この空島に街があるのはなんとなく気づいていたけど、船を取りにくるためとはいえ、来れたのは嬉しい。
サボの生まれた街くらいたくさんの人がいて、みんな本物の羽がちょこんと背中に生えていたり、カタツムリみたいな髪をしていて、これがこの空島では当たり前なんだね。
てか結局、この空島でも天使ちゃんのことは分からなさそう。だって羽生えてないし。
「完全に避けられてるな、俺たち…」
「天使のレディーたちと話したいのに…」
不法侵入とかで犯罪者扱いだけど、そんな私たちから逃げるというより、もっと別のことに怯えている気がする。
ルフィもそれに気づいているのか気づいていないのか、あちこちに目移りして、普段通りに興味津々にお店の商品を見ている。その度に私が腕を取って、誘導しなきゃだし、いつまでたっても子供なんだから。
「くそっ、どうしてルフィはあんな可愛い幼馴染がいるんだ。俺なんて、爺とクソ野郎ども……しかいねぇのに……」
「カヤのやつ、元気してるかな?」
ウソップのつぶやきに、サンジがまた発作を起こして泣きながら、詰め寄っているけど、遊んでいる場合じゃないでしょ。
「ウタ! 俺あれ食べてぇ! 宝払いじゃダメかな!?」
「我慢しなさいって」
ほら、ゾロ達と早く合流しないといけないんだからね。それにルフィ、ここで宝払いはダメでしょ。あれ絶対、マキノたちが優しいだけなんだからね。
出航前にシャンクスがマキノへ凄い量のお金、渡してるのよ。
「おっ、なんじゃありゃ!」
「ん? お、かわいいお人形さんだね!」
「「かわ…いい…?」」
ガラスでできたショーケースに、土を固めた人形が飾られていて、モチーフはオットセイなのかな。私は指で四角を作って、しっかりと記憶するけど、そのうちカメラとか欲しいな。
新聞とか手配書とかは写真で撮られているけど、カメラって高いのかな。
「これはヴァース、空に住む人々の永遠の憧れですよ」
そう、背を向け続けていたコニスが振り返って教えてくれた。
「ふ~ん、そういや土がねぇな」
「私たちは雲のほうが憧れだけどね」
靴でちょんちょんと地面を叩くと、程よく反発する枕を踏んでいるような感覚で、時間が合ったら雲の上にごろんと寝転がりたいくらいだもん。
「あ……船着き場はもうすぐです」
「え~ ほんとに通り抜けただけじゃねぇか」
「最初からそういう話だったでしょ、お買い物しないって」
ルフィがシュンとするけど、私だって、雲の上に浮かぶブティックとか行きたかったんだからね。
「ナミさんとロビンちゃん、ついでにチョッパーのやつを助けるんだ。急ぐぞ!」
「ゾロがいるから大丈夫だろ。それより俺は先に冒険してないかが心配だ!」
「まあロビンがいれば道にも迷わなそうだし、もうしてるかもね」
「お、俺は船が心配だ。エビにまたつままれてたし」
私たち4人はリュックサックを抱えなおして、たくさんの船が雲の海へ浮かんでいるほうへ走っていく。
フーシャ村を船出した時の小舟より大きいゴンドラもあって、一体いくらするんだろう。ルフィとエースと、サボと、船のカタログを見てた頃もあったね。
ともかく、この中から選べるとして、帆がないのはダイアルが着いているからなのかな。
「みなさ~ん、こちらです」
コニスが声をかけてきたのは、船着き場でも隅っこのほうで、かわいいカラスを模したボートがあった。
「カラス丸って言います」
「えっ、これぇ~!?」
「いいじゃん可愛いし」
「水鳥ですらねぇな」
「これ4人乗ったら沈みそうなんだが」
コニスのお父さんが作ったのか、だいぶ手作り感があって、ゴムボートってわけじゃないけど、そう思えるくらい過剰に浮き袋が付いている。錨もないから、雲の穏やかな波にゆらゆらと揺れていた。
「ウェイバーに乗れない頃に使っていたもので、ブレスダイアルを2つ付けているんですよ。父が作ってくれて……あっ」
「ありがと! それとコニス、ごめんね?」
優しいから、何かに怯えながらも、私たちをここまで連れてきてくれたんだ。しかも船まで貸してくれるなんて、もしその誰かが『視』ていたらと思うと、怖くなる。
「変、ですよね。でも……」
コニスは力をなくしたように、地面に座り込んだ。
様子を見ていた街の人たちが次々とその場で腕を伸ばして、コニスを止めようとしている。でも私たちがいるところへ近づけない。
「ウタさんを、みなさんを、助けたいって!
で、でも超特急エビを呼んだのは私で!!」
「ナミさんたちを連れ去ったエビは、コニスちゃんが!?」
サンジが声を上げたけど、私もビックリした。
それ程に、みんなはその空島の神に怯えているんだ。
「犯罪者を確認したら裁きの地へ誘導しないと、私たち殺されてしまうんです!!」
「やめたまえ! 何を言っている!?」
「あの神への冒涜になるぞ!?」
「お、おい、お前ら離れろ!?」
コニスを初めとして、皆がさらに空を向いて、怯えている。
その光景に、私もルフィもサンジもウソップも、何がおかしいかが分かった。
「ごめんなさい! おかしいですよね! 助けたいのに、私のせいで!!」
「お前、そうしなきゃ仕方なかったんだろ!」
「そうだよ! 悪いのはその神じゃん!」
「コニスちゃんが狙われるんだろ!?」
「ウソでもついときゃいいだろ!」
私たちは慌てて、涙を流すコニスが悪くないって伝えるけど。
やばっ、何かがくるけど、間に合わない。
音の速さどころじゃない。
「これって光の速さ…」
視界も、思考も、真っ白になる。
天使ちゃんですらどんな歌も間に合わないって。
だったら無理かな。
「ダメだ! でけぇ!!」
避けきれないと判断したのか、空からの異変に気付いたルフィが私の前で腕を広げて、庇おうとしてくれている。でもなぜかルフィは助かるって思えて、それならいいやってのも思うし。
ごめんね、シャンクス。
「もうシなせるかァー!!」
ルフィの右腕が白くなり、そしてその手のひらを天へ突き出した。
ドンドットット
「その
ほんと微かな音だったけど。
1番好きな
「アハハハハ!
