麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第49話 クリケット

 

 また戻る気にもならず、私たちは町を離れてメリー号へ戻ってきた。

 

 突き上げるような海流で、船を空へ飛ばせばいいって分かったのもある。私もルフィもゾロも、ここからは航海士のナミや物知りなロビンさんに任せるつもりだから、とりあえず一休みしたい。

 あれだけの敵意を向けられて、お互い手を出さず隙を見せないってのはホント疲れた。

 

 ウソップとチョッパーとサンジは修理をしてくれていて、全体的にその痕が目立つメリー号に戻ってすぐに、私たちは甲板にごろんと腰を落ち着けた。覇気で気配を探っても、黒ひげのおじさんたちはもう島を離れたみたいだし。

 

「おいおい、あの3人はどうしたんだ? 喧嘩でもしてきたのか?」

「ケガはないみたいだけどな」

 

「実際には戦っていないけど似たようなものね。変なヤツらに目をつけられたの」

 

 ウソップやナミたちが話し始めて、そこへロビン…さんも船へ戻ってきて会話に入った。てか、出会いはともかくもう仲間だし、ロビンって呼び捨てでいいや。

 ともかく、ナミとロビンがそれぞれ集めた情報を報告してくれて、船は一旦、島の反対側へ向かうことになった。

 

 緊張が解けたこともあってお腹が空いて、私とルフィはおやつに骨付き肉を食べていると、グランドラインでは珍しく静かな森の中に、お城が見えてきた。チョッパーの故郷のサクラ王国や、アラバスタのお城には及ばないけどね。

 それでも。

 

「「「「お城だぁ~!!」」」」

 

 ルフィ、ウソップ、チョッパーと一緒に身を乗り上げるくらいに、私も歓声を上げた。

 

「いつもの4人組、よく見てみろ」

「背景の色がどう見ても違うでしょ」

 

 サンジやナミにそう言われてみると、確かにそうだ。

 私とルフィはポンと手を叩いた。

 

「「不思議なお城だぁ~!!」」

「絵だろ、ただの!?」

 

 ゾロにツッコまれて、私たちはどよーんとしてしまう。なんかガッカリ感が、ゾロのせいに思えてきた。

 

 メリー号を停めて近づいてみると、私たちを騙すほど良くできた絵の板だね。画家は船員にいないし、これを描いた人を、芸術家としてはスカウトしたいくらい。

 

 ぐるっと板の裏に行ってみると、ちょうど栗を頭に乗せた男の人が家から出てきて、警戒心が強まった。

 

「誰だてめェら?」

「俺ルフィ。その栗、美味そうだな」

「ウタだよ。その栗、イカしてるね」

 

 ほう、と声を漏らして自分の自慢の栗を撫で始めた。

 

「だが人の家に勝手に上がり込むとはいい度胸だな」

「「あ~ なんかごめん」」

 

 キョロキョロとして、気づいた。

 まだ家に入ってないけど、張りぼてからすれば、ここはお城の中庭なんだ。

 

「狙いは俺たちのお宝か!? 海賊ども!!」

 

 この前に会ったサル上がりのサルの人くらいの剛腕で、パンチを打ち込んできた。

 

「おっさんも海賊か?」

 

 バシンという大きな音を立てて、平然としたままルフィはそのパンチを受け止める。

 

「おうとも。猿山連合軍の……」

「「おやっさん無事かァ!?」」

 

 サルベージをしていた時に会ったサルの人に加えて、他にもサルの人が、叫びながらやってきて、ルフィたちはお互い拳を引きあった。

 海賊といっても、追撃をしなくて敵意がないから、ピースメインって分かったんだと思う。

 

「サルの仲間って他にもいたんだな」

「「え、サル上がりって言った!?」」

 

「栗の人、園長さんだったんだ」

「ああ。こいつらの船長だな。 ん? 園長って言ったか?」

 

 3人共、なんだかんだ照れている。 

 サルの人たちより背は低いけど、栗の園長さんを船長と慕っているみたい。

 

「……誰かツッコミを入れてくれ」

「……なんで通じ合ってるんだあいつら」

「……似たもの同士なんでしょ」

 

 そっちのウソップたちのヒソヒソ話については、私は聞こえているからね。別に気にしないけど。

 

「さて。お前らの目的はなんだ? わざわざこの辺境の城まで来て」

 

 やっぱりお城のつもりなんだ。

 まあいいや。

 

「俺たち空島に行きてぇんだ!」

「行き方を教えてほしいの!」

 

