だけでは行き方も分からなくて、他にも何か情報がないか調べることになった。

 

 完全に沈んだ船ごと回収はもう無理だし、海へ潜って探すしかないね。

 

 海の中でもある程度戦えるゾロとサンジはもちろん来てくれるとして、私とルフィも樽とゴム手袋で完全装備して潜ることになった。だって、グランドラインの海中は何があるか分からないし、しかも暗いし、4人中2人が方向音痴だもん。

 

 まあ、海中探検って響きもいいよね。

 

『こちらチョッパー、返事して』

「みんな! ウタだよ! 海が綺麗です!」

「俺ルフィ! 美味そうな魚だらけだ!」

「巨大海へビの巣じゃねぇか!?」

「こちらMr.プリンス、危なくなったらウタちゃんを優先して引き上げてくれ! どうぞ!」

 

 ウソップが作ってくれたホースや装備って、息もできるし、どこも水漏れしないし、しかも通話までできるなんて、凄いよね。

 

『危険そうだぞ。どうする、ナミ?』

『ヨシ! あんたら絶対何か持って帰って来なさい!』

『ヨシじゃねーだろ!? 俺行かなくてよかったぁ~』

『不思議ね。どうして能力者が2人も海に潜るのかしら』

 

 さっきも探検した船だけど、海底に沈んだ船というのは、またドキドキワクワクするね。といっても、やっぱり目ぼしい物は無くて、ゾロもサンジも苦い表情をしている気がする。

 

 小舟のような乗り物を持ちあげようとしたらハンドルを折って、ルフィはしょんぼりしたり。

 

 鞘から気合で引き抜いた刀がほとんど柄だけになって、ゾロもしょんぼりしたり。

 

 額に入った絵がもう海水でぐちゃぐちゃだから、サンジもしょんぼりしたり。

 

 さっきの引き出しの中の他の紙類も濡れて全部読めなくなっちゃっているね。ともかく、ナミやロビンさんが見れば何か分かるかもしれないし、私たちは各自が持ってきた袋に目ぼしい物を入れていく。

 

「お前ら! 宝箱だ!」

「よく見つけたな」

「これでナミさんが喜んでくれる♡」

「ゾロ、頼める?」

 

 私とルフィは上手くしゃがめないからね。

 ゾロの樽をコンコンと叩いて合図をする。

 

「鍵がかかってねぇと思ったら」

「なんだ空かよ」

「「え~」」

 

 せっかく宝箱を見つけたのに、残念だな。

 あれ、この音。

 

「みんな、何か来てる」

「なんだなんだ?」

「俺たちにも聞こえるが」

「うおっ!? もしかしてまた鉄槍か!?」

 

 金属が回る音、人の気配、近づいてきていると思ったら、この沈没船をサルベージしようとしているんだ。小さなメリー号ではこんなことはできないし、海上で他の船がやっているんだろう。今のメリーにはナミやウソップやチョッパー、それにロビンさんがいるから大丈夫だとは思うけど。

 

 この沈没船が持ち上げられていて、誰かが乗り込んできているね。

 

 おじさんたちに敵意はなさそう。

 あっ、ルフィたちがぶっ飛ばしちゃった。

 

 彼らは慌てて逃げて行っちゃって、そして代わりに、海水を吹き飛ばすくらいこの船室に空気が入ってきた。なんだか臭い空気だけど、これなら樽をとっても大丈夫みたい。

 

 このまま海の上まで運んでくれるならラッキー。

 

「えっと、また誰か来たけど」

「なんだ今度はサルか」

「野生の海ザルだろ」

「ほっとけ、ただのサルだ」

 

「えっ、俺そんなにサル上がり?」

 

 しゃべったけど、喋れるサル、じゃなくて、たぶん人だよね。

 

 生身で泳いできたのを考えると、サルになる動物系の能力者ってわけでもなくて、ただサルに似ているんだろう。しかもサルって言われて上機嫌になっているようで、サル似のサル、じゃなくて、サル似のおじさんは笑顔でピースをする。

 

 じゃあアイドルとして私もキラッって返すね。

 

「ほう、嬢ちゃんもなかなかサル上がりだな!」

「うん、サルのおじさんもサル上がりだね!」

「おっさん、本当にサルみたいだな」

 

