ピリピリと、空気が重くなって伝わってくる感じ。
ルフィとエネルはお互いに構えをとっていて、私とナミはごくりと息をのむ。そのたくましい背中の彼は、火傷の痛みをこらえるように、拳をギュッと握りこんだ。
思わず、私は古びた麦わら帽子を深く被り直す。
「お前たちに見せてやろう。これが! 神の本気だ!」
バチバチバチッ と鳴り響く雷が、エネルの身体へ収束していく。途方もないエネルギーはまるで、目が焼けるくらいにまぶしい。
殻を破るように光と熱が溢れていって、そしてエネルの身体は雷そのものに、どんどん巨大になっていく。
「MAX2億V……
そして、羽衣を纏う、まるで神様のような姿を見せた。
私たちが空を見上げるくらい。
大きすぎる...
今エネルは、2億ボルトの雷そのものを纏っていると思う。もしルフィ以外が挑んだら、その身体に触れた時点で死ぬと思う。
太陽を覆い隠す雷雲は心なしか、さっきより雷が酷くなってる気がする。
「こんなの! 自然現象を超えているわよ!?」
「ルフィ...がんばって...」
見聞色の覇気が使えない状態でも、その強さはハッキリと伝わってくる。自然系の人には何度か会ってきたけど、ここまで大きな変化をするのを見るのは初めてだ。
エネルの能力、私の何倍も磨かれてると思う。
どうか、ルフィが勝てますように。
そう祈るしかないよね。
「なら、こっちも面白いもの見せてやるよ」
エネルから目を離さず、ルフィは自分の腕を、顔の前に動かした。
「ギア
そう呟いて、指の骨を噛んだ。
「今、サードって...?」
「うん! 進むの! 次のステージへ!」
ナミたちが知っているギア2とはまた違った、ルフィが考えてきた進化の1つだよ。
ルフィは指の骨へ思い切ってブゥーーーって息を吹き込むことで、風船のように腕がどんどん大きく膨らむ。
そして、左腕から一度身体を通して、空気は右腕に集約されていった。
確かギア3は、まだルフィの肺活量では難しいはずだったけど、何度もギア2を使ってきたことと、この空島の環境が、ルフィの肺を強くしたんだ。
「骨風船!!」
ルフィはまるで巨人族のような、巨大な腕を構えた。骨が膨らんでいるから、ただ風船のように弾力があるわけじゃない。
いっぱいいっぱいに空気を骨に包んだ、大きくて硬い腕だ。
「な、なんなのよ、こいつら~~!?」
「やっちゃえ! ルフィ~~!」
今の私にできること、せめてルフィを応援しないと。
「それがお前の秘技か? ヤハハ、滑稽だな! 部分的に我へ追いついたとでも?」
「ああ! 俺の技はもう一段階進化した!」
走り出したルフィは、巨大な腕を一度引いてから、そして一気に戻す。それは見慣れた技だけど、まさしく原点で、しかもパワーを重視して進化している。
ゴムの反発を活かした技。
「ゴムゴムの
弾性力を活かした巨人のようなパンチは、ぐんぐんとエネルとの距離を縮めていく。
エネルは目を見開いていて、たぶん避けられるスピードじゃないと判断したと思う。だから、巨大な雷の腕を金の装飾へ伸ばして、溶かして纏っていく。
真っ向から、ルフィを迎え撃つつもりなんだ。
「
突き出されるルフィのパンチに対して、エネルの腕が金に包まれたパンチだ、ヤバい。
巨大な拳同士がぶつかった瞬間、ゴロゴロと音を立てるけど。
押されているのは。
「ヤハハハハハ! 所詮は
「く、くそぉ~……」
エネルは雷神の巨大な足を踏み込んで、宙に浮いたままのルフィは押し込まれていく。それに、ルフィの拳が焼けるように蒸気を出していて、金に込められた電熱も凄まじいと思う。
「このまま我にひれ伏せ、ゴムの男!」
「負けてたまるかぁ!」
力と力のぶつかり合いの余波で、私やナミは吹き飛ばされそうだ。肌を焼くような熱がここまで伝わってきて、ルフィはもっともっと、きついと思う。
私もなにか、何かしないと。
でも雷の身体にどうやって。
見よう見まねのギア2は結局のところ失敗作だし、私はあんな風に巨大になるギア3はできないし、それに、ムジカちゃんがいても勝てなかった……
シャンクスなら、雷だって斬れるのかな。このまま私はお父さんのように強くなれないのかな。いつかルフィに置いていかれて..
