麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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 久しぶりのルフィ視点。


第70話 ジェシカ

 

 昨晩は海軍の食堂を探すべく、あちこちを駆け回った。

 

 ルフィにとって1日3食は当たり前、なんなら1日6食だって食べる。

 サンジが忙しいときや休んでいるときも、ウタに頼めば おにぎりやパンケーキを作ってくれるし、深夜になったら冷蔵庫を漁れば食べるものが出てくる。

 

 しかし、昨日は空から降りる前に食べた食事で最後だった。空腹の限界で思わず、寝てしまったのもあって、起きた心地は最悪の一言だ。必ずや、海軍の食堂に行って飯を食べなければならない。

 

 サンジに変装のために、いつぞやぶりのコック服とコック帽を上から羽織らされたが、そんなことよりも早く食べ放題だと思われる食堂に彼は急いだ。

 

 しかし、ひと悶着あって。

 

「なー サンジ~ 俺はいつ肉を食べれるんだ~?」

 

「ちょっと待ってろ。そこのバナナでも食ってな」

 

 ごちゃごちゃと難癖をつけられたし、出来立ての料理は海兵たちに持っていかれたし、朝食をお預けにされた気分だ。今だって、サンジは腕を組んで、海軍のコックたちの様子を見ているし。

 

「俺は肉が食べたいぞ、ウキ~」

「サル上がりだな、お前」

 

 自由に使っていいと言われた食材の中から、とりあえずルフィはバナナで空腹を紛らわせるしかない。サンジなら数分もあれば、肉や魚で美味い料理を作れるのに、丁寧に手入れをされた海軍基地の調理道具を並べて、ジッとしたままだ。

 

「いいコックたちなのに、もったいねぇ」

 

 サンジは目を細めている。

 

 料理の知識のないルフィでもその理由は分かった。いや、祖父の教育もあって幼少期からサバイバル経験のルフィだからこそ、サンジ同様に気づけたのだろう。

 

 肉も魚もまだまだ食べれる部分が残っているのに、10人の海軍コックたちはそれを廃棄用のカゴに積んでいる。

 

「ふ~ん」

 

 あとで食べようかなと思いつつ、ルフィはバナナを皮ごと、むしゃむしゃと食べる。どこかの島から調達されていて、農薬なども使っていないから、お腹を壊すことはないだろう。そもそもルフィがお腹を壊したことはないが。

 

「できた! 100人前!」

 

「すっげーな! もうできたのか!」

 

 確かに10人いたとはいえ、これだけ的確に100皿分を用意するのは、並みのコックたちではないだろう。

 まるでメニュー通りに、お手本のような美味しそうな料理がずらーっと並んでいて、メインとして魚か肉を選びながら、毎日食べたとしても美味しいとは感じるだろう。

 

「さあ、あんたはどうする?」

 

 彼女に比べればひよっこたちだが、その出来栄えに満足な表情をした女料理長は、サンジへ問いかける。海軍本部から派遣されたコックだと勘違いしていることもあって、挑発的な態度をとっていた。

 

「もったいねぇことしやがる」

 

 そう言いながらサンジは、どけ とまだ片づけられていない厨房へ、場所を移った。

 そして、まずは。

 

「なっ!? マグロの頭や骨を!」

「しかも速すぎて見えねぇ!」

「だがそれでできるのは賄い料理程度!」

 

 ゾロの刀捌きに匹敵するほど、サンジの両手の包丁は高速で動く。トントントンと素早くまな板を叩く心地いいリズムは、不思議と食欲をそそる。

 

 しかし、1人のコックが皮肉を言ったように、魚特有の生臭さはそう簡単に隠せるものではない。あら汁は確かに美味しいが、ステーキや魚のソテーと比べれば、その見た目も高級さも及ばない。

 

「これすり潰しておいてくれ」

「それくらいなら任せとけ!」

 

 バナナの分は元気になったルフィは、楽しそうにゴリゴリと木の棒で、葉物野菜をすり潰す。彼はコックたちと比べて決して器用な動きではないが、その怪力で一瞬でなめらかなソースのようになっていく。

