第69話 コバト
タコバルーンのおかげで、ゆっくりと空から落ちていたメリー号だけど。
だんだんとタコさんが縮んでいった。
そうなると。
ヒュ~ンって
ドッパァーン!!
メリー号が心配になるくらいの大きな衝撃で、私たちは一度大きく空中へ飛び跳ねてから、甲板に海水と一緒に叩きつけられた。
「へにゃ~」
「ふにゃ~」
「うぇ~」
「……ここは?」
雨のように降り注ぐ海水が、私たち能力者にとって弱点だし。
髪が崩れるくらいずぶ濡れじゃん。
「青海に着いた! お前ありがとな!」
「私たちの恩人、いや恩タコだね!」
ルフィの身体に落ちてきたタコさんは、バルーン状態から戻って、もうただのタコさんだった。ルフィはそんなタコを頭に乗せて、キョロキョロと周りを見る。
「あれは照明……?」
「まるで基地みたいだな」
「おいおい、海軍じゃねぇだろうな?」
「サイレンの音だが、見つかったか?」
ナミ、サンジ、ウソップ、ゾロは先に立ち上がって周りを観察してくれているけど、なんだか穏やかじゃなさそうだね。そうなると、真夜中に海へ落ちてきたというのはまだ運がよかったのかも。
「まずい、何隻か船がこっちへ来てる」
「周りすべてが岩場ね。大砲の数も多いわ」
「暗くて出口がどっちか分かりゃしないな」
「ちっ、船で逃げるにはこっちが不利か」
「どどどどうするんだよ~!」
「また船底から水が入ってそうだ~!」
みんなそれぞれに焦っていて、ルフィは腕を組んで、うむむ~って考えているし。
「一旦、船から降りて、情報を集める?」
「よぉしお前ら、逃げるぞ~!」
人が多そうなところへ、ルフィは腕を伸ばしてロケットのようにビューンって飛んで行った。
「あの野郎! 1人で先に行くか!」
「自分が囮になるつもり、かな?」
「フフッ さすが幼馴染ね」
「あいつ意外と考えてやがるな」
確かに1番の賞金首ともなれば追われるだろうし、しかも逃げ回るの得意だからね。意外とルフィは核心をつくことが多いから、幼馴染ならなんとなく分かるもん。
「私も先に行くわね! 後は任せた!」
「あいつウェイバーで逃げやがったぞ!」
「あら、青海でも使えるのね」
「あぁ! ナミさんは俺が守るのに!」
「こんなの泳げばいいだろ」
ナミも森の方向へ海面の上を逃げていったし、ゾロも海へ飛び込んでいったし、ロビンも能力で森の方向へ行ったし、慌ててウソップもカチャカチャと自作のベルトを巻き始めたし。
「えぇ! 俺は泳げねぇぞ!?」
「じゃあチョッパーは一緒に行こっか♪」
私はチョッパーを抱え上げて、風の歌でフワリと空へ浮かんだ。
照明が海面を探し回っているおかげで、空中の私たちは見つかることもなさそうだね。たぶん海軍だろうけど、基地内にそれほど強い覇気の人はほとんどいなさそうだし、ルフィも戦っている様子はない。1人だけ強い覇気の人がいるけど、敵意はないのがむしろ不気味かも。
まあルフィのことだから、逃げてからは呑気に海軍の食堂でも探してそうかな。
「な、なあ? みんな無事かな?」
「大丈夫そうだよ。それよりも」
船で脱出するのが絶望的なくらい、周りが見上げる程の岩場で囲まれているのが問題だね。このままメリー号を置いて、軍艦とか奪って逃亡なんて、誰も考えないだろうし。
となると、メリー号を取り戻すことと、脱出方法を調べないといけないね。ナミやロビン、サンジなら思いつくだろうし、別々に行動するしかなさそうかな。
「ウタ、どうする?」
「チョッパーのお仕事はあるよ? まずは食べ物を探してねっ!」
腹が減ってはなんとやら。
明るくなるまでこっそり野宿かな。
てなわけで、果物を見つけて朝ごはんも食べてから、基地内に忍び込むことにした。
私は耳が、チョッパーは鼻がいいし、潜入なんてお手のものだからね。途中見つけた更衣室で海軍の制服を借りてきた。全体的に真っ白で、青色のスカーフもかわいいから、1度はコスプレしてみたかったのもあるもん。
「てっぺきよーさい なーばろーん~♪」
目立つ赤髪のほうを結って、海兵の帽子の中に入れればお尋ね者ってバレないものだね。この海軍基地では女子の海兵は珍しいこともあって、どうしても視線は集めちゃうけど。
「てっぺきよーさい G8~♪」
今はチョッパーと麦わら帽子を入れた木箱を抱えて、ルンルンと歌いながら私は基地内を探検していた。まさか海賊が堂々と、海兵さんの真似してこの歌を歌っているとは思わないでしょ。
お、ナミがいるじゃん。
「おーい! ナミはお掃除当番?」
「ばっ! えっ、ウタ!?」
「俺もいるぞ」
「チョッパーまで!?」
ナミは帽子をクルっと回転して身に着けていて、そういうボーイッシュなのもいい感じなファッションだね。
それにモップとバケツを持っているから、潜入したのにしっかりお仕事するなんて、さすがはナミ。
「わかるよ。海軍の服もかわいいもんね」
