ここはフーシャ村。
ルフィはお昼ご飯の肉とパンをいっぱい食べたので、おやつの時間までお昼寝タイムに入ろうとしていた。ウタは皿洗いと店のお掃除だと言っていたし、物を運ぶとかの力仕事もないだろうしって。
麦わら帽子をアイマスク代わりにスヤスヤしながら、シャンクスやエースは今どんな冒険をしてるのかと、思いを
そういえばと背中を起こしたルフィは指で、いーち、にー、さーんって数える。
「あっ、あぶね~」
まさしく明日だ。
プレゼントを考えることは難題で、年齢が上がるごとにどんどんハードルが上げられていくものだと思っていた。
なぜなら昔のウタはワガママで、最初の誕生日で豪華な服や高価な宝石を欲しがったからだ。大体はシャンクスのせいだとルフィですら分かっている。
今までは意外と許してくれたが、今年はどうするべきかとルフィはうんうんと唸る。
「えーと」
最初の年は確か、肉をあげたら、ビックリされて嬉しそうに食べてくれた。
次の年は確か、砂浜で見つけた貝殻をあげたら、またビックリされてどこかに持っていかれた。
その次は確か、歩いていて見つけた花を渡したら、またまたビックリされて本に挟まれた。
その次の年からはマキノにアドバイスを貰いながら、ぬいぐるみ、服、ブレスレット、いろいろとフーシャ村で将来的な宝払いで買った物を渡したこともある。ウタに渡すんだって言ったら珍しくケチなおばちゃんも宝払いを認めてくれた。
来年の自分の誕生日の時には海賊として船出する予定だし、そろそろシャンクスみたいに、ウタには凄い宝を渡したいと思っていた。
「宝かぁ~」
子どもの頃にはエースやサボやウタと、宝探しに明け暮れたときもあったが、今思うとガラクタというやつだった。海賊貯金として貯めたものも、キラキラと輝く宝はほとんどない。
今ルフィが持っている最高の宝としては、麦わら帽子があるが、シャンクスとの約束を抜きにしても、貸した時は満足したらグリグリとルフィの頭へ被せてくる。
「ルフィ~ おやつの時間!」
「おう、今行く!」
食べてから考えることにした。
考えすぎて腹が減ったこともある。
マキノのお店に戻ってきたら、お皿にどっさりと積まれたパンケーキが用意されていた。マキノから習ってからはウタが作ってくれるが、ルフィにとって肉くらい好きなものになっていた。
「いただきま~す!」
フォークで1枚持ちあげて、口いっぱいにモグモグとする。
「やっぱうめぇな!」
「はいはい。食べながらしゃべらないの」
注意するウタもパンケーキを上品に食べているが、次の日のことを考えて、ホイップは控えめにしていた。ウタにとっては、美味しそうに食べるルフィの表情が最高のトッピングなのだが。
「ごちそうさま! ありがとう!」
「どういたしまして」
パシって両手を合わせて、再び満腹になったルフィは机にぐでーっと頭を置いて、お昼寝できなかった分のお昼寝を始めてしまう。
「~♪」
「グガ~」
歌が聴こえる。
村の赤ちゃんによく聴かせている子守唄だ。
それはルフィにとっても好きな歌の1つで。
おかげでルフィは夢でも肉とパンケーキを食べていられるくらい、心地いい眠りができた。
そしてルフィは、夕暮れの光に照らされていた。
「邪魔するぞ!」
「あら、ガープさん」
「やっはろー」
「……んあ? メシ?」
バーンって扉を開ける音で、涎を拭きながら身体を起こして、グググと背伸びする。
「なんじゃ、ずいぶんと今年は静かじゃが」
「いってェー!? 爺ちゃん!?」
ガープは拳骨でルフィを叩き起こすが、それには理由がある。
「ウタ! 誕生日おめでとうだ!」
「アハハ……明日なんだけど」
でーんってプレゼントとしてガープは砲弾を手渡し、ウタは細い腕でそれを受け取るが、重さと爆発の恐れでプルプルと震える。
「明日だったか! 時間がなくて船で1番いい物を持ってきたが、どこかへ寄ってくればよかったな! ぶわっはっは!」
「そ、それはどうも……」
いくらウタも海賊になるとはいえ、投げられた砲弾を避ける特訓のトラウマもあるので、このプレゼントを航海に持っていく気は起きなかった。
とりあえず水にでも浸けて安全な物にしようと、フラフラと持ってウタは店の外へ出しにいった。重いなアピールでチラチラと見るが、寝起きのルフィは何かを思い出そうと、うんうんと唸っていた。
「カレーができたら起こして……グガ―!」
さっきまでルフィが座っていた椅子を奪って、ガープはいびきをかいて寝始めた。
「……あっ!!!」
「あら、晩ご飯はカレーよ? 早く戻ってらっしゃいね」
マキノのカレーも楽しみだが、ルフィはプレゼントの準備を忘れてしまっていたのだ。
ルフィは走る。
とりあえず海まで走る。
