麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第62話 エネル②

 

 ルフィはルフィで、様々な冒険があった。

 

 ワイパーと戦ったり、空の主とも言われる大蛇に呑まれたり、その腹の中でナミや空の騎士と再会したり。

 そしてようやくアイサという少女と共に体内から脱出をした。赤いシャツは消化液で溶けており、体力はありあまっているが、ボロボロの姿だ。

 

 口から出たところで見たのは、あちこちが壊れた遺跡と。

 

「ゾロ、お前がいて、なんでここまで……」

 

 雷に撃たれ、黒焦げで倒れているゾロだった。

 

 神官とも戦ったため斬り傷も負っており、不慣れな覇気を扱う体力もなく、連戦を続けた果てに雷の一撃を受けて、再起不能に陥っている。

 

 ルフィにとっては2人目の仲間であり、戦闘面に関して絶大な信頼をしている分、ゾロ自身を含め、ロビンやチョッパーも傷ついて倒れていることが、彼に事の重大さに気づかせる要因となる。

 

「ワイパー! 生きてる!?」

 

「あのバズーカのやつ、あんなに強いのに、腕が特にボロボロだ」

 

 いわゆる空島における革命軍のリーダーで、ルフィは何度か手合わせをしたが、ギア2なしではルフィと同等の強さだった。そんな彼も、ダイアルの代償で腕の骨をボロボロにし、満身創痍な状態で雷で撃たれ、浅い息で気絶していた。

 

 もしかすると自分以外はもう全員やられたかもしれない、ルフィは焦りを見せる。

 

 その中でも。

 

「ウタは!? なぁゾロ! 教えてくれよ!」

 

 ルフィはゾロの身体を揺らすが、その目は閉じられたままで。

 

「あの子とは……途中まで一緒だった……けど」

 

 意識を失ったままのゾロの代わりに、ロビンが苦しそうに、ルフィへそう声をかけた。

 

「航海士さん……連れていかれたわ」

「なら、ウタもそこにいるってことか!」

 

 どこだ! とルフィは重ねるように尋ねるも、抱き起こしたロビンはゆっくりと首を振った。

 

「わからない……でもこのままでは……エネルに...この島が、スカイピアすべてが……消滅させられてしまうわ」

 

「あたい達の村も!?」

「みんなが危ないんだな!」

 

 ウタやナミだけでなく、この場で倒れるゾロやロビンやチョッパー、他にもウソップやサンジも危険ということだ。

 

「俺が、俺が守らねぇと...」

 

 ロビンをゆっくりとおろして、ルフィは預かっている麦わら帽子を被り直す。この帽子に、幼なじみを守るという誓いを立てたから。

 

「向こうで気配が3つ。

 それがエネルたちだよね?」

 

「っ! そうか!」

 

 ルフィには、ウタたちのような見聞色の覇気はまだ使えない。今はアイサだけが自分をエネルの元へ連れて行ってくれる希望だ。

 

 この少女も、ウタも、戦いの場には連れて行きたくはないことが本音だ。

 

 でもルフィは、1人で生きていけない自信がある。

 

「危険だろうが、俺を案内してくれ!」

 

 こんな事態になるまで何もできなかった悔しさを噛みしめて、ルフィは大きく頭を下げた。

 

 

 

 

「ウタ、ウタ、大丈夫?」

「……ナミ?」

 

 ここはどこだろう。

 船の甲板、でも知らない船だ。

 

「起きたか」

 

「ひっ!?」

 

 その声で、私は身体が縮み上がって、震え始める。

 

「何もせんよ。恐怖して従う者に、神は寛大だからな」

 

「あ、あはは…さすが神様……」

 

 ウェイバーのハンドルを握り続けるナミも冷や汗をかいているとはいえ、怪我はない。

 

 でも船番で一緒だったはずのサンジやウソップがいないということは、もしかしてエネルにやられたということなのかな。確かめようとしても、私、覇気が使えなくなっちゃった。

 

「こ、この船は?」

「ヤハハ、 方舟(はこぶね)マクシムさ」

 