間に合ったァ!!」
その嬉しそうで幸せな声が、私の心臓を高鳴らせる。
彼が白い手のひらを握りこんでいくと、雷がどんどん縮まっていく。
「ゴロゴロと楽しい音だな!」
私の耳にもようやく音が遅れて聞こえてきたけど、意識外の攻撃にはそれでようやく対応することができる。彼の本能とも言うべき、危機察知能力は覇気以上かもしれない。
私が援護することもないみたい。
どうやらこの雷の能力者は慢心しているらしく、1発撃っただけで覇気の意識を別に向けた。そうして、雷は追撃の勢いを失ったことで、完全に手のひらに雷の球体として彼は抑えこむことができた。
「まッ、悔いはねェだろ?」
それ以上はドクンドクンと、ゴムであっても壊れそうなくらい、心臓が叫び続けているルフィの身体が持たなかったと思う。
最後の気合を振り絞るように、彼が地面に叩きつけた雷のボールは、雲を蒸発させながら突き進んでいく。
「バカ……」
またそうやって、何度も何度も、私のために傷つくんだから。
「な、なんだ、腕が村長くらいヨボヨボに」
空気の抜けたゴムのように、腕は代償として活力を全て失っている。さらには、使っていない左腕すらダラリと下がっていて、足りない体力は『寿命』を削ることで補ったんだ。
フラフラと前へ倒れこみそうな身体を、私は両腕で支える。
そして私は、彼の顔へ、腕を伸ばした。
þᚷᚾ
「おいおい、あいつら無事なのか!?」
「ルフィが何かしてたのは少し見えたがな!?」
モクモクとした煙は晴れていき、ウソップやサンジが心配している声が聞こえてきて。
「先程の光景は一体……凄まじい覇気を感じたが……」
「ウタさん、ルフィさん、無事ですか!?」
空にはコニスを救い出したフォールおじいちゃんたちがいた。
「おお! 2人とも無傷のようだな!」
「だからって見せつけてんじゃねぇよ!?」
いつの間にか、私はルフィと抱き合っていた。
麦わら帽子は紐で背中のほうで支えられていて、お互いに背中に両腕を回していて、胸をギューッと押し付けるくらいに。
「無事だ、みんな無事だぞ!」
「ヒューヒュー、かっけぇな兄ちゃん!」
「あの女の子、幸せそうで羨ましいわ!」
「ガン・フォールさんもあの女性を救ってくれたぞ!」
「久しぶりに見たわ! あのお姿!」
「ば、ばか、まだあの神が見てるかもしれん!」
さっきまでの怯えがウソのように、空島の人がお互いに笑い合っている。
今の私とルフィの姿、皆に見られていると思うと、湯気が出るかと思うくらい顔が熱くなってきた。ぐりぐりとその胸板に押し付けて、顔を隠すけど。
うぅ、それにしてもルフィ、なぜか動かないけど。
「か、身体が石みたいに動けねぇ……」
「えぇ!? ずっとこのままってこと!?」
それはそれで幸せ。
じゃなくて。
ゾロ達と合流しなきゃでしょ。
「わっ、急に動けるようになった」
「大丈夫そう?」
むぅ、せっかくルフィから抱き着いてくれたのに、私から離れるのは残念。
「おぬしら、この娘は我輩に預けよ。さて、この国の本心を知った。さらに神の力も知った。これよりいかに動く?」
「ん? 国のことはよく分からんけど、俺たちに喧嘩売った神はぶっ飛ばしておいてやるよ」
「コニス! 今までありがと! カラス丸、使わせてもらうね!」
私たちは麦わら帽子を被りなおして、空にいるおじいちゃんたちにそう声をかけた。
さっきまでゾロがいるからって冒険優先だったのに、ルフィが怒ってくれているのは、私のため、だと嬉しいな。
「そうか。幸運あれ。」
「ぴえ~!」
「ウタさん、皆さん、どうかご無事で!」
コニスの本心が、やっと聴けてよかった。
さてと、今回は助かったけど、たぶん2度目はできないだろうし、キツイ戦いが待っているよね。雷の能力者だとは思うけど、見聞色の覇気の範囲もたぶん私以上、クロコダイルよりもずっとずっと強い相手だと思う。
「よしっ、雷の神をぶっ飛ばしにいくぞ!」
「ああ! ナミさんたちを連れ去っただけじゃなく、天使のレディーたちのためにもな!」
「うんっ! 私たちで平和で自由な空島にするよ!」
「勝てるのか!? さっきの雷の野郎に勝つ見込みがあるんだよな!?」
勢いよく乗ったせいで、ゆらゆらするカラス丸にウソップはしがみつきながら、そう聞いてくるけど。
「「なんとかなる!!」」
顔を見合わせて笑う。
だって私たちは、2人でもっともっと最強になるんだからね。
空島の人たちの、心の中で呟くような激励と目線を受けて、私たちは神の島へ向かって進み始めた。