麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第73話 メリー号

 

 

 空島から持ってきた黄金を取り返すために、いまだ海軍基地にいる。

 

 ナミの航海技術とロビンの情報のおかげで、私たちはもう使われていないドックまでメリー号で逃げてこれたけど。

 海軍もまだ基地内の捜索は続けているし、海門の外まで出ていったとは思わせられなかったみだいだね。でもそれぞれが忙しかったこともあって、夜が更けるまで私たちは一息つくことにした。

 

 早速、私とナミは過ごしやすい服に着替える。

 白いシャツと黒いフリフリスカートに、それぞれの髪色に合ったネクタイを身につけるのは、さっきまでナース服を着ていた影響かもね。

 今から髪を結うのも時間がかかるし、ポニーテールになるよう軽く縛っておいた。

 

 ナース服は丁寧に畳んでおいて、ほら、貰ったものだから大事にしないと。

 いつか、着る予定があるかもだし。

 

 ロビンと一緒に女子部屋から出て、食堂へ行くとルフィたちはグッタリと休んでいた。

 

「腹減ったぁ~」

 

「なんか作ってやるよ。といっても、そろそろ補給もしなきゃだがな」

 

 サンジにご飯を作ってもらおうとするルフィ。

 てかそういえばサンジってずっとルフィと一緒だったんだよね。しかも一緒に仲良くコックさんをしていて、相変わらず胃袋をつかんでいて、あれ、なんか結構ムカムカしてきた。

 

 私だって、前よりは料理できるんだもん。

 

「私もお手伝いするね」

「おう。助かるぜ、ウタちゃん」

 

 そう優しく返事をしてくれたサンジは、手早く冷蔵庫のお肉やお魚を調理している。

 私は紐がついた麦わら帽子を首の後ろに移動させてから、水色のエプロンを身につけた。そしてご飯を炊く準備をしつつ、フライパンでお肉を焼くけど。

 

 相変わらずサンジの包丁は見えないくらいに速くて的確だし、調理が難しいお魚だってギリギリまで全部使いきるし。

 

「ウタちゃんも上達したさ。ただ、大食らい相手には、まだまだ練習が必要そうだな」

 

「うぅ、ほんとその通り……」

 

 楽しそうに話すルフィたちに聞こえない程度で、そうやってフォローしてくれるサンジはほんと紳士だよね。前向きに考えれば、私ってこんなすごいコックのところで練習させてくれているんだなって思えてくる。

 

「なぁなぁ、さっさとこんなとこ出ようぜ? ここの司令官のおっさんはタダ者じゃねぇよ」

 

「ジョナサン中将、後半の海にいてもおかしくはない実力者ね」

 

「へぇ、そりゃあ()りがいがあるな」

 

「あいつ、爺ちゃんくらい強いのかな~?」

 

「そいつだけじゃなくて、海兵のやつらもたくさんいるぞ?」

 

「あんたらね。脱出することもいいけど、黄金を取り返すことも考えなさい」

 

 今のところ、ルフィとゾロとナミは黄金を取り返すつもりで、ウソップとチョッパーと、たぶんロビンも脱出優先かな。

 

「あれだけの物を山分けになるんだから、個人で使うことも可能なのよ?」

 

「「「おぉ~!」」」

 

 ルフィやウソップやチョッパーは目をキラキラとさせたし、ゾロも嬉しそうだね。確かに航海が始まって以来、モーガニアの海賊と戦って得たお金は少しあっても、余裕があるとは言えなかったからね。

 それにしても、私が思いっきりお買い物をしたのって、もうずいぶんと昔のことだ。今思えばシャンクスったら、私を甘やかしすぎってくらいだったから。

 

「俺、カッコイイ銅像がいい!」

「ならウソップ様は黄金の像だ!」

「俺は新しい医学書が欲しいな!」

「なら私も本が欲しいわね」

「酒の飲み放題だな」

「私はお菓子食べ放題がいい!」

 