「ウタ! お前が必要だ!!」
トクン と胸が高鳴る。
ルフィが必要としてくれるんだ。
「ありがとう、ルフィ」
私は麦わらの一味の副船長で、音楽家なんだ。そして、夢の果てのその先でも、私はずっと貴方の隣に立っていたい。
それが、永遠の夢。
だったら、私も次のステージに行かないと。
「ウタは最強♪」
4つの
私1人じゃ勝てないのは確かで、だったらルフィのサポートをする。ウタって応援して、ウタで状況を変えて、ウタで勝たせるから。
「追い風よ、加護となれ」
風はルフィの背中を押して真っすぐ進ませる。押し負けそうだった勢いはこれで少し返すことができそう。
でもエネルは、空いている腕を動かそうとしているから。
「大地よ、守護せよ」
土でできた巨大な腕がエネルの片腕を抑え込む。
「っ!?
「ししし さすがウタだな!」
これでルフィをサポートして、エネルの追撃を止めることができた。でもなんとか拮抗に持っていっただけで、ルフィの負担は大きいままだから。
「
水を浴びせて金の温度を一気に奪う。
そしてルフィの腕を包み込んでおいて。
「爆炎よ、燃え上がれ」
「ちぃ! こんな小細工で!」
たとえ雷の身体に効かなくても、炎は本能的に回避しようとしたことで、覇気の意識を逸らせた。
あとは……
最後の一手のために、力を貸して。
「お願い、ムジカちゃん!!」
「なっ!? そいつは破壊したはず!」
空の亀裂から伸ばしてくれた鍵盤の腕が、ルフィの足元を支えてくれる。
私が眠っている間にウタワールドで回復してくれたみたいだけど、まだ傷は残っていて、無理をさせちゃっているけど。
「ウタは覚えている限り、永遠だから!」
エネルが動揺したことでその攻撃の勢いは弱まった。それを見逃ないルフィは一度、巨大な腕を引いて伸ばしながら構えた。
「やるぞ、ウタ!」
「うん、ルフィ!」
「まずい! 避けねば!!」
覇気でもう分かっているだろうけど、私が未来を選択させるんだ。たとえ、雷そのものであっても、イメージする。
手の届く範囲なら、私がなんでも叶えてみせる。
「エンゼルフォール!」
重力で押しとどめさせたエネルの身体は、バチバチと放電を始めていて、抵抗して動こうとしているけど。
「避けねば、避けねばやられる!!」
その前に彼が届かせてくれるから。
「や、やめろぉ~~!!!」
「武装! ゴムゴムの
覇気を込めたパンチが。
ドーーーンってぶっ飛ばす。
雷の巨人は、金の装飾を背中にして押し付けられる。
その装飾をへこませるくらいの衝撃の後、人間の姿へ戻っていくエネルは、白目を見せて、前へバタリと倒れていった。
これで、ようやく、かな。
「よっし!」
「やったね!」
私たちはハイタッチしようとして、いや、ねぇルフィ、その腕、大きすぎるよ。
「あ……… びゅーー!?」
「ルフィが飛んでっちゃう!?」
腕の骨に込めた空気がルフィの口から勢いよく出ていくから、風船みたいに飛んでいくルフィを慌ててキャッチする。
思ったよりとても軽かった。
ギア2にも反動があったけど、これは。
「かわいい~~♪」
「ふにゃ~~」
ルフィの子どもの頃よりずっと小さいし、なんなら赤ちゃんって思えるくらいの大きさなんだよ。
私が持っていたどんなぬいぐるみより可愛くて、しかもポカポカしていて、お手々も小さくて、愛嬌のあるかわいい顔で。
小さなルフィを、胸にギュゥゥって押し付けちゃう。
「あぁ~ しあわせ~~」
「ウタぁ、なんか恥ずかしいぞ」
声もいつもよりも高いや。
「よくがんばりました、よしよし♪」
「お、おう...」
照れてる幼い顔が、もっともっとかわいい。
未来がすごく楽しみ。
子どもができたらこんな風に幸せなのかな。
「はいはい。あんたらイチャイチャしてないで、さっさと降りるわよ」
あっ、ナミの言う通りだ。
この雷雲が止まる気配がない以上、みんなが心配だし。
「これ、どうやって止めるんだ?」
「ムジカちゃんに食べさせよっか?」
「あいつを倒したのに能力は解け、ない……?」
その音に私たちは、凍りつく。
バチッ、バチッ、とボロボロのエネルが少しずつ雷を出していたんだ。たぶん、雷が身体をほぐすようにしていて。
「ウソでしょ...」
「そんな...」
「...」
あれでも、まだエネルは倒せていなかったなんて。