麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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プロローグ その終わりと始まり

 

 

 秘密基地の家具や海賊貯金のために、私たちはグレイ・ターミナルにも出入りするようになっていた。

だって、貴族たちが捨てたたくさんの物の中には、お金になるお宝もあって、ここに暮らす人たちはそれを稼ぎにしているんだって。

 

 なんだか最初はやるせない気持ちになったこともあったけど、生きるためや夢のために、みんな頑張っていて、私たちも負けていられないってなったんだ。

 

 今では。

 私たちみたいに子どもだけで行動しているのは珍しいって、優しい人に心配されたり。

 お金をよこせーって、生意気な人たちと喧嘩したこともたくさんあったり。

 

 でもいつの間にか、ここの人たちとは仲良くなっていた。

 元々海賊をやっていた人とか、すごく物作りが上手な人とか、持ち込んだ食材で料理を作ってくれた人とか、恐ろしいクマだって片手で手懐けちゃうおじいさんとか、いろんな人のステキなところを知る。

 みんなの中心で楽しそうに笑うルフィに釣られちゃって、私もエースもサボも混じって笑っていた。

 

 夢をスタートさせるために私たち4人は、きらめくような日々を送っていたんだ。

 

 なのに…

 

「わかった。付いていく」

 

「おい! サボをどこに連れていくんだ!」

「「サボ!!」」

 

 エースも、私やルフィも、背を向けて去っていくサボに叫ぶことしかできない。

 

「大丈夫さ! 死ぬってわけじゃないし、また会えるさ!」

 

「だけどお前、戻りたくねぇって言ってただろ!」

「行かないでよ、サボ!」

「くそぉ! こいつのせいか!」

 

 どれだけエースやサボが鉄パイプで殴っても、私やルフィが能力を使っても、まるで鉄の塊のように動じなかった。

 真っ白で綺麗なスーツとは対照的に疲れた表情のたぶんお巡りさんは、穏便に済ませたいのか、サボに何かを告げたんだ。ルフィが気づいた通り、それが原因なんだ。

 

「評判の悪ガキ3人組の1人は『貴族』だったわけか。できるもんなら変わってもらいたいぜ」

 

 お巡りさんに付き添ってやってきた海賊団の船長が、どこか遠くを見ながらそう言った後に、私をじっと見てくる。

 何倍も高い身長で、その見下すような視線に、私は思わずスカートの裾をギュッとする。

 

「お姫様なら『貴族』に見初められるんじゃねぇか」

 

「やい! サボだけじゃなくて、ウタも連れていくつもりか! てかサボを返せ!」

 

 ルフィが私と船長の間に割って入ってくれて、なんだか不思議な気分で、というかサボが連れていかれちゃった。

 

「おっと、わりぃな。まっ、大人になりゃどっちが幸せか分かるさ……」

 

 そうやって、酒瓶を傾けてゴクゴクと飲んだ。

 その間にもどんどん離れていってしまう。

 

「あいつとは生まれが違うんだ。貴族の家族のもとで裕福に暮らす。だから、忘れてやるのも優しささ」

 

 でもサボはあの町が嫌いって。

 だけど、サボには家族がいて。

 

 サボに選んでもらうしかない、んだよね?

 

「っ! お前らブルージャム海賊団はなんなんだ! 悪い海賊のクセに貴族のやつらと仲良くしてるのか!!」

 

 エースは彼らの海賊団のことを知っているみたいで、サボの件もあって力強く激昂した。

 

「海賊志望とは聞いていたが、まだまだ青臭いな。四皇や王下七武海が政府公認であるように、俺は王国公認の海賊さ」

 

 一転してニヤリと、船長が嬉しそうにそう語った。

 

「お前らとはポルシェーミのやつとの因縁があるらしいが、『アレ』はもういい。むしろ強ぇやつは好きだ。歳は関係ねぇ」

 

 そして、再び酒瓶を傾けた後に。

 

「今の仕事でとにかく人手が欲しい。報酬は払おう。それに、あの貴族のガキの情報も、俺なら入ってくるぞ?」

 

 そう言って、大人の手を伸ばしてきたから。

 

 私たちは憤りで冷静じゃなくて、判断を委ねてしまった。

 

「……サボがいねぇと、俺イヤだぞ」

「……サボ、どうして自分で行っちゃったの」

「我慢しろ! サボの幸せはあいつが決める。あいつは強いし、本当に嫌なら自分で帰ってくるから、だから今は様子を見よう……」

 

