麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第57話 サンジ

 

 ふわふわと玉雲に浮きながら、神官の1人は人数不利も気にせず余裕そうにしている。

 

「ここは迷いの森! お前たちの船を迷わせてもらうぞ!」

 

「カラス丸が! 運河に乗って行っちゃう!」

「お前! 船返せ~!」

 

 枝分かれしたような運河をカラス丸はランダムに進んでいく。今はぐるぐると周りの森を進んでいて、視界に入っているけど、いつ見失うか分からない。コニスから預かった大切な船だし、それ以上にあれがなかったら徒歩でゾロ達と合流することになる。

 

「お前たちは船を見つけて乗り込まなければ、生贄の祭壇への道を失うことになる。ここに浮くびっくり雲と俺がそれをさせないがな」

 

 つまり元々そのつもりだったけど、こいつを倒さないと前に進めないようにされたんだ。

 

「ようこそ禁断の聖地、アッパーヤードへ! ここは迷いの森、生存率10% 玉の試練!」

 

 踊りながら、そう宣言した。

 

 10%って高いのか低いのか。

 まあゼロじゃないならいいや。

 

「……サンジ、ウソップ、船止めておいてくれ」

 

「お、おう、分かった!」

「待てウソップ! 俺たちがはぐれたら……クソッ!」

 

「ま、待って!……ふたり、とも……」

 

 ルフィの声に従って、2人は船を止めにいってくれたけど、さっきのダメージなんて関係ないくらいに、ルフィは体力の消耗が激しいのに。

 

「ウタ、あいつをぶっ飛ばせるようにしてくれよ?」

「で、でもルフィ、ギア2は絶対ダメ、覇気もダメ、なんなら銃乱打(ガトリング)以上もダメだからね?」

 

 人差し指を顔の前に出しながらの、私の注意にうんざりした表情だけど、ダメなものはダメだからね。

 

「ほほう、その男、なるほどなるほど。すでに手負いだったか! 俺は幸福に満ちているなぁ!」

 

 ルフィと一緒に、たとえボロボロになってもクロコダイルとは戦い抜いたけど、あの時は怪我で無理してて、今は体力が凄い削られている状態で、戦わなきゃいけないんだ。

 

 だったら。

 

「いくよ、ギア2!」

 

 血流を加速させて、心臓がドクンドクンと音を立てる。

 

「なっ!? ウタお前、それダメなやつだろ!!」

 

「うっさい。早く倒さないと、あんたが倒れるでしょ」

 

 創り出した赤い大剣を握り込んで、敵に全ての意識を向ける。

 

「ほうほう! 当たれば恐ろしいな!」

 

 シャンクスなら、相手の覇気にも余裕で対応できるはず。

 その姿をイメージしながら、私は土の地面を蹴った。

 

「合わせなさいよ、ルフィ!」

 

「……ああ。早く終わらせるぞ!」

 

「ほう、真正面から飛び掛かってくるか、どんな狙いがあるか」

 

 そうやって深読みしてくれて、まずは衝撃ダイアルの手で防いでくれようとする。

 

「ほほう! まるで炎貝(フレイムダイアル)のようだ!」

 

 この大剣(ウタ)は見た目に反して重さはなくて、炎の攻撃だけど、その予兆をたぶん熱で読み取られた。

 

 回避しながら、私の腕を取って投げようとする。

 だったら。

 

「暴風よ! 渦巻いて!」

 

 玉雲に乗っている以上、それは風によって動いて揺れる。

 

「ほう! 上を取られたか!」

 

「ゴムゴムのぉ! 火山!」

 

 上へ突き上げるようなルフィのキック、これなら。

 

「ほほう!」

 

「なっ!?」

「なんだこれ!? 雲が固い!」

 

 ルフィの足は、玉雲を突き抜けることはなかった。

 むしろその固めの雲を突き飛ばしちゃって、どんどん私との距離は迫ってくる。

 

「ほう! 俺は運がよかったな!」

 

「なにかないか……雲!」

 

 一か八かだけど、私は近くにある玉雲をつかもうとした。

 

ドガンッ 

 

「きゃあ!?」

 

「ほう! 運がいいのか悪いのか!」

 

 まずい、確かに避けるきっかけになったけど、伸ばした右腕は火傷したように痛みを感じる。

 

「くそっ! ギア2 ゴムゴムのJET(ピストル)!」

 

