麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第72話 ドレイク

 

 半日のナースのお仕事体験だったけど。

 私とナミはヘトヘトで。

 

「「つ、つかれた~~」」

 

 先輩ナースたちと交代で、私たちは休憩室までやってきた。

 

 一応新入り扱いだから、今日はこれで上がっていいらしいけど。

 先輩たちは夜中も交代で患者さんに対応するって言っていて、やっぱり本職のお医者さんやナースにはほんと頭が上がらないよ。

 

 お医者さんたちが他の島へ出張していて、そこに規模の大きい急患があったせいで、いつも以上に忙しかったんだって。猫の手だって借りたいタイミングだったんだろうね。

 でも明日にはまた、ナースから海賊に戻らないとね。

 

「日給でも貰いたいとこだけど、これが連日続くなんて、たまったものじゃないわ」

「だねー」

 

 ナミはせめてもの報酬を貰うべく、テーブルでラップをかけられていたサンドイッチに手を伸ばした。

 街の高級なカフェにでも出てきそうな丁寧な作りで、それに彩りだって食欲を湧かせてくる。しかも、まるで露店で買って食べ歩きできるかのように、真っ白な紙で包まれていた。

 

「おいしっ! ここのシェフ、なかなか腕がいいじゃない!」

 

 確かにナミの言う通り、先輩ナースたちもサンドイッチを食べていったみたい。 

 

 でも私は、10個ほど積み上げられたおにぎりに手を伸ばす。

 はみ出るくらいに大きなステーキ肉で、そんな具が見えるくらいに形もバラバラだよ。疲れた身体に元気が出るようにって、具にお肉を入れたんだね。

 

「いただきます♪」

 

 両手でかぶりつけば、冷たくなったお米から肉汁があふれてきた。冷めても柔らかいステーキは、よほど凄腕のシェフが作ったんだろうね。強すぎるくらいにギューって握っているから、お米は硬くなっていて、お肉の美味しさを包んでくれる。

 こんな大きなおにぎり、私くらい大口で食べないと、手が大変なことになりそうだよ。

 

「あれだけ大変だったのに、相変わらずの食欲ね」

「ゴクリ…… 美味しいからいっぱい食べちゃうね」

 

 ナミだって頬を緩ませて、どんどん食べちゃってるじゃん。疲れが一気にとれるくらいに、誰かのことを考えて作っている料理だもんね。どんな紳士的なシェフ、それに、どんな優しい人なんだろうね。

 

 さてと。

 この部屋にやってくるのはお医者さんかナースだから、海兵さんは来ないと思うし。

 

 この気配はチョッパーだね。

 コバト先生も一緒に入ってくる。

 

「ええ。私、これから外科の勉強し直して、頑張ってみます!」

「応援するぞ! 次にこういうことがあっても大変だからな!」

 

 チョッパーは1番重要なポジションを任されただろうし、コバト先生も普段小児科で大変だっただろうし。

 それでも疲れを見せない医者仲間の2人は、意気投合したみたいだね。

 

「コバト先生、申し訳ないけど、ちょっと休んだら、私たち3人で出ていっちゃうね」

「えっと、事情があって、元々ナースじゃなかったの」

 

 チョッパーも大きい身体に変化してから、おにぎりにかぶりついた。

 

「3人は、えっと、もう行ってしまうのですか?」

 

 はむっと、私もおにぎりを食べ続ける。

 

 ルフィとサンジが、ゾロとウソップがいる地下を目指して走っている。2人の場所は動かないし元気そうだから、隠れていると思っていたけど、捕まっちゃったのかな。

 

「食べたら、私たちもメリー号へ行こっかな。ルフィたちが走り回っているし」

「ちょっ、ウタ!」

「えーと、俺たちは海賊なんだ。黙っててごめんな?」

 

 コバト先生、放心したみたい。

 そしてチョッパーを恐る恐る見て。

 

「あっ……そういえば、タヌキ……?」

「俺はトナカイだ!?」

 

 もしかして、休憩室に来るまで、身体が縮んでいたことに気づかなかったのかな。私の名前や、ルフィの名前くらいは、さすがに海軍基地で周知されているみたいだね。

 大海賊の娘として、有名になっていくのはなんだか嬉しいや。

 

「あっ、いえ、むしろ私たちのほうが助かりましたから。何かお礼をしたいくらいです」

 

 といっても、私たちに協力したってなると、海軍って処罰とかありそうだし。

 気持ちは嬉しいけど。

 

「そうだ、あなた方の船、もしかしたら父が直しているものかもしれません」

 

 コバト先生は何かを思い出したように、手のひらを合わせてそう教えてくれた。

 メリー号の場所を知っているのなら助かるけど。

 

