麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第63話 エネル③

 

 ヒュンヒュンとプロペラが回って。

 ゴゴゴと浮き始める。

 

 ガンッ と天井へぶつかって。

 ガラガラと瓦礫が落ちてくる。

 

 バキバキと木々をなぎ倒して。

 サンサンと輝く太陽が見えた。

 

「ヤハハハ! 始まるぞ、方舟(はこぶね)の究極の機能、デスピア! 絶望という名のこの世の救済だ!」

 

 エネルは、金の装飾を背後にそう宣言する。

 まるで新時代を創ろうとしているみたいに。

 

「……舟、引っかかってるぞ?」

 

 大地をプロペラが削る音の中で、エネルと睨み合ったままのルフィがそう伝える。

 

「ふっ、こんな限りある大地(ヴァース)など、破壊することは容易いさ」

 

 そう言ったエネルは少し移動して、舟から大地を見下ろした。

 

「そもそも、人間が神と同じ空にいるなど、この世の不条理だと思わないか?」

 

 一体、何を言って……?

 

「元々、この地は青海にあったそうじゃないか。ついでに、空島のゴミ共も青海に叩き落としてやろうと思ってな」

 

 舟から出始めた黒い雲は、ゴロゴロと音を立てながら空を覆っていく。さっきの2億Vの雷を含んだことで、永遠の雷雲になっているのかと思うくらい。

 

「ヤハハハ! この大地が海へ沈むのも時間の問題だな!」

 

 そして雷雲から、バリバリと大地に雷が降り注ぎ始めた。雄大な自然の木々が、大地を守るようにどんどん焼けていく。神官もたくさんいたはずなのに、この人は誰も仲間だと思っていないんだ。

 

 雷とプロペラは大地を削り、やがて大きな音を立てて舟は空へ浮かんでいく。

 

「さて、お前たちはこの我を前に、よくぞ生き残った。どうだ、我と共に限りない大地(フェアリーヴァース)へ来ないか?」

 

 そう言って、何かを期待している表情で、エネルは手のひらを伸ばすけど。

 

「そのフェアリーヴァースってとこは面白そうだけどよ。俺の仲間を傷つけたお前とは行かねぇし、それに、俺たちの航路は俺たちが決める。」

 

 エネルの『夢』には興味を出したみたいだけど、ルフィはきっぱりと断った。

 

「そう、か…… 神に逆らうか、人間?」

「何言ってるんだ? お前も人だろ?」

 

 エネルがしょんぼりとしているように思えた。

 『神』って、もしかすると寂しい存在なのかもね。

 

「てか、神なら何でも奪っていいのかよ?」

 

「愚問だな。我なら命も大地も容易く打ち砕ける」

 

 その考え方は、私たちと合わなくて。

 今のエネルとは絶対友達になれないかな。

 

「もういい。貴様には消えてもらおうか、ゴムの男!」

 

 突き出された金の槍は、蒸気を放っていて凄く高温だ。

 

「あぶない! ルフィ!」

「くそっ! あちぃな!」

 

 見えたままの槍を、ルフィは咄嗟に腕で防いで矛先をずらしたけど、ジューと皮膚を焼く音が鳴る。

 

 だからルフィは足を後ろのほうへ伸ばして。

 

「ヤハハハ! 足を伸ばしてくるか」

「ゴムゴムのスタンプ!」

 

 ビューンと伸びた足を、槍を突き出したまま身体を逸らすだけで、回避されちゃっている。やっぱり見聞色の覇気がある以上、意表をつくことでしかダメージを与えられないんだ。

 

「高電熱スピアだ! 女共を背に守ったまま、どれだけ耐えられるかな!」

 

「あがっ! くそぉ……」

 

 一度引いてから、再び突き出してきた槍を、ルフィは両手で掴むことで受け止めたけど、あれじゃ手のひらが燃えちゃうよ。

 

 なにか、何か、私にできることは。

 

 何か考えないと。

「さっきの槍の攻撃……」

 

「ルフィ! そんなもの壊しちゃいなさい!」

「無茶言うな、ナミ! これすげぇ硬いぞ!?」

 

 槍の攻撃は、今の私でも見えた。

 速いけど、雷の速度じゃないんだ。

 

 だったら。

 エネルは常に『雷』ってわけじゃない。

 

「ウタウタのぉ~」

 

 私の(ウタ)で、ルフィを助けたい。

 

(ピストル)♪」

 

 銃の形にした指先から、バキューンって私は音符を放つ。休符の記号、当たりさえすればほんの少しは動きが止められるとは思うけど。

 

「なにっ!? 速い!?」

 

 やっぱり、エネルも人間なんだ。

 予測してなかったら、音の速さは避けられないよね。

 

「ししし ゴムゴムのぉ~」

 

 力が緩まった槍から手を離して、ルフィはギュイーンって腕を伸ばす。

 

「しまった!? こんなこけおどしに!!」

(ピストル)!」

 

 ガツーンって、パンチをエネルに撃ち込んだ。ゴムの身体は覇気を使わなくても攻撃できるから、スピード重視ならやっぱりその技だよね。

 

「くっ、なぜだ! なぜ無敵の俺が!」

 

 自然系で覇気を使えるのは凄い努力をしたと思う。だから無敵と思っているエネルの慢心が、私たちが勝つために唯一の隙になるんだ。

 