 自分のチャームポイントをわかっていて、しかもシャッターチャンスのアイドルスマイルだってする。アイドルの才能が感じ取れるよね。しかも私たちってヘッドホンも共通点だし、とても気が合うと思う。

 

「俺はマシラ、サルベージ王だ!」

「ウタだよ。世界の歌姫になる予定♪」

「俺ルフィ、海賊王になる男だ。どうぞ」

「そのノリを俺にまで振るな」

「あー、俺はサンジだ。こっちはマリモ」

 

「よろしくな、ウタ、ルフィ、サンジ、マリモ」

 

 シャッターチャンスを作ったマシラさんに、訂正する気にもならないみたいでゾロはため息をついた。

 

 そして、私たちが東の海から来た海賊団ということを話すと、この人も海賊団の園長、たぶん船長をしているらしい。ルフィが3000万ベリー、マシラさんが2300万ベリーといっても、ルフィが勝ったって喜んで、マシラさんが負けたって一喜一憂するくらいだった。

 

 この人もピースメインとはいえ、海賊団を名乗る以上、懸賞金をかけられちゃったくらいなのかな。

 

「マシラさん、大きな亀は友達?」

「知らんが。そういえばお前ら、その袋は?」

「お宝だ。いいだろ!」

 

 マシラさんの気配が膨れ上がった。

 

 懸賞金がすべてじゃないけど、2300万ベリーというのは、決して過大評価じゃなさそうだね。船に近づいてくる亀は、まあ、そのうち通り過ぎるだろうし、これは私たちが先に見つけたんだから喧嘩でお宝を取り合いしようか。

 

「このマシラ様の縄張りで財宝盗んで逃げきれると思うなよ!」

「わりぃけど、こっちも渡せない理由があるんだ」

 

 マシラさんが腕をグルグルと振り回し始めると、ルフィもニカッとして腕をグルグルと振り回し始めた。ゴム人間になった初めのうちは私やエースがお腹を抱えて笑うくらいには振り回されていたのにね。

 

「猿殴りィ!」

「ゴムゴムの(ピストル)!」

 

 ガツンと真正面から拳がぶつかり合うと、互角らしくて、船室の空気が震えた。

 

「ぬぅ、やるな!」

「ししし そっちこそ!」

 

 ルフィは楽しそうだけど、ただでさえこの沈没船はボロボロだし、海の中で戦うのは得策じゃないよね。泳げるマシラさんは海中戦も得意そうだし。

 

「一旦場所を変えようか」

「それもそうか」

「こっちだ。ずらかるぞ!」

「おらカナヅチコンビ、早く掴まれ」

 

「逃げる気か!?」

 

 ていうか樽を脱いじゃったし、またずぶ濡れじゃん。

 

 お宝の袋を持ったままゾロとサンジが私たちを抱えて、メリーまで運んでくれたけど、早くシャワーを浴びたいな。

 

「「身体が濡れて力が出ない~」」

 

「お前ら! 無事だったか!?」

「ホースは切れたのによく生きていたわね」

「そんなことより早く逃げましょう!」

「あの亀、何かにビビってるんだ!?」

 

「亀? いや海ザルだぞ」

「サルがゴリラみたいに暴れてるんだ」

 

 って。

 

「なんじゃありゃぁ!?」

「マジで亀じゃねぇか!?」

「すっげー! 島亀だ~!」

「てかあの船食べられてるぅー!?」

 

 しかも島亀だけじゃない。

 

 夜が来たと勘違いさせるくらい大きな『人影』、ドリーさんやブロギーさんの何倍も大きくて、その身長の高さと同じくらいの巨大な槍を持っている。

 

「ギャー!? なになになにぃ!?」

「ギャー!? 怪物だぁぁ!?」

 

 思わず絶叫して、ルフィにしがみついちゃう。

 

 何よりも私の見聞色の覇気が全く反応しないし、エースのアドバイス通り自分を疑わないとしたら、もしかしたら幽霊なのかも。

 

「あれは羽、いえ翼なの?」

「どっちでもいいから早く逃げるわよ!」

「誰かオール持ってこい!?」

「野郎共で全力で漕ぐぞ!」

「勇敢なる海の戦士も逃げるぜ!」

「ヒィ~ 退避ィ~」

 

 私たちは逃げるように、全速力でメリーを太陽が見える方向へ慌てて進ませた。

 

 

 まだまだ海には不思議がいっぱい。

 だから空島もあると思う。

 

 

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