「昨晩、海賊船がボロボロなことを居ても立っても居られない。これから直すんだーって出かけていったのです」

 

「えっ、ホント!?」

「私たち、幸運すぎない!?」

「なぁ、場所だけでも教えてくれるか?」

 

「では案内をさせてください。いざとなったら人質になったって説明しますから!」

 

 度胸のある提案に、私たちはクスリと笑って頷いた。

 

「よしっ、それじゃあ脱出大作戦!」

「「「おーっ!」」」

 

 明るい声が、休憩室に響き渡る。

 

 結局、どうせ人員不足で在庫が溜まり続けているからって、ナース服も貰っちゃった。私たちはコバト先生に案内されながら、メリー号があるドックへ走る。

 

 チョッパーと麦わら帽子を入れた木箱を抱えているとはいえ、海兵さんたちには、ドクターとナース2人が急患へ向かっているようにしか見えないみたい。

 

 さてと。

 

「もうすぐです!」

「なんかヤバそうじゃない!?」

「300人以上いるね!」

 

 でもルフィもゾロもサンジもウソップもいるから、余裕でしょ。

 そう思っていたらルフィが倒れていて。

 

 ケガはないけど、元気のないルフィが網にかかっていたんだ。

 

「ゾロ、パス!」

「ん? うぉ!?」

「ナミさんたち、ナースだぁ~♡」

 

 木箱から出したチョッパーを両手で、えいってゾロに手渡して。

 

「ウタ、それはダメだ!」

 

 ウソップに止められながらも、私はルフィを捕まえている網に手をかけた。

 まさかこれって。

 

「ルフィ、大丈夫? へにゃぁ~」

「ふにゃ~ ウタぁ~?」

 

 これたぶん海楼石でできた網なんだ。

 ちからがでない~って、ルフィに向かって倒れ込んじゃった。

 

「あいつが火拳の妹……お前たち、構えを解くな!」

 

 海軍の隊長っぽい人の指令で、300丁くらいの銃が向けられる。こんなの防ぎようがない。私もルフィも動けないし、能力が封じられている状態だもん。

 

 でもそんな時。

 

「キャアアアアア!?」

 

 コバト先生が大きく悲鳴をあげた。

 

「私たち人質にされちゃったんです! 助けてください! ここまで脅されて連れてこられたんです!」

 

「なにっ! まさかやつにっ!?」

 

 私へ向けられた銃口が増えた気がする。

 これはさすがにマズいかも。

 

「きゃあー! この大男も海賊の一味なんですぅー!」

 

「え、そ、そうだー! 俺は強いぞー!」

 

「き、貴様だったか。見慣れぬドクターは!」

 

 コバト先生とナミの機転のおかげで、私とルフィから銃口がずらされた。今のうちにって、私たち2人はごそごそと動き始める。

 

「ウタぁ~ 網をぉ~」

「ごめんルフィ~ 起きれない~」

 

「イチャイチャしてる場合か!」

「クソ羨ましい!」

 

 ウソップやサンジからツッコミを入れられた気がしたけど、こっちはなんか手足が絡まってきてそれどころじゃない。ルフィとの距離だってキスができるくらい近いし、こっちは今ナース服ってのもドキドキするし。

 

「人質か……お前たち、銃を下ろせ」

「ドレイク少佐?」

「はっ、かしこまりました」

 

 あれ、この声は確か、病室に押しかけて何か皮肉を言ってた気がする人なのに。

 

「我々にとって、大事な医者とナースが人質なのだ。仕方あるまい。全員武器を下ろして後退せよ!」

 

 意外と、正義感があっていい人じゃん。

 

「お前ら、さっさとずらかるぞ」

「てめぇ、ナース姿のウタちゃんと、クソ羨ましいことしやがって」

 

 ゾロが網をとってくれたおかげで、私もルフィも元の調子に戻れた。サンジから手渡されて、リボンのついた麦わら帽子を被るけど、やっぱりナースキャップより落ち着くね。

 

「人質とはひきょーだぞ、チョッパー!」

「ややこしくなるから、やめてルフィ!」

 

 えーと、メリー号まで道を開けてくれているし、このまま行っていいのかな。チョッパーは、きゃーきゃーしてるコバト先生やナミに挟まれて、両腕を振り上げながら、おたけびをあげる。

 

「この人質は俺たちが脱出するまで返さないぞー!」

 

「……要求は呑もう。さっさと船に乗れ!」

 

 海軍の人たちのコソコソ話を聞いた感じ、船へ乗る前に人質を奪還する気みたいだね。

 誰も人質ごと撃たない辺り、ここの海軍の人たちは結構好きかも。コビーが目指しているように、みんなこういう海軍になってくれるといいな。

 

