麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第55話 神々

 

 この空島に街があるのはなんとなく気づいていたけど、船を取りにくるためとはいえ、来れたのは嬉しい。

 

 サボの生まれた街くらいたくさんの人がいて、みんな本物の羽がちょこんと背中に生えていたり、カタツムリみたいな髪をしていて、これがこの空島では当たり前なんだね。

 てか結局、この空島でも天使ちゃんのことは分からなさそう。だって羽生えてないし。

 

「完全に避けられてるな、俺たち…」

「天使のレディーたちと話したいのに…」

 

 不法侵入とかで犯罪者扱いだけど、そんな私たちから逃げるというより、もっと別のことに怯えている気がする。

 ルフィもそれに気づいているのか気づいていないのか、あちこちに目移りして、普段通りに興味津々にお店の商品を見ている。その度に私が腕を取って、誘導しなきゃだし、いつまでたっても子供なんだから。

 

「くそっ、どうしてルフィはあんな可愛い幼馴染がいるんだ。俺なんて、爺とクソ野郎ども……しかいねぇのに……」

「カヤのやつ、元気してるかな?」

 

 ウソップのつぶやきに、サンジがまた発作を起こして泣きながら、詰め寄っているけど、遊んでいる場合じゃないでしょ。

 

「ウタ! 俺あれ食べてぇ! 宝払いじゃダメかな!?」

「我慢しなさいって」

 

 ほら、ゾロ達と早く合流しないといけないんだからね。それにルフィ、ここで宝払いはダメでしょ。あれ絶対、マキノたちが優しいだけなんだからね。

 出航前にシャンクスがマキノへ凄い量のお金、渡してるのよ。

 

「おっ、なんじゃありゃ!」

「ん? お、かわいいお人形さんだね!」

 

「「かわ…いい…?」」

 

 ガラスでできたショーケースに、土を固めた人形が飾られていて、モチーフはオットセイなのかな。私は指で四角を作って、しっかりと記憶するけど、そのうちカメラとか欲しいな。

 新聞とか手配書とかは写真で撮られているけど、カメラって高いのかな。

 

「これはヴァース、空に住む人々の永遠の憧れですよ」

 

 そう、背を向け続けていたコニスが振り返って教えてくれた。

 

「ふ~ん、そういや土がねぇな」

「私たちは雲のほうが憧れだけどね」

 

 靴でちょんちょんと地面を叩くと、程よく反発する枕を踏んでいるような感覚で、時間が合ったら雲の上にごろんと寝転がりたいくらいだもん。

 

「あ……船着き場はもうすぐです」

 

「え~ ほんとに通り抜けただけじゃねぇか」

「最初からそういう話だったでしょ、お買い物しないって」

 

 ルフィがシュンとするけど、私だって、雲の上に浮かぶブティックとか行きたかったんだからね。

 

「ナミさんとロビンちゃん、ついでにチョッパーのやつを助けるんだ。急ぐぞ!」

「ゾロがいるから大丈夫だろ。それより俺は先に冒険してないかが心配だ!」

「まあロビンがいれば道にも迷わなそうだし、もうしてるかもね」

「お、俺は船が心配だ。エビにまたつままれてたし」

 

 私たち4人はリュックサックを抱えなおして、たくさんの船が雲の海へ浮かんでいるほうへ走っていく。

 

 フーシャ村を船出した時の小舟より大きいゴンドラもあって、一体いくらするんだろう。ルフィとエースと、サボと、船のカタログを見てた頃もあったね。

 ともかく、この中から選べるとして、帆がないのはダイアルが着いているからなのかな。

 

「みなさ~ん、こちらです」

 

 コニスが声をかけてきたのは、船着き場でも隅っこのほうで、かわいいカラスを模したボートがあった。

 

「カラス丸って言います」

 

「えっ、これぇ~!?」

「いいじゃん可愛いし」

「水鳥ですらねぇな」

「これ4人乗ったら沈みそうなんだが」

 