「ほうほう! 速いが直線的だな!」

 

 ガンッと手のひらで抑えられた音。

 さらにまた衝撃を吸収する音が始まった。

 

「ハァハァ……ギア2でも通用しないのか……」

 

「ぬっ 想定以上の衝撃だな」

 

 その間に私は地面で受け身を取れたけど、ギア2は解除されたし、その代償で体力を使いすぎた。しかもウタウタの実の快復力はあっても、右手がたぶん半日は使えない。

 

「ゲホッ、大丈夫かウタ…」

 

「ルフィこそ、やっぱり1発撃っただけで、フラフラじゃんか…」

 

 私は左手を地面に当てながら立ち上がって、そんな『負け惜しみ』を言っちゃう。

 右腕をダラリと下げながら、ルフィのところへ行くけど。

 

「ほっほう! 慌てずにゆっくりしてていいぞ~」

 

 2人ともこの状態で私たちが狙われたら、たぶん完全にやられていた。

 

 あいつはサンジやウソップを追いかけて行った。

 それはそれで、勝ち目があるかどうか。

 

「あんにゃろ、俺が全力を出せたらぶん殴れるのに」

 

 そう、ルフィは悔しそうに呟いて、私も悔しい。

 

 楽しそうな声は森に響いていて、サンジやウソップが一方的にやられている声がする。爆発だけじゃない、水とか火とか、なんならカニとか蛇とか、まさしくびっくり雲だ。でもなぜか、あいつはびっくり雲から何が出るかを想定した行動をしない。

 

 だから、私の覇気のリズムがずれるんだよね。

 

「なら……」

 

確か

「運って言ってた……」

 

 つまりあいつは、私と同じ見聞色の覇気使いだけど、それでいて直感派ということになる。運任せな行動まで読めていなかったし、深読みしすぎちゃった。

 

 パン と私は両頬を叩く。

 いつの間にか覇気に頼りすぎてたんだ、私。

 

 ルフィも仲間も、誰もたどり着けていない領域に、気づかないうちにいい気になってた。

 

「ねぇルフィ、あんたならどうする?」

「ん? そんなもん、出たとこ勝負だ!」

 

 ドーンと前を向いたルフィはそう真っすぐ伝えてくれて、確かにクロコダイルの時もそうだったね。

 

「ほっほ~う! もはや打つ術もなくなるぞ! お前たちの船はもうすぐ森の出口へたどり着くようだ!」

 

 その呟きとともに、あいつは大技に動く。

 決め技ってやつだろうけど、それなら。

 

「合わせるわ。突っ込めルフィ!」

「うおおおお! 突っ込むぞ!」

 

「ほう! やぶれかぶれか! 」

 

 (ピストル)をくるりと回避して、あいつはロープを手に取った。

 

「びっくり玉雲、玉ドラゴン!」

 

 玉雲が連結されて、その頭が装飾でできているから、細長いドラゴンのように見える。最初から繋がっていた玉雲だから、たぶんあいつは大体中身が何か分かっている。

 

 ルフィは腕を伸ばしたまま、木の幹を手に取って。

 その後、私の身体にもう片方の腕を巻き付けて。

 

「ロケットぉ~~!」

「ギャァァ! バカでしょぉ~~!」

 

 無理やり私は宙に浮かされて、パタパタと髪が揺れる。

 

 ホントいつも勢いで戦うんだから、合わせるこっちの身にもなれっての!

 

「ほっほ~う! どれが火炎玉かな! お楽しみぃ!」

 

「わわっ! 追ってくるぞ!」

「大丈夫! あれだけ大きいものを動かしてるから!」

 

 赤い五線譜を空中に創り出して、その装飾の顔を反発(バウンド)させる。そんなものつけてるとこは、火炎玉ってやつではないでしょ。

 

 玉ドラゴンは反転するけど、あいつはロープを操作して、ぐるりと回ってくる。

 

「そうか! あれで釣りみたいに動かしてるんだな!」

「だったら、限界はあるよね!」

 

 私たちは木の幹に降り立ってから頷き合って、またルフィはロケットでさらに高く登ってくれる。

 

 木の幹に当たるのを避けるように動かすこと、そっちに意識を向けているみたい。

 

「飛び込むぞ!」

「うんっ! 風よ♪」

 

 ロープへ向かって飛び込んだ私たちは ふわっと空に浮きながら、ピーンって伸びたロープをルフィが掴んだ。

 

