麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第61話 エネル①

 

 ルフィを探して、私はどれだけ歩き続けているんだろう。彼と一緒にいると時間はあっという間に過ぎるのに、凄く長く感じる。

 

 グルグルと巻くように、緑の豆の木みたいなのが遠くに見える。

 この島よりもっともっと高くへ、空の果てまで伸びているように思えた。雲の上には何か建物が見えて、もしかするとエネルはあそこに住んでいるのかも。

 

 その光景を一緒に喜びたいのに。

 

「ルフィ、どこにいるの……」

 

 ルフィは動き回っているはずだから、ゆっくり歩きながら周囲の声を聴き続けたけど。

 

 どんどん声が減っていて。

 私はそれには耳を塞ぐ。

 

 ルフィはあの雲の上、なのかな。

 ルフィが負けるはずはないよね。

 ルフィなら大蛇なんかに追いつかれないし。

 

「...だったら?」

 

 だれがルフィと戦った?

 だれなら万全のルフィに勝てる?

 空を進む強大な覇気に私は思わず。

 

「ねぇ、ルフィを知らない?」

 

 エネルへ向かって、私は指を(ピストル)の形にして、その先から電気を放った。

 

「ヤハハハハハ!! 神に挑むか、青海の女?」

 

 電気を飲み込み、目の前に雷が落ちる。

 その衝撃は風を起こし、大地を抉った。

 

 青白い雷が大樹の幹に集まり、人の形になる。

 

「麦わら帽子を被った男子、知らないかって聞いてんの!」

 

 頭にバンダナを巻いていて、日焼けのない真っ白な肌、長い耳たぶで、眠たげな目だ。上半身は裸で、背中には小さな太鼓がたくさん。

 隙だらけのように見えて、こっちを見透かしてくる強大な覇気は、ずっと格上だって感じ取れた。

 

「さあな。すでに脱落したのではないか?」

 

 あくびをするような声で興味がなさそうに、エネルは大樹へ腰かけた。

 本当に知らなそうなことには安心したけど、私1人で挑むことになりそうだね。まあ、ちょっと冷静じゃなかったかな。

 

「ふむ。雷貝(サンダーダイアル)ではなさそうか。ならば、何の能力だ? まさか電気ではあるまい?」

 

 私はリュックを木の幹より遠くへ投げてから、トントンと地面を叩く。

 

(ウタ)だよ」

 

「そうか。我は(カミなり)

 

 様子見なのか直線的な雷のパンチの動作、だったらこっちは。

 

「土よ、包みこめ!」

 

「ほう? 大地(ヴァース)を従えるか!」

 

 ゴロゴロと雷の腕は、土の壁を破裂させるけど、3層用意しておいてよかった。衝撃波でがっつり全部破壊されているや。

 

「1000万V……」

 

 なんだろ、バチバチと雷が収束していて。

 大技?

 

「風よ、吹き飛ばせ!」

 

放電(ヴァーリー)

 

 咄嗟にジャンプして、両手で風を撃ち込んだ反動で距離を取ったけど、視界が青白く染まった。

 

「うっそぉ……」

 

 大地が抉れただけじゃない。

 熱も感じるから、受けたら一瞬で死ぬかも。

 

 1000万ボルトって言っていたけど、どこまで上があるのか……

 

「ヤハハハハ まだまだ未熟だが、心綱(マントラ)も使いこなすか」

 

「それはどうも...」

 

 そう上から目線で褒められたけど、まだまだ遊ばれている。

 

 ヤバい、ヤバいよ。

 私、冷や汗がどんどん流れてる。

 

「ゲームの余興には良い見せ物だったぞ、女」

 

「ゲームって?」

 

 時間を稼いでどうにか、雷に攻撃を当てるウタ、考えないと。

 

「生き残りを賭けたサバイバルさ。はてさて、誰が生き残るかな」

 

 こっちの焦りを分かった上で、ゆっくりと話し始めた。

 