 コニスのお父さんが作ったのか、だいぶ手作り感があって、ゴムボートってわけじゃないけど、そう思えるくらい過剰に浮き袋が付いている。錨もないから、雲の穏やかな波にゆらゆらと揺れていた。

 

「ウェイバーに乗れない頃に使っていたもので、ブレスダイアルを2つ付けているんですよ。父が作ってくれて……あっ」

 

「ありがと! それとコニス、ごめんね?」

 

 優しいから、何かに怯えながらも、私たちをここまで連れてきてくれたんだ。しかも船まで貸してくれるなんて、もしその誰かが『視』ていたらと思うと、怖くなる。

 

「変、ですよね。でも……」

 

 コニスは力をなくしたように、地面に座り込んだ。

 

 様子を見ていた街の人たちが次々とその場で腕を伸ばして、コニスを止めようとしている。でも私たちがいるところへ近づけない。

 

「ウタさんを、みなさんを、助けたいって!

 で、でも超特急エビを呼んだのは私で!!」

 

「ナミさんたちを連れ去ったエビは、コニスちゃんが!?」

 

 サンジが声を上げたけど、私もビックリした。

 それ程に、みんなはその空島の神に怯えているんだ。

 

「犯罪者を確認したら裁きの地へ誘導しないと、私たち殺されてしまうんです!!」

 

「やめたまえ! 何を言っている!?」

「あの神への冒涜になるぞ!?」

「お、おい、お前ら離れろ!?」

 

 コニスを初めとして、皆がさらに空を向いて、怯えている。

 その光景に、私もルフィもサンジもウソップも、何がおかしいかが分かった。

 

「ごめんなさい! おかしいですよね! 助けたいのに、私のせいで!!」

 

「お前、そうしなきゃ仕方なかったんだろ!」

「そうだよ! 悪いのはその神じゃん!」

「コニスちゃんが狙われるんだろ!?」

「ウソでもついときゃいいだろ!」

 

 私たちは慌てて、涙を流すコニスが悪くないって伝えるけど。

 

 やばっ、何かがくるけど、間に合わない。

 音の速さどころじゃない。

 

「これって光の速さ…」

 

 視界も、思考も、真っ白になる。

 天使ちゃんですらどんな歌も間に合わないって。

 

 だったら無理かな。

 

「ダメだ! でけぇ!!」

 

 避けきれないと判断したのか、空からの異変に気付いたルフィが私の前で腕を広げて、庇おうとしてくれている。でもなぜかルフィは助かるって思えて、それならいいやってのも思うし。

 

 

 ごめんね、シャンクス。

 

 

「もうシなせるかァー!!」

 

 ルフィの右腕が白くなり、そしてその手のひらを天へ突き出した。

 ドンドットット

 

「その雅樂(うた)……?」

 

 ほんと微かな音だったけど。

 1番好きな雅樂(うた)だとハッキリと判った。

 

「アハハハハ!

 間に合ったァ!!」

 

 その嬉しそうで幸せな声が、私の心臓を高鳴らせる。

 

 彼が白い手のひらを握りこんでいくと、雷がどんどん縮まっていく。

 

「ゴロゴロと楽しい音だな!」

 

 私の耳にもようやく音が遅れて聞こえてきたけど、意識外の攻撃にはそれでようやく対応することができる。彼の本能とも言うべき、危機察知能力は覇気以上かもしれない。

 私が援護することもないみたい。

 

 どうやらこの雷の能力者は慢心しているらしく、1発撃っただけで覇気の意識を別に向けた。そうして、雷は追撃の勢いを失ったことで、完全に手のひらに雷の球体として彼は抑えこむことができた。

 

「まッ、悔いはねェだろ?」

 

 それ以上はドクンドクンと、ゴムであっても壊れそうなくらい、心臓が叫び続けているルフィの身体が持たなかったと思う。

 

 最後の気合を振り絞るように、彼が地面に叩きつけた雷のボールは、雲を蒸発させながら突き進んでいく。

 

「バカ……」

 

 またそうやって、何度も何度も、私のために傷つくんだから。

 

「な、なんだ、腕が村長くらいヨボヨボに」

 

