ふわふわと玉雲に浮きながら、神官の1人は人数不利も気にせず余裕そうにしている。
「ここは迷いの森! お前たちの船を迷わせてもらうぞ!」
「カラス丸が! 運河に乗って行っちゃう!」
「お前! 船返せ~!」
枝分かれしたような運河をカラス丸はランダムに進んでいく。今はぐるぐると周りの森を進んでいて、視界に入っているけど、いつ見失うか分からない。コニスから預かった大切な船だし、それ以上にあれがなかったら徒歩でゾロ達と合流することになる。
「お前たちは船を見つけて乗り込まなければ、生贄の祭壇への道を失うことになる。ここに浮くびっくり雲と俺がそれをさせないがな」
つまり元々そのつもりだったけど、こいつを倒さないと前に進めないようにされたんだ。
「ようこそ禁断の聖地、アッパーヤードへ! ここは迷いの森、生存率10% 玉の試練!」
踊りながら、そう宣言した。
10%って高いのか低いのか。
まあゼロじゃないならいいや。
「……サンジ、ウソップ、船止めておいてくれ」
「お、おう、分かった!」
「待てウソップ! 俺たちがはぐれたら……クソッ!」
「ま、待って!……ふたり、とも……」
ルフィの声に従って、2人は船を止めにいってくれたけど、さっきのダメージなんて関係ないくらいに、ルフィは体力の消耗が激しいのに。
「ウタ、あいつをぶっ飛ばせるようにしてくれよ?」
「で、でもルフィ、ギア2は絶対ダメ、覇気もダメ、なんなら
人差し指を顔の前に出しながらの、私の注意にうんざりした表情だけど、ダメなものはダメだからね。
「ほほう、その男、なるほどなるほど。すでに手負いだったか! 俺は幸福に満ちているなぁ!」
ルフィと一緒に、たとえボロボロになってもクロコダイルとは戦い抜いたけど、あの時は怪我で無理してて、今は体力が凄い削られている状態で、戦わなきゃいけないんだ。
だったら。
「いくよ、ギア2!」
血流を加速させて、心臓がドクンドクンと音を立てる。
「なっ!? ウタお前、それダメなやつだろ!!」
「うっさい。早く倒さないと、あんたが倒れるでしょ」
創り出した赤い大剣を握り込んで、敵に全ての意識を向ける。
「ほうほう! 当たれば恐ろしいな!」
シャンクスなら、相手の覇気にも余裕で対応できるはず。
その姿をイメージしながら、私は土の地面を蹴った。
「合わせなさいよ、ルフィ!」
「……ああ。早く終わらせるぞ!」
「ほう、真正面から飛び掛かってくるか、どんな狙いがあるか」
そうやって深読みしてくれて、まずは衝撃ダイアルの手で防いでくれようとする。
「ほほう! まるで
この
回避しながら、私の腕を取って投げようとする。
だったら。
「暴風よ! 渦巻いて!」
玉雲に乗っている以上、それは風によって動いて揺れる。
「ほう! 上を取られたか!」
「ゴムゴムのぉ! 火山!」
上へ突き上げるようなルフィのキック、これなら。
「ほほう!」
「なっ!?」
「なんだこれ!? 雲が固い!」
ルフィの足は、玉雲を突き抜けることはなかった。
むしろその固めの雲を突き飛ばしちゃって、どんどん私との距離は迫ってくる。
「ほう! 俺は運がよかったな!」