 私とルフィはしぶしぶ木箱を担いで、とぼとぼと歩くエースに付いていく。

 曇り空なのもあって、ずっと下を見てた。

 

 仕事を終えた私たちはクタクタで、秘密基地でグッスリと眠った。

 

 

 その次の日。

 

 私たちの足は自然とグレイ・ターミナルに向いて、その途中で運んだ木箱の中身が気になった。昨日はそんなことも考える余裕もなかったけど、地図で示された場所へ隠すように指定されたんだ。

 それはグレイ・ターミナルのあちこちで、私たちの行動を見てみんなが首を傾げる様子もあった気がする。

 

「おい! ブルージャム! あれはなんだ! ここで大火事でも起こす気か!」

 

 木箱の1つを確認した私たちは中身の爆薬に慌てて、ブルージャムたちがいる場所までやってきた。

 

「バカ野郎、大きな声を出すんじゃねぇ。ゴミ山の連中に聞こえちまう」

 

「てめぇ!? 知ってて運ばせやがったな!」

「なっ!? あんた! あれを知ってて貴族に従ったの!?」

「大変なことになるぞ!? おっさんたちに知らせねぇと!」

 

 怒りで熱くなるけど、同時に背筋が凍る。

 

 私が昨日、1度でも中身を見ていたなら。

 なんで運ぶのか聞いていたなら。

 

「さすがの悪ガキどもも腰が引けたか。こういうのが海賊だろうが」

 

「ちがう! シャンクスはこんなことしない!」

 

 私のお父さんはこんなことしないし。

 絶対に止める側にもなる。

 

「お前らも大人になれば分かる。この件が終わったら、国王が俺たちを貴族にしてくれるんだ。お前らも混ぜてやってもいいぞ」

 

「何言ってるのか分かんねぇ!」

「お前の夢のために、ここを人ごと、全部燃やす気か!」

 

 ブルージャムは、こいつは自分の夢のためなら、いくらでも人を殺す気なんだ。

 感情が高ぶっているからか、私なんだか今なら自由に戦えるって気分になってきた。

 

「やれやれ、作戦を知っちまったんだ。お前らを解放するわけにはいかんな」

 

 こいつは、手段を選ばないやつなんだ。

 誰かを不幸にして自分が幸せになるなんて。

 

「貸して!!」

「えっ、ウタ!?」

 

 ルフィが持っていた鉄パイプを手に取って、私はブルージャムへ殴りかかる。

 

「速いッ!?」

「「「船長ぉー!?」」」

 

 声が届くと同時くらい振り下ろした鉄パイプで、大人の大きな身体を横薙ぎにガツンとぶっ飛ばした。

 

「ハァハァ 重っ……」

「すっげぇ!」

「やるじゃねぇかウタ!」

 

 自分でもビックリしてる。

 私ってこんなに強かったっけ。

 

 こんな重い鉄パイプ、今では持つことがやっとなのに。

 

「てめぇ……この小娘が……」

 

 ブルージャムのやつは血を流しながらもまだピンピンしていて、さっきの私はたぶん無意識に能力を使ったんだ。眠気とは違って、脱力感がすごい。まるでギアを上げたみたいに、一時期なパワーアップなんだ。

 ルフィは大きく頷いて、私の前に立った。

 

「よしっ、次は俺が」

「待てルフィ! なんだか騒がしいぞ!」

 

 ゴムの腕をグルグルと振り回すルフィだけど、それをエースが手で制する。

 

 みんなの悲鳴。

 それに遠くから聞こえる爆音は。

 

 まさかもう始まったの?

 

「船長ぉ~!」

「軍のやつらがもう始めました!」

「はァ!? 予定時刻より3時間も早いぞ!? お前ら門へ急げ!!」

 

 彼らは高町の方角へ、必死に走っていく。

 

 助かった、のかな。

 負けるつもりはなかったけど、ブルージャムと数十人を相手している暇はなかったし。

 

「燃え移って、次々と爆発してる。まずいわね……」

「なぁ! 俺らもあいつらに付いていくか? でもおっさんたちに知らさねぇといけないし!」

「とっくに気づいて、おっさんたちも自分で逃げるさ! それに、もう門の方角が1番燃えてる! 俺らを逃がさねぇつもりだ!」

 

