クリケットさんたちとの楽しい宴を切り上げて、必要不可欠なサウスバードを探すことになった。空島に行くための海流が明日のお昼だったり、メリー号の改造だったり、今日は徹夜で作業することになりそうだね。
ルフィたちは森で楽しく冒険しているみたいで、そっちに付いていってもよかったんだけど、『面白いことがあるから待っていなさい』って天使ちゃんが言ってたからね。
宴会の残りのおつまみを食べながら、海の向こうの海賊船を見つめる。
「オー イテテ……」
クリケットさんが腰をトントンしながら、近くの切り株に腰かけた。かなり鍛えられた身体で若々しく見えたけど、疲れた顔には少なからず皺が刻まれている。
「大丈夫?」
「フン、年寄り扱いすんじゃねぇ」
そう吐き捨てるように言って、煙草に火をつけた。そう言えば、サル上がりの人たちは海に出ていたけど、この人は1人で家にいた。休みの日だったかもしれないけど、それ以上にたぶん老いがあるんだ。
自分で海に潜れるのは、あとどれくらいなのか。
「酒の席で言ってたかもしんねぇがな。なんで空島に行きてぇんだ?」
「ログポースが指したからかな。なんか運命感じるもん」
大きく白い煙を吐いて、『そうかい』と笑うように呟いた。
てか、海の底に島があって、そこに魚人や人魚の人たちが住んでいるのなら、空にだって人が住んでいるに違いないでしょ。あの月が照らす雲の上にも、凄く大きなお城があるかもしれない。
なんなら、もっともっと空の向こうにも世界が広がっていると思うと、凄くワクワクしてくるよね。
さてと、ようやく私も分かる範囲に入った。
この気配、昼間の人たちだね。
「おやっさん、海賊船だ!」
「麦わらの嬢ちゃんたちとはマークが違うぜ!」
「俺たちの城を狙う
慌てて皆が報告してくれたのを聞いて、パンと太股を叩いてクリケットさんは立ち上がった。
「お前たちは作業を続けてくれ!」
「俺たちで十分だぜ!」
「「任せたぜ、園長たち!!」」
「ん? やっぱ園長って言ったかお前ら?」
ヘッドホンを少しずらせば、『撃つか?』『いや、金になる物を傷つけたくねぇ』って話し声が船から聞こえてきて、随分となめられてるね。もし停泊しているメリー号や、皆のお城を大砲で壊そうとしたら、ちょっとのボコボコじゃ済ませなかったけどね。
えーと、金髪の船長がベラミーで、残りは誰だっけな。非戦闘員の女性が多めに見えたけど、なんだかんだ航海をできるくらいには役職持ちは揃っているみたい。
「おいおい、本当に合っているんだろうなエディ? ふざけた絵しかねぇぞ?」
「だが見たまえよ、マニ」
「野生のゴリラが湧いてきやがった」
「「あん? 誰がゴリラだ!!」」
サルはいいけど、ゴリラって言ったらダメなんだ、この人たち。
戦わなくて済むって言っていたように煌びやかな服を着た女性陣は船に残っていて、ベラミーを先頭にして男性陣が降りてきた。そう言えば、私たちって誰もピストルを持ってないけど、あんな風に持ったほうがいいのかな。私もルフィも練習したことないから使える気がしないけどね。
何にせよ、彼らは持っていたピストルを向けてきた。
「
お父さんを思い浮かべてちょっと脅そうとしてみたけど、やっぱみんなのアイドル ウタちゃんには合わないや。どうしても可愛さが出ちゃうみたい。
「なんだ、麦わらの女しかいねぇのか。他は逃げたのか?」
「そこのゴリラ共に負けて、女取られてんじゃねぇの!」
「なーに、うちの船長は賞金額は5500万ベリーの大型ルーキーだ。たとえあそこで戦っていても余裕で勝っていたさ!」
ちがいない、みたいな感じでまた嗤い始めたし、楽しいことは好きけど、そういう冷やかす楽しさはちょっと遠慮したい。
「おうおう、ニーチャンたち、あんま俺たち怒らせるなよ?」
「ウッキッキ、さっさとゴロツキの町に帰んな!」
「ハハッハハ」
サル上がりの人たちの挑発に、ベラミーは独特の笑い方をする。
「もうあんなところには戻らねぇよ。俺たちはドンキホーテ海賊団のもとへ行くことにした!」