「時間制限は3時間、その間に何人倒れ、何人生き残れるか。なかなか楽しかろう? 我の予想は5人といったところか」

 

「へ、へぇ、悪趣味だね」

 

 思わず文句を言っちゃったけど、だって、人の命に関わることがゲームだなんて、許せないもん。

 

「神への不敬は(ゆる)そう。代わりに何か(ウタ)ってみせよ」

 

 そう、手で挑発してくる。

 

 炎も、水も、風も、土も、そして剣技も、こいつには通用しない。もしかすると天使ちゃんなら有効打を思いつくかもしれないけど。

 

「ごめんルフィ、私にはこれしか思いつかなかったや。」

 

 麦わら帽子を脱ぎ捨てて、遠くへ投げる。

 

ギューフ ハガル エオロー ニイド アンスール ニイド

 

 空を割る亀裂から、白と黒の鍵盤の細い腕が勢いよく伸びる。

 

「我でもこれは読み取れなかったぞ! ヤハハハハハハ! なかなか面白いじゃないか!!」

 

「あ、ガアアアア!?

 

 身体が崩れそうなくらいの痛み。

 

 足りないものを()られて。

 そこから無限に再生がされるような痛み。

 

「さしずめ、自らをこやつの供物とするか! 愉快なことだ!」

 

 小さな亀裂から無理やり這い出るために。

 腕が、頭が、魂が、削れそうだ。

 

 そうか、天使ちゃんはこんな膨大な感情の塊をずっとずっと抑えてくれていたけど、今は眠っているから。

 

顕現せよ、ムジカァーー!!

 

 やがて、真っ白な仮面と魔女帽子をつけた顔を見せながら、黒と白の翼を広げて、鍵盤の脚を大地につけることはできた。

 

 でも。

 目眩、が...

 

 それに、溢れる感情で苦しくて。

 

「イタいよ…… だれかぁ……」

 

 涙が止まらない。

 何をすればいいかわからない。

 

 ルフィ、手を繋いでよ

 

 シャンクス、抱きしめてよ

 

 エース、おんぶしてよ

 

 サボ、返事をしてよ

 

「さて。こやつのお手並み拝見を……っ!?」

 

 こいつが奪った?

 ならギューって握りしめて潰そう。

 

「ちぃ! 俺を引き付ける程の引力か!」

 

 バチバチってしながら逃げられた。

 

「能力者なら、沈めればいい?」

 

「なっ! 次は海水か!? 先程から読み取れん!」

 

 靴が濡れてきたけど、ピアノの上に乗れば、私はおぼれない。何か大事なものが水に流れていった気がするけど、別にいいや。

 

電光(カリ)!!」

 

 海水が蒸発した。

 でもそれはかなり疲れるはず。

 

「小娘がっ! 万物を創り出すなど、神になったつもりか!!」

 

「みんなよろしくね」

 

 指を振るえば、悪いやつから兵隊さんは私を守ってくれる。

 槍でガキーンって防いでくれたし、私もお手伝いしないと。

 

「その金の棒、重くしよっか」

「くっ!? 近づくほど能力の影響が強くなるか!? ならっ!」

 

 あれっ、遠くまで逃げられた。

 

電鳥(ヒノ)電獣(キテン)!」

 

 ドンドンと太鼓を叩いて出てきた動物たち。

 

「可愛いから貰うね」

 

「俺の雷をも制御するか!?」

 

 バーンって当たったのに。

 

 やっぱり雷に、雷は効かないか。

 ねぇルフィ、あんたの出番でしょ。

 

「……ルフィ?」

 

「これならどうだ! MAX2億V!! 放電(ヴァーリー)!!

 

 この浮遊感、私、投げられてる?

 視界が真っ白になって。

 

 

 

 

ドーーーーーーン!!

