いつだって聞こえていた。
でも見なかったことにしていた。
強い者が弱い人たちを虐げる。
こんな世界のせいでサボがしんだ
たくさんの海賊旗はこの町の人たちを虐げていて、たぶん町の人たちはそんな海賊たちをもてなすことで生計を立てて日々を生きているんだ。だから海軍を呼ぶこともできないし、海賊同士の争いから目を逸らすしかない。じゃあ無理に変えたらダメな世界なんじゃないかな。そんな風に新時代について考えるけど、まだ理想のままなことが多い。
「ウタ! はやく町にいってみようぜ!」
「うん、そうしよっか」
波や風の音に耳を澄ましていたら、思考の海からルフィが引き上げてくれた。古びた麦わら帽子が似合う彼に、考えるよりもまず動くってことに、私は何度も甘えてしまう。
「なかなか賑やかな町だな」
ゾロも起き上がったみたいで、普段は船番をしてくれることが多いけど、今回は獰猛な瞳で船から降りようと甲板の前へ歩いてくる。
今のところこのメンバーで行くとして、ルフィはすぐ迷子になるし、ゾロは方向音痴だし、毎度のことながら世話が焼けるよ。
「あいつらが騒動を起こさないわけがない」
「あぁ、海賊がうようよする物騒な町だ。不可能に近いな」
「こ、こえぇ~」
ナミやウソップやチョッパーはひそひそと身を潜めていた。3人が相談していたり、ルフィが骨付き肉をポケットに入れたり、その隙をついてロビンさんが先に町へ向かっていったり。
「だ、だがウタがいるなら大丈夫だろ」
「そ、そうだな。俺たちが行かなくても」
「でもあいつ、ルフィが絡むと子供になるわよ?」
それもそうだな、というウソップとチョッパーの相槌まで聞こえないフリするけどさ。
ロビンさん以外なら私って一番お姉さんなんだけどね。やれやれまったく、このにじみ出る大人のレディーな雰囲気がわかんないかな。
「ウタちゃん、頼まれたおやつだ」
「ありがとサンジ」
パーカーのポケットに、サンジから貰ったサンドイッチを詰め込んだし準備万端だ。早く行きたがるルフィやゾロと一緒に甲板から岸へ飛び降りる。
私自身、新しい島というのは早く見ておきたいし。
「ああもう、私が行くしかないじゃない!」
「よし、ナミに任せた!」
「ナミさんが行くなら俺も!」
「サンジはここにいてくれぇ~!」
楽しそうなメリー号から、私たちのところまでナミも追い付いてきた。立派に泥棒してきたから、身体能力が普通に凄いよね。能力を使わないなら、私もかけっこで負けると思う。
「あんたら絶対面倒起こすんじゃないわよ! 私たちはここに空島の情報を聞きにきたの! 空島にいけなくなるのよ!」
「「へ~い」」
ナミが注意し、ルフィやゾロは気の抜けた返事をする。
バンッという静かな音と、鳥が落ちる音、それがかき消えるくらい騒々しい。賑やかなんだけど、ため息だとか、悲鳴だとか、悪い意味で無法地帯だ。
それに、そりゃあ私もナミも美女だから視線を集めるけど、目に見えるものだけに惑わされないよう、見聞色の覇気で警戒しないとね。
「ん? 馬のおっさん大丈夫か?」
「ゲホッ 気にしないでく、ゲホッ」
町の中心部までくると、あちこちから気配がする中で、逆に気配が薄く感じる人たちがいる。たぶん1人はロビンさんだけど、それ以外から何か視られてる感じ。
目の前を通りがかった馬のおじさんも、なんだか、覇気で動きが読み取れない。目立つ服装なのに、まるで周囲に溶け込むかのよう。
「ゴホッ...グフ...」
「どうした!おっさん!? 医者ァ~!」
「オレが医者で...ゴフッ」
吐血した馬から落ちて、おじさん自身も吐血して、ルフィは駆け寄った。おじさんは、生まれつきだから平気と言っているけど、見るからに顔色がわるそう。
「オレらを起こしてくれるか」
「馬も病気なのか!」
「大変なんだな。おっさんも馬も」
ルフィとゾロが馬とおじさんを立たせると、分厚い毛皮のカートからリンゴが乗った籠を差し出した。
「お礼だ。リンゴをやろう」
「礼に及ぼないが、怪しすぎるだろ」
「お、サンキュ」
「食べるなァ!」
ルフィはもうシャクシャクと食べているけど、受けとる前に感じた悪意と、素直に受け取ったときの面白がっている表情が気になった。
ルフィのように私も籠のリンゴを1つ手にとって、天高く投げ上げた。そして、指を鉄砲の形にしてウタう。
「ピストル」
音符が衝撃を与えると。
ドガンと爆薬が破裂して。
あちこちで鳴る爆音と重なった。
他にもこの爆発するリンゴはあるんだ。
リンゴの爆発の威力と、その音の回数には、私自身も内心びっくりしたし、ゾロとナミも大きく口を開けて驚いている。
「何人に渡したの?」
「勘の良いお嬢さんを入れて7人さ。運が良かったのはそこの麦わらの男だけだったようだがな……ゴフッ」
血を吐きながらヘラヘラとおじさんは嗤う。裏返せば、運が悪いならルフィもさっきの爆発を受けていたってことだよね。
「紙一重じゃねぇか!」
「あんた何様よ!」
