カッコいいおじいちゃん騎士と、かわいい水玉鳥の自己紹介の後、私たちも自己紹介しようとしたんだけど。
「さて。ビジネスの話をしようじゃないか。おぬしら青海人であろう?」
「ビジネスって? それに青海人って何?」
どんどん話を進めていくフォールおじいちゃんを止めるように、まだ警戒心を持ったままナミが聞き返した。
さっきの仮面の天使さんも言っていたから、大体は予想がつくけど。
「青海人とは雲下に住む者の総称だ。つまり儂が聞きたいことは、青い海から昇って来たのか? という事だ」
「ああ。そうだぞ」
甲板につけていた背中を起こしながら、息を整えたルフィが答えた。たぶん、最近ギア2を使い始めて、息を吸うための筋肉が鍛えられているんじゃないかな。
だったら、空での戦いに慣れれば、もっとギア2の負担が減るかも。
「チッ、こりゃあきついな」
「ああ。ここにいるだけで鍛錬になる」
サンジやゾロもゆっくりと立ち上がって、普段より強めの呼吸をしている。
「仕方あるまい。ここは青海より7000m上空だぞ。更にこの上層に至っては1万mにも及ぶ。通常の青海人では身体が持つまい」
仕方ないって感じで優しい言葉をかけられたけど、そういうのにムキになるのが男子ってものだよ。ルフィとゾロとサンジがドンッと胸を叩いてから、パンチとかキックとか素振りとかを始めた。
「おっし! もう慣れた!」
「ああ。水の中よりはマシだな!」
「よく考えれば気持ちいい空気じゃねぇか!」
「イヤイヤありえん」
おじいちゃんがブンブンと手のひらを振ったけど、この3人は能力関係なしで人外だから。
「ほんとどんな身体してるんだか」
「最初から普段通り過ごしているお嬢さんが1番あり得ん。どうやらマントラも扱えるようだしな」
照れるね、私が最強ってことかな。
まあそんな冗談はさておき、私たちの中で肺活量は1番自信があるかな。歌うのはともかく、海で溺れるから例えば水中とかで活かされたことなんてなかったけど。
「ごほん。我輩フリーの傭兵である」
おじいちゃん、また話を進め始めちゃった。
「ここは危険の多い海だ。空の戦いを知らぬ者なら、さっきのようなゲリラに追われ、空魚の餌になるであろう。そこでだ。1ホイッスル、500万エクストルで助けてやる」
指で1を示しながら、どうだと言わんばかりに提案をしてきたけど、エクストルってなんだろうね。
ゆっくり首を傾げたら、いつの間にかルフィが隣に立っていたからコツンってなった。
「何言ってんだおっさん?」
「いや、500万ベリーでも払わないけどね」
サンジが湿ったタバコに火が付かないかなってライターでカチカチッと火をつけつつ、そう聞き返したけど、早速ナミが手のひらでお断りした。
「うむぅ~、格安であろうに」
「チッ、だからエクストルってなんだ?」
今度はライターから火が出なくなったみたいで、ちょっとイラついちゃってる。
「なに? ハイウェストの頂からここまで来たんじゃないのか? すでに島を一つ二つ通ったであろう? おおう、お嬢さんも能力者じゃったか」
えい♪ って
手持ち無沙汰だから他にも音符をふよふよさせていると、ルフィやチョッパーがキャッキャと蝶を追いかけるように遊び始める。ムジカちゃんを少しは出せるようになってから、やっぱり能力の調子が前よりいいね。
「やっとついた。助かったぜウタちゃん」
「どういたしまして!」
「えーと、つまり島がいくつもあるものなの?」
「ふむ? そうじゃが?」
何を当たり前のことを、みたいにナミへ逆に聞き返されたってことはホントなんだね。
「ほ、他にもこの空島に来る方法があったの!?」
「一体何を言っておるのか……いや!! おぬしらまさかあのバケモノ海流に乗ってここへ!?」
バケモノ海流って、ノックアップなんとか海流のことだよね。おじいちゃんは目を見開いて驚き、やがて呆れるように大きく息を吐いた。
「まだそんな度胸の持ち主がおったとはな。前例があったのは10年、いやもう20年前だったかの」
「「へぇ!」」
私とルフィは相槌を入れつつ嬉しくなった。
だってシャンクスたちも成し遂げていないことかもしれないじゃん。
「どっちでもいいじゃねぇか、着いたんだから」
「そんなわけあるかぁ! 死ぬ思いだったじゃない!?」
「お、俺も怖かったぞ……」
「内心あんなルートを選ぶなんて、私ここで死ぬ運命かと思ったわ」
話を早く進めたいゾロにナミが詰め寄って、チョッパーも思い出して震えた。だけど、言葉選びはともかくロビンは明るい表情でそう言った。
