麦わらのウタ   作:ヒラメもち

72 / 103
第64話 エネル④

 

 ピリピリと、空気が重くなって伝わってくる感じ。

 

 ルフィとエネルはお互いに構えをとっていて、私とナミはごくりと息をのむ。そのたくましい背中の彼は、火傷の痛みをこらえるように、拳をギュッと握りこんだ。

 

 思わず、私は古びた麦わら帽子を深く被り直す。

 

「お前たちに見せてやろう。これが! 神の本気だ!」

 

 バチバチバチッ と鳴り響く雷が、エネルの身体へ収束していく。途方もないエネルギーはまるで、目が焼けるくらいにまぶしい。

 

 殻を破るように光と熱が溢れていって、そしてエネルの身体は雷そのものに、どんどん巨大になっていく。

 

MAX2億V…… 雷神(アマル)!!

 

 そして、羽衣を纏う、まるで神様のような姿を見せた。

 

 私たちが空を見上げるくらい。

 大きすぎる...

 

 今エネルは、2億ボルトの雷そのものを纏っていると思う。もしルフィ以外が挑んだら、その身体に触れた時点で死ぬと思う。

 太陽を覆い隠す雷雲は心なしか、さっきより雷が酷くなってる気がする。

 

「こんなの! 自然現象を超えているわよ!?」

「ルフィ...がんばって...」

 

 見聞色の覇気が使えない状態でも、その強さはハッキリと伝わってくる。自然系の人には何度か会ってきたけど、ここまで大きな変化をするのを見るのは初めてだ。

 エネルの能力、私の何倍も磨かれてると思う。

 

 どうか、ルフィが勝てますように。 

 そう祈るしかないよね。

 

「なら、こっちも面白いもの見せてやるよ」

 

 エネルから目を離さず、ルフィは自分の腕を、顔の前に動かした。

 

ギア(サード)……

 

 そう呟いて、指の骨を噛んだ。

 

「今、サードって...?」

「うん! 進むの! 次のステージへ!」

 

 ナミたちが知っているギア2とはまた違った、ルフィが考えてきた進化の1つだよ。

 

 ルフィは指の骨へ思い切ってブゥーーーって息を吹き込むことで、風船のように腕がどんどん大きく膨らむ。

 そして、左腕から一度身体を通して、空気は右腕に集約されていった。

 

 確かギア3は、まだルフィの肺活量では難しいはずだったけど、何度もギア2を使ってきたことと、この空島の環境が、ルフィの肺を強くしたんだ。

 

骨風船!!

 

 ルフィはまるで巨人族のような、巨大な腕を構えた。骨が膨らんでいるから、ただ風船のように弾力があるわけじゃない。

 いっぱいいっぱいに空気を骨に包んだ、大きくて硬い腕だ。

 

「な、なんなのよ、こいつら~~!?」

「やっちゃえ! ルフィ~~!」

 

 今の私にできること、せめてルフィを応援しないと。

 

「それがお前の秘技か? ヤハハ、滑稽だな! 部分的に我へ追いついたとでも?」

「ああ! 俺の技はもう一段階進化した!」

 

 走り出したルフィは、巨大な腕を一度引いてから、そして一気に戻す。それは見慣れた技だけど、まさしく原点で、しかもパワーを重視して進化している。

 

 ゴムの反発を活かした技。

 

ゴムゴムの巨人の銃(ギガントピストル)!!

 

 弾性力を活かした巨人のようなパンチは、ぐんぐんとエネルとの距離を縮めていく。

 

 エネルは目を見開いていて、たぶん避けられるスピードじゃないと判断したと思う。だから、巨大な雷の腕を金の装飾へ伸ばして、溶かして纏っていく。

 

 真っ向から、ルフィを迎え撃つつもりなんだ。

 

雷冶金(クロームバドリング)雷神の裁き(アマル・トール)!!

 

 突き出されるルフィのパンチに対して、エネルの腕が金に包まれたパンチだ、ヤバい。

 

 巨大な拳同士がぶつかった瞬間、ゴロゴロと音を立てるけど。

 

 押されているのは。

 

「ヤハハハハハ! 所詮は超人系(パラミシア)だな! どれだけ小細工を練ろうと、最強種自然系(ロギア)の能力の規模には勝てん!」

 

「く、くそぉ~……」

 

 エネルは雷神の巨大な足を踏み込んで、宙に浮いたままのルフィは押し込まれていく。それに、ルフィの拳が焼けるように蒸気を出していて、金に込められた電熱も凄まじいと思う。

 

「このまま我にひれ伏せ、ゴムの男!」

 

「負けてたまるかぁ!」

 

 力と力のぶつかり合いの余波で、私やナミは吹き飛ばされそうだ。肌を焼くような熱がここまで伝わってきて、ルフィはもっともっと、きついと思う。

 

 私もなにか、何かしないと。

 でも雷の身体にどうやって。

 

 見よう見まねのギア2は結局のところ失敗作だし、私はあんな風に巨大になるギア3はできないし、それに、ムジカちゃんがいても勝てなかった……

 

 シャンクスなら、雷だって斬れるのかな。このまま私はお父さんのように強くなれないのかな。いつかルフィに置いていかれて..