 私はナミに尋ねたけど、自慢するようにエネルが高笑いをしながらそう答えた。

 

「この舟はいわば空飛ぶ舟、我のみが操れる。雷を動力とし、我の能力を最大限に活用することができるのだ」

 

 どうだ、というような視線は凄く怖い。

 

 つまり、いつこの船が飛び始めてもおかしくはないということなんだ。ナミが持っているウェイバーはあくまで海や陸を渡る乗り物で、私に至っては、たぶん、もう以前までのようには現実で能力を発揮できない。

 

 ナミが縋りつくような視線に、目を背けるしかないんだ。

 

「ふむ? あのコニスとかいう女、逃げ延びていたか。どうやらエンジェル島で騒いでいるようだが、ヤハハ、いい見せ物じゃないか」

 

「その……コニス、を知っているの?」

 

 相変わらず眠たそうな目だけど、見透かされるような感覚が酷く怖い。

 

「ああ。ずいぶんと悪運の強い女のようだな。1度ならず、2度も我の裁きから生き延びるとは。3度目はないがな! ヤハハハ!!」

 

 悔しい。

 ギュッと握った拳でぶん殴ってやりたいのに、今の私は凄く弱い。コニスがどうして追われているのか分からないけど、殺されるかもしれないのに。

 

「へ、へぇ~ 人物の特定までできるんですね」

 

「我の場合、特別さ。心綱(マントラ)に加え、この雷の身体で電波を読み取り、会話を聴くことができる」

 

 どうにか時間を稼ごうとするナミの質問に対して、エネルは平然と答えた。

 

 能力も覇気も、何もかも私より数倍上なんだ。必死に練習して出せるようになった現象のどれもが、究極とも言える雷には勝てなかったから。

 

「ウタの女、そう気に病むことはないと言ったはずだ。神たる我に勝てぬは道理よ」

 

「そ、そういえば、ウタは、なぜここに?」

 

 気になって聴いてきたんだと思うけど、結構グッサリきたよ。

 

「負けて、情けをかけられたから、かな……」

 

 あふれる涙で視界がにじむ。

 

 だってその気になれば、賞金首の私は殺されてもおかしくないんだもん。

 ずっとずっと考えないようにしていたけど、やっぱり私はいつか置いていかれるんだろう。ルフィにもエースにも、サボにも実力差はずっとあって、みんなが手を引っ張ってくれただけ。

 

「……ごめん、ウタ」

「ねぇナミ、ルフィはどこにいるのかな」

 

 そっと抱きしめてくれたナミの温もりは、マキノにしてもらったように温かい。

 

「あいつは生きてるから」

 

 そっか、生きてるんだ。

 よかった。

 

「きっとあなたを助けに来るわよ。その時はあなたを泣かせた分だけ、遅れたあいつを私がぶん殴ってやるわ!」

 

 それは、ルフィでも効きそうだね。

 

 ねぇ、今の私でも聴こえてきたよ。

 彼の声が。

 

 

ウタああああ!!!

 

 

「さて。あの男が、ウタの女の希望というわけか。どうにも、みすぼらしい男のようだが...まあ、そこそこの強さか」

 

「ルフィ! さっさと上がってきなさい!」

 

 ナミは私を支えて歩かせてくれて、そして喜びの声をかけた先に確かに彼はいた。

 

「お前がウタを、みんなをっ!!」

 

「腕が伸びるか。はてさて、何の能力か」

 

 ギア2の蒸気を残しながら、ルフィはロケットのように飛んできて、甲板の上へ降り立った。服装はボロボロだけど、傷はなさそうでよかった。

 

お前が! ウタを、キズつけたのか!!

 

「グッ……まるで神のような、いや、この空気の震えはなんだ!?」

 

 ルフィが怒っている。

 

 仲間を傷つけられたらすごく怒るところ、シャンクスにそっくりだ。私を包み込み、逆に敵は威圧する。まるで王のように思える感覚も似ている。

 他にも、自分に怒って血が出るくらい拳を握るところとか、ほんと優しすぎる王様だよ。

 

「我こそが神! 頭が高いぞ!!」

 

「お前のどこが神なんだ!!」

 

 ドンッ とルフィは甲板を蹴って、エネルへ飛び込んでいく。

 

「受けてやってもいいが、神を愚弄した罰を受けてもらおうか! 神の裁き(エル・トール)!」

 

 雷のパンチ!?

