麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第65話 エネル⑤

 

 立ち上がったエネルは、いまだ甲板を見つめたままで。

 

「俺が負ける、など……」

 

 まずい、雷になって消えた。

 早く音を聴きとって…

 

「うし、ろ……?」

 

 呆然と私は見上げることしかできなくて、腕の中のルフィを掴み取られる。

 

「や、やめてよ!」

「な、なにするんだ!」

「こうするのだ。雷冶金(クロームバドリング)!」

 

 元の大きさに戻っていくルフィの腕を、溶けた金が包み込んでいく。どんどん大きく、それは球状になっていく。

 

「くそっ! 何しやがる!」

「ねぇ、やめてっ!?」

 

「貴様が俺に勝てるはずがないのだ。ゴムだかなんだか知らんが、神たる我が負けるはずはないだろう」

 

 ルフィは腕に金色の重りをつけられた状態で、甲板に転がされちゃう。私たちの背丈より大きい重りは、たとえルフィでも立ち上がることが難しそうで、なんて酷いことをするの。

 

「お前、俺と戦え! 何度でもぶっ飛ばしてやるから!」

「フン、ウタの女がいなければ、指1本触れることもできまい。それに、誰がこの舟に乗ることを許した?」

 

 ガンッと蹴られてしまって、ルフィはゴロゴロと転がっていくボールに引っ張られていく。

 どうしよう、このままだと舟から落ちちゃう。

 

「ムジカちゃん、止めて!」

 

「させん! 雷の裁き(エル・トール)!」

「おい! これ溶かして! 俺と戦え!」

 

 伸ばした鍵盤の腕は、雷で焼き飛ばされて、私の身体が急に重くなる。私へ直接的なダメージはないけど、身体を回復しようと体力を吸ってくる。やっぱり、制御しきれてないんだ。

 

 金を溶かす程の熱量を、どうにか出したいのに。

 

「ヤハハ、貴様さえ封じてしまえば、我の天下だ。我に勝てるものなど、この世にいなくなる。我こそが唯一の神なり」

 

「何言ってる! 下の海にはもっと怪物みてぇなやつがうじゃうじゃいるぞ! お前なんかシャンクスの足元にも及ばねぇ!」

 

 金の重りを壊そうと拳を叩き続けるルフィの表情を見ていると、私はますます焦ってしまう。何か、なんとかしないと。

 

「口の減らん小僧だ。青海へ堕ちろ、空島と共に!!」

 

 雷の腕が、舟の一部を破壊して。

 

「ルフィ!!」

「いやあああああ!?」

 

「エネルーー!!!」

 

 どんどん地面へ向かって遠ざかっていくルフィに、私は手を伸ばすこともできなかった。

 

 エネルの高笑いが、耳に刺さる。

 

「ヤハハハ! あの金を溶かすことのできるのは、俺か、ウタの女くらいだろう。もうここまで這いあがってこれん!」

 

 追いかけて飛びこもうとしたら、私の腕が何かに止められる。力強く引っ張っても、ビクともしないけど、思考が真っ白になっている私は進む。

 

 まだ、今ならルフィは、海に沈んでいないから。

 

「早まるなよウタの女、お前たちの命は俺が握っていることを忘れるな」

 

 そんなかき消したい声を無視して、私を掴んでいたのはナミで、その瞳はまっすぐ私を見つめてくる。

 

「ルフィは何度でも助けにくるわ。だから信じて」

 

 ねぇルフィ、どうしたらいいの。

 溢れる涙が止まらないよ。

 

 助られてばかりで、私はルフィをまた助けられなかった。

 

「だから言っているだろう。あいつはもう来ない」

 

「来るわよ。ウタを助けるためなら、どこでも! 何度も!」

 

 ゴロゴロとエネルの指で雷が音を立てる。あんな雷、あんなの私たちじゃ防げない。私たちを脅すつもりなのかな。ギュッと私は抱きしめられて、ナミは私の前に立った。

 

 ダメだ、ナミじゃ勝てない。

 

「神を否定するか、小娘?」

 

電気泡(サンダーボール)!」

 

 突き進んできた雷の攻撃を、ナミはフワフワとした泡で逸らした。

 

「ヤハハハ、雷の通り道を作り出すか。よほど気象に詳しいようだな」

 

 たぶん的確な角度で泡を作っただろうし、私じゃ真似できないや。でも、防いだはずのナミは冷や汗をかいていて、逸らした雷が抉った甲板を見つめている。

 