「なにかないか……雲!」
一か八かだけど、私は近くにある玉雲をつかもうとした。
ドガンッ
「きゃあ!?」
「ほう! 運がいいのか悪いのか!」
まずい、確かに避けるきっかけになったけど、伸ばした右腕は火傷したように痛みを感じる。
「くそっ! ギア2 ゴムゴムのJET
「ほうほう! 速いが直線的だな!」
ガンッと手のひらで抑えられた音。
さらにまた衝撃を吸収する音が始まった。
「ハァハァ……ギア2でも通用しないのか……」
「ぬっ 想定以上の衝撃だな」
その間に私は地面で受け身を取れたけど、ギア2は解除されたし、その代償で体力を使いすぎた。しかもウタウタの実の快復力はあっても、右手がたぶん半日は使えない。
「ゲホッ、大丈夫かウタ…」
「ルフィこそ、やっぱり1発撃っただけで、フラフラじゃんか…」
私は左手を地面に当てながら立ち上がって、そんな『負け惜しみ』を言っちゃう。
右腕をダラリと下げながら、ルフィのところへ行くけど。
「ほっほう! 慌てずにゆっくりしてていいぞ~」
2人ともこの状態で私たちが狙われたら、たぶん完全にやられていた。
あいつはサンジやウソップを追いかけて行った。
それはそれで、勝ち目があるかどうか。
「あんにゃろ、俺が全力を出せたらぶん殴れるのに」
そう、ルフィは悔しそうに呟いて、私も悔しい。
楽しそうな声は森に響いていて、サンジやウソップが一方的にやられている声がする。爆発だけじゃない、水とか火とか、なんならカニとか蛇とか、まさしくびっくり雲だ。でもなぜか、あいつはびっくり雲から何が出るかを想定した行動をしない。
だから、私の覇気のリズムがずれるんだよね。
「なら……」
確か
「運って言ってた……」
つまりあいつは、私と同じ見聞色の覇気使いだけど、それでいて直感派ということになる。運任せな行動まで読めていなかったし、深読みしすぎちゃった。
パン と私は両頬を叩く。
いつの間にか覇気に頼りすぎてたんだ、私。
ルフィも仲間も、誰もたどり着けていない領域に、気づかないうちにいい気になってた。
「ねぇルフィ、あんたならどうする?」
「ん? そんなもん、出たとこ勝負だ!」
ドーンと前を向いたルフィはそう真っすぐ伝えてくれて、確かにクロコダイルの時もそうだったね。
「ほっほ~う! もはや打つ術もなくなるぞ! お前たちの船はもうすぐ森の出口へたどり着くようだ!」
その呟きとともに、あいつは大技に動く。
決め技ってやつだろうけど、それなら。
「合わせるわ。突っ込めルフィ!」
「うおおおお! 突っ込むぞ!」
「ほう! やぶれかぶれか! 」
「びっくり玉雲、玉ドラゴン!」
玉雲が連結されて、その頭が装飾でできているから、細長いドラゴンのように見える。最初から繋がっていた玉雲だから、たぶんあいつは大体中身が何か分かっている。
ルフィは腕を伸ばしたまま、木の幹を手に取って。
その後、私の身体にもう片方の腕を巻き付けて。
「ロケットぉ~~!」
「ギャァァ! バカでしょぉ~~!」
無理やり私は宙に浮かされて、パタパタと髪が揺れる。
ホントいつも勢いで戦うんだから、合わせるこっちの身にもなれっての!