 空気の抜けたゴムのように、腕は代償として活力を全て失っている。さらには、使っていない左腕すらダラリと下がっていて、足りない体力は『寿命』を削ることで補ったんだ。

 

 フラフラと前へ倒れこみそうな身体を、私は両腕で支える。

 そして私は、彼の顔へ、腕を伸ばした。

 

þᚷᚾ

 

 

「おいおい、あいつら無事なのか!?」

「ルフィが何かしてたのは少し見えたがな!?」

 

 モクモクとした煙は晴れていき、ウソップやサンジが心配している声が聞こえてきて。

 

「先程の光景は一体……凄まじい覇気を感じたが……」

「ウタさん、ルフィさん、無事ですか!?」

 

 空にはコニスを救い出したフォールおじいちゃんたちがいた。

 

「おお! 2人とも無傷のようだな!」

「だからって見せつけてんじゃねぇよ!?」

 

 いつの間にか、私はルフィと抱き合っていた。

 

 麦わら帽子は紐で背中のほうで支えられていて、お互いに背中に両腕を回していて、胸をギューッと押し付けるくらいに。

 

「無事だ、みんな無事だぞ!」

「ヒューヒュー、かっけぇな兄ちゃん!」

「あの女の子、幸せそうで羨ましいわ!」

 

「ガン・フォールさんもあの女性を救ってくれたぞ!」

「久しぶりに見たわ! あのお姿!」

「ば、ばか、まだあの神が見てるかもしれん!」

 

 さっきまでの怯えがウソのように、空島の人がお互いに笑い合っている。

 

 今の私とルフィの姿、皆に見られていると思うと、湯気が出るかと思うくらい顔が熱くなってきた。ぐりぐりとその胸板に押し付けて、顔を隠すけど。

 

 うぅ、それにしてもルフィ、なぜか動かないけど。

 

「か、身体が石みたいに動けねぇ……」

「えぇ!? ずっとこのままってこと!?」

 

 それはそれで幸せ。

 じゃなくて。

 

 ゾロ達と合流しなきゃでしょ。

 

「わっ、急に動けるようになった」

「大丈夫そう?」

 

 むぅ、せっかくルフィから抱き着いてくれたのに、私から離れるのは残念。

 

「おぬしら、この娘は我輩に預けよ。さて、この国の本心を知った。さらに神の力も知った。これよりいかに動く?」

 

「ん? 国のことはよく分からんけど、俺たちに喧嘩売った神はぶっ飛ばしておいてやるよ」

「コニス! 今までありがと! カラス丸、使わせてもらうね!」

 

 私たちは麦わら帽子を被りなおして、空にいるおじいちゃんたちにそう声をかけた。

 さっきまでゾロがいるからって冒険優先だったのに、ルフィが怒ってくれているのは、私のため、だと嬉しいな。

 

「そうか。幸運あれ。」

「ぴえ~!」

「ウタさん、皆さん、どうかご無事で!」

 

 コニスの本心が、やっと聴けてよかった。

 

 さてと、今回は助かったけど、たぶん2度目はできないだろうし、キツイ戦いが待っているよね。雷の能力者だとは思うけど、見聞色の覇気の範囲もたぶん私以上、クロコダイルよりもずっとずっと強い相手だと思う。

 

「よしっ、雷の神をぶっ飛ばしにいくぞ!」

「ああ! ナミさんたちを連れ去っただけじゃなく、天使のレディーたちのためにもな!」

「うんっ! 私たちで平和で自由な空島にするよ!」

 

「勝てるのか!? さっきの雷の野郎に勝つ見込みがあるんだよな!?」

 

 勢いよく乗ったせいで、ゆらゆらするカラス丸にウソップはしがみつきながら、そう聞いてくるけど。

 

「「なんとかなる!!」」

 

 顔を見合わせて笑う。

 だって私たちは、2人でもっともっと最強になるんだからね。

 

 空島の人たちの、心の中で呟くような激励と目線を受けて、私たちは神の島へ向かって進み始めた。

 

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