 

「すり潰した魚と野菜を合わせて、油で揚げる」

 

 カラカラカラ と油が奏でる音に、空腹で食事を待つ海兵たちは、ごくりと息をのんだ。

 サンジ1人で2つのフライヤーを扱い、温度も見ないで的確な温度調節をしながら、サクサクの衣がついた揚げ団子が揚がっていく。

 

「肉の脂身はトロけるまで煮込み、魚のダシと合わせれば、極上のソースにもなる」

 

 目を離していた隙に いつの間に、と思うほどの段取りの良さだ。クルクルと回しながら両手の調理器具を変えるサンジは、まるで奇術師のように、たった1人でほとんどの調理を行っていく。

 

「そいつを広げてくれ」

「おうよ!」

 

 助手のルフィが、スパイスや塩が振られたボウルを受け取って、ジャガイモとごぼうの皮を新しいまな板にドッサリと広げる。

 そしてサンジは鍋の加熱時間を利用しながら、再び高速の包丁捌きでそれを細かく刻み始める。

 

「さっぱりとした和え物が付け合わせだ。ジャガイモの皮や、硬いゴボウの皮だって、これだけ刻めば、程よい触感の残った極上のサラダさ。栄養も満点だ」

 

 そこからサンジは仕上げに入る。

 

 たくさんの揚げ団子が宙を舞って、ルフィが並べた100枚のお皿へドッサリと飛んでいった。さらに、鍋を片手で持ち、サンジは華麗なダンスを踊るように、あらかじめ揚げた野菜を具材に入れたソースをかけていく。

 

「ブロッコリーの芯は、柔らかく香りのいいドレッシングになる」

 

 サラダをそれぞれのお皿に盛りつけながら、再びいつの間にか作られていたそのドレッシングをかけていく。見た目が茶色だった場所へ、パセリがアクセントとなったエメラルドが輝くようにデコレーションしており、さらにニンジンのナムルで飾り付けていく。

 

「もちろん色合いも大事だ。さあ召し上がれ、海兵ども」

 

 紳士的な礼をしたコックの料理を求めて、我慢の限界を迎えた海兵たちが次々とお皿をとっていく。

 

 普段食べているものと比べれば、美味い部位が使われているわけでもない。しかしそれ以上に、高級感のある見た目と、その独創的な料理が気になって仕方がない。

 

 いただきますをして、実際に食べてみても、食材の旨味を最大限に引き出している。生魚が比較的苦手な海兵だって、野菜のシャキシャキが苦手な海兵だって、どんどん食べていく。

 思わず、冷たい食パンをちぎってその温かいソースを掬う。そうすれば、作り置きされた食パンだって極上に感じる程だ。

 

 ソースを一滴も残さないほどに真っ白なお皿を海兵たちは次々と返却していった。

 そして、ごちそうさまでした、と。

 

「ここは戦場なんだろう? 料理は美味いに越したことはないが、食材が尽きるのが1番まずいことだ」

 

 海軍のコックたちは、すでに綺麗に片づけられた厨房を見て、思わず下を向いてしまった。

 

「どんな食材も理解して丸ごと愛を注ぐ。1人のレディー、そのすべてを愛するようにな」

 

 海軍のコックたちも普段から決して贅沢に食材を使っているわけでもない。ただ、美味しい料理を作ろうとしてしまうと、無自覚に食材の部位を選んだ。

 いまだコックとしての未熟さを、高級食材で補おうとしてしまったのだ。

 

「俺たち……」

「大事なことを見失ってた……」

 

 この静寂を破るように、むしゃむしゃと、残された100人前の料理を食べる者がいた。

 

「まっ、腹を空かせたやつに美味い飯を食わせる。その心意気は見事なものさ。お前らはこれからもっと伸びるさ」

 

「ふぅー 100人前! 美味かったぁ!」

 

「俺たちの料理を」

「こんなに食べてくれるのは初めてだ」

 