 お腹いっぱいになるまで、みんなと世界中の海のお菓子を食べてみたいけど。

 どこかにあるといいな、お菓子の島とか。

 

「新しい鍋とフライパン、鍵付き冷蔵庫、それに巨大ネズミ取り、だな」

 

 隣にいるサンジもそう呟いたけど、鍵なんかで、限界までお腹をすかせたルフィが止まるんだろうか。

 

「まっ、まずは私のへそくりで8割ね」

「「「っておい!?」」」

 

 冗談よ とナミは、ルフィたちのツッコミに返事をする。

 

「やっぱり、船の修理の費用よね」

 

「船? このメリー号を?」

 

 ルフィの疑問に、ナミは大きく頷いた。

 そっか、確かにそうだね。

 

「あ~ 俺の村からずっとだものな」

 

「海賊船にしては愉快な船だと思ったぜ」

 

「たくさんのモノを積んできてくれたわ」

 

「偉大なる航路を突入したときもだ」

 

「空島にもこの船でたどり着いたわね」

 

「俺、命がけで守ったこともあったぞ!」

 

 思い返せば、この船のおかげもあって、ここまで航海が続けられている。

 

 東の海から始まって、グランドラインへ入るときも、空島へ行くときだってメリー号は頑張ってくれた。何度もいろいろな衝撃で傷ついて、メインマストが燃やされたときだってあった。

 そういえばあの時は。

 

「俺は本当に見たんだ! 誰かが船を直してくれていたのを!」

 

「おかげでメインマストも元通りだ!」

「ずいぶんとツギハギだけどね」

 

「言われてみれば、メリーはすげぇ頑張ったなぁ」

 

「うん、そうだよね」

 

 これからもこの船で行こうって。

 みんなはそう思っているようで。

 

 でもなぜか、私はそう思えなかった。

 船に詳しくないのに、不安がよぎる。

 

「メリー号の大修繕だな!」

「大賛成だ!」

 

 ウソップやルフィの明るい声に、私は止まっていた手を、再び動かす。

 

「どれくらいかかるか分からないから、山分けは保留ね。でもこれで、黄金を取り戻す理由が見つかったでしょう?」

 

「「「うんうん!」」」

 

「ウソップのツギハギじゃ限界だしな」

「おいおい、俺は狙撃手だぞ」

「ウソップより直すの上手いやついるのか?」

 

「じゃあさ、船大工を仲間にしよう!」

 

 咄嗟にそう提案したけど、ルフィって、ほんと核心をつくことを言うよね。

 

「メリーは、俺たちの家で、命だぞ。これからの冒険でも絶対必要になる!」

 

 みんな頬を緩めて、ルフィの提案に賛成したみたい。

 赤髪海賊団の船にだって、ある程度修理できる人はいても、本職の船大工さんはいなかったし、ルフィったら欲張りだよね。なんだか今から、9人目の仲間が楽しみになってくるね。

 

「いや~ 音楽家と、コックがもういるし、航海士、狙撃手、船医、考古学者に、あと戦闘員だっている。9人目か10人目か11人目か、船大工も欲しくなってきたぞ!」

 

「音楽家が1番、ねぇ?」

「そりゃそうだろ、なぁ?」

「フフッ、コックさんより重要?」

 

 ご飯を盛りつけ終わった後、こっちへ微笑ましい視線をみんなが向けてきて、なんだか蒸気が出てきた。

 いや、まあ、音楽家とコックが欲しいみたいな話は子どもの頃からしてたけど、あれはシャンクスの影響、だよね?