 ひとまずここでじっとしてるのが安全って思えるほど、あちこちが爆発している。こんなときウタワールドの中なら、いくらでも歌で雨が降らせるのに。

 それにもう歌うには。

 

「ゲホッ、ゲホッ、煙がここまで……」

「どうしよぉ~ エースぅ~!」

「俺がついてる。なんとかなる!!」

 

 その勇ましい横顔が、今の私とルフィにとって、とても心強かった。

 

「お前らこっちだ!」

 

 エースの背中を追うように、ルフィは私の手を取って引っ張っていってくれる。

 

 煙が立ち込める世界で目を開けているだけでもやっとで、袖で口を抑えていないと凄くつらくて、熱は途方もなく汗を流させて、火の粉は肌に痛みを感じさせる。

 

 私のほうがお姉さんなのに。

 ルフィはホント頼れるんだから。

 

「くそっ、ここも無理か!」

 

「てめぇら! あそこにいたぞ!」

 

 この声はまさかブルージャム?

 どうして?

 

 門に行って助かって、みんなを犠牲に貴族にしてもらうんじゃなかったの。

 

「クソガキども! 絶望だよ! 俺たちは!!」

 

「知るか! 話してる暇はねぇだろ!」

「お前らも早く逃げろよ! えっ!?」

 

 あれ、エースとルフィが立ち止まった。

 見上げると、大人が2人、立ちふさがっていた。

 

「お前ら、そいつらを逃がすなよ。おいガキども、お前らの宝のありかを教えろ」

 

 こんな、命がかかってるときにまで。

 これも海賊なの?

 

「おい! そんなこと言ってる場合かよ!」

 

「俺をこれ以上怒らせるな。ガキの財宝を頼りにしてでも、俺は必ず返り咲いて、貴族共に復讐すると誓ったんだ!」

 

「ッ! 裏切られたからって、その腹いせに私たちを巻き込まないでよ! もうこれ以上、やめてよ……」

 

 こいつの事情は大体察することはできたけど、私たちだって騙されて、こんなことに手を貸しちゃって。

 シャンクスのいないところで、悪い子になっちゃったんだもん。

 

「……わかった、場所を教える。俺たちの命が大事だ」

「うぅ、ウタもエースも悪くねぇよ……なのになんで、そんなつらそうなんだよ……」

 

 ルフィは相変わらず、泣き虫なんだから……

 エースもごめんね、1人なら逃げ切れたかもしれないのに。

 

「はぁ、物分かりがいいじゃねぇか。ちっ、あの貴族のガキもそうなんだろうな。あいつらは己を特別だと思って、それ以外の人間はゴミとしか思ってない」

 

 そうブルージャムは、吐き捨てるように呟いた。

 

「サボはそんなこと思ってない!」

「そうだ! サボは自由になりたいって!」

「あんたの愚痴なんかどうでもいいから、もうどっか行ってよ!」

 

 もう今は、そっとしておいてほしいのに……

 

「お前らもあの貴族のガキに騙されていただけだァ!」

 

「勝手に、決めつけるなよ!!」

 

 ブルージャムの構えたピストルを、ルフィがゴムの腕を伸ばしたパンチで(ピストル)のように撃ち抜いた。

 

 咄嗟だったけど、完成したんだ。

 ルフィの技の1つが。

 

「能力者かっ!?」

「調子に乗るなよ、ガキが!」

 

 揺れる視界が赤く染まった。

 

 ルフィが顔を、斬られた……?

 

「……ア"ア"!!」

 

「る、ルフィ……? 死なないよね……?」

「ルフィ!? てめぇよくも!」

 

 ポタポタと血が溢れている。

 苦しむ声が痛々しい。

 

「お前ら全員、殺してやる!!」

 

「ルフィとウタに、手を出すなぁーー!!

 

 空気が震えた。

 

 私たちへ向けていた刃を落として、大人たちはバタバタと倒れていく。

 泡を吹いて気絶していないのは、私たちと、ブルージャムたった1人だ。

 

 エースが、私とルフィを守るように立つ。

 

「こいつらに手を出すやつは、兄貴の俺が許さねェ!!」

 

「てめぇ、何をしやがった! 揃いも揃って能力者か!?」

 

 ブルージャムとエースが、炎の中で戦い始める。

 苦しんでいるルフィに、私は何もできない。

 

 どうしよう、心臓の鼓動がどんどん弱くなっている。

 

 もっと、力が欲しい。

 

「ウタで治してあげたい」

 