「しかし、規模を変えれば、そんな小細工は何の役にも……」

 

 その時エネルの顔へ、ドガンという音で火薬が破裂した。

 

「か、火薬星……ごめんなさい」

「ウソップ!?」

 

「……覇気が(にぶ)っていたせいもあるが、虫が1匹入り込んでいたようだ」

 

 包帯まみれのウソップが一瞬顔を見せたと思ったら、スタスタと物陰へ隠れた。

 

「すまん、助けてくれ」

「あんた何しにきたのよ!?」

 

 助けに来てくれたのは、ウソップだけじゃない。革靴が甲板を叩く音がするけど、確かにナミが(さら)われて、あなたはじっとしてないよね。

 

「そりゃお前、助っ人を連れてきたんだよ!」

 

 どうだ、と言わんばかりにウソップは叫んだ。

 

「お迎えに上がりましたよ、(プリンセス)たち」

「サンジ君!! と、ゾロ!?」

 

 サンジも包帯まみれ、それに、エネルに勝てる方法があるのか分からないけど。

 ナミがとっても嬉しそうだね。

 

 てか、腕で荷物のように抱えられたゾロはもっとボロボロなんだけど。

 

「どうしてここまで来れたの?」

「えっと、ゾロは無事?」

「あのペガサスに運んでもらったのさ。アイサって子が俺たちを探してくれてな。ルフィに頼まれたんだってよ!」

「ロビンちゃんとチョッパーで、他の重傷者共は退避させているが、こいつは必要だろう?」

 

 そっか、ルフィたちのおかげで、3人はここまで助けに来てくれたんだ。

 

「今更、ゴミ共で何ができる?」

 

 そうエネルは言うけど。

 大切な仲間をそう呼んでほしくないね。

 

「起きろマリモ、休憩は終わりだ」

「……ああ。ちょっと雷を斬りに来た」

 

 その傷だらけの身体でも、獰猛な瞳がギラギラと輝いている。しっかりと立ち上がったゾロは、手拭いを頭にシュッと巻いてから、白い刀を1本抜いた。

 

「……みんな、ありがとう。ここまでついてきてくれて」

 

「「「「今更。」」」」

 

 思い返しても、東の海から出てここまであっという間だったよね。まだまだ夢を叶えている途中だけど、ルフィの船に乗ってくれてありがとう。

 

 ルフィがいたから、私は寂しくなんてない。こんなにたくさんの出会いをできて、一緒に船旅を楽しむ大切な仲間がいる。

 

 私は、彼らの麦わら帽子を両手でキュッと被り直す。船長がお休みの時は、私が代わりに船長しないとね。

 

「気に入らん。6000万V……」

 

「太鼓を叩かせないで!」

「ああ、了解!」

 

 サンジのキックが、金の錫杖を弾いた。

 

「ウタの女、ここに来て心綱(マントラ)を取り戻すか!」

「一刀流 三十六煩悩鳳!」

 

 まだ態勢を整えられていないサンジへ腕を伸ばしたエネルは、咄嗟にバチバチと音を立てて、ゾロの飛ぶ斬撃を回避する。

 

 飛ぶ斬撃はすごいし、ギリギリに撃つのとか、サンジが無理に避けずにじっとしているのとか、信頼があるからこそだよね。

 

「ウソップ、あいつにはゴムが効くよ!」

「え、ゴムなんて……いや、ある!」

熱気泡(ヒートボール)! そうよ! あんたのゴムでやっちゃいなさい!」

 

 下がってきたサンジの背中へ、温かそうな空気が託されて。

 

 私たちはどうにか隙を作らないといけない。幸いなのは、ルフィとの戦いのおかげで消耗していて、いろいろ分かったから、リズムを掴みさえすれば勝てなくもないよね。

 

 まずは、覇気の意識を逸らさないと。

 

「それがゴム、だと?」

 

「ああ。これが俺のゴムのピストルさ!」

 

 ウソップは輪ゴムを指鉄砲の形に伸ばして、そしてバチーンって飛んだ。

 その弾丸はいとも簡単にエネルの手へキャッチされちゃったけど。

 

「これがゴムだとでも? こんな物に、俺は?」

 

「そうよ。ゴムがあんたの天敵よ! 冷気泡(クールボール)!」

「ルフィにボコボコにされて、しかもまた戦うのから逃げて、エネルはさっきより弱くなってるよ!」

 