 代わり映えがしない料理、いつしかそう影で言われていた彼らにとって、ルフィの食べっぷりを見ていると、なんだか自信がついてくる。サンジがしたように、独創的な料理だって挑戦しようと思う気持ちが思わず湧いてくるほどの。

 

「ありがとな! ごちそうさま~」

 

 そもそもルフィの目的は食堂で腹ごしらえをすることで、早くウタたちと合流しなければならない。そう簡単に捕まる幼馴染ではないだろうが、2歳年上なのにちょっと抜けているところもあるし、しっかり者のルフィが守ってやらないと。

 

「またお会いしましょう、マドモアゼル」

 

 サンジは料理長へ向かってそう告げる。ちなみにそれは独身女性にかける言葉なのだが。

 

「……お待ち」

 

「なんだ? まだ食べていいのか?」

 

 さっき100人前の料理で昨日の分は補充できたから、今日のお昼ご飯を食べる予定もできそうだとルフィは期待する。

 美しい女性に呼び止められたことで、サンジは溶けたように頬を緩ませる。

 

「あんたら、いい心意気と、食べっぷりを見せてもらったよ。あんたらは今日から私たちの仲間さ」

 

「仲間? 友達ってことか?」

「は~い、ジェシカさ~ん」

 

 ルフィの疑問をかき消すように、サンジと海軍コックたちの歓声で厨房は盛り上がった。

 

 

 再び海軍の厨房でサンジは、彼らへの指導を含めて料理を続ける。1000人規模の海軍基地ということもあって、ひと息つく暇もなく厨房は慌ただしいが、いつも以上に活気に満ち溢れていた。

 

 しかし。

 

「ひま~」

 

 手がかりもないから、サンジが仕事を終えるか、ウタか誰かが食堂までやってくるのを、ルフィは待つことにしていた。100人分の動きで働くサンジのおかげで、テーブルで ぐでーっとなっていても叱られることはない。

 

 厨房で遊んだり、味見をしたり、さすがのルフィだって飽きるものは飽きる。意外と味見役が好評だったのは、ここの厨房のコックたちの人が向上心に燃えているからだろう。

 

 そんなとき。

 

「おいおい、聞いたか。白髪(しろかみ)の新入り女の子、すげぇ可愛いんだってさ」

 

「俺はナースにそういう娘がいたって聞いたぜ」

 

「どっちも気にはなるが、今日も急患が来たし、ナースを見にいくのはやめとけよ?」

 

 ルフィは耳を大きく傾けてその話を聞き、ししし と思わず笑ってしまった。

 

 確かにウタは自分と違って、基地に潜入が得意なわけがない。どこにいたって、歌姫だったりアイドルだったり、どうしても自然と人々の視線を集めてしまうからだ。

 

 まあともかく、医務室にいると分かれば、そこへ向かおうと立ち上がる。

 

「医者やナースが来れないようだね。あんたたち、軽食の準備をしな!」

 

「ナースたちに~? それは光栄です~!」

 

 そんな料理長とサンジの声を聞いて、引き返すようにルフィは厨房へ戻った。

 

「サンジ、けーしょくってのを作りてぇ」

「どうした? 腹でも減ったか?」

 

 サンジはルフィの唐突さにそう言ってみたものの、その真剣な表情は、ここにいるコックにも十分通じるものがあって。

 

「そのけーしょくってのを、俺も作りたいんだ」

 

 誰かに、美味しい飯を食べさせたい顔だ。

 

「なるほど。事情は知らないが、お前が自分から飯作ろうとする相手なんざ、1人しかいねぇよな。つくづく、幸せなレディーだぜ」

 

 笑顔を見せたサンジは、ドンッと己の船長の背中を叩いた。

 

「ナースたちにコース料理作るぞ!」

 

「おう! 100人前だーっ!」

 

「そんな食べないし、軽食だよ!?」

 

 ツッコミを入れた料理長も、ルフィの変化に何かを察したのか、思わず彼がいる部屋を見つめた。彼が苦手な野菜も美味しく食べてくれるように腕を磨いていたら、彼女はいつの間にか料理長にまでなっていたから。

 

 




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