 私のやりたいこと、全部できるくらいに。

 『なれるわよ』

 

「だれ?」

 

 『ウタは最強だから』

 すべてを包み込むような優しい歌声だった。

 

「私もなれるかな、あなたみたいに」

 

 『超えなさい』という一言、聴かせてくれた私の可能性、それらがなんだか嬉しくて、こんな大変な時に笑みがこぼれた。

 

「ウタは最強だから」

 

 痛々しい傷口を抑えてウタえば、綺麗に元通りだった。

 

 まるでウタワールドの中にいる時みたいに、今ならなんだってできそう。助かりたいという願いを、助け合っている人々の温かさを、自由の為に戦う意志を、ウタとして借りるために1つの形にする。

 これが私の。

 

「魔王♪」

 

 今、白い天使の翼を広げて、顕現する。

 

「うっ、あれ? 痛くねぇ、ってウタ?」

 

「もう大丈夫!」

 

 周囲の炎を指を振るうだけで消して、そこから駆けつけてくれる声を、ここへたどり着かせる。

 エースは自分で決着をつけたいだろうし、その体力を回復させる。

 

 私のステージを自由に指揮して、現実でもみんなを幸せにする。

 これが私の求めた能力なんだ。

 

「おーい、お前ら無事かぁ~!?」

 

「ダダン! と、みんな!」

 

 山賊は嫌いだけど、こんな危険なところまで来てくれるなんて、ダダンたちは結構好きになれそう。

 

「ふぅ、お前らが無事で……いや、掃除でもするために早く帰ってこいっての!」

「お頭、嬉しいっすねぇ~」

「それにしても、こ、これは?」

 

 ふふん、どうよ。

 私は腰に手を当てて、えーと名前。

 

「歌の魔王ムジカちゃん、私の能力よ! これで周りの火を消したの!」

 

「ウタの能力なのか!? すっげー!」

 

「す、すげぇな、悪魔の実って。それに、エースのやつはあの海坊主と拮抗してやがる。お前たち、全員であいつを倒してさっさとずらかるよ!」

「「「あいさー!」」」

 

 ダダンの言う通り、早くここから離れないとね。私もいつまで魔王を顕現していられるか分からないし、生きているみんなの声は海側へ向かっているから、大丈夫だと思うし。

 

 でも。

 みんなが住んでいた場所は跡形もなく、燃えてる。

 たぶん、救われなかった人もいて。

 

 これは人が起こした悲劇で。

 私も少なからず手を貸していて。

 

 私は、その悔いと罪を背負っていくつもり。

 

 

「ほんと、つらいや」

 

 

 あれ、このあと

 

 何があったっけ。

 

 確か。

 

 その数日後。

 

 不思議だけどふと遠くの海の景色が見えて。

 

 ドォーーン

 

 

 船が燃えている。

 火薬が破裂するような音。

 

 サボは焼け死んだ

 

 私たちが。

 私が、サボを無理にでも連れ戻していたら。

 

 サボは幸せじゃないから、海へ飛び出して。

 

 私、なんでも叶えられる力はあるのに、手の届く範囲でしかみんなを幸せにできないんだなって。

 

 自由を奪うものは、すべて壊せばいいって。

 

 目的は覚えてないけど、力を使い果たすくらいには魔王を顕現したし、このまま死んじゃうのかな。

 

「なぁウタ、なんか食べてくれよ……」

 

 なんだか、身体に力が入らないや。

 泣き疲れた理由もハッキリしないし、もういいや。

 

「あいつは誰よりも自由な海賊になるために、一足先に出航した。」

 

 そっか、エースがそう言うなら。

 サボは強いから、生きてるよね。

 

 勘違いしちゃってた。

 

 サボの手紙にもちゃんと書いてあるじゃん。

 『また兄弟4人で どこかで会おう』って

 

「俺がお前らの兄貴だ。何かあったらいつでも助けてやる!」

 

「俺も……もっと…もっと……もっと!もっと!もっと!!」

 

 ギューッて抱きしめてくれて、ルフィはほんとポカポカするね。

 

「もっと強くなる!! そしたら全部守れるから! ウタがずっと笑顔でいられるように強くなるから!!」

 

 もう疲れたのに。

 あなたは願ってくれるんだ。

 

 悲しみの果て あなたがいた

 

生きてくれよ、ウタ!!

 

 シガラミも過去も捨てて

 僕らはそれでも 笑えてるはず

 

 

 

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