「な、何!?」

 

 ブチッてルフィが引きちぎったことに、あいつの覇気はかなり揺らいだ。

 

「これでは玉ドラゴンを操れない! おのれ小癪な!」

 

 そして私は風をなんとか操作して、1つの玉雲の上へ乗ると。

 

「ん? 雲に花が咲いただけか!」

「あはは! 当たりじゃん!」

 

「くっ、お前ら! 何を和やかになってるんだ! 俺の玉ドラゴンをよく、もぉ!?」

 

羊肉(ムートン)ショット!」

 

 木の幹を足場に近づいてたサンジが、あいつの玉雲を蹴り飛ばしてくれた。あの体重で乗って大丈夫なくらいだから、よほど丈夫な玉雲の1つだったみたい。

 

「スパイスをくらいやがれ! クソ団子!!」

 

「ぬぅ!? 中身はまさか!?」

 

 ドガンッという音が、咄嗟に構えたグローブを壊すことで、取り付けていたダイアルは落ちていく。

 

 サンジも木の幹を足場に、こっちへ近づいてくる。

 

「お、お前! なぜびっくり雲の中身が分かった!?」

 

「火薬の匂いがしたのさ。チョッパー程じゃねぇが!」

 

 ベースを奪ったまま、突き出した左腕を弾く。

 その手にはもう片方の衝撃貝があったはず。

 

「料理人として鼻が効くんで、な!」

 

 サンジはさらに追撃を浴びせて、ダイアルのない右腕を突き飛ばしてくれた。

 

「く、くそっ、精神を乱しているとはいえ、読み取られたとでも!?」

 

「ああん? 団子みたいに まん丸なお前が遅いだけだろ?」

 

 サンジがそうは言うけど、たぶん見聞色の覇気の習得に、一歩を踏み出している。ゾロとの実力差に少し悩んでいるのもあって、忙しいけど、時間を作ってトレーニングしていた成果かもね。

 

「ゴムゴムのスタンプ!」

 

「へぶぅ!?」

 

 ルフィの伸ばした足の裏は、大きなお腹を蹴ってボールのようにサンジの方向へ返す。

 

「出たとこ勝負だよね! 風よ!」

 

 そして、ルフィや私を信じているのか、覇気で読んだのか分からないけど。

 

「サンジ! 爆発したらゴメン!」

 

「勝利の女神は信じるさ! だろルフィ!?」

 

「ああ! ウタは昔から運がいいからな!」

 

 私が風で送り込む玉雲を、的確に足場にしてから、再びジャンプしたサンジは縦回転を始める。

 

「ほらな、綺麗な空魚(そらざかな)さ」

 

 羽の生えた小さな魚が玉雲からぴょこっと顔を出してから、運河のほうへパシャンと潜っていった。

 

「い、痛いからやめろ! 絶対痛いから~~!」

 

 すでに覇気で読みとれているらしく、でもその攻撃は避けられないから、選ぶしかない。パタパタと手を動かして、左手を向けようとしているけど、腕は頭へ届かないことにますます慌てている。

 

「これは玉の試練だぞ! 俺は神官だぞ!? エネル様に歯向かったらどうなるか……と、とにかくやめろぉ!!」

 

 ちょっと、ダイエットしたほうがいいんじゃないかな。

 

粗砕(コンカッセ)!」

 

ぬぎゃぁ!?

 

 かかと落としが頭に炸裂したけど、確かに凄い痛そう。

 ドシンと身体が土の地面に落ちた。

 

 そして地面に降り立ったサンジは煙草に火をつけてから、ふ~と白い息を吐いた。

 

「ナミさんとロビンちゃんを助ける、これが恋の試練か……」

 

 何か言っているサンジは放っておいて。

 たぶん気絶したけど、ルフィが腕を組んだまま悩んでいる。

 

「何か、忘れているような?」

 

 何かって……

 

「あっ、玉ドラゴンだ!」

 

「それってさっき後ろのほうへ……」

 

「お前ら! そこから離れろ!?」

 

 ドガンッという音が背中から聞こえてきて、爆風で私たちの身体は吹き飛ばされる。

 

「た、玉雲が全部跳ね始めたぞ!?」

 

「団子野郎! ちゃんと片づけしやがれぇ~!」

 

 玉の試練、ほんと最悪だよ!

 

「もう! 爆発はやだ~~~~!」

 

 

 

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