 

「おう! 海賊は歌って踊るし、宴をやるからな! なぁウタ、音楽団を作ってもいいぞ!」

 

「まあ楽器が上手な人は、欲しいかもだけど」

 

 頬を ぷく~ってしてやるもん。

 私だけじゃ満足できないみたいじゃん。

 

 みんなはやれやれって同情してくれたけど、ルフィはすっかりその気になっちゃったみたい。

 

「ほら男共、今日はパーティー感覚で食べな。こっちのおにぎりは、歌って踊れるウタちゃんが作ったんだ。普段の300倍は感謝して食べやがれ」

 

「「「「いただきまーす!!」」」」

 

 大きなお皿に乗せられた、お肉や焼き魚やおにぎりにルフィたちは競って飛びついた。

 ルフィの両手にはおにぎりがあって、好物の骨付き肉だってあるのに。

 

 材料的にも、お昼のお返し的にも、私もステーキ入りおにぎりにしてみたけど、美味しそうに食べてくれて嬉しいな。

 

「ナミさん、ロビンちゃん、ウタちゃん。こちら魚のすり身のスープです」

 

「いい香り~」

「いただくわ、コックさん」

「あ、ありがとぅ……」

 

 最近は女子用机となっているところへ私も座ると、サンジによってコース料理がどんどん運ばれてくる。即席でここまでおしゃれな料理を作れるなんて、しかも美味しすぎるし。

 

「やっぱ肉おにぎりは美味ぇな! ウタもいっぱい食えよ!」

「えぇ!? う、うん……」

 

 これって、あ~んってやつでは。

 しかもルフィからだよ?

 

 なんだか今日は動揺しすぎて、目がぐるぐるしてくる。

 

「ねぇルフィ、お昼ありがとぅ……」

「ししし 俺もコックやれたぞ!」

 

 頬が熱いから、ご飯をモグモグしててもちゃんと味わえないや。心臓がドキドキするリズムに合わせるように、パタパタと私のポニーテールは動いちゃうし。

 

「サンジ! 次から俺も手伝おうか?」

「ったく、せめて俺が暇な時にしろよ」

 

 このままやられっぱなしはズルいし、こうなったら。

 

「ねぇルフィ……あ、あ~ん」

 

 スプーンでスープを掬って。

 片手を添えつつルフィの口へ近づける。

 

「ん? これも美味しいな!」

 

 うぅ、周りはニヤニヤしているし、これ絶対気づいてないのルフィだけだよ。

 

 驚いた様子もないし、一体いつみんなにバレたんだろう。

 でも。

 

「サンジ君、ワインはあるかしら?」

「私もいいかしら。コックさん」

「は~い 隠してたやつ持ってくるね~」

 

「倉庫の酒は海軍に取られたし、今日はこのおにぎりで我慢するか……ってルフィ、取るな!?」

「ヤバいぞ! 全部食われちまう!」

「み、水ぅ~!?」

 

 いつも通り騒がしくて、バレてもそんなに雰囲気は変わらなかったみたい。

 ならもうちょっと、ルフィとの距離を縮めてもいいのかな。

 

 手に持ったスプーンで、思いきって再びスープを口に入れた。

 

 

 

 食後。

 

 いつも通りサンジと、今日の当番のゾロが並んで、お皿洗いでカチャカチャと音を立てながら。

 

「さてと。黄金を取り戻さないといけないわね」

 

「やっぱ隠すなら金庫だな」

 

「だが、その場所が分からねぇ」

 

「ロビン、地図を広げて」

 

「知ってるのか?」

 

「あくまで予想ね。ここじゃないかしら?」

 

 もうみんなに気づかれたならいいや ってことで吹っ切れたし、お仕事で1日疲れたこともあるし、私はルフィの肩へもたれかかってソファへ座っていた。

 やっぱりルフィの隣にいると、心が安らぐ。

 

「この保管庫は何重にも鍵がかかるようね」

 

「さすがロビン!」

 

「だけど、メリー号はどうする?」

 

「見つかるのも時間の問題だな」

 

「木は森に隠せ。えーと、船は船に?」

 

「海軍船にカモフラージュする?」

 

 一度ポカーンとしたルフィは私の言葉に、その通りだ と大きくうんうんと頷いた。

 そういうところもかわいいんだから。

 

 さてと。

 もうひと踏ん張りだね。

 

「よーしお前ら! 黄金を取り返すぞ!」

 

「「「「おーー!!」」」」

 

 私たちは一斉に席を立った。

 

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