悲鳴があちこちから聞こえてから、一気に騒がしくなる。ゾロやナミはおじさんに詰め寄るけど、雰囲気が怖くなったルフィが2人の肩を押さえてから前に出た。
「おい。危なかっただろ」
「へぇ、それはあんた自身かい? それとも……」
ルフィの歩みは、謎の高笑いで止まる。
屋根の上からその巨体が飛び降りた。
「ウィーッハッハッハ! おいおい喧嘩か!?」
周りの人たちが、格闘チャンピオンと呼びつつ怯えている。爆発した瓦礫をその筋肉質な腕で持ち上げて、まさかとは思うけど。
やがて投げる態勢に入った。
「ギャー!」
「っ!? ウタウタの」
「一刀流居合」
私が歌い始めるより、先にゾロが地面を蹴った。
目でギリギリ追いきれるくらいのスピード、次の光景はゾロは刀をキンと鞘に納める姿だった。
「
その技名と共に、瓦礫が真っ二つに割れる。
周りの人たち、目が飛び出るくらい驚いてるや。
武装色の覇気を感じるその一撃の後に、重く息を吐いたけど、ゾロもここまで強くなってるんだ。
「ほう! やるじゃねぇの!」
「威勢がいいな。チャンピオン野郎」
そんなゾロの実力にも、格闘チャンピオンはますます闘志を燃やす。グローブに包まれた拳を叩き合わせながら、その特徴的な高笑いでこっちにやってくる。
「いい船員がいるな、麦わらァ?」
「てめぇ、賞金稼ぎか?」
ゾロの言う通り、3000万ベリーの懸賞金が出ている以上、いつかは賞金稼ぎが来るとは思っていた。でも近づけば覇気を使わなくても分かる。この格闘チャンピオンは強いって。
「なんなのよ、こいつ!?」
「こいつらだ。2人、いや、3人か?」
ゾロが聞いてくるから、私は頷いた。
ルフィはまた別のどこかをジッと睨んでいるけど。
「ウィーッハッハッハ! 先に麦わらに会えるなんて、俺ァついてるぜ!」
「アハハ……ゴホ……先にオレの獲物だったんだが、今日も運が悪いな……」
馬に身体を預けながら、不敵に笑うおじさんも、ルフィを狙っていたんだ。
それに。
「こちらが視えるか。撃ち合いにもならないだろうがこれもまた巡り合わせ」
ようやく覇気で見つけられたけど、その小さな呟きも遠い屋根の上から聴こえた。
あの狙撃手が手に持っているのは、ベックさんの銃くらい大きくて、あれ以上に細長い。タイミングを合わせればウタウタの
「ゼハハハハハハ! 面白ェことになってるじゃねぇか!」
その新しい高笑いが聞こえた時。
「なァおい!?」
そして魂に語りかけられた時、思考が黒く染まるように、いつの間にか私は地面を蹴っていた。自然と動く口が
バンダナを撒いた男の顔を見た瞬間、すぐに分かった。
こいつらだけはここで殺しておかないといけない。
「死ね!!
背中から襲われるだなんて。
この私が気づけないほど、一体誰が。
「えっ……」
唖然としているうちに、カランカランと
「どうして止めるの。」
「今はダメだ。」
その
ねぇジョイ、寂しかったのよ。
「お前もそう思うか! 珍しく気が合うじゃねェか!」
とにかく苛立たせるこいつに向かって、どうしてもチッと舌打ちをしてしまう。
私は優しく抱き起こしてくれるジョイに甘えたいのに、どうしてこいつと話さなければならないのか。
「一度でも、気が合ってたまるものですか」
「ハッ! 相変わらず気の強ェおチビちゃんだ」
「このっ! ……ふぅ」
冷静にならないと。
今は背も高くて胸も大きいんだから。
さっきは策士として名を馳せた私が思わず、こいつの挑発に感情的になってしまったけれど、やはり存在から嫌いだから仕方ないじゃない。
「ここでやり合うのもいいが、終わらせるのは勿体ないよな。お互い時機が早ェ」
こいつの言う通り、今戦ったとしても結果は前と同じになるわね。更にはルフィとウタが耐えきれないし、勝敗は運命で定まっていて私たちの戦いに偶然は起こりえないもの。
「さて。言いてェことは分かるな」
私たちの誰が、次のステージへ先にたどり着くかどうか、よね。
「ゼハハハハ どうやらシラけさせちまったみたいだな」
陽気な顔を見せてから、血の色のような酒をグビグビと零しながら豪快に飲み始めた。
不思議な空気が元に戻り、あちこちの気配と声が感じ取れるようになる。格闘チャンピオンも、馬のおじさんも、屋根の狙撃手も、いつの間にかいなくなっていたみたい。格闘チャンピオンはまだしも、他2人の気配の隠し方が凄い。
「その2人も仲間か?」
「おう。そうだ」
ゾロもナミも私に何かを聞きたがっていて、でも私がさっきのことを天使ちゃんに聞こうにも答えてはくれない。
「ここで会えたのも何かの縁だ。メシを奢ってやろう麦わらの一味」
「じゃあ俺は肉50個な。髭のおっさん」
ルフィがタカるのは珍しくないけど、ここまで初対面で意地を張るのは珍しいね。
「だったら俺はチェリーパイ51を食べることにしよう」
「やっぱ肉52な」
「私はドリンク53杯だからね」
ルフィと、おじさんが張り合い始めたけど、その喧嘩の姿を見ていると非常にムカムカしてきて、私は間に割って入った。
陽気そうだけど、この黒い髭のおじさんはキラい。