 あんなの避けられっこない!

 

「うおおおお! 武装! JET銃弾(ブレット)!!」

 

 ドガン というパンチがぶつかる音が響く。

 ダメ……雷に触れた時点で……

 

「なんだ、俺が押し負け、ぇ~!?」

「覇気なら、お前をぶん殴れる!!」

 

 武装色の覇気は実体を捉えることができる。そのままの勢いでルフィは腕を突き飛ばして、あのエネルがぶっ飛んだ。

 

「おのれ、人間のくせに、この俺によくも!!」

 

 でもバチバチと雷となって、再び体勢を立て直したエネルが現れたと思うと、金の棒がドドンと太鼓を叩く。

 

「原理は分からんが、どうやらその力は腕のみに纏っているようだな! 6000万V!」

 

「やべっ!?」

「ルフィ、避けて!!」

 

 確かムジカちゃんの時は2億ボルトだったけど、6000万でもひとたまりもない。

 

雷龍(ジャムブウル)!」

 

「くそおおお !」

 

 雷の速度は避けられるはずもなく、バリバリと音を立てて、蛇のような雷の龍がルフィへ直撃した。

 

 目が焼けるくらいの光

 余波でさえ肌を焼くような熱

 じとりと流れる涙

 

 足に力の入らない私の膝へ、咄嗟に投げ捨てられた麦わら帽子がコロコロと当たる。

 

「ル……ふぃ……」

「そんな……ルフィまで……」

 

 ねぇルフィ、こんな世界から逃げようよ。

 ウタワールドに入れてあげるから。

 

 ...あれ?

 

「ん? なんだったんだ?」

 

「なに? ならば、1億V!」

 

 もしかして覇気のおかげなのかな、ともかくルフィは6000万ボルトくらいなら耐えられるんだ。

 でも最大火力なら、ムジカちゃんが壊されるくらいだから...

 

放電(ヴァーリー)!!!」

 

 視界がまた、白く

 

 

 

 ズドーーン

 

 こんなの無理だよ。

 こんな強大な雷、耐えられるはずが。

 

 ...あれあれ?

 

「おい! シャツが燃えて熱いじゃねぇか!!」

 

 ルフィはちゃんと生きていて。

 

「ぶべらっ!?」

 

 エネルをパンチでぶっ飛ばした。

 

 一体、何が起きているの。

 あの時みたいに腕は白くなっていないし。

 

「よく分かんねぇけど、俺に雷は効かねぇ!」

 

「え~~~!?!?」

 ってエネルの目が楽しいくらい飛び出してるや。

 

「もしかしてたった1人の、天敵?」

「えっと、ゴム、だから?」

 

 ゴムゴムの実は凄いや。

 なんにせよ、ルフィが無事でよかった。

 

「ウタ、こいつは俺が倒す。いいな?」

「ルフィとお父さんの帽子...」

 

 こっちへ来て麦わら帽子を被せてくれた。

 久しぶりに被るルフィの宝物だ。

 

「私、麦わら帽子、失くしちゃった」

「そりゃ大変だな。あいつをぶっとばしたら、一緒に探そうぜ」

 

 女の子の私にはちょっとサイズが大きくて、古くて、なんだかポカポカする。

 

「うんっ! お願い、勝ってっ!」

 

 ルフィのおかげで、少しだけ怖くなくなった。辛いときにはいつもルフィがいてくれて、私は笑顔になれる。

 

「ウタの女が立ち直った...貴様は何だというのだ! 俺の雷が効かないなど、まさか神だとでも!?」

 

「俺はルフィ! ウタの幼なじみで、海賊で、ゴム人間だ!」

 

 ルフィは全部答えてくれて。

 幼なじみって言ってくれて嬉しい。

 