 さっきよりは気配もだいぶ弱っているし。

 

「小娘ども、死にたいようだな?」

 

 これで、ナミの技が完成した。

 あとは。

 

「ゴムゴムのムジカチョ~プ!」

 

 亀裂から伸ばした鍵盤の腕の素材をゴムにした、これなら有効のはず。

 

「ヤハハハ、考えたな。だが遅い」

 

 回避されちゃって、でもいくらエネルは雷になれて、覇気が使えるといっても、ルフィからのダメージは少なくないし、それに思考も1つ、人だからこそ必ず隙はできる。

 

 ガキンと、舟から鳴っちゃいけなそうな金属音が鳴った。

 

「なんだ様子がおかしい……、いや待て貴様、さっき何を蹴った!!」

 

「おっと悪いな。ムカつくお前を蹴れないからちょっとイライラしたんだ」

 

 吠えヅラかきやがれ、と姿を消していたサンジが現れた。

 

蜃気楼(ミラージュ)=テンポ、温度差は光の屈折異常を起こすの」

 

 私が届けた音符の火を使って、サンジはタバコに火をつけた。そしてナミは私のところまで一度下がってきて、その瞳に私は頷く。

 

「おのれ、よくもやってくれたな!」

 

 音符があちこちに漂い始める舟の、重要そうな歯車がずれたことで、舟のプロペラは減速していく。

 

「いかん、デスピアも止まり始めている!」

 

 慌てて、歯車を叩いて戻したエネルは隙だらけで。

 

「いくよナミ、ウタウタの!」

蜃気楼(ミラージュ)!」

 

 一時的にナミの思考を読み取って従うムジカちゃんによって、音符はそれぞれ冷気と熱気を持って、私たちの姿を隠す。

 

「ちぃ! もういい! MAX2億V 放電(ヴァーリー)!!」

 

 私たちのいた場所を中心に、最大火力の雷がドーンと落ちたけど。

 

「あ、あっぶな~」

「ひぃ~」

「ひゅー、とんでもねぇ火力だぜ」

 

「ウタウタ指揮者(コンダクター) セット」

 

 赤いレイピアを創って、私はエネルへ突っ込む。

 後ろでじっとしているのは性に合わないや。

 

1・2(いちにっ)!」

 

「ぐっ、この戦いで心綱(マントラ)が上達しているとでもいうのか!」

 

 エネルが動揺しているし、体力を消費しているのもあるけど、金の棒と斬り結ぶことができている。

 

 でもやっぱり、剣技だけだと決め手にかけるし、私はシャンクスたちのように純粋な剣士とはなれないんだろう。

 

 だから。

 

「っ!? あの男、ここまで気配を抑えていたのか!?」

 

 まるで刃を鞘に納めていたように、たとえ放電の余波を受けようと耐え忍んで、ゾロはこの一撃に賭けてくれた。力強く、ダンと甲板を叩いて、エネルとの距離を一気に詰めた。

 

「斬られるだと!? なぜ無敵の俺が、ただの刀に!?」

 

 私たちがお互いの強みを発揮して、リズムを重ねたから、届く一撃。

 

「「「「いけぇぇーー!!」」」」

武装 鬼斬り!!!

 

 覇気の一撃は、確かにエネルの身体へ3本の斬撃を与えたんだ。

 

 これで。

 

 やっと。

 

「俺は神だぞ……」

 

 ゆっくりと倒れていくエネルの身体は。

 深紅の血を流しながら。

 

 

 ゴロゴロと、音を立てて雷を纏った。

 

雷神(アマル)!!

 

 再び巨大な神のような姿になると、気配が一気に高まった。

 

 あいつ、傷を熱で塞いだんだ。

 

「ウソ、だろ……」

「ハァハァ……俺の覇気がもっと強ければ」

「クソ、もう1発当てるのはキツいかもな」

「でもルフィとの連戦なのよ!?」

「まさか、全く本気じゃなかった!?」

 

 それに、私たちが優勢に思えて、あいつへ有効打を与えるまで全くダメージはなかった。

 だから、ルフィとの戦いの消耗を、少しは回復させたんだ。だって、ルフィの時と違って、エネルは本気を出す必要もないから。

 

「ヤハハハ、遊びは終わりだ、ゴミ共」

 

 すでに死力を尽くした私たちにとって、ただ見上げるしかない雷の塊は絶望を感じさせた

 

 

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