私たちは運河に乗って、神の島へ向かっていたけど、だんだんと見えてきた景色は大樹の森だった。
街ではあれだけ貴重そうにしていた土人形がたくさん並んでいて、まるでこの島だけで『土』を独占しているかのよう。他にも民族的な装飾は、さっきの空島では見なかったし、ここだけ違和感がある。
「登りてぇなぁ」
何かと高いところが好きで、昔から木登りが好きなルフィが、見上げるように呟いた。まあ確かにダダンの家の近くに似ているかもね。それはそれとして、私たちからすればこの森って新鮮さは少なめだけど。
「まー、このまま河に乗っていこうぜ。そうだろウタちゃん?」
「うん、まだゾロたちの覇気は感じ取れないよ」
「地図を見る限り、まだまだ祭壇までは遠そうだな」
サンジは煙草を吹かせながら、カラス丸にもたれかかってリラックスしている。さっきの『雷』を見た以上、激戦が待っているから、今から精神を削りすぎてもいけないよね。古い地図と風景に目を動かし続けるウソップは、ちょっとビビりすぎじゃないかな。
「お前ら! なんかいるぞ!?」
「鳥でしょ。船が来たっていう合図みたい」
「ここにもずるがしこい鳥がいるんだな」
「あんのクソ鳥を思い出してイライラしてきた」
ルフィたちは思い当たる鳥がいるみたいだけど、あのグルグル巻きで捕まってたサウスバードのことかな。
「ふ、船の残骸だぞ!?」
「そりゃおめぇ森だからな」
「森なら生えてるでしょ」
『関係あるかぁ!』っていうウソップの大声が森に響いていて、思いっきり居場所をバラしてるよね。
「おぉ! ギコギコみたいなのも住んでるのか!」
「どう見てもトラップでしょ。気にするほどでも」
気にするほどの大きさ、あるじゃん。
カラス丸を真っ二つにするほどの。
「ぎゃああああ! カラス丸に当たるぅぅ!?」
やばいやばい、覇気で人の気配を読み取ることに意識を使いすぎてた。
早く雷の能力者の気配を知っておかないと、またいつ意識外から攻撃されるか分からないから。
「あ、アクセル全開だ!!」
「おらルフィ! オールでも漕げ!」
「やべぇぞ! 鎌の化け物だらけだ!!」
バシャバシャと河を叩くように、ルフィたちがカラス丸のスピードを上げて、1発は回避できたけど。
「思いっきり漕げぇ~!」
「どうなってんだこりゃ~!」
「ゆ、揺れるぅ~!」
「ま、前のやつに当たるぞ!?」
ブレーキしたほうがいいか!? というウソップの声に、ルフィは『進め!』と答える。
「ギア2!」
「っ!? ルフィダメ!?」
そしてルフィはオールを投げるように置いてから、拳を床に下ろして、足がポンプのようになって血流を加速させた。
「ゴムゴムのJET
ルフィの狙い撃ちは鎌の鎖を撃ち抜いてくれて、そのタイムラグのうちに、カラス丸は走り抜けた。
「ゲホッゴホッ、なんだ……空だからか……?」
でもすぐに蒸気は消えていって、ギア2の状態が解除された。
やっぱり、ルフィの覇気は弱まったままだから、相当消耗している。
「どうしたルフィ! なんか変なもん食ったか!?」
「今度は巨大ウナギ~~!?」
河から出てきた巨大なウナギに、今ルフィは対応できないし、させちゃダメだ。
私は大きく息を吸って。
「ウタウタの、バズーカ!」
喉に少し痛みが走るけど、大きく歌を吐いてウナギを遠ざけることができた。
「た、助かったぁ~!」
「ヤツメウナギだろうが、血を吸われるどころじゃねぇな」
「その技は……くそっ、身体が重い……」
サンジやウソップはともかく、この技の負担が軽くはないって、ルフィにはバレるよね。私は彼の肩を持って支えるようにルフィを立たせる。
「どうやら、門が見えてきたな」
「えーと、なになに、沼の試練に、それに鉄、紐、玉だってよ!」
ウソップがゴーグルを目に当てて、そう読み取ってくれた。
どうやらこのままカラス丸に乗って、どれかの道に進ませてくれるみたい。
「鉄と紐は、避けたいかな」
「ふぅ……よし、玉にしよう! 絶対楽しそうだ!」