 

 

「ハァ……ハァ……化け物め……」

 

「……あ、あれ?」

 

 ムジカちゃんが、雷に撃たれて。

 真っ黒になってボロボロと崩れてる。

 

 私、エネルと戦っていて、最強の奥の手を出したはず。

 

「ヤハハハ! なかなか骨が折れる相手であったな。いやはや、よくもまあ万能の力を振るう偶像を創ったではないか! 誉めてやろう!」

 

 楽譜が燃えるように、灰になって消えていっちゃう。

 

「私の、最強の……」

 

 震える自分の身体を抱きしめる。

 

 ムジカちゃんがいれば、現実でも強くなれると思ったのに、その希望が壊されちゃった。以前のように能力が使えないことを、もしルフィたちに知られたらどうしよう...置いていかれるかもしれない。

 

「天使ちゃん変わってよ。ねぇ、あなたならなんとか...」

 

 最終手段として、ウタワールドにこいつを入れて、いや、でも結局、雷そのものなんて、どうやって攻撃を与えればいいか分からない。悩んでいるうちに、私の体力が尽きるのが先だ。

 

 見聞色の覇気なんてあっても、行動を読み取れるだけじゃ、こいつには。

 ...勝てない。

 

「あれ、『声』が聴こえなく……」

 

「やれやれ。己を疑わないこと、それが基本だぞ?」

 

 金色の棒を拾い、ゆっくりとこっちへ近づいてくるのを、私は震えながら見ていることしかできない。

 

 水で湿った地面につけた足には力が入らなくて、私は見上げることしかできない。

 

「惜しかったな。我が正真正銘、神の力を見せつけてしまったようだ」

 

 これが、神の領域なのかな。

 私なんて足元にも及ばないような。

 

「さて、人の身にしてはなかなか面白い能力の使い方じゃないか。ここで死ぬのも惜しい。どうだ、夢の世界に付いてこないか?」

 

 差し出された手を取らないと、私は死ぬように思える。エネルの夢の世界、それって一体なんなのかな。

 それを聞き返すこともできないくらい、声が出ない。

 

「そう気に病むな。我は神なり。勝てぬことが道理なのだ」

 

 でも、たとえ死んだとしても、その手を取りたくないって私は思う。だって、まだ私たちの夢の果てにもたどり着いていないから。

 

「時間が来るまで黙っておこうと思ったが、いいだろう。これは選定の戦いだったのだ」

 

 逃げないと。

 ルフィのところに走りたいのに。

 

「生き残った者達には褒美として、我が旅立つ夢の世界、限りない大地(フェアリーヴァース)へと連れて行くつもりだった。私はそこに紛れない神の国を建国する。そして、そこに住めるのは選ばれた人間のみというわけさ」

 

 選ばれた人間だけ。

 それは私の求める新時代じゃない。

 

「すでに脱落したが、最初に神へ挑んだ褒美だ。特別にお前は連れていってやろう。寛大な我に感謝を...」

 

「ルフィ、助けて……」

 

 ねぇ、どうして来てくれないの。

 他の誰かを守っているから?

 

「ならばここで死んでおくか?」

 

「しにたくないよ...」

 

 バチバチとエネルの指先に雷が溜まり始めていて、何かウタおうとしたらすぐに殺される。

 ずっと昔、山賊に襲われた時から変わってなくて、泣き虫で弱いままだ、私。

 

「……ふむ。殺すのはやはり惜しいな。覇気も能力も磨けば光るものを持っているし、時間はまだある。その間に、我の偉大さを見せるとするか」

 

 た、助かった...?

 

「ルフィというその男が生き残れば、2人で連れて行ってもいいが。 ヤハハハ、残りは我自らが見定めるとするか」

 

「え、なにをっ...」

 

 その大きな腕に担がれて、私ごとエネルはフワフワと浮き始める。

 

「あと10人と2匹といったところだ。脱落したお前には少しの間、方舟(はこぶね)で待っておいてもらおう」

 

「がっ!?」

 

 たぶんかなり手加減されたとはいえ。

 ダメ、意識が...

 

 

 

 

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