だったらなんでここに、って聞くのは野暮なことだよね。てか、ドンキホーテって、えーと、四皇ではないはずだし、まだ聞いたことないかな。ドクロに斜線を引いた海賊船のマークを親指で指してるし、あれって借りてるだけのマークなのかもね。
「麦わらたちを見て思っちまった。でけぇ波がそのうち来るってな。その波を乗り越えるために、俺はあの方の傘下につく!」
そして、ベラミーは飢えた犬のように舌を見せた。
「海底の黄金遺跡だかなんだか知らねぇが、手土産にお前らの黄金を貰いにきたってわけよぉ! そのついでに麦わらの一味を叩きのめすのも悪くなかったんだが、いないんなら仕方がねぇな!」
「フン、幻想を信じねぇお前らに黄金を持つ資格なんてねぇよ」
「資格だぁ? 強い者が宝を持つに相応しいって話かぁ?」
そう言って、また嗤った。
力が全てなのだと思い込んでいて。
「他人が苦労の末、手に入れた宝ってのはまた格別の味がするもんだ。人が俺を何て呼ぶか教えてやろうか『ハイエナ』だ ハハッハハ!!」
力ある者が『宝』を奪う世界が、当たり前なのだと語る。
「おい、お前も俺の女にしてやるから、船長にボコされないうちにこっちに来な!」
そう誘ってきたやつも、ピストルじゃなくて大きなナイフを手で弄んでいる、例えば副船長なのかな。確か昼間に凄く仲が良さそうな彼女がいたはずだけど。
女の子をアクセサリーみたいに思っているんだろうね。
「そういう価値観、嫌い」
「あん?」
私は指を
「そう言えば自己紹介してなかったね。麦わらの一味、副船長のウタだよ」
バーンッと甲高い音が、私の指先から鳴った。
「……ハ?」
さっきは大きな空砲で、ビックリさせただけなんだけどね。ウソップもやりそうな戦術ってところかな。
「ウタウタ ショット!」
サンジの回し蹴りを思い浮かべながら、ベラミーを海の方向へ吹き飛ばした。でもやっぱり、これ足が痛くなるね。なんでサンジは脚でゾロの刀と打ち合えるんだろう。
「てめぇ、この
「ウタウタ
大きなナイフを、赤いレイピアで受け止めてからのガツーンと頭突き。
女の子らしくないとか、海賊なら関係ない。
ナミがするくらい振りかぶったパンチで、頬をぶん殴ってから距離を取る。
「ぐっ、いつまで呆けてやがる! お前ら撃て!」
その行動は覇気で読めていたから、ほどいた五線譜を指で空中へ浮かせて
「ウタウタの
からの~
「フェルマータ
「「「ぐあぁぁ!!」」」
空中に作った赤い五線譜で銃弾を受け止めてからの、ルフィのゴムみたいな反発で銃弾を浴びせた。
そういった痛みにも慣れていないのか、腕や足に当たった人たちはもう砂浜に倒れている。
「くっ、動けるやつらで船へ運べ!」
「ミュレ! 何ボーっとしてやがんだ!」
「なっ?! あんたが平気って言ってたじゃないか!」
ビッグナイフのやつに怒鳴られて、たぶん船医の女の人が慌てて船室に戻っていったけど、チョッパーみたいに普段から治療道具を持っているわけじゃないんだね。
「てめぇも能力者だったとはなぁ! スプリング
「わお、バネバネしてる!」
さすがに初見の攻撃は読み取れなかったけど、ベラミーの直線的な突撃をその場から離れて躱すことはできた。
「土よ♪」
「このやろっ! スプリング……なにっ!?」
「そこの土を盛っておいたよ!」
砂浜から固そうな土のところに跳んでくれたから、まるでロビンのように土の中から手を咲かせて、バネの足首を掴んでおいた。バネを使った必殺技には自信があったようだけど、技の初動がバレバレだもん。
「嬢ちゃん! すげぇな!」
「全員揃えばもっと凄いんじゃねぇの!?」
「フッ、俺の目も曇っちまってたか」
何度も援護してくれようとしていたけど、ちょっと魅せる戦いしすぎちゃったかな。
なんてね。
ルフィたちならこのリズムに合わせられるだろうけど、今は私がいろいろ試行錯誤している段階だから合わせづらいと思う。