「フゥー 何かあったら俺はナミさんやロビンちゃんは助けるつもりだったがな」
「空も飛べねぇクソコックがどうやって助けるんだか」
売り言葉に買い言葉、それでまたゾロとサンジが喧嘩を始めちゃった。ほんと仲が良いよね。
「少ないから もしやとも思ったが、これで全員のようだな。おぬしら、一人でも船員を欠いたか?」
ゾロとサンジの喧嘩も気にせず、整えられた白い髭をさすりながら、私たちを改めて見渡したおじいちゃんが聞いてきた。
「いいや、全員で来たぞ」
「あと1人、ウソップは倒れてるけどね。元気だよ」
「そうか。他のルートではそうはいかんのだ。100人で空を目指し、10人だけが到達する。そういう賭けなのだ。だが、おぬしらが選んだルートは、全員死ぬか、全員到達するかだ」
じゃあこの道を選んで良かったじゃん。
ナミやチョッパーが青い顔で自分の顔を抑えた。
「いやはやまったく、0か100の賭けが出来る者はそうはおらん。近年は特にな。度胸と実力、それと運も備えるなかなかの航海者達と見受けた」
ぽーいっと投げてきたのは銀色のホイッスルで、それはルフィの手のひらに乗った。
「ふ~む。何か既視感があるが、気のせいじゃろうか……珍しい紅白の髪に、麦わら帽子じゃが……うむむ……」
「ねぇおじいちゃん、これが1ホイッスル?」
私を見て何か思い出そうとして、長い時間顔をしかめていたから、思わず声をかけちゃった。
「おおう。そうじゃ。1ホイッスルとは一度この笛を吹き鳴らす事。さすれば我輩、天よりおぬしたちを助ける為に参上する」
再び指で1を示しながら、そう言ってくれた。
たぶん見聞色の覇気が使えるからこそだよね。それに、経験の差からなのか、かなりの範囲の『声』を聴きとれると思う。助ける為っていうと、例えば道に迷った時だよね。
ルフィは私がいるから大丈夫だし、ゾロに持たせておこうかなって、喧嘩に満足した彼へ目線を向けた。大あくびをして ぬぼーっとしてるし、やっぱり心配だね。
「我輩は空の騎士ガン・フォール! そして相棒ピエール!!」
「ピエ───ッ!!」
おじいちゃんは背を向けたことで、鎧についたマントが風に靡いた。
「ま、まって! まだこっちから何も聞けてないわ!」
「ならば教えよう! 我が相棒ピエール、鳥にしてウマウマの実の能力者!!」
「鳥が!?」
「馬に!?」
「変化したぞ!?」
私やルフィやチョッパーが思わず声に出るくらい皆驚いた。水玉鳥は少しずつ変化して、嘴は消え、翼はそのままに、鉤爪の蹄だけじゃなく、さらに前脚が生えてきて、チョッパー以上に姿が大きく変わっていく。
トリはウマへ、そして翼はそのままに。
「つまり! 翼をもった馬になる! 即ち……」
「素敵! ペガサスってこと!?」
ナミも目を輝かせて喜びの声を出すくらい、期待で胸がいっぱいだね。絵本に出てくるような『幻獣種』の1匹に、空の冒険で会えるなんて凄いことだと思う。
「そう、ペガサス!」
「ピエ~~~~~ッ!!」
ぬぼーっとした表情は変わらず、全身ピンクの水玉模様で、白く大きな翼を羽ばたかせる。
「かわいい!」
「すっげー!」
「カッコいいな!」
私とルフィとチョッパーの誉め言葉を聞いて、ピエールは嬉しそうに宙へ浮く。ペガサスの背に乗ったおじいちゃんはその背より大きな槍を天へと向けた。
「勇者たちに幸運あれ!!」
そうカッコよく言い残して。
真っ白な雲の向こうにどんどん去っていったけど。
「……結局、何も聞けずじまいじゃねぇか」
ペガサスの感動でまたタイミングを逃しちゃって、私たちの思いを代表するようにゾロの呟きが大空に溶けていって、再びシーンってなった。
そしてルフィが手元のホイッスルを見て電球がピカーンってついたように何かを思いついた。
「よしっ、早速爺さんを呼ぶか! 空の飯屋の場所が聞きてぇ!」
「賛成! 私はピエールに乗せてもらいたいもん!」
「俺も俺も! あいつに乗りたいぞ!」
「貴重なものを使うなぁー!?」
ルフィが吹こうとしたホイッスルをナミに取り上げられちゃった。
やれやれだよ。
ねぇナミ、おじいちゃんの好意を500万エクストルで
「売るのは良くないよ」
「売るわけないでしょ!? 一体私をどんな目で見てんの!?」
((((売ると思ってた。))))
思わず声に出ちゃったけど、ルフィもゾロもサンジもチョッパーも、たぶんロビンですら、売るためと思ってたと思う。宝石を渡せば一瞬で警戒心を解いたこともあったし。
まあ何にせよ、この広大な雲の海をひたすら進むしかないね。