「ウタウタ弓矢(アロー) セット」

 

 私は赤い五線譜を指でいじって、弓矢を形作る。

 

「ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)!」

 

「だが! 俺には1つ1つの拳が見えるぞ!」

 

 ルフィの無数にも見えるパンチ、その場でエネルは次々と手で受け止めているけど、私を信じてるから、ルフィはその大技を選んでいるんだ。

 

「せーのっ! シュート!」

 

「ふっ、こけおどしなど……っ!?」

 

 まだエネルには分かっていないから、今回も矢尻に込めたのは休符の記号。

 これで一瞬だけどエネルは動きを止めた。その一瞬を見逃さないで、ルフィはニヤリと笑う。

 

「おのれぇぇ!」

「うおおお! 銃乱打(ガトリング)!!」

 

 ルフィは一歩大きく踏み出してから、そのパンチの連打をエネルに浴びせ始める。もう休符の効果は切れているだろうけど、ルフィの連撃はエネルを逃がさない。

 

銃弾(ブレット)! バズーカァ!!」

 

 鋭いパンチ、さらに両手の張り手、ルフィの追撃は緩まない。

 

「ぶべぇぇ!?」

 

 ゴロンゴロンと、甲板をエネルの身体が転がっていく。

 

 追いかけて走り始めたルフィが伸ばした腕は、ぐるんぐるんとねじられていく。

 

「ま、待て! やめろぉ~~!」

 

 まだエネルは体勢を整えられていなくて、覇気で次に来る技が分かっていても、まださっきのダメージが残っている。咄嗟に雷になるのも、ゴムの身体で攻撃を受けると、もしかするとできないのかもね。

 

「ウタウタの行進曲(マーチ)♪」

 

 音符は、ルフィの腕で溶けるようにその威力を強化して。

 

「ゴムゴムの回転弾(ライフル)!!!」

 

「グフッ……」

 

 突き出された強力なパンチが、エネルの身体を回転させながら大きく吹き飛ばした。

 

「ハァハァ……ありがとな、ウタ!」

「うん! どういたしまして!」

「うそ!? 倒したの!?」

 

 今の私でもルフィの役に立ててうれしいな。

 

 でも。

 

 エネルが倒れても、方舟は動いたままで、黒い雲はどんどん空島を覆っている。たぶん、コニスたちが住んでいる雲の島にも雷が降り注ぎ始めていると思う。この大地はともかく、雲でできた島がどれだけ耐えきれるか分からないし。

 

 それに。

 

「バカめ……これしきのこと……」

 

 エネルはまだ意識を失わない。

 決して能力だけじゃなくて、やっぱり強い。

 

「認めよう。お前は俺の天敵だ。お前さえ、いなければ、俺の天下なんだ……」

 

 一人称が崩れながら、今はルフィを見上げて、ゆっくりと立ち上がってくる。

 

「だが俺は神で……いや、我は全能なる神である!!」

 

 その時、空気が冷たく感じた。

 

「人は怯え、崇め、奉る! この空は我の世界だ!!」

 

「な、なんなのこれ……」

「こんなに……」

 

 殺気で押し付けられるような感覚を初めて受けたけど、こんなに怖く感じるんだ。なんだか寒く感じて、一度も負けたことも思い出して、身体がガタガタと震え始めた。

 

 いや、でもがんばらないと。

 私はギュッと身体を縮めて、がんばって立つ。

 

 だって。

 

「神が、ただの人に負けるなどあってはならんことだ」

 

俺は、未来の海賊王だ!!

 

 殺気に、震える空気がぶつかった。

 ポカポカしていて包み込んでくれるような。

 

 私は、一旦脱いだ彼らの麦わら帽子をギュって抱える。

 早くシャンクスに会って教えたいな、私の大好きなルフィがもっともっとカッコよくなっていくって。

 

「それは海の神か? 一体、何を成す?」

 

「俺とウタで新時代をつくる! 世界中を冒険して、いろんな場所に行って、いろんなやつと出会って、いろんな食べ物を食べる! それで海賊王になって……」

 

 うん、そうだよね。

 そして、その果てに。

 

「夢の果てに!! 俺たちは ―――― 」

 

 ゴロゴロと音を立てて、特大の雷がドーンと大地へ落ちる。

 

「ヤハハハ!! そうか!!!」

 

 そして、エネルは不敵に嗤う。

 雷に混じる音を聴きとったんだ。

 

「貴様の考え方は我と相反するようだ。それに、人の分際で神になるなど、気に入らんな」

 

「お前が考える神になんてなりたくねぇよ。ずっと椅子に座ってて暇そうだ」

 

 確かにね。

 じっとしているなんてルフィらしくないや。

 

「神を愚弄するか」

「そっちこそ、海賊をなめるなよ?」

 

 明確に喧嘩を売られたことで、エネルはゴロゴロと音を立てながら雷を纏っていく。

 

「我は夢の果てに、絶対的な神として君臨してやる! だから天敵となる貴様は邪魔だ、ゴムの男!」

 

「ああ。来いよ、雷野郎! お前みたいに皆を傷つけるやつは、この空島に、邪魔だ!」

 

 ずっと眠たそうだったエネルの目が、真剣に変わっていて、彼の纏う青白い雷はどんどん勢いを増していく。

 

 対抗するように、ルフィはドンと両足で甲板へ体重をかける。

 

 

 

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