「いや潜入目的だし、もう別の服がいいわ…」
私たちは手頃な部屋に入って情報交換するけど、ナミがゾロに会ったということとか、新しく軍艦が入ってきたことくらいだった。まあゾロは方向音痴で心配で、メリー号の脱出方法もあるってことが分かっただけでも大きいね。
そういえばと思って、トラブルメーカーのルフィの覇気を探ってみたら、サンジと一緒にいるみたいだから、珍しく大人しくしてるんだ。ロビンとウソップも一緒にいるし、ゾロ以外はいい感じの班別行動中だね。
「って、ナース服じゃない! こっちのほうがまだマシね」
「ほんとだ! かわいいな~!」
チョッパーが木箱から出て身体をリラックスさせているうちに、私たちはナース服へ着替える。たくさんあるし、2着お借りさせてもらうね。
本職の人にはかなわないし、コスプレでしかないけど、鏡を見れば我ながら似合っていると思う。桃色のロングスカートに、白色の清潔なエプロンがかわいい。
伸ばしている赤白髪を結んで背中側へ流せば、いつも以上に清楚に見えるかな。
「誰か来るかも」
「えぇ! ここ女子更衣室よ!?」
慌ててチョッパーが木箱へ隠れた後に、入ってきたのはナースたちだった。ここまで海軍の男子が入ってくるわけないから、警戒の必要は、チョッパーくらいだね。
「あなたたちも手伝って!」
「急患よ。全員招集がかかっているわ!」
「は、はい……」
「はーい!」
服を貸してもらった以上、私たちに何かお手伝いできることがあればいいけど。
入った病室は基地内でも雰囲気が違って、それでいて清潔感に溢れていた。次々と車輪付きベッドで、包帯まみれの海兵さんが運ばれてくるし、ナースさんたちは慌ただしく動いている。
「「「1,2、の 3」」」
私は男の海兵さんたちと協力して、怪我をした人をベッドへ移していくけど、意外と力仕事もあるんだね。
「お嬢ちゃん、かなり力持ちなんだね」
「いやほんと、新入りなのに助かるよ」
「いえー 私にできることでよかったら!」
「て、天使か……?」
私はニコッと笑顔で、海兵さんの包帯を巻き直す。
よくケガをするルフィのために、マキノに応急処置のやり方は教えてもらったけど、こんな風に役に立つことがあってよかった。ナミもテキパキ動いているし、するりするりと人を避けていくのはさすが元泥棒だよね。
ただ、本格的な手術ともなると、私やナミでもお手伝いができない。今いるお医者さんは若い女性1人だけで、どうやらそういうことは専門外みたいで、苦しむ人を治すことは私はできない。
「もう少しだから。がんばってね?」
「あ、あぁ……がんばるよ……」
歌で、少しだけ癒してあげることしか。
「お待たせしました。私がドクターです」
そんなとき、私やナミにとって聞き慣れた声が。
「ドクター チョッパー!」
「チョッパー、あんたまで!」
大きな状態に変化したチョッパーが、白衣を羽織って歩いてくる。その姿は確かに怪しいだろうけど、医者としての真剣なオーラを纏っているようで、私やナミ以外のナースたちも思わず指示を待ってしまう。
「まずこの患者には……」
普段から訓練されていることもあって、私やナミ以外は薬品の名前や処置の方法を聴いて、すぐに動き始める。
だから、私やナミもできる作業は代わりにしていく。
「あの、私ができないばかりに、すみません。普段出入りされているお医者様ではないですよね。どうしてそこまで?」
「……俺に医学を教えてくれた人がしてくれた話だけど」
『ある男が医者に死を宣告され、絶望して死に場所を見て彷徨ったけど、通りがかった山で満開の桜を見たんだ。その桜を希望にして、ある男は残りの人生を、悔いのないように生きることができた。』
「あの人たちはまだ助けられる命だ。あいつらにとっては医者が希望なんだよ」
だから、とチョッパーは白衣を翻した。
「今日だけは、俺があいつらのドクターになってやる。その間、この病室のことは頼んだよ」
「ドクター チョッパー! オペの準備ができました!」
「ドクター コバト、ご指示を!」
「はい! その患者には……」
私もナミもひと息つく暇もなさそうだね。
私たちもまた、できることを探し始めた。
でもこの気配、どうして医務室へ?
「失礼する。コバト先生、妙な噂を耳にして、お聞きしたいことが」
「出ていってください。今は処置中です」
私やナミはこっそり、カーテンの裏に隠れたけど。
「私の腕から流れる血を見て、気絶した先生が……?」
「医者は患者にとっての希望ですから。それはもう、過去の話です」
コバト先生へ皮肉を言った怖そうな海兵さんも、門前払いされたみたいだし、大丈夫そうだね。さすがに手術中のチョッパーの場所まで入室できないだろうし。
「……お前たち引き上げるぞ。お忙しいところ、申し訳ありませんでした」
さてと。
何か目的忘れている気がするけど、お仕事っと。