「ゴムとは?」

「おう。ゴムゴムの実を食べた。マズかった」

 

  そう首を傾げたエネルは、本当に知らなそうだ。

 

 でも、赤いシャツはさすがに1億Vでは燃えちゃったし、もしかしてルフィはただのゴムじゃないのかも。えーと、ほら、スーパーゴムみたいな。

 

「まあいい。頬へのパンチ。」

「ゴムゴムのJET(ピストル)!」

 

 バキューンというルフィのパンチを、身体を逸らして躱していて、やっぱり覇気で読まれている。

 

「次は薙ぎ払いか。」

「と、鞭ぃ!」

 

 技のコンボで、意表をついたような鞭も、雷になって高速移動で回避される。

 

「フン! 痺れさせるだけが雷だけではない」

「あがっ!?」

 

 金の棒による打撃、それもルフィは耐性があるけど。

 

「打撃も効かん!」

 

「ちぃ! ならば雷冶金(グローム・パドリング)!」

 

 金の棒が変形して、鋭い槍になる。

 まだそんな技を残しているなんて。

 

「げっ!?」

 

「ヤハハハ! その焦り! 斬撃は弱点か!」

 

 攻撃を中断して、慌てて距離をとったルフィだけど、その距離は一瞬で詰めてくるし。速すぎるよ。

 

「なっ! 消えた!」

 

 覇気は……まだダメだ。

 なら音で。

 

 バチバチと、たぶん船の金でできた装飾を。

 

「ルフィ! 後ろに!」

「ああ、わかった!」

 

「串刺しにしてやる、ゴムの男!」

 

 ガンッとルフィはアッパーで、なんとか槍を上へ矛先をずらした。

 

「ヤハハ! ウタの女に救われたか!」

「ああ! ウタは俺に力をくれる!」

 

 振り下ろされた槍を、ルフィはクロスした腕で受け止めたけど。

 

「やはりな! 電熱は受けるか!」

「くそぉ! エースみたいに黒くなれたらなぁ...」

 

 ジューという焼けるような音で、ギア2に合わせて、ますます蒸気が出ている。このままじゃ、ルフィが火傷しちゃう。

 

「こうなったら! ゴムゴムのぉ~」

 

「首が伸びただと!? っ! 避けれん!」

 

 ビヨーンと引いた頭で出す技は。

 

「JET! 鐘ぇ!!」

「ぐぉ! この俺がこんな単純な技に!?」

 

 ルフィはゴーンと頭突きをした。

 てか焦りで一人称、変わってきてるね。

 

「おのれえええ!」

 

 エネルは槍を一度上げてから、薙ぎ払うようにルフィを吹き飛ばす。その打撃はダメージにはならないけど。

 それよりも。

 

「ハァハァ……どうすっかな」

 

 体勢を立て直して、一度ギア2を解除したルフィに、負担がかかっている。

 

 ようやく与えられたダメージは1発で、意表をつくことでしかダメージは与えられない。体力消費も含めてルフィがずっと不利だ。

 

 ルフィが、見聞色の覇気を使えたらいいのに。

 

「ウタがうらやましいな。見聞色あれば、ぶん殴れるのによ」

 

 そっか……

 ルフィはそう思ってくれるんだ。

 

「ちょうどいい。そろそろ島を沈めようと思っていたところだ」

 

「えっ、どういうこと!?」

「たぶん最大火力がくるよ!?」

「まさかウタやナミを!?」

 

 私たちを守るようにルフィは立った。

 でもどうか、あの力はもう使わないで。

 

MAX! 2億V! 放電(ヴァーリー)

 

 ピカッと光って。

 

 

 

 

 ズドーーーーーーーン

 

 その最大火力な雷は、船の動力部に当てられた。

 

 ゴンゴンと動き、くるくるとプロペラが回り始め、少しずつ船が空へ向かって浮き始める。

 

「動くぞ、我を限りない大地(フェアリーヴァース)へ導く方舟(はこぶね)が!!」

 

 この巨大な船を動かすエネルギーが、さっきの大技で溜まったんだ。

 

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