停泊している海軍の船が見えたが、ガープによれば1番いい物があの砲弾というのだから、探しても大したものはないだろう。
ルフィは山まで走る。
どうにかして、今まで渡してきたどんなものより最高の宝を渡さなければ、ウタが悲しむとルフィは思いこんでいた。
「待ってろ、ウタ!」
なぜなら、シャンクスたちと別れてから初めての誕生日を、ウタがとても寂しがっていたからだ。
バーンってドアを蹴り開けて、目的の人物を発見した。
「ダダン!!」
「うぉい!?!?」
ダダンは集中して作業をしていたが、ホイップをケーキの上に全力で絞ってしまった。イチゴが隠れるくらいのホイップましましだが、見映えはともかく、ウタは喜んで食べそうだ。
「なんだ、ルフィかい」
「なぁ! 昔山賊だったよな!?」
山賊としては否定したいが、ガープに矯正されて、ガキどもやウタに
「なんか宝ってあるか!?」
「あんたらが持っていったんだろうが!?」
図星をつかれたルフィは口笛を吹くが、海賊貯金として貯めていたものは、すでに換金して、エースの船出の費用に半分ほど使ってしまっていた。
「やべぇ、時間がねぇ!」
「急になんなんだい?」
晩ご飯までに戻らないと、ウタが心配してしまう。
今からコルボ山を越えて町に行くには時間がなかった。
「ウタに渡すプレゼント考えてなかったんだ!」
「あん? そんなのあんたなら肉でいいだろ」
あのルフィが好物の肉を誰かにあげること、それはルフィを知っている人からすれば、前代未聞のことであった。
「それじゃあ、子どもっぽいじゃねぇか!」
「……明日は嵐でも来るのかねぇ」
あのルフィがそんなことを考えるなんて、ルフィを知っている人からすれば―――
当たり前のことかもしれない。
「わかったよ。とっておきを教えてやる」
「ホントか!?」
ウタのことだから、こんなに真剣なのだ。
少しはマシな男になっている証拠か。
それを聴いたルフィは笑顔でカレーを食べに戻った。
~翌朝~
フーシャ村には毎年歌姫が来るという噂がある。
そのライブのために近隣の島からフーシャ村を訪れる商船がいくつかある。おそらく護衛のために毎年海軍本部の船があることから、海賊の船は誰も寄り付けず、フーシャ村は露店を出してお祭りをする。
クマ耳みたいな大きなフードのパーカーを深く被り込んだ彼女は、数々の歌で人々を魅了するため、グランドラインの歌手なのだと思われていた。
今年もたくさんの歌を聴いて、興奮は高まったままで、もうすぐフィナーレが来てしまう。
「みんな! 今日はちょっと残念なお知らせがあるの!」
「今年でこの村でやるライブは最後にしようと思う!」
「でもね! もう少しでさ!」
「全世界に映像を配信できる電伝虫ができるんだって!」
「海を旅して! いっぱい歌を作って! 世界に歌を届けるつもり!」
「だから! 私の夢を応援してほしいの!」
動揺が起こり、思わずファンはブーイングしてしまいそうだったが、グッと抑え込み、人々はその夢を応援することに決める。それくらい、彼女の歌は希望に満ち溢れていて、世界に『新時代』を作ってくれると思わされるから。
「ちょっと待ったぁ!」
「ル……この村の人かな?」
ドーンと麦わら帽子の青年がライブ会場に降り立った。観客は海軍に助けを求めるが、あの英雄ガープは大笑いしている姿が目に入る。
「この村の、えーと保安官だ!」
「プッ うんうん、強そうだもんね!」
朝からルフィがコソコソやっていたことは分かっていたけど、ライブに入り込んでくるとは思わなかった。ガープさんから忠告されていたこともあって、フーシャ村全体で私の名前とか顔とかを隠しているけど、最後の年でトラブルメーカーが動き出しちゃったね。
「で、何の用?」
「俺! お前と一緒に歌いてぇ!」
ウタがパーカーのフードの奥で凄く笑顔を見せたのは、今はルフィだけに見える。
「いいよ。何をウタおうか」
「ビンクスの酒だ! 俺が憶えてるやつ!」
結局海賊じゃんって言いたいけど、ガープさんですらニコニコと歌を楽しみにしているようだね。まあ宴の時もそうだけどやっぱりこの歌は、海賊の娘としては大好きなんだけどね。
「せーのっ!」
『ヨホホホ ヨホホホ~』
今、普段は私しかいないステージにルフィと2人で立っているんだ。いつか海賊王や世界の歌姫としてそれぞれが頂点に立った時にも隣に立ってる、そんな未来に思いを馳せる。
『ビンクスの酒を 届けにゆくよ
海風 気まかせ 波まかせ♪』
ルフィが自分から私のステージに来てくれたことがとても嬉しい。ほら、ファンのみんなもルフィの歌の上手さにビックリしてるし、みんなが肩を抱き合って、ヨホホホって合いの手だって入れてくれるよ。
私にとって最高の誕生日プレゼントだよ、ルフィ。
ウタ、誕生日おめでとう。
ウタの幸せをずっと願ってるから。