 カツン

 と、1人が銃を床に落とした音。

 

 それにゾロとサンジは思わず反応しちゃって。

 

 コバト先生は確保されちゃったけど。

 

「イヤアアア!!」

「おい! それは味方だーー!!」

 

 海兵に向かうナミのパンチに、隊長が思わずツッコミを入れた。

 

「構わん、撃てー!!」

 

「ムジカちゃん、オンステージ♪」

 

 バンッ バンッ バンッ とあらゆるところから音が鳴り響くけど、歌のバリアはそのすべてを防ぎきる。

 ピアノの鍵盤の腕が亀裂から伸びて、白い天使の片翼が広がるけど、やっぱりこれだけでも、私自身が動けなくなるくらいに負担が大きい。

 

「な、なんだあれは!?」

 

 銃弾がなくなるくらいに撃ち終わる。

 それに、みんな動揺しているね。

 

「ルフィ!」

「おうよ!」

 

「「「「「なっ!?!?」」」」」

 

 ルフィは鞭のように腕を伸ばして、ゾロとサンジとウソップとチョッパーとナミを船に叩きつける。

 そしてグルグルと腕を私の身体へ巻き付けて、伸ばした腕でメリー号の手すりを掴んだ。

 

「ロケットぉー!」

「ひゃっほぉー♪」

 

 ドックから動き始めるタイミングとも合って、メリー号は海面を進み始めた。

 メリー号のストッパーを解除してくれたのはロビンか、それとも他の誰かなのかな。

 

「はっはっはっ メリー号だ!」

「うんっ! 無事でよかった!」

 

「てめぇは!」

「なんであの助け方しか!」

「できないんだ!」

「生身の人間には!」

「痛いのよ!」

 

 ルフィへ1発ずつツッコミを入れるくらいに、みんな無事でよかった。

 あとはロビンだけだね。

 

「さー、みんな! 早く帆を張って!」

 

 ナース姿のナミが指示を出し始めたけど、確か人質扱いだよね。まあいいや。

 

「ナース姿のナミさんもステキだ~」

「でも結局、どこから出るか分からずじまいね」

 

「俺コック、お前何してた?」

「コックだぁ? お前が?」

「私はナースやってたよ!」

「俺はドクターだ!」

「てめぇらは職場体験かよ!?」

 

 あくびをしているルフィとゾロはともかくとして。

 サンジやウソップも分かっていないなら、結果的に基地へ忍び込んだ目的は果たされていないよね。

 

「あら、これが必要?」

 

 腕を繋げて咲かせて、ロープのようにして降りてきたのはロビンで、その手には大きな地図があった。

 

「お姉さま~ やっぱりお姉さまが1番頼りになるわ~」

 

「そ、そう?」

 

 私たちの中で潜入捜査が1番得意なのは、ロビンかもね。

 あとは、目を輝かせているナミが、地図を得たことで脱出も簡単にいきそう。

 

「う、撃ってきたぞ、おい!」

「それに軍艦も追ってきてるぞ!」

 

 海軍の隊長さんの話だと。

 

「人質がいないってバレたって~!」

「はっはっはっ 全速前進~!」

 

 ルフィは呑気だけど、風があまりないから、いつか追いつかれる。

 軍艦に比べて小さなメリー号は砲弾1発だって致命傷だし、体当たりだって無事に済まないから。

 

「ウソップ、主砲の準備をして! チョッパーもこのまま進んで! このまま唯一の海門から強行突破するわ!」

 

「おう! わかった~!」

 

「それがよぉ、さっき見てきたら全部なかったんだ!」

 

「あら、海軍の人たちに取られちゃったみたい」

 

「ししし それならいいこと思いついた」

 

「やっちゃって! ルフィ!」

 

 ルフィは砲弾に向かって勢いよくジャンプした。

 だって砲弾なら、ガープさんで慣れているもんね。

 

「ゴムゴムの風船! ファイアー!」

 

「へぇ、やるじゃねぇの」

「こりゃ、いい花火だ」

 

 ルフィが砲弾を上手く逸らして、海門は爆風に包まれた。

 

 その煙が晴れる頃には、広大な海まで一直線の航路ができている。船での脱出が絶望的なこともあったから、私たちは思わず笑みがこぼれた。

 

 堅牢な海軍基地だったけど、これで無事に。

 

「……あれ、そういえば、砲弾がないって!?」

 

 あっ、そういうことか。

 遠くから見聞色の覇気でこちらを見ているおじさんが、ずっと自分で動かない理由は。

 

「やられたぁ! お宝がない~~~!」

 

 倉庫を開けたナミが、大きな悲鳴をあげた。

 

 まるでチェス盤に乗せられたように。

 おじさんの手のひらの上なんだ。

 

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