 

「ウタ! お前が必要だ!!」

 

 トクン と胸が高鳴る。

 ルフィが必要としてくれるんだ。

 

「ありがとう、ルフィ」

 

 私は麦わらの一味の副船長で、音楽家なんだ。そして、夢の果てのその先でも、私はずっと貴方の隣に立っていたい。

 

 それが、永遠の夢。

 

 だったら、私も次のステージに行かないと。

 

ウタは最強♪

 

 4つの(ウタ)を、周りに浮かべた。

 

 私1人じゃ勝てないのは確かで、だったらルフィのサポートをする。ウタって応援して、ウタで状況を変えて、ウタで勝たせるから。

 

「追い風よ、加護となれ」

 

 風はルフィの背中を押して真っすぐ進ませる。押し負けそうだった勢いはこれで少し返すことができそう。

 

 でもエネルは、空いている腕を動かそうとしているから。

 

「大地よ、守護せよ」

 

 土でできた巨大な腕がエネルの片腕を抑え込む。

 

「っ!? 大地(ヴァース)を生み出すか!?」

「ししし さすがウタだな!」

 

 これでルフィをサポートして、エネルの追撃を止めることができた。でもなんとか拮抗に持っていっただけで、ルフィの負担は大きいままだから。

 

氷水(ひすい)よ、癒せ」

 

 水を浴びせて金の温度を一気に奪う。

 そしてルフィの腕を包み込んでおいて。

 

「爆炎よ、燃え上がれ」

 

「ちぃ! こんな小細工で!」

 

 たとえ雷の身体に効かなくても、炎は本能的に回避しようとしたことで、覇気の意識を逸らせた。

 

 あとは……

 最後の一手のために、力を貸して。

 

「お願い、ムジカちゃん!!」

 

「なっ!? そいつは破壊したはず!」

 

 空の亀裂から伸ばしてくれた鍵盤の腕が、ルフィの足元を支えてくれる。

 

 私が眠っている間にウタワールドで回復してくれたみたいだけど、まだ傷は残っていて、無理をさせちゃっているけど。

 

「ウタは覚えている限り、永遠だから!」

 

 エネルが動揺したことでその攻撃の勢いは弱まった。それを見逃ないルフィは一度、巨大な腕を引いて伸ばしながら構えた。

 

「やるぞ、ウタ!」

「うん、ルフィ!」

 

「まずい! 避けねば!!」

 

 覇気でもう分かっているだろうけど、私が未来を選択させるんだ。たとえ、雷そのものであっても、イメージする。

 手の届く範囲なら、私がなんでも叶えてみせる。

 

エンゼルフォール!」

 

 重力で押しとどめさせたエネルの身体は、バチバチと放電を始めていて、抵抗して動こうとしているけど。

 

「避けねば、避けねばやられる!!」

 

 その前に彼が届かせてくれるから。

 

「や、やめろぉ~~!!!」

 

武装! ゴムゴムの巨人の銃(ギガントピストル)!!」

 

 覇気を込めたパンチが。

 ドーーーンってぶっ飛ばす。

 

 雷の巨人は、金の装飾を背中にして押し付けられる。

 

 その装飾をへこませるくらいの衝撃の後、人間の姿へ戻っていくエネルは、白目を見せて、前へバタリと倒れていった。

 

 これで、ようやく、かな。

 

「よっし!」

「やったね!」

 

 私たちはハイタッチしようとして、いや、ねぇルフィ、その腕、大きすぎるよ。

 

「あ……… びゅーー!?」

「ルフィが飛んでっちゃう!?」

 

 腕の骨に込めた空気がルフィの口から勢いよく出ていくから、風船みたいに飛んでいくルフィを慌ててキャッチする。

 

 思ったよりとても軽かった。

 

 ギア2にも反動があったけど、これは。

 

「かわいい~~♪」

「ふにゃ~~」

 

 ルフィの子どもの頃よりずっと小さいし、なんなら赤ちゃんって思えるくらいの大きさなんだよ。

 

 私が持っていたどんなぬいぐるみより可愛くて、しかもポカポカしていて、お手々も小さくて、愛嬌のあるかわいい顔で。

 

 小さなルフィを、胸にギュゥゥって押し付けちゃう。

 

「あぁ~ しあわせ~~」

「ウタぁ、なんか恥ずかしいぞ」

 

 声もいつもよりも高いや。

 

「よくがんばりました、よしよし♪」

「お、おう...」

 

 照れてる幼い顔が、もっともっとかわいい。

 

 未来がすごく楽しみ。

 子どもができたらこんな風に幸せなのかな。

 

「はいはい。あんたらイチャイチャしてないで、さっさと降りるわよ」

 

 あっ、ナミの言う通りだ。

 

 この雷雲が止まる気配がない以上、みんなが心配だし。

 

「これ、どうやって止めるんだ?」

「ムジカちゃんに食べさせよっか?」

 

「あいつを倒したのに能力は解け、ない……?」

 

 その音に私たちは、凍りつく。

 

 バチッ、バチッ、とボロボロのエネルが少しずつ雷を出していたんだ。たぶん、雷が身体をほぐすようにしていて。

 

「ウソでしょ...」

「そんな...」

「...」

 

 あれでも、まだエネルは倒せていなかったなんて。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。