覇気で探った感じ、勝てない相手ではないと思うけど、アラバスタにいたようなエージェントの時みたいに、誰かがボロボロになってようやく勝てるくらいだと思う。だから、今のルフィの状態でそういう相手とは戦いたくない。
息を整えたルフィが選んだからには、玉でいいでしょ。
こいつ悪運は強いからね。
「まあ、1番暴力的な響きはねぇな。たぶん」
「悩んでても仕方がねぇ! 玉の試練だ!」
カラス丸は門をくぐる。
真っ暗な景色と、その先に見える光は、今から敵が待っているのに、ワクワク感が出てきちゃった。
「どれかが当たりで、どれかがハズレなんだよな?」
「ハズレの時はどうなるんだ? 落ちるとか?」
「それは確かに1番の大ハズレかもね」
「つくづく、空を飛びてぇと思う空島だぜ」
サンジはそう言うけど、私も飛ぶよりは浮くって感じだしなぁ。
「お、そろそろか!」
「さて、どんなやつがお出ましか」
「あれ、気配が結構下にある気がする?」
「下だって? それならここは上で……」
手持ち無沙汰だから、そんな話をしていると。
「……は!?」
「……ウソだろ!?」
「ギャーー! たすけてルフィ~~!」
「ウタおまえ飛べるだろぉ~~!」
ふわっ という浮遊感の後。
ボフゥン!っていう雲の河を叩く音で、カラス丸が川に降り立ったと思う。
「ハァ……ハァ……ビックリしたぁ」
「あっはっはっ、結構楽しかったな!」
「俺、生きてる……?」
「ああ、クソッ、とんだドッキリだぜ!」
これってもしメリー号で来ていたら、雲の底まで突き抜けていたんじゃないかな。浮き袋をたくさんつけて軽いカラス丸ですら、悲鳴を上げている気がする。
私は、ルフィへ抱き着いていたから離れて。
たぶん赤くなってる頬を見られないように、麦わら帽子を被り直したり、手櫛で髪を整えたり。
「おぉ~ 玉だ! 玉が浮かんでるぞ!」
「こりゃあ島雲でできた玉だな」
「大きな雪みたいに見えるね」
「ど、どこに敵がいるんだ!?」
ウソップがキョロキョロと焦っているけど、んーと、もう少し先で待っていているみたい。
「この河の先かな。向こうも気づいているから逃げられないよ」
「そ、そりゃあそうかぁ。覇気ってやつだろ?」
「にしても、この玉雲邪魔だなぁ」
「あぁん? そんなの蹴ってどかせばいいだろ」
トンっとサンジが蹴った玉雲が。
ドガンッって爆発した。
「「「「……げふっ」」」」
私たちは黒い煙を出しながら、まあ、そこまでのダメージはないけど、心臓に悪いんだから。
「おい! また玉雲がくるぞ!」
「やめろよ! 蹴るなよ!」
「だからといって、このままじゃどうせ当たるぞ!」
「風よ♪」
ふわっと風の
「ウタちゃんのおかげで助かったが…」
「ど、どうなってんだ、さっきのは爆弾じゃないのか?」
「……くるよ」
「ん? あいつか?」
私たちの疑問は、そいつが答えてくれると思う。
「ほーうほうほう! 何が出るかはお楽しみ! その雲の名はびっくり雲!」
へそ、って挨拶をしてきたのは。
まんまる玉のような体型で、服も白いからますます島雲に見える。オレンジ色のブーツやグローブや帽子が小さく見えて、なんだかアンバランスな印象だね。
「出やがったな! 神官ってやつか!」
「玉だ! ほんとに玉のやつが出てきたぞ!」
「だ、だが、強そうには見えないな!」
ウソップが喜んでいるけど、敵の底は見えないし、あの体型で結構動けると思う。
それを見せるかのように。
「ほっほほ~う ほほ~~う!」
「踊ってんじゃねぇ!!」
「あいつ馬鹿にしてるだろ!」
「俺が撃ち落としてやる! ゴムゴムのぉ~」
ルフィがぐるぐるとしている腕で、私はゴムゴムの
「ほう! 伸びるのか!?」
「
「躱された!?」
「あいつ速いぞ!?」
避けてから近づいてきて。
ルフィに対する張り手なら、打撃を受けきれるはず。
その隙にまず
「ルフィ! 風船の用意!」
「おう!」
「ほうほう! 膨らむのか!