「お、俺が、能力者とはいえ、女1人に、ただの歌に…… ちくしょう!!」
そうだね、
それでも、私は
黒髭のおじさんに会えてよく分かった。
私はもっと強くならないと、ルフィか、この身体か、仲間を、何もかも失うことになるって思えた。まだまだ天使ちゃんの足元にも及ばないけど、私は彼女を超えて上を目指さないといけないってのは、何となく伝わっている。今度こそ、総てを護らないとね。
「天使ちゃん、見ていて」
そのためには、逃げちゃダメなんだ。
まずは向き合わなきゃならない過去がある。
「
「ギューフ ハガル エオロー ニイド」
1文字、1文字、ゆっくり唱えれば。
ガチーンっと回転斬りをしてきたナイフが折れて。
ドレミファって音を奏でた。
あなたの
声をあげて
あなたの行いの奇跡を
響かせることができるように
「なんだ……こりゃ……」
「夢でも見てるのか、俺たち……」
「何か歌ったようだが……」
空に割れた亀裂から、白と黒の鍵盤の細い片腕が伸びていて、そして何より自分たちの
やがて、真っ白な仮面と魔女帽子をつけた顔を見せながら、なんとか全体の4分の1くらい出てきてくれて、黒い天使の羽を片方広げる。
「て、てめぇは一体! なんなんだ!?」
「麦わらのウタ、副船長で音楽家だよ♪ そしてこっちは天使のムジカちゃん♪」
うん……
みるみるうちに体力とか気力が吸われている気がするし、気を抜けば無数の感情に押しつぶされそうになるけど、これくらいの顕現ならまだできるようになれた。いつまでも満たされない
「え、ちゃん? これ女の子なのか?」
「どう見てもピアノの怪物だぜ?」
「さあな。だがこれが現実だってことは確かだ」
ちょっと、どう見ても可愛いでしょ。
夢に出てきたモチーフよりは細めに作ったはずだし、天使ちゃん要素も入れたし。
「べ、ベラミー、こんな化け物、どうすればっ!」
「チッ、図体がでかいだけだろ!!」
土が解除されたことで、バネの足を縮めて、そこから森の方向へ跳躍した。
さらに船へ戻ったり、城の絵を守るムジカちゃんを踏み台にしたり、バネが跳ねる度にどんどんスピードが速くなるけど、耳だけじゃなく目でも追えないスピードじゃない。
船から悲鳴が出ているけど、仲間を気にするほど冷静じゃないみたい。
「何が『黄金郷』!! 何が『空島』!! 夢見る時代は終わったんだ!! お前らみたいな恥さらしに負けてたまるか!!」
そう叫びながら、その声はいろんな方向から聞こえるけれど。
そうやっていつかは攻撃に入るよね。
「潰れろ! スプリング
「エンゼルフォール!」
急に下に曲がるように、ベラミーの身体が下に落ちた。
「ベラミー!?」
「ガハッ、伏せろ! てめぇら!」
ムジカちゃんがいる以上、ある程度の範囲に近づいた時点で『何でもあり』な世界なんだよね。今回は重力操作だったけど、ウタワールドでできることなら大体のことを現実で引き起こせる。
衝撃波と一緒に、残っている海賊たちも船のほうへ、風で押し返す。
「ふぅー」
まだ1分くらいしか経っていないのに、フラフラしてきた。それを分かっているのか、ムジカちゃんは腕を引っ込めながら戻っていく。
ごめんね、まだまだ歌の練習が必要だね。
「私たちは空島に行くの。こっちは元々喧嘩する気なかったし、ルフィたちが戻る前に帰ってくれない? 尊敬する海賊さんのとこに行くんでしょ?」
「お、おい、お前ら! 逃げるぞ!」
「ま、待て、サーキース! このまま、引き下がれるか!」
まだベラミーは諦めきれないみたいだったけど、みんなに連れられて少し壊れた船が、どんどん島から離れていく。
最後まで仲良くはなれなかったね。
まあ彼らには彼らの冒険があって、尊敬する海賊への憧れ、その夢は大切にしてほしいかな。
「さ。 作業を再開しよっか♪」
「「へ、へい!」」
「フッ、おっかねぇ嬢ちゃんだぜ」
急に姿勢を正したけど、それよりも船員みーんなの手が止まってこっちを見ていたんだから。
指示を出し直してほしいかな、副園長さんたち。