「空島だと? はっはっはっは!」

 

 栗の人が大きく口を開けて大笑い、でもそれは町の人たちとは全然違って、サルの人たちもウホウホと喜ぶように笑った。

 私たちは首を傾げて頭をコツンとする。

 

「ここにもバカがいたとはな。町で嗤われただろうに、それでもまだ夢を追うのか」

「別に。空島がないって証拠もないからね」

「栗のおっさんたちは、海底のお宝でも探してるのか?」

 

 ルフィの質問にサルの人たちが大きく頷き、栗の園長さんは切り株に腰をつけた。

 

「俺はモンブラン・クリケット、あの『うそつきノーランド』の末裔さ」

 

 確か童話の絵本になっていて、しかもありふれた話だ。

 

 うそつきのノーランドに騙されて王様は黄金郷を探しに行きます、だっけ。

 でもなんでいきなりそれを。

 

「迷惑な話さ。遠い先祖の話を、クリケットの一族は何百年も信じてるんだ」

 

 見つからなくて、王様を騙したノーランドはうそつきの罪で死刑になってしまった。だったらその家族たちも被害を受けないことはなかったんだ。

 

「ノーランドの野郎は絵本の通り、地殻変動による遺跡の沈没を主張したらしい。絵本と唯一違うのは大粒の涙を流して、後悔残して逝ったことだ」

 

 最後の最後まで、笑顔でうそをついたまま処刑されて。

 えっと、だから。

 

 『その黄金郷を見つけて無実を証明してやろう』って指で文字を隠しながら、シャンクスは読み聞かせてくれた。クリケットさんが言っているように、あれが実話だったなら、ますます笑い話になんてしたくないね。だって、うそつきって前提から間違っているんだから。

 

「クリケットさんは、その意志を継いで?」

「馬鹿言うなよ、嬢ちゃん」

 

 少し強めの言葉で、ぴしゃりと否定された。

 

「あんなバカ野郎の血を引いているせいで、罵声を浴びせられる子どもの気持ち、お前らに分かるか?」

 

 今は夢に向かって進み続けているエースも、荒れていた時があったな。

 

「俺はノーランドの呪縛から逃げ出したくて海賊になって、憂さ晴らしに海賊共とやり合ってきた。ったく、会ったこともない死人に人生が狂わされるなんざ、ホント最悪な運命だぜ」

 

 クリケットさんは咥えたタバコに火をつけて、ふーと白い息を吐いた。

 

「何の因果か、俺はこの島にたどり着いてしまった。黄金の欠片もねぇし、町に行けばうそつきだと嗤われる」

 

 そこでようやく、少し頬が緩んだ。

 

「俺は別に黄金があるかどうか興味はねぇが、白黒ハッキリさせておきたくなった。この10年、海に潜り続けた」

 

 絵本の絵によく似た栗に手を添えてから、私とようやく目を合わせてくれた。

 

「だから他のやつはともかく、俺は先祖の意志を継ぐなんて微塵も思っちゃいねぇんだ。こいつは男と男の決闘だ

「うん。わかった」

 

 力強くて、その言葉に嘘はなくて、ホントに決闘なんだろう。

 

 素直じゃない時があるよね、男の人って。

 そのツヤツヤな栗の頭、ずっと手入れしてきたんだと思う。

 

「ノーランドの黄金は絶対あるぜ!」

「ノーランドは男の中のサル上がりだぜ!」

「ちなみにこいつらはノーランドのファンだ。いつの間にか勝手に居ついて、手下になりやがった」

 

 悪態はつくけど笑顔で。

 満更でもなさそうだよね、今の日々。

 

「……んで、その話は空島とどう関係あるんだ?」

「ほう、核心を突いてきやがるじゃねぇか」

 

 ルフィってば、ぬぼーっと聞いているように見えて、要点をしっかりと抑えてくるし、鋭いところがあるからね。

 

「ノーランドは空島を冒険したことがあるらしい」

「「それでそれで!?」」

 私たちは身を乗り出すように、目を輝かせた。

 

「うちにノーランドの航海日誌がある。400年前のものだから丁重に扱えよ、若造ども」

 

 そして、彼は切り株から立ち上がって、自分の小さなお城へ親指を向けた。

 

(うち)でゆっくりしていけよ、同志よ」

「ししし おう!」

「お邪魔するね!」

 

 あの冷え切った町でちょっと暗い気持ちになっていたけど、何年も夢を追い続ける先輩に会えてなんだか胸の奥がポカポカしてきた。

 

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