ドーンッという音と共に、膨らんだルフィはカラス丸から強力な張り手で叩き落とされていく。やがて木にぶつかり、少なくない血を口から吐いた。
「……がはっ!?」
私の読みが、外れた……?
「な!? ルフィに打撃は効かないはずだろ!?」
「クソ玉野郎! 海楼石でも持ってんのか!?」
「ダメ! 攻撃が読まれてる!」
サンジの鋭い蹴りは、確かに速いけど、事前に動きは察知されているんだ。
「
「右足上段の蹴り、なかなか速いな」
そう言いつつも、悠々と回避する。
カラス丸から飛び出したことで、今のサンジは無防備になっている。
「クソっ! これが覇気かっ!?」
「覇気? 違う。修行者にのみ授けられる力、
張り手をサンジの顔に浴びせてから、クルクルと横に回転しつつ、次の玉雲に再び乗った。それによって、サンジも空中から地面に落とされていく。
「なっ! ルフィとサンジが、こんな呆気なく!?」
「風よ、巻き上がれ!」
「ほう!?
まずは玉雲をかき集めて、足場を作る。
それで足場にする。
足場にするのは、できる限り、生物が感じ取れるやつ。
私は五線譜を編んで、大きなハンマーにして振り下ろす。
「ウタウタハンマー!」
「ほう! 背後には玉雲! 俺を追い詰めるとは!」
ドンッという攻撃は手のひらだけで防がれた。吸収されるような音、このオレンジ色のグローブの中に何かが仕込まれているんだ。
やばい……
選択させた結果なのに、押しきれないなんて。
「な、なんでだ! なんで防げるんだお前!」
「たぶん、何かのダイアルだよね!?」
「ほ~う! 衝撃を吸収し、そして衝撃は身体の髄より破壊する!」
「お前じゃ耐えられない! 避けろ! ウタ!」
立ち上がったルフィがそう伝えてくれるけど、
「
「
イタイ、痛い。
咄嗟にハンマーを盾に変えても、支えた両腕が壊れそうなくらいに、衝撃をあまり緩和できなかった。
「ウタ!?」
「うっ……ありがとルフィ」
落ちる前にルフィのゴムの身体がクッションのように支えてくれたけど、木にぶつかっていたら、骨がいくらか折れていたと思う。
「ちくしょう、ワニのやつくらい攻撃が読まれるな」
「ゲホッ、ごめん。あいつ、私よりも覇気に慣れてる」
修行って言っていたけど、つい最近覇気を身につけた私より、あいつのほうが慣れている。たぶんダイアルを使っている以上、武装色のほうは身に着けてなさそうなのがまだ救いかもね。
「ほう! ほほ~う!俺の名はサトリ! 全能なる神、エネルに仕える神官の1人だ!」
「へぶぅ!?」
そう自己紹介しながら、ウソップがカラス丸から叩き落とされてきた。たぶん軽くだから大丈夫そうだし、サンジも衝撃を受けたわけじゃないから起き上がってはいる。
爆弾か蛇か、はたまた別か、『びっくり雲』は何が起こるか分からないし、ここは完全に相手のステージなんだ。
ルフィが消耗しているとはいえ、4人で神官1人を倒すのがギリギリかもしれないと思えてきた。こいつよりはるかに強い雷の能力者エネルは、本当に神の領域なのかも。