「ほっほ~う! どれが火炎玉かな! お楽しみぃ!」
「わわっ! 追ってくるぞ!」
「大丈夫! あれだけ大きいものを動かしてるから!」
赤い五線譜を空中に創り出して、その装飾の顔を
玉ドラゴンは反転するけど、あいつはロープを操作して、ぐるりと回ってくる。
「そうか! あれで釣りみたいに動かしてるんだな!」
「だったら、限界はあるよね!」
私たちは木の幹に降り立ってから頷き合って、またルフィはロケットでさらに高く登ってくれる。
木の幹に当たるのを避けるように動かすこと、そっちに意識を向けているみたい。
「飛び込むぞ!」
「うんっ! 風よ♪」
ロープへ向かって飛び込んだ私たちは ふわっと空に浮きながら、ピーンって伸びたロープをルフィが掴んだ。
「な、何!?」
ブチッてルフィが引きちぎったことに、あいつの覇気はかなり揺らいだ。
「これでは玉ドラゴンを操れない! おのれ小癪な!」
そして私は風をなんとか操作して、1つの玉雲の上へ乗ると。
「ん? 雲に花が咲いただけか!」
「あはは! 当たりじゃん!」
「くっ、お前ら! 何を和やかになってるんだ! 俺の玉ドラゴンをよく、もぉ!?」
「
木の幹を足場に近づいてたサンジが、あいつの玉雲を蹴り飛ばしてくれた。あの体重で乗って大丈夫なくらいだから、よほど丈夫な玉雲の1つだったみたい。
「スパイスをくらいやがれ! クソ団子!!」
「ぬぅ!? 中身はまさか!?」
ドガンッという音が、咄嗟に構えたグローブを壊すことで、取り付けていたダイアルは落ちていく。
サンジも木の幹を足場に、こっちへ近づいてくる。
「お、お前! なぜびっくり雲の中身が分かった!?」
「火薬の匂いがしたのさ。チョッパー程じゃねぇが!」
ベースを奪ったまま、突き出した左腕を弾く。
その手にはもう片方の衝撃貝があったはず。
「料理人として鼻が効くんで、な!」
サンジはさらに追撃を浴びせて、ダイアルのない右腕を突き飛ばしてくれた。
「く、くそっ、精神を乱しているとはいえ、読み取られたとでも!?」
「ああん? 団子みたいに まん丸なお前が遅いだけだろ?」
サンジがそうは言うけど、たぶん見聞色の覇気の習得に、一歩を踏み出している。ゾロとの実力差に少し悩んでいるのもあって、忙しいけど、時間を作ってトレーニングしていた成果かもね。
「ゴムゴムのスタンプ!」
「へぶぅ!?」
ルフィの伸ばした足の裏は、大きなお腹を蹴ってボールのようにサンジの方向へ返す。
「出たとこ勝負だよね! 風よ!」
そして、ルフィや私を信じているのか、覇気で読んだのか分からないけど。
「サンジ! 爆発したらゴメン!」
「勝利の女神は信じるさ! だろルフィ!?」
「ああ! ウタは昔から運がいいからな!」
私が風で送り込む玉雲を、的確に足場にしてから、再びジャンプしたサンジは縦回転を始める。
「ほらな、綺麗な
羽の生えた小さな魚が玉雲からぴょこっと顔を出してから、運河のほうへパシャンと潜っていった。
「い、痛いからやめろ! 絶対痛いから~~!」
すでに覇気で読みとれているらしく、でもその攻撃は避けられないから、選ぶしかない。パタパタと手を動かして、左手を向けようとしているけど、腕は頭へ届かないことにますます慌てている。
「これは玉の試練だぞ! 俺は神官だぞ!? エネル様に歯向かったらどうなるか……と、とにかくやめろぉ!!」
ちょっと、ダイエットしたほうがいいんじゃないかな。
「
「ぬぎゃぁ!?」
かかと落としが頭に炸裂したけど、確かに凄い痛そう。
ドシンと身体が土の地面に落ちた。
そして地面に降り立ったサンジは煙草に火をつけてから、ふ~と白い息を吐いた。
「ナミさんとロビンちゃんを助ける、これが恋の試練か……」
何か言っているサンジは放っておいて。
たぶん気絶したけど、ルフィが腕を組んだまま悩んでいる。
「何か、忘れているような?」
何かって……
「あっ、玉ドラゴンだ!」
「それってさっき後ろのほうへ……」
「お前ら! そこから離れろ!?」
ドガンッという音が背中から聞こえてきて、爆風で私たちの身体は吹き飛ばされる。
「た、玉雲が全部跳ね始めたぞ!?」
「団子野郎! ちゃんと片づけしやがれぇ~!」
玉の試練、ほんと最悪だよ!
